カテゴリー「「R.I.P.」」の50件の記事

2023年1月12日 (木)

JEFF BECK『YOU HAD IT COMING』(2000)

2000年11月15日にリリースされた、ジェフ・ベック名義での8thアルバム。

前作『WHO ELSE!』(1999年)でドラムンベースなどモダンなテクノサウンドをフィーチャーしたバクトラックと、常に進化を続ける先鋭的なギタープレイで我々を驚かせたベック。僕自身、『GUITAR SHOP』(1989年)以降は彼の新作に積極的に触れてきたわけではなかったのですが、この『WHO ELSE!』で得た衝撃は何ものにも変え難いものがありました。当時通っていたクラブでも「What Mama Said」や「Psycho Sam」のような楽曲が流れると、めちゃめちゃアガりましたからね。

そんな『WHO ELSE!』から2年立たずに届けられた『YOU HAD IT COMING』は、前作の方向性をさらに推し進めたもの。新たなプロデューサーとしてアンディ・ライト(SIMPLY REDSIMPLE MINDSEURYTHMICSなど)を迎え、ジェニファー・バトン(G)やランディ・ホープ-テイラー(B)、スティーヴ・アレクザンダー(Dr)といった前作参加メンバーのほか、エイデン・ラヴ(Programming)やイモージェン・ヒープ(Vo)も参加。長きにわたりタッグを組んできたトニー・ハイムス(Key)はスケジュールの都合で参加できなかったようですが、“鉄は熱いうちに打て”じゃないですけど、ベックがノっているタイミングに好きなだけ作れる環境で強行した結果がこの良作誕生につながったんだから、結果オーライだと思います。

前作およびそのツアーではベック自身が信頼を置くジェニファー・バトンのプレイが大々的にフィーチャーされていましたが、それは本作でも同様。オープニングを飾るドラムンベース調の「Earthquake」はそのジェニファーが単独で作曲を手がけた楽曲ですからね。そのジェニファーのテクニカル&アグレッシヴなプレイも随所に散りばめられており、ベック自身もそれに触発されたかのように若々しくてエネルギッシュ、だけど要所要所に年齢相応の枯れた味付けも感じられ、前作以上に聴き応えのある内容に仕上がっています。

また、前作は完全インストゥルメンタル作品だったのに対し、本作では「Dirty Mind」やブルースの名曲「Rollin' And Tumblin'」といった歌モノも用意。このテクノ路線で定番の「Rollin' And Tumblin'」を取り上げるセンスにも唸らせられるものがあります。常に時代の先を読みつつも、決してルーツは忘れない。だからこそ、僕自身この人のことをここまで信頼できたんだと思います。

僕自身は“テクノロジー3部作”と勝手に呼んでいる『WHO ELSE!』から『JEFF』(2003年)までの一連の流れの中で、実はもっともコンパクトでバランス感に優れた傑作がこの2作目『YOU HAD IT COMING』じゃないかなと思っております。「Left Hook」での暴れっぷりとか、今聴いても圧倒的ですしね。

 


▼JEFF BECK『YOU HAD IT COMING』
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2022年6月 6日 (月)

R.I.P. Alec John Such

「ボン・ジョヴィ」創設時のベーシスト アレック・ジョン・サッチさんが死去 70歳(スポニチアネックス)

 最初に観たのは1987年の武道館だったかな。で、最後に観たのが1993年初夏の『KEEP THE FAITH』(1992年)ツアー。このときは3〜4回観てる記憶があるな。ベストアルバム『CROSS ROAD』(1994年)リリース後の東京ドーム公演のときはもういなかったんだっけ(1995年5月らしいので、すでに脱退後ですね)。

 決して華のあるプレイヤーではなかったし、ときどき変なベースフレーズを弾いていたりして「?」と感じる瞬間もあったけど、やっぱり自分にとってはこの人とリッチー・サンボラがいてこそBON JOVIだったんだよな、と過去のMVなどを振り返り感じました。

