カテゴリー「Queensryche」の10件の記事

2021年7月28日 (水)

METAL CHURCH『CLASSIC LIVE』(2017)

2017年4月28日にリリースされたMETAL CHURCHのライブアルバム。本作の日本盤単品リリースは現在まで実現しておらず、代わりに最新オリジナルアルバム『DAMNED IF YOU DO』(2018年)デラックス盤にボーナスディスクとして付属。

本作は2016年に発表したマイク・ハウ(Vo)復帰作『XI』を携えたツアーにて披露された、1stアルバム『METAL CHURCH』(1984年)から5thアルバム『HANGING IN THE BALANCE』(1993年)までの楽曲からセレクトした9曲に、3rdアルバム『BLESSING IN DISGUISE』(1989年)収録の「Fake Healer」再録バージョン(ゲストボーカルにQUEENSRYCHEのトッド・ラ・トゥーレが参加)を加えた10曲で構成。まさに“CLASSIC”の名に相応しい内容となっています。

内訳的には下記のとおり。

1st『METAL CHURCH』(1984年):M-1
2nd『THE DARK』(1986年):M-5、M-6
3rd『BLESSING IN DISGUISE』(1989年)M-8、10
4th『THE HUMAN FACTOR』(1991年):M-2、4、9
5th『HANGING IN THE BALANCE』(1993年):M-3、7

『THE HUMAN FACTOR』からの楽曲が最も多く、『BLESSING IN DISGUISE』からのライブテイクが「Badlands」のみというのが不満っちゃあ不満ですが、マイク加入前の『THE DARK』から「Watch The Children Pray」「Start The Fire」のマイク歌唱バージョンを楽しめるとう点ではお得感が強いかなと。せっかくならもっと曲数を増やしてほしかったな、と思うのですが、当時のツアーでは旧曲をこれくらいしかやっていなかった可能性も大なので、まあ仕方ないのかな。ほかにも良い曲、たくさんあるんですけどね。

今のMETAL CHURCHの姿をライブ音源を通じて体験するというよりは、過去の名曲群を今のライブサウンドで聴くというくらいのスタンスなのかな。さすがにイマドキ、CDにライブ音源9曲+ボートラでスタジオ再録1曲はモノ足りなさすぎますよ。

そういう意味では『DAMNED IF YOU DO』のレビューにも書いたように、『DAMNED IF YOU DO』のオマケ程度でこのライブベストを楽しむのがもっとも正しい聴き方なのかな?という気も。あとは、2019年8月の25年ぶり再来日公演の余韻を味わったり、同ライブに行けなかったことを悔しがりながら聴くのもアリかと(笑)。

……なんてこと言って、実はそのライブがマイク・ハウ在籍時最後の来日になるとは、当時は思いもしませんでしたが……。

マイク・ハウの冥福をお祈りいたします。

 


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2021年4月13日 (火)

QUEENSRYCH『HEAR IN THE NOW FRONTIER』(1997)

1997年3月25日にリリースされたQUEENSRYCHEの6thアルバム。日本盤は同年3月26日発売。

大成功を果たした『EMPIRE』(1990年)でのRUSH的なモダンさをさらに推し進め、時代の流れに沿ったオルタナ路線を大々的に取り入れた前作『PROMISED LAND』(1994年)は、グランジが台頭しメタルが時代遅れになった1994年においても全米3位、100万枚以上を売り上げる成功を収めることに。そのスタイルをさらに特化させたのが、この『HEAR IN THE NOW FRONTIER』という(ある意味での)問題作です。

プロデューサーにバンドの代表作『OPERATION: MINDCRIME』(1988年)、『EMPIRE』を手がけたピーター・コリンズ(RUSH、BON JOVIアリス・クーパーなど)を再度迎えた本作。楽曲に関しては全14曲中半数近い6曲をクリス・デガーモ(G)が単独で手がけ、5曲でクリス&ジェフ・テイト(Vo)が共作。さらに、クリスとエディ・ジャクソン(B)、クリス/エディ/ジェフ、ジェフ&マイケル・ウィルトン(G)共作がそれぞれ1曲ずつと、アルバムの9割近くがクリスの関わる楽曲で締められています。ここまでクリスの色が強いアルバムというのも、QUEENSRYCHE史上珍しいのではないでしょうか。

