1981年10月26日にイギリスでリリースされたQUEEN初のグレイテスト・ヒッツアルバム『GREATEST HITS』。80年代にはこのアルバムからQUEENに入ったというリスナーも多かったのではないでしょうか。かくいう僕も、初めて聴いたQUEENはこのアルバムでした(レンタルだったけど)。
昨日、このアルバムがアメリカBillboard 200(アルバムチャート)で初のTOP10入りを果たしたというニュースが飛び込んできました(ニュース元)。これは、同作のアナログ盤がWalmartのセールで15ドルに値下げセール販売されたことで、1週間で2万3000枚以上もの売り上げを記録したことから、前週の36位から8位まで急上昇したんだとか。ちなみに、同週の1位はAC/DCの新作『POWER UP』。ロックがまったく売れないと言われているアメリカで、AC/DCとQUEENが同時にTOP10入りする2020年。何が何やら(苦笑)。
さて、この記録に関して一部メディアでは「これまで同作の最高位は、1992年に記録した11位だった」と明記されていますが、これ正しくもあり間違いでもあるんですよね。要するに、同じタイトルだけど別内容のアルバムが前回の11位を記録しているのです。
今回のエントリーではレビューというよりも、このへんのややこしさについて記録を残していけたらなと思います。
まず、1981年10月発売の『GREATEST HITS』は当時、本国イギリスやここ日本はもちろん、アメリカでもしっかりどうタイミングにリリースされています。が、実はこの3ヶ国で発売された本作、収録内容が微妙に異なるのです。ここからは、イギリスで発売された全17曲入りの内容を“オリジナル盤”として話を進めます。
イギリスではEMIからリリースされた本作。その収録内容は現在も流通している同作と同じ内容です。ところが、当時Elektra Recordsから発売された北米盤は、オリジナル盤には未収録だった当時の最新シングル「Under Pressure」を追加したほか、「Keep Yourself Alive」シングルバージョン追加といった独自の14曲に厳選。これにより「Don't Stop Me Now」「Save Me」「Now I'm Here」「Good Old-Fashioned Lover Boy」「Seven Seas Of Rhye」が選外に。
一方で、日本で発売された同作はオリジナル盤と北米盤のいいとこ取りな17曲収録。こちらはオリジナル盤未収録の「Under Pressure」に加え、日本ならではの「Teo Torriatte」を追加。代わりに「Bicycle Race」と「Seven Seas Of Rhye」がオミットされています。北米、日本から嫌われる「Seven Seas Of Rhye」の立場よ。
ところが、1984年にCD化された際、独自選曲だった日本盤の内容は北米盤にシフト。僕が初めて聴いたのは、まさにこの北米盤CDだったので、「Another One Bites The Dust」から始まり「Bohemian Rhapsody」へと続く構成にしばし慣れ親しんでいました(オリジナル盤は逆です)。さらに北米に倣ってElektraの親会社Warner Musicからだった日本のリリース元が80年代半ばに東芝EMIへと移行。これにより1988年に再々発された日本盤『GREATEST HITS』は、オリジナル盤と同じ17曲入り/オリジナルセットリストへと落ち着くのでした。なので、『A KIND OF MAGIC』(1986年)までにQUEENを聴き始めたリスナーと『THE MIRACLE』(1989年)以降にQUEENに触れたリスナーとでは、この『GREATEST HITS』の思い出がまったく異なるわけです。なんなら、1981年のオリジナル盤リリース当時に日本盤に触れていたリスナーとも異なるわけで、1つのアルバムに対してたった10年の間に異なる大出を持つ3つの層が生まれるという、なんとも不幸な出来事が起きてしまったのでした。
話題を再びアメリカ(北米)に移します。『THE WORKS』(1984年)を機にそれまでのElektraからCapitol Recordsへと発売元を移したQUEENでしたが、90年代に入るとディズニー資本の新興レーベルHollywood Recordsへと移籍。Capitol Records移籍以降廃盤状態だった旧譜が、新作『INNUENDO』(1991年)に続いて次々と再発されていきます(その際、各盤に貴重なボーナストラックが追加されていたのは、個人的にもうれしくて。思わず全部揃えちゃったんだよね。苦笑)。そして、1991年11月24日以降……フレディ・マーキュリーの死、映画『ウェインズ・ワールド』に使用されたことで「Bohemian Rhapsody」が再ヒット。それと前後して、本国ではベスト盤第2弾『GREATEST HITS II』が発売されるのですが、こちらはアメリカでは当時未発売。『GREATEST HITS II』まで絡むと話がさらにややこしくなるのですが、これに関しては北米盤を語る際に欠かせない1枚なので、このまま進めさせていただきます。
さて、Hollywood Recordsからはオリジナルアルバムのリイシューこそあったものの、ベスト盤はしばらく未発売。ところが、上記の“1991年11月24日以降”QUEENに注目が集まり、手軽にQUEENの代表曲を楽しめるコンピレーション盤を求める声が高まります。こうして、(フレディ追悼の意も込めて)1992年3月にようやく北米独自盤『CLASSIC QUEEN』が発売されるのです。
▼QUEEN『CLASSIC QUEEN』
