PEARL JAM『DARK MATTER』(2024)
2024年4月19日にリリースされたPEARL JAMの12thアルバム。
前作『GIGATON』(2020年)から4年ぶりの新作。同作リリース後には北米ツアーを予定していたものの、ちょうどコロナ禍に突入してしまったこともあり、思うような動きが取れなくなってしまいます。2021年9月には約3年ぶりのライブを実施し、ここからサポートメンバーとして元RED HOT CHILI PEPPERSのジョシュ・クリングホッファー(G, Key)が参加するようになります。また、エディ・ヴェダー(Vo)は2021年8月にキャット・パワーやアイルランドの詩人グレン・ハンサードとのコラボレーションによる映画『FLAG DAY』のオリジナル・サウンドトラックを、2022年2月には約10年ぶりのソロアルバム『EARTHLING』(2022年)も発表しています。
ジョシュ・エヴァンスと初タッグを組んだ前作から一転、今作ではエディの『EARTHLING』にも携わっていたアンドリュー・ワット(イギー・ポップ、オジー・オズボーン、THE ROLLING STONESなど)がプロデューサーとして初参加。意外な組み合わせではあるものの、かつてのリック・ルービンのように「クラシックロック再生工場」として重宝されている現在のアンドリューの立ち位置を考えると納得できるところもあります。
で、実際に完成したアルバムですが……リードシングル「Dark Matter」の時点で大きな手応えが感じられましたが、アルバム全編通して聴いたときの興奮度は想像以上のもので、久しぶりに頭からラストまで大満足。正直、PEARL JAMのアルバムでここまで圧倒されたのは90年代の初期3作(1stアルバム『TEN』、2ndアルバム『VS.』、3rdアルバム『VITALOGY』)以来かもしれません。
わかりやすいストレートなアップチューン「Scared Of Fear」「React, Respond」の2連発で完全に心を鷲掴みにされ、穏やかさと大らかさに伝わるミディアムチューン「Wreckage」、ニューウェイヴ meets ハードロック的な「Dark Matter」、メロウでじっくり聴かせる「Won't Tell」と、前半の流れは完璧。変に小難しいことをしようとしていないし、メロディアスさも初期の彼らに通ずるシンプルさが復調している。このへんがもしかしたらアンドリューの手腕によるものなのかもしれませんね(事実、アンドリューはすべての楽曲のソングライターとしてバンドとともにクレジットされています)。
ムーディーなイントロダクションから始まる後半は、1stアルバムの頃の彼らを彷彿とさせるミディアムナンバー「Upper Hand」を筆頭に、同じく初期の彼らを思わせるダイナミックな「Waiting For Stevie」、パンキッシュなファストチューン「Running」、軽やかなリズムが心地よい「Something Special」、キャッチーさの際立つ「Got To Give」、ここまでのポジティブな空気を引き継く爽やかな「Setting Sun」で締めくくり。先ほど初期3作を例に挙げたものの、内容的にはその頃とも異なりダークさがほとんど感じられない。むしろ、この混迷の時代をひたすら“陽”のエネルギーで突き進もうとする覚悟が全編から伝わり、バンドとして新たな絶頂期を迎えつつあることも想像に難しくありません。
また、今作のレコーディングにはライブサポートのジョシュも参加しており、このへんも新たな刺激につながったのかもしれませんね。実際、「Something Special」の作曲クレジットにはジョシュの名前も見つけられますし。
約7年ぶりという長いインターバルを経て届けられた前作『GIGATON』では、新境地に一歩踏み出してバンドの再生を図ったPEARL JAMですが、アンドリュー・ワットやジョシュ・クリングホッファーらの手を借りて「新境地を見たからこその原点回帰」へとたどり着いた。しかも、単なる原点回帰では終わらず、バンドとして何歩も前進してみせるというおまけまで用意されている。改めて、すごい境地に到達したなと驚かされます。間違いなくPEARL JAMの最高傑作(もちろん2024年時点での)。入門編としても最適な1枚です。
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