実は、こうなった裏にはジェフの燃え尽き症候群(『PROMISED LAND』制作前に発した「もうメタルは歌いたくない」宣言)、およびそのジェフにお伺いを立てるように他メンバーが楽曲を提示し、ジェフが気に入ったものを仕上げていくという手法が取られたという話があったようです。クリスもそういったジェフに対してのお伺い立てに嫌気が差していたのでしょうか。あるいは、『EMPIRE』『PROMISED LAND』を経て手に入れた自身の新たな作曲スタイルを推し進めていくと、それは初期のメタリックな作風とは異なるものだった、そういった新たなスタイルに自身の活路を見出していたのかもしれません。

そういった楽曲を前にしたピーター・コリンズのサウンドプロダクションも、非常に生々しくて華の感じられないもの。これは、ミキシングエンジニアのトビー・ライト(ALICE IN CHAINSKORNSLAYERなど)の手腕によるものが大きいのでしょう。90年代半ばのメインストリームって、こういう質感が流行りでしたものね。で、実際このアルバムで鳴らされている音や楽曲にマッチしているんですよね。

「Sign Of The Times」「Saved」といったグランジ寄りの楽曲や、「Cuckoo's Nest」や「Hero」「Miles Away」のようなサイケポップ風の楽曲は確かにQUEENSRYCHEの枠から外れるものかもしれないけど、楽曲としては“あの頃”の空気感を見事に体現している。逆に、従来のQUEENSRYCHEらしさをモダンに昇華させた「You」に違和感を覚えるくらい(いや、これもアルバムの流れで聴くと「ん?」と思うものの、よくできた楽曲だと思います)。グランジを通過したオルタナメタル作品としては、個人的にはかなり良くできたアルバムだと思っており、振り切れ具合でいえば前作以上の出来だと断言したいくらい。

ただ、それをQUEENSRYCHEがやっているという事実がすべてを帳消しにしてしまうんですよね。そこだけが残念でなりません。

なお、本作は全米19位、アメリカだけでも30万枚以上を売り上げるなど、時代を考えればかなり善戦した1枚なのですが、ツアー途中でレーベルが破綻。ネガティブなトピックが続いた結果、ついにクリスがバンドを離れてしまい、黄金期を飾るオリジナルラインナップはここで終焉を迎えます。

 


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2021年4月12日 (月)

SWEET OBLIVION『RELENTLESS』(2021)

2021年4月9日にリリースされたSWEET OBLIVIONの2ndアルバム。

QUEENSRYCHE、現OPERATION: MINDCRIMEのジェフ・テイト(Vo)を中心に結成されたバンド(というかプロジェクト)。イタリアのプログレッシヴ/テクニカルメタルバンドDGMのシモーネ・ムラローニ(G, B)とタッグを組んだセルフタイトルのデビューアルバム『SWEET OBLIVION』(2019年)からほぼ2年ぶりの今作では、シモーネに代わり新たにイタリアのメロディックメタルバンド、SECRET SPHEREのアルド・ロノビレ(G)をパートナーに迎え制作しました。

アルドがプロデュースを手がけることもあり、レコーディグメンバーも一新された本作。前作ではQUEENSRYCHEの大ヒット作『EMPIRE』(1990年)を彷彿とさせるミドルヘヴィのダークな楽曲中心でしたが、今作延長線上にある作風なのは変わらず。ただ、そこに名作『OPERATION: MINDCRIME』(1988年)、もっと言えばそれ以前の『RAGE FOR ORDER』(1986年)あたりに見られた質感が復調し、若干クラシカルメタル/メロディックメタル度が増しているように感じられます。