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ジャケットの方向性こそ『GREATEST HITS II』とほぼ同一ですが、タイトルと収録内容が異なるという、非常にやっかいな本作。全17曲入りで、『GREATEST HITS II』を軸にしつつ『GREATEST HITS』オリジナル盤から数曲抜粋した非常にいいとこ取りという、「今からベスト盤2枚買うには金銭的に厳しいけど、これなら便利!」という当時のビギナーにはありがたい1枚でした。だって、「A Kind Of Magic」から始まり「Bohemian Rhapsody」へと続き、そこから「Under Pressure」「Hammer To Fall」、当時METALLICAがカバーしたことで再注目を浴びた「Stone Cold Crazy」と新旧の代表曲/隠れた名曲がズラリと並ぶわけですから、それを輸入盤として1000数百円で購入できるのは学生にはありがたいったらありゃしない。本作はアメリカでも最高4位まで上昇し、300万枚以上もの大ヒットとなりました。
そして、この『CLASSIC QUEEN』大ヒットに味をしめたHollywood Recordsは、同作から半年後に今度は『GREATEST HITS』と題した新規コンピレーション盤を発売します。そう、これが先に述べた、全米11位を記録した『GREATEST HITS』の正体です!(ここまで2000字以上。長かった。苦笑) 以降、こちらを“1992年北米盤”と称することにします。
似たようなデザインからシリーズ連作と感じさせるものの、濃い青を基調にした『CLASSIC QUEEN』に対して1992年北米盤は小豆色。内容は『CLASSIC QUEEN』から漏れた『GREATEST HITS』オリジナル盤収録のヒット曲を軸に、これまでどのエディションにも未収録だった80年代前半の小ヒット「Body Language」、そして『GREATEST HITS II』から「I Want To Break Free」を含む全17曲入り。思えば代表曲中の代表曲「We Will Rock You」も「We Are The Champions」も「Another One Bites The Dust」も「Killer Queen」も、『CLASSIC QUEEN』には未収録だったんですよ。そりゃあ二匹目のドジョウでも、それなりにヒットするわけです。
▼QUEEN『GREATEST HITS (1992 US EDITION)』
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北米では10数年にわたり、この2作品がロングヒットを続けることになるのですが、2004年に事態が急変。なぜかオリジナル盤と同内容の『GREATEST HITS』がHollywood RecordsからCD化されるのです(どんどんややこしい話になってきた。笑)。ここでは、これまでの各国盤にはないボーナストラックも用意され、ボーナストラックとしてロジャー・テイラーが歌う「I'm In Love With My Car」や、「Under Pressure」「Tie Your Mother Down」のライブテイクなどを追加収録。「I'm In Love With My Car」が追加された理由は当時、QUEENの楽曲を題材にしたミュージカル『WE WILL ROCK YOU』が上演されたことも関係しており、「I'm In Love With My Car」は同ミュージカルの中でも登場するためと思われます。また「Under Pressure」「Tie Your Mother Down」は『ON FIRE : LIVE AT THE BOWL』(2004年)からのテイクで、同時期に発売されたため宣伝の意味もあったのでしょうね。
その頃日本では、長らくQUEEN作品をリリースし続けた東芝EMIが親会社の変更によりEMI Music Japanへと改名(2007年)。さらに、本国のEMIグループがUniversal Musicグループに吸収合併(2012年)。同じ頃、しばらく動きの止まっていたQUEENも新たにアダム・ランバートを迎えて“QUEEN + ADAM LAMBERT”としてライブ活動を開始したこともあり、2012年からは日本やイギリスなどでのリイシューが進むことになります。
その一環として、『GREATEST HITS』および『GREATEST HITS II』も世界共通仕様/同内容として、北米盤はHollywood Recordsから、それ以外の国ではUniversal Musicよりリリースされました。なお、日本盤のみボーナストラックとして(ややこしいわ。笑)、1981年盤の名残ともいえる「Teo Torriatte」が追加され、こちらはストリーミングバージョンでも耳にすることができます。以降、2020年に至るまでこの仕様は統一されており、先ごろアメリカでバカ売れした『GREATEST HITS』は現行のオリジナル盤と同じ内容となっております。
<完>
……以上が“『GREATEST HITS』戦争”ともいえなくもない、約40年にわたる同作のややこしい歴史です。なので、簡単に「これまで同作の最高位は、1992年に記録した11位だった」と言ってほしくないわけです。以上、面倒くさいQUEENオタクのたわごとでした。
追記:今回は世界中でもっとも流通しているであろう、かつ日本で手軽に入手しやすいイギリス盤、北米盤のみについて言及しました。このほかにも『GREATEST HITS』は国によってさまざまな“収録曲違い”や“独自ボーナストラック”が存在するので、そのへんはQUEENの私設ファンサイトやWikipedia、Discogsなどでチェックしてみてください。
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