 アレック在籍時のオリジナルアルバム5枚と『CROSS ROAD』から20曲ほど選んでプレイリスト作りました。極力シングル曲を避けているのは、へそ曲がりな自分なりのこだわり。とはいえ、「Keep The Faith」は欠かせないですけどね。いわゆる最初の黄金期から第二の黄金期へ至る過渡期が最初の10年。そのへんを隠れた名曲たちとともに振り返ってみていただけたらと思います。

 故人のご功績を偲び、心からご冥福をお祈りいたします。

 

2022年5月31日 (火)

DEPECHE MODE『101』(1989)

1989年3月13日にリリースされたDEPECHE MODE初のライブアルバム。日本盤は同年3月10日先行発売。

本作は1987年秋に発表された6thアルバム『MUSIC FOR THE MASSES』を携え、1987〜88年に開催されたワールドツアーから、101本目にして最終公演に当たる1988年6月18日の米・カリフォルニア州パサディナRose Bowlでのスタジアムライブの模様を収めたもの。アナログ盤は2枚組/全17曲、CDは2枚組/全20曲と収録容量の違いで差ができてしまっています(アナログ盤でカットされたのは「Sacred」「Nothing」「A Question of Lust」)。

当時、このライブ盤を聴いて驚いたのは、その歓声の凄まじさとデイヴ・ガーン(Vo)のアッパーさ。SE的な「Pimpf」を経てスタートする「Behind The Wheel」での熱狂的な歓迎されっぷりは、当時日本でMTVを通じてでしかDEPECHE MODEを知らなかった自分にとってかなり衝撃なものでした。実際、スタジアムでライブをできるほどの人気をアメリカで獲得していたことを考えると、この大歓声が仕込みでもなんでもないことに気付かされるわけですが。

当時はアラン・ワイルダーを含む4人編成で、ライブも1990年代以降のサポートメンバーを迎えた大編成とは異なるもの。だからこその(良くも悪くも80年代的な)音数の少ないエレクトロニックサウンドが、スタジアムという大会場でどんな音量で鳴らされていたのか、非常に気になります。「Something To Do」みたいな80年代前半の楽曲は特にね。

ちなみに本作、同名の映像作品を制作されており、音源よりも尺は長いものの、披露されている楽曲数はかなり少ないです。ライブ映像を含むドキュメンタリー作品的なテイストなので、あくまで1988年当時の熱狂ぶりを補足するためのアイテムとして捉えていただけると。2021年12月にはリマスタリングされた映像版と、CDも同梱したボックスセットもリリースされたので、そのクリアな映像と合わせてお楽しみいただくのも一興かと。

選曲的にはもちろん『MUSIC FOR THE MASSES』からの楽曲が中心で、そこに『BLACK CELEBRATION』(1986年)や『SOME GREAT REWARD』(1984年)といったアメリカでのブレイク作を交えた内容といったところでしょうか。さすがに「Leave In Silence」や「See You」は選出されていませんが、ラストに「Just Can't Get Enough」「Everything Counts」という初期楽曲が用意されているあたりは微笑ましかったりします。

ここのツアーで得た経験が次作『VIOLATOR』(1990年)や次々作『SONGS OF FAITH AND DEVOTION』(1993年)でのアメリカナイズにつながったことは、間違いでしょう。それくらい、このツアーでの成功はバンドに良くも悪くも影響を与えたはずですから。

このライブアルバムと当時の最新作『VIOLATOR』をじっくり聴き込んで、浪人中にもかかわらず日本武道館公演(1990年9月)に足を運んだんだよなあ。思えば、あれが最初で最後の“生”DEPECHE MODEだったし、以降32年も来日していないんですよね。そして、アンディ・フレッチャーを生で観た最初で最後のライブでもあったわけですが……。

近作ではツアーごとにライブアルバム/映像作品を毎回リリースしてくれている彼らですが、できることなら『VIOLATOR』〜『SONGS OF FAITH AND DEVOTION』期のライブフル映像(音源でも可)を体験したいものです。

最後になりましたが、アンディ・フレッチャーのご冥福をお祈りいたします。

 


▼DEPECHE MODE『101』
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2022年1月22日 (土)

MEAT LOAF『BAT OUT OF HELL』(1977)