Frontiers Recordsというイタリアのレーベルからのリリースというのも大きいのでしょうが、この2作ともにイタリアの人気メタルバンドのブレインが制作を仕切っています。シモーネもアルドも間違いなく、80年代から90年代初頭のQUEENSRYCHEは通過しているはずですし、いろいろな問題はあれどジェフ・テイトという稀代の名ボーカリストと一緒に仕事できることはうれしかったはず。つまり、自身のオリジナリティとジェフらしさ……往年のQUEENSRYCHEらしさのバランスをどう図り、それを提示するかという使命があったはず。両プロデューサーはその任務を見事に果たしたわけですが、この2ndアルバムでのアルドの仕事ぶりはジェフや我々の想像する以上のものがあるように思えます。

ぶっちゃけ、ジェフが参加した2000年以降のアルバムの中でもっとも優れているんじゃないか……そう思えてしまうほど、ここで展開されている世界観、楽曲、サウンド、ジェフのボーカルパフォーマンスすべてが「本来ファンが聴きたかったGEOFF TATE's QUEENSRYCHE」なのですから。

随所にフィーチャーされたギターのツインリードフレーズ、そしてドラマチックな展開を持つメロディとアレンジ。『EMPIRE』と『OPERATION: MINDCRIME』の中間に位置するメロディアスなメタルサウンド(そう、ハードロックではないんです)に引っ張られるように、ジェフのボーカルトーンも次第に高くなっていく。アルバム中盤、特に「Remember Me」や「Anybody Out There」「Aria」あたりの楽曲はそういった期待に応えるものが備わっているはずです。

これはうれしい誤算だったなあ。もうOPERATION: MINDCRIMEは素直に諦めて、SWEET OBLIVIONに本腰入れてくれたらなあ。毎回気鋭のアーティストとタッグを組んで、「僕の考えるQUEENSRYCHE」をジェフと一緒に表現してくれたら、それはそれで楽しいじゃないですか(主に自分が。笑)。

 


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2019年12月10日 (火)

SWEET OBLIVION『SWEET OBLIVION』(2019)

QUEENSRYCHEのフロントマン、ジェフ・テイトが新たに立ち上げたプロジェクト・SWEET OBLIVIONのデビューアルバム。2019年6月発売。

QUEENSRYCHE脱退後、もうひとつの同名バンドを立ち上げ我々を混乱に陥れた張本人ジェフ・テイト。その後、OPERATION: MINDCRIMEとバンド名を変え活動を続けていましたが、ここではイタリアのプログレッシヴ/テクニカル・メタルバンドDGMのシモーネ・ムラローニ(G, B)と新たにタッグを組むことで、メロディアスな(かつ比較的モダンな)王道HR/HMにチャレンジしています。

良くも悪くも、オルタナメタルに特化した『PROMISED LAND』(1994年)以降の路線にこだわり続けたジェフですが、本作では良い意味でそれ以前のサウンドスタイル、特に名作『OPERATION: MINDCRIME』(1988年)や続く『EMPIRE』(1990年)あたりに存在した魅力が復調しているように感じます。

とはいえ、まったく同じことをやっているわけではなく、そこにはシモーネのメロディセンス、彼と同じDGMのメンバーであるエマニュエル・カサーリ(Key)、ファビオ・コスタンティーノ(Dr)を迎えたことで実現した適度にテクニカルかつモダンな演奏が功を奏し、オルタナ路線には感じられなかったキラメキや艶やかさまで見出すことができるのですから、シモーネ様様といったところでしょうか。

そして、ジェフ・テイトという稀代のシンガーはやはりヘヴィメタルを歌うべき人間なのだということにも、ここで改めて気付かされるはずです。オルタナメタルやらモダンヘヴィネス以降の頭でっかちなHR/HMも決して悪いわけじゃない。だけど、モノには限度があるし、そればかり延々続けられてもお客は飽きてしまうわけです。だって、そこばかりを求めて老舗(=ジェフのもと)を訪れているわけではないのですから。みんな最新のテイストも美味しがってくれるけど、結局一番食べたいのは定番の“あの”なわけですしね。

期せずして、そういった老舗の味が復活することになったSWEET OBLIVIONというプロジェクト。きっと今現在のQUEENSRYCHEのファンも喜んでくれるはず。現QUEENSRYCHEが最新作『THE VERDICT』(2019年)で示した路線にも比較的近く、適度に『EMPIRE』あたりのカラーが含まれている本作は、もしかしたら“あの頃”のQUEENSRYCHEが本来進むべきだった未来の姿なのかもしれませんね。

