STING『MY SONGS』(2019)
2019年5月発売の、スティングの通算14作目となるスタジオアルバム。本作はTHE POLICE時代およびソロ名義での楽曲を“リ・ワーク”したもので、EDM系プロデューサー/DJのデイヴ・オーデが手がけた再構築曲(主にソロ楽曲)と、マーティン・キアーズズンバウムがプロデュースしたバンド編成の再アレンジ曲が軸になっています。
まず、ダンストラック風に再構築された冒頭3曲(「Brand New Day」「Desert Rose」「If You Love Somebody Set Them Free」)は賛否分かれるところではないかなと。原曲の完成度が高いし、ライブでのアレンジもその都度さまざまだったとは思いますが、結局はこういう形でリミックス(ですよね?)でお茶を濁すしかなかったのかなと。思えばスティング、過去にも「Roxanne」をパフ・ダディのリミックスでヒットさせていますし、そういった(今の世代が知らないであろう過去の楽曲を現代的にリ・ワークすることで、楽曲の良さを再び浸透させる)狙いもあったのかなと。なので、原曲世代がブーたれるのも理解できるけど、ここはそっと目を瞑っておきましょう。
で、バンド編成で再レコーディングされた楽曲群は主にTHE POLICE時代のナンバーが中心。最近のライブで披露されているアレンジにほぼ近いものばかりで、原曲の良さを残しつつ現編成での個性を打ち出している。かつ、スティングの今の声量/声域に合わせて節回しを変えたり、キーを下げたりしているわけです。
そりゃ、オールドファンはどの曲も原曲への思いが強いでしょうから、ここで展開されているアレンジや演奏には不満もあるでしょう。ていうか、だったらこのアルバムに手を出さなきゃいいわけですが(とはいっても、それでも聴きたくなってしまうのがファンとしての悲しいサガなのも重々理解しています)……。
キャリアとしては最終コーナーを折り返したスティングが、現在の活動と合わせて今一度過去と向き合った結果、こういう作品に着手した。そういう意味では、本作は『57TH & 9TH』(2016年)での手応えがあってこその1枚なのかなと思います。
そりゃあ20〜30代の彼が醸し出す緊張感やスリリングなアンサンブルは皆無ですよ。ただ、今の年齢でなければ出せない安定感と成熟感は20〜30代の彼には出せないものであり、ロックが老いと向き合う/成熟していくことの意味を体現しているという点においては評価すべき作品だと思います。
なんだかんだで名曲しか入っていないし、原曲を収めたベスト盤を聴き飽きたであろう人には新鮮さや新たな魅力を見つけることができるかもしれない、そんな可能性も秘めた作品集。“今の耳”で楽しみたい1枚です。