1977年10月21日にリリースされたミートローフ(MEAT LOAF)の1stアルバム。

言わずと知れたロック界のレジェンド的アルバムにして、現在までに世界中で4000万枚以上のセールスを記録し、「人類史上5番目のセールスを記録する不朽の名盤」(日本盤CD帯より)。日本では『地獄のロック・ライダー』の邦題でお馴染みの本作はリリースから45年経った今も愛され続け、アメリカだけでも1400万枚以上を売り上げているそうですが、実はチャート的には最高14位止まり(イギリスでも最高9位)。ちょっと意外な数字ですが、続編アルバム『BAT OUT OF HELL II: BACK INTO HELL』(1993年)が初の全米&全英1位を獲得するのは本作がロングヒットを続けていた結果でもあるわけです。

アルバムジャケットの一番下に「SONGS BY JIM STEINMAN」(一部CDやデジタル版はアーティスト名のすぐ下)と記されているように、本作はミートローフのアルバムであると同時に、ジム・スタインマンのアルバムでもあることがおわかりいただけるはず。プロデュースこそかのトッド・ラングレンが手がけていますが(レコーディングにはトッドや彼のバンドUTOPIAの面々、エドガー・ウィンターなども参加)、本作のメガヒットの功績は間違いなくジムのソングライティング力とミートローフの圧倒的な歌唱力/表現力によるものが大きいのではないでしょうか。

僕はリアルタムで『BAT OUT OF HELL II: BACK INTO HELL』からミートローフに触れた世代で、第1弾となる本作は完全に後追いでした。なもんで、1977年という時代の音が凝縮された本作は90年代前半の耳には「スカスカで薄っぺらい」というのが第1印象で、いわゆるハードロック度も低めかなという評価(その頃の自分は『BAT OUT OF HELL II: BACK INTO HELL』をハードロックアルバムのひとつとして受け取っていたので)。しかし、楽曲の完成度やアレンジ力、ミートローフの若々しい歌声(リリース当時は30歳!)の素晴らしさに気づくには、そう時間はかかりませんでした。

ハードロックというよりは当時のプログレッシヴロック的な側面の強い演奏/アレンジと、アルバム全体を通してひとつの戯曲を表現したかのような構成と、その1つひとつの楽章が軽やかなロックンロールや変幻自在なオペラチューンで構築された濃度の高い楽曲。例えばQUEEN「Bohemian Rhapsody」と接するような感覚で触れたら、このアルバムの凄みがより理解できるのではないでしょうか。オープニングを飾る「Bat Out Of Hell」の10分近くにわたるドラマチックな演奏と構成は、これぞ名演と呼べるもの。このハードロックとプログレを掛け合わせたようなスタイルは、同時期にデビューしたBOSTONとの共通点も見出せるはずです。

かと思えば、映画のようなナレーションを冒頭に挿入したきらびやかなバブルガムポップ風ロックチューン「You Took The Words Right Out Of My Mouth (Hot Summer Night)」(全米39位)や、ひたすら美しいピアノバラード「Heaven Can Wait」、サックスの音色が軽快さを強調する「All Revved Up With No Place to Go」(終盤の転調も最高です)、ミートローフの透明感の強い歌声に惹きつけられる名バラード「Two Out Of Three Ain't Bad」(全米11位)、ブギウギからファンク、ストレートなロックンロールと次々に変化を続けるバンドアンサンブルが特徴的な大作「Paradise By The Dashboard Light」(全米39位)、そして本作のクライマックスと呼ぶにふさわしい約9分にわたるオペラバラード「For Crying Out Loud」……全7曲/47分という程よい尺の長さも手伝い、濃厚な内容ながらもさらりと聴くことができるのも本作の良い点でしょう。

あえてアナログ2枚組の大作にせず、当時のアナログ盤のフォーマットに沿った45分前後のトータルランニングでコンパクトにまとまったのも功を奏し、一切中弛みすることなく楽しめ。かつ、捨て曲がまったく存在しないクオリティの高さと、歌や演奏における表現力の高さも相まって、完璧な1枚に仕上がった本作。発売から45年後の2022年に聴いてもまったく色褪せることなく、むしろこれを超える良作がほかにどれだけ存在するのか?と気になるほど。1993年の自分、聞いてるか?(苦笑)