もし、このプロジェクトが継続的に作品を発表してくれるのなら、きっと次のアルバムはもっと練りこまれたメロディの楽しめる、真の意味での「“あの頃”のQUEENSRYCHEの続き」が見られるのかも……そんな淡い期待をしつつ、このプロジェクトの成功を祈りたいと思います。

 


▼SWEET OBLIVION『SWEET OBLIVION』
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2019年11月13日 (水)

MICHAEL SWEET『TEN』(2019)

2019年10月上旬にリリースされた、マイケル・スウィートSTRYPER)の8thソロアルバム。日本盤は1ヶ月遅れて、同年11月上旬に発売されています。

タイトルは10作目を表すってことで『TEN』なのかな。ジョージ・リンチとのSWEET & LYNCH名義の2作を含めると10作目ですしね。にしてもこの人、2013年から毎年何かしらアルバムを発表しているんですよね。2013年はSTRYPERで2作(リメイクアルバム『SECOND COMING』とオリジナルアルバム『NO MORE HELL TO PAY』)、2014年はソロアルバム『I'M NOT YOR SUICIDE』、2015年はSWEET & LYNCHで『ONLY TO RISE』とSTRYPERで『FALLEN』、2016年はソロ名義の『ONE SIDED WAR』、2017年がSWEET & LYNCHでの2作目『UNIFIED』、2018年はSTRYPERの最新作『GOD DAMN EVIL』、そして今年はこのソロアルバム。老いてなお盛ん。

さて、今回のソロアルバムですが、全12曲中11曲にフィーチャリングアーティストとしてゲストプレイヤーを迎えて制作しています。その内訳もジェフ・ルーミズ(G / ARCH ENEMY)、Marzi Montazeri(G / EXHORDER、ex. PHILIP H. ANSELMO & THE ILLEGALS)、ガスG.(G / FIREWIND)、ジョエル・ホークストラ(G / WHITESNAKE、ex. NIGHT RANGER)、トレイシー・ガンズ(G / L.A. GUNS)、リック・ワード(G / FOZZY)、トッド・ラ・トゥーレ(Vo / QUEENSRYCHE)、ウィル・ハント(Dr / EVANESCENCE)などと、とにかく豪華なメンツ。思えば前作『ONE SIDED WAR』にもウィル・ハントやジョエル・ホークストラは参加していたので、おなじみのメンツって感じですかね。

本作、元々は10曲入りの構成が基本で、「With You Till The End」と「Son Of Man」の2曲がボーナストラック扱いだったので、本来は10曲入りだから『TEN』って意味だったのかな。今となってはどうでもいい話ですが。

気になる中身ですが、2曲を除いてすべてマイケル・スウィート単独で書き下ろしたオリジナル曲。残り2曲もマイケルとジョエル・ホークストラとの共作なので、まあ全曲マイケルのオリジナルと言い切っても間違いではないでしょう。なので、従来のソロ作品の延長線上にある“メタリックで、かつポップで親しみやすいHR/HM路線”をキープしています。ファストナンバーやミドルヘヴィ、バラードとバランスよく配分されており、どの楽曲もツボを心得た作風です。が、最近のSTRYPERよりもシンプルさが際立つ楽曲が多い印象も。そこで好き嫌い(いや、嫌いはないな。好みから外れるくらいか)が分かれるかも。

ゲストプレイヤーに関しては……正直、“らしい”ものもあるし、別にクレジットがなければ気づかないといったものもある。セールスのための打ち出し方としては正しいんでしょうけど、個人的にはおまけ程度かな。とにかく曲が良くて、マイケルが力強く歌ってくれたらそれでよし。

そういった意味では、マイケルが関わる作品はどれも好きという人には間違いなく引っかかる1枚だし、STRYPERのように豪華なコーラスを重視するメロハー好きにはちょっと違うかな?と感じるんでしょうか。それはそれとして、純粋によく作り込まれたメロディアスハードロック作品のひとつであることには違いありません。うん、今回も力作でした。

 


▼MICHAEL SWEET『TEN』
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2019年9月15日 (日)

QUEENSRYCHE『PROMISED LAND』(1994)

昨日紹介したDREAM THEATER『AWAKE』と時同じく、1994年10月にリリースされたQUEENSRYCHEの5thオリジナルアルバム。

全米だけで300万枚を超える大ヒット作となった前作『EMPIRE』(1990年)で、モダン・プログレッシヴロック/メタルの新たな道しるべを築き上げたQUEENSRYCHEですが、本作はその『EMPIRE』の路線をさらに推し進めた内容に仕上がっています。

『OPERATION: MINDCRIME』(1988年)、『EMPIRE』と2作立て続けに手がけたピーター・コリンズ(RUSHBON JOVIアリス・クーパーなど)から、新たにジェイムズ・ジンボ・バートン(ゲイリー・ムーアスティーヴ・ペリーLITTLE ANGELSなど)へとプロデューサーを交代。アコースティックギターを多めに使ったアレンジもあってか、きめ細やかな繊細さが際立つ質感で、若干ダークな楽曲群と相まってひんやりとした印象を受ける1枚でもあります。

DREAM THEATER然り、このQUEENSRYCHEもダーク&ヘヴィな作品がもてはやされていた当時の流行が多少なりともアルバムに反映されており、それが『EMPIRE』が持っていたモダンさとミックスされることで、より社会派バンドとして見られるようになってしまった。これは、この頃までは大きな武器となりましたが、その後自らの首を締める負の要因にもなる“諸刃の剣”としてバンドの前に立ちはだかることになります。

また、前作から少しずつ進んでいた“脱メタルバンド”的な作品作りは本作でも拍車がかかり、「I Am I」や「Damaged」「Promised Land」などヘヴィさを感じさせる楽曲はあるものの、その“ヘヴィさ”は必ずしもHR/HMのそれとは限らない。むしろPINK FLOYDなどのプログレッシヴロックや、同じシアトル出身の後輩たち……ALICE IN CHAINSSOUNDGARDENを筆頭とするグランジ勢などに通ずる“ヘヴィさ”へとシフトし始めています。「Bridge」のようなスローナンバーも、HR/HMというよりもオルタナティヴロックのそれに近い印象を受けますしね。

『OPERATION: MINDCRIME』までの彼らの幻影を追うリスナーには、本作は駄作以外の何物でもないのかなと。でも、『EMPIRE』で試みたことに少しでも興味があり、なおかつ1994年という時代の空気を感じたい、あるいはあの時代のロックに対して好意的なリスナーならこの『PROMISED LAND』というアルバムは、とても優れた作品に映るのではないでしょうか。

ちなみに僕、本作や続く『HEAR IN THE NOW FRONTIER』(1997年)、嫌いじゃないです。むしろ初期のメタリックな作風よりもお気に入りかも。昨日の『AWAKE』といい、当時は周りから「なんでこれが良いなんて言い切れるの?」とバカにされたのもいい思い出です(笑)。

なお、本作は全米3位というQUEENSRYCHEのキャリア中最高位を記録。セールスは100万枚と前作には及びませんが、売り上げ的には『OPERATION: MINDCRIME』と同等のヒット作なわけです。

 


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2019年3月 7日 (木)

QUEENSRYCHE『THE VERDICT』(2019)

QUEENSRYCHE通算15作目のスタジオアルバム(オリジナル作品としては14作目)。トッド・ラ・トゥーレ(Vo)加入後3作目となり、前作『CONDITION HUMAN』(2015年)から3年半ぶりという待望の1枚です。

トッド加入後の2作(2013年の『QUEENSRYCHE』と続く『CONDITION HUMAN』)は、前任シンガーのジェフ・テイト主導期の退屈オルタナ路線(苦笑)から一転、初期(1988年の『OPERATION: MINDCRIME』まで)を思わせるメロディアスなヘヴィメタル路線に回帰し、多くのファンを喜ばせてくれました。