2021年4月にジム・スタインマンがこの世を去り、これに続くかのように2022年1月21日(現地時間20日)にミートローフも亡くなったことが発表されました。近年は体調不良に悩まされ、ライブ中に何度か倒れることもあったそうですが、できることなら一度は『BAT OUT OF HELL』完全再現ライブを生で体験したかったものです。

改めて、故人のご冥福をお祈りいたします。

 


▼MEAT LOAF『BAT OUT OF HELL』
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2021年12月11日 (土)

THE MONKEES『THE MONKEES LIVE: THE MIKE & MICKY SHOW』(2020)

THE MONKEESのマイク・ネスミスが現地時間12月10日、78歳で亡くなりました。自分もYahoo!ニューズの公式コメンテーターとして、このニュースについてコメントを書かせていただいています(詳細はこちらの記事後半に掲載されているコメントより)。

THE MONKEESは自分が小学生低学年の頃、初めて能動的に触れた洋楽アーティストでした。もちろんきっかけは、当時再放送されていた『ザ・モンキーズ・ショー』を観て。TBSでの再放送だったか東京12チャンネル(現・テレビ東京)での再放送だったかの記憶は曖昧ですが、日本語吹き替えで小学生にも親しみやすかったシットコム形式の内容や、はっきりとキャラの違いが描かれていた4人の個性、そして胸躍るオープニングテーマや毎回後半に1曲紹介されるTHE MONKEESのヒット曲。これらが当時アニソンや戦隊モノ、歌謡曲しか知らなかった自分にはキラキラして見えて(聞こえて)、気づいたら日本独自企画のベストアルバムを小遣いを貯めて購入し、デイヴィ・ジョーンズにファンレター(当時通っていた学習塾の先生に、日本語で書いた手紙を英訳してもらい、それを見様見真似で清書した)を送ったりしたものでした。

僕にとって、能動的に聴き始めたという点において今の自分の音楽的原点となっているのが、その時期に触れたTHE MONKEESとYellow Magic Orchestra。どちらもかけがえのない、特別な存在なのです(YMOについては、また別の機会に)。

というわけで、マイク存命時最後のリリースとなったライブアルバムを紹介させてください。

本作は2020年4月3日にリリースされたアルバムで、ピーター・トーク死去(2019年2月)後最初の作品でした(日本盤未発売)。発売タイミングがちょうどコロナ禍に突入した最初の時期で、ロックダウンなどと重なったこともあり、僕自身リリースを知ったのはずいぶん後になってからでした。

本音源はピーター逝去後に行われたアメリカ公演(2019年3月および6月)で収録されたもの。タイトルどおり、マイク・ネスミスとミッキー・ドレンツの2人に大勢のサポートメンバーが加わることで、非常に豪華かつ聴きやすい形のアレンジで表現された名曲の数々は、オリジナル音源以上に新鮮に響きます。

ミッキーが歌う「Last Train To Clarksville」からスタートするというのも良いですし、かつミッキーの歌声が若い頃とさほど大きくイメージが違っていないことにも驚かされる。以降、ミッキーとマイクのリード歌唱曲が交互に披露されたり、ときに一緒に歌ったりと、極上のパワーポップチューン/カントリーポップナンバーが次々に繰り出されていきます。知っている曲も2人のボーカルで表現されることで新鮮に響き、若干新曲に触れているような錯覚にも陥ります。いやあ、いい曲多いな、本当に。

どの曲も2〜3分程度のコンパクトさということもあり、全25曲で78分というトータルランニングもそれほど疲れることなく楽しめるもの。いわゆるグレイテストヒッツ的な内容/作品とは異なるものの、THE MONKEESというバンドが最後の最後まで現役として生きた記録として、非常に大きな意味のある1枚ではないでしょうか。

なお、THE MONKEESは今年11月14日にフェアウェルツアーを終えたばかり。そこから1ヶ月経たずしてマイクはこの世を去ったわけですが、もしかしたらそのツアーの模様もいずれ何らかの形で発表されるかもしれません。が、今はこの最新ライブアルバムを聴いて、THE MONKEESの功績を讃えたいと思います。