この新作も基本的にはその延長線上にあるのですが、そこからさらに『EMPIRE』(1990年)にあった側面までを包括した力作となっています。つまり、多くのファンが思い浮かべるQUEENSRYCHEのパブリックイメージどおりの内容と言えるのではないでしょうか。

実は本作、ドラマーのスコット・ロッケンフィールドが家庭の事情でレコーディングに参加しておらず、なんとトッドがすべて叩いているとのこと。この事実はリリース直前まで伏せられおり、先行リリースされていた楽曲を聴いただけでは誰かゲストドラマーが叩いているのかと思っていたのですが……そもそもトッドのキャリアはドラマーから始まっているそうですが、にしてもここまで叩けるとは正直驚きです。

だって、フルタイムのドラマー以外が叩くことで、従来のQUEENSRYCHEらしいテクニカルな要素を薄めなくてはいけないのでは?なんて思考になってもおかしくないところを、ちゃんと“らしい”楽曲とアレンジで固めているのですから。とはいえ、前作と比べたら1曲1曲が若干コンパクトになった印象もあるし、なんとなく『EMPIRE』っぽい色合いが増えたのはそういった理由もあるのかな?と邪推したくなったり……まあ考えすぎですかね。

勢いがあってメタリックで、という曲よりも「Bent」や「Inner Unrest」みたいにミドルテンポで凝ったアレンジが加えられた曲のほうに魅力を感じる。そんな自分みたいなひねくれ者なら、ツインリードがあったりダークなメロディ&コーラスがあったりというこの曲にこそ、往年のQUEENSRYCHEを見出してしまう。そういった意味では、「ようやく戻ってきたな」というのがこのアルバムなんじゃないでしょうか。

シンガーが変わってからアルバム2枚出したし、そろそろ変化を加えてもいいタイミングじゃない? だけどそれはリスナーが納得する“らしさ”を残しつつやっていかないとね。なんて話し合いがあったかどうかはわかりませんが、ここ数作の中ではもっともバランス感に優れた1枚だと思いました。全10曲で44分というボリュームもちょうど良いですしね(日本盤はアルバム1枚分のボーナストラックをまとめた特典ディスク付き仕様も用意。こちらは2枚で80分超えなんですが……長ければいいってもんじゃないんですよ、このご時世)。

なんとなくですが、『OPERATION: MINDCRIME』や『EMPIRE』が好きなリスナーは過去2作よりも今回のほうが気に入るんじゃないか……なんて気がするんですが、いかがでしょう。僕はトッド加入後で一番好きです。



▼QUEENSRYCHE『THE VERDICT』
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2019年3月 3日 (日)

ARCH ENEMY『COVERED IN BLOOD』(2019)

2019年1月に発表された、ARCH ENEMYのカバーアルバム。バンド初期からシングルのカップリングやアルバムのボーナストラックとして収録されてきた歴代のカバー曲を1枚にパッケージした作品で、その内訳も初期3作のヨハン・リーヴァ時代、ブレイクのきかっけを作ったアンジェラ・ゴソウ時代、現在のアリッサ・ホワイト=グラズ時代と3世代にわたる、ある種のオールタイム“裏”ベストアルバムとなっています。

取り上げられているカバーはIRON MAIDENJUDAS PRIESTEUROPEMEGADETH、MANOWAR、QUEENSRYCHEPRETTY MAIDSSCORPIONSKISSなど彼らのルーツにあるHR/HMバンドからG.B.H.、DISCHARGEといったハードコアバンド、SKITSLICKERS、ANTI-CIMEX、MODERAT LIKVIDATIONという地元スウェーデンのハードコア/クラストコアバンド、マイケル・アモット(G)がかつて在籍したCARCASS、そしてTEARS FOR FEARSやマイク・オールドフィールドといったポップ寄りまで、バラエティに富んだもの。JUDAS PRIEST、IRON MAIDEN、EUROPE、SKITSLICKERSはボーカリスト違いで複数選ばれているものもあります。

全24曲中、M-1「Shout」からM-11「City Baby Attacked By Rats」までがアリッサ時代、M-12「Warning」からM-20「Symphony Of Destruction」までがアンジェラ時代、ラスト4曲がヨハン時代としっかりブロック分けされているので、そこまで違和感を感じることはないかと。特にアリッサ時代はM-5「Nitrad」から「City Baby Attacked By Rats」までのパンク/ハードコアのカバーが続く流れで統一感を作るなど、構成も考えられていますしね。

ARCH ENEMYの活動を追っているリスナーには、すべて既出で所持している音源ばかりでしょう。しかし、こういった“ファン”アルバムは出すことに意味があるので、そこに文句をつけるのは野暮というもの。そんな中、M-1「Shout」は昨年発売されたアナログボックスセット『1996-2017』やアナログ7インチ盤「Reason To Believe」に収録されていたものですが、CD化はこれが初めて。原曲をよりヘヴィにしたアレンジはどことなくツェッペリン「Immigrant Song」に似ていて、DISTURBEDのカバーバージョンとは違った味わい深さがあります。

そのほかのカバーに関しては原曲まんまのものから凝ったアレンジのものまでさまざまですが、基本的には原曲に対する愛情が強いものが多い印象です。個人的にはPRETTY MAIDS「Back To Back」、EUROPE「Wings Of Tomorrow」、CARCASS「Incarnated Solvent Abuse」、IRON MAIDEN「Aces High」がお気に入りです。

ちなみに、CDブックレットにはマイケル・アモットによる各曲の解説入り。残念ながら日本盤はおろか、配信&ストリーミングもなしの本作ですが、特にストリーミングに関しては過去作もゼロなので、これを機に動いてほしいものです。



▼ARCH ENEMY『COVERED IN BLOOD』
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2018年8月14日 (火)

QUEENSRYCHE『EMPIRE』(1990)

1990年9月にリリースされたQUEENSRYCHEの4thアルバム。前作『OPERATION: MINDCRIME』(1988年)が全米50位止まりながらも、「I Don't Believe In Love」や「Eyes Of A Stranger」のラジオヒットを受けて100万枚をヒット作となり、満を持して発表された次作『EMPIRE』は全米7位、300万枚以上もの好セールスを記録しました。また、本作からは「Silent Lucidity」(全米9位)というヒットシングルも生まれ、ほかにも「Empire」「Jet City Woman」などがラジオヒットとなりました。

プログレッシヴロックの影響下にあるテクニカルなヘヴィメタル。QUEENSRYCHEにはそういったイメージがありましたが、特に『OPERATION: MINDCRIME』はコンセプトアルバムだったこともあり、そのイメージがさらに強まったと思います。そんな彼らが、これに続く『EMPIRE』で示したのは、良い意味での“ヘヴィメタルバンドからの脱却”だったのではないでしょうか。

もちろん、聴けばHR/HMの範疇にあるサウンドなのですが、そのひんやりとしていてモダンなスタイルは、ヘヴィメタルというよりはハードロックと呼ぶほうがぴったり合うのではないでしょうか。彼らは続く『PROMISED LAND』(1994年)、『HEAR IN THE NOW FRONTIER』(1997年)でグランジやオルタナティヴロックのテイストを強めていき、完全にヘヴィメタルバンドからの脱却に成功しますが、この『EMPIRE』はその間にある過渡期的1枚と言えるかもしれません。

しかし、過渡期とは言うもののその内容・完成度には目を見張るものがあり、ある意味では前作『OPERATION: MINDCRIME』以上のクオリティと言えるでしょう。RUSHほどテクニカルではなく、DREAM THEATERほどメタリック、ドラマチックではない。その適度さがこのアルバムの魅力であり、HR/HMブームとグランジブームの間(はざま)を象徴するような作風と言えるのではないでしょうか。

個人的には「Della Brown」や「Anybody Listening?」といったスローナンバー、エモーショナルさが本作の中でも際立つ「Jet City Woman」「Another Rainy Day (Without You)」、そしてひんやりとしたヘヴィロック「Empire」あたりがお気に入り。もちろん、シングルヒットしたバラード「Silent Lucidity」も嫌いじゃありません。

『OPERATION: MINDCRIME』はストーリー性が強いせいもあり、頭から最後まで通して聴かなくちゃ……的な使命感が強い1枚でしたが、この『EMPIRE』は個々の曲にストーリーがあるものの(しかもその物語が、銃規制や環境問題などシリアスなものが多い)、単曲で気楽に楽しめる作品集ではないかなと。とはいえ、作風のシリアスさもあって、そこまで気楽に楽しめるといった感じでもないんですけどね。



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2017年1月26日 (木)

QUEENSRYCHE『OPERATION: MINDCRIME』(1988)

忘れた頃に復活する“1988年縛り”(笑)。いや、改めて名盤の多さに気づかされたわけですよ、今年に入ってレビューを書き始めてみると。

今回紹介するQUEENSRYCHE(当時はまだ「クイーンズライチ」と紹介されてましたね。懐かしい)の3rdフルアルバムにして出世作となった『OPERATION: MINDCRIME』も1988年製。以前DOKKENの『BACK FOR THE ATTACK』を紹介したときにも書きましたが、当時Q PRIMEとマネジメント契約していたバンドが1988年前後に発表したアルバム、すべてCD対応で60分超えの作品ばかりなんですよね(他にもDEF LEPPARD『HYSTERIA』、METALLICA『…AND JUSTICE FOR ALL』も)。

ただ、QUEENSRYCHEが他のバンドの長尺アルバムと一線を画するのは、この『OPERATION: MINDCRIME』がひとつのストーリーに沿って物語が進行していくコンセプトアルバムだということ。もともとプログレッシヴなメタルサウンドでコアな人気を博した彼らが、ここぞという勝負タイミングでコンセプトアルバムを発表したのは、HR/HMが“売れる”時代に逆行していたと思うんです。事実、リリースされてしばらくはセールス的にもイマイチだったと記憶しています。しかし同じ事務所のDEF LEPPARDやMETALLICAのツアーに帯同することで知名度を上げ、翌1989年になるとシングルカットされた「I Don't Believe In Love」や「Eyes Of A Stranger」がMTVやラジオで頻繁にオンエアされ、アルバム自体もチャート上は最高50位とやや低調ですが、セールスにおいては100万枚を突破。この結果が、続く1990年の4thアルバム『EMPIRE』の大ヒットにつながるわけです。

コンセプトアルバムというと小難しいプログレッシヴロックのイメージが強いかもしれませんし、それによって手を伸ばしにくいという人もいることでしょう。しかし、本作においてはそんな心配は無用。オープニングトラック「I Remember Now」のセリフにいきなり及び腰になるかもしれませんが、続くインストナンバー「Anarchy-X」から正統派メタルチューン「Revolution Calling」への流れでそんな不安は解消されるはずです。

その後も「Speak」「Spreading The Disease」のようなファストチューン、エモいメロディの「The Mission」と続き、10分超えの「Suite Sister Mary」で最初の山場を迎えます。この曲のみコンセプトアルバムの色合いが濃いと思いますが、苦手な人はここを乗り切れば後半はスピードナンバー「The Needle Lies」、超名曲「Breaking The Silence」、そしてシングルカットされた「I Don't Believe In Love」や「Eyes Of A Stranger」とエンディングに向け盛り上げ、最後は再び「I Remenber Now」のセリフが登場してアルバムの幕を下ろします。

ね? 曲単体はコンセプトアルバムとか余計なことを感じさせない、ど真ん中のヘヴィメタルでしょ? “プログレメタル”弱ばりでDREAM THEATERあたりと一緒くたに語られてしまいがちですが、楽器陣のテクニカルさは楽曲の味付け程度で、全体的には1曲4〜5分に収めてられていて(アルバムに1曲くらい例外あり)、素直に楽しめるはず。なので苦手意識を捨てて、気軽に接してみることをオススメします。そこを乗り越え、改めてアルバムの物語に興味を持ったときは、ぜひいろいろ調べてから聴き返してみると新たな発見があるはずです。



▼QUEENSRYCHE『OPERATION: MINDCRIME』
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