 


▼THE MONKEES『THE MONKEES LIVE: THE MIKE & MICKY SHOW』
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2021年7月29日 (木)

SLIPKNOT『ANTENNAS TO HELL』(2012)

2012年7月23日(UK/USは24日)にリリースされたSLIPKNOT初のグレイテストヒッツアルバム。日本盤は同年7月25日発売。

2010年5月にポール・グレイ(B)が急逝するものの、バンドは初期メンバーのドニー・スティール(G)をサポートベーシストとして迎え、2011年夏の『Sonisphere Festival』からライブ活動を再開。2012年8月には主催イベント『Knotfest』を初開催し、その健在ぶりを証明することになります。

時系列的に考えると、このベストアルバムは『Knotfest』初開催にあわせて制作されたといっても過言ではありません。ポールを欠いたバンドが次に進む上でのインターバルを考えても、『ALL HOPE IS GONE』(2008年)に続くオリジナルアルバムをすぐに制作するよりは、ここでコンピ盤を出してひと区切りつけるというのは、バンドを長く続けていく上でも必要不可欠なトピックになるでしょうし。

また、これは結果論ですが、ジョーイ・ジョーディソンも2013年にバンドを脱退することを考えると、続くオリジナルアルバム『.5: THE GRAY CHAPTER』(2014年)の前に本作を出しておくことは必須だったのかなと。メンバーチェンジによる変化がどうしても生じてしまいますし、結果やっぱり出してよかったんでしょうね。

さて、内容に関してですが、特に目新しさはありません。シングルとして既発だった「My Plague」のリミックスバージョン(映画『バイオハザード』サントラ収録)や「Vermilion」のテリー・デイトによるリミックスがアルバム初収録になったほか、ライブ映像作品『DISASTERPIECES』収録の「The Heretic Anthem」「Purity」が音源化されたことくらいが大きなトピックで、ここでしか聴くことができない未発表曲などは皆無。つまり、オリジナルアルバムをすべて持っている人には無用な産物と言えるのかもしれません。

しかし、そんなコアリスナーにとってスルーできないのが本作のデラックスエディション。2CD+DVD仕様で発表され本作、CDのDISC 2には2009年の『Download Festival』でのヘッドライナー公演がほぼ完全収録されているのです。同ライブの映像は2010年発売の2枚組映像作品『(sic)nesses』に完全収録されているものの、完全音源化はこれが初めて。ポール&ジョーイを含む編成の記録としても、またSLIPKNOTデビューから10年の節目を飾るタイミングの集大成としても、このライブはファン必聴の内容。映像のみならず、音源として所持しておきたいアイテムのひとつです。

また、特典DVDは『THE COMPLETE MUSIC VIDEOS』と称して「Spit It Out」から「Snuff」までのMV(別バージョン含む)と、「People = Shit」「Psychosocial」などのライブ映像を総括。こちらもファンならば手に入れておきたい代物ではないでしょうか。

『IOWA』(2001年)や『ALL HOPE IS GONE』の10周年デラックスエディションにもリリース当時の貴重な音源で構成されたライブアルバムが付属していますが、それはそれ。『9.0: LIVE』(2005年)を聴いたあとに手にするべきライブ関連のアイテムとしては、実は本作のデラックスエディションではないかと筆者は断言しておきます。

最後に。ジョーイ・ジョーディソンのご冥福をお祈りいたします。

 


▼SLIPKNOT『ANTENNAS TO HELL』
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SLIPKNOT『9.0: LIVE』(2005)

2005年11月1日にリリースされたSLIPKNOTのライブアルバム。日本盤は同年11月2日発売。

ライブ映像作品やオリジナルアルバムのデラックス盤付属CDでのライブ音源発表は数あれど、SLIPKNOTの正式なライブアルバムは今のところ本作のみ。3rdアルバム『VOL.3 : (THE SUBLIMINAL VERSES)』(2004年)リリース後に行われたワールドツアー(2004〜5年)からベストテイクを集めたもので、収録地が異なる音源をひとつのショウのような形で並べた構成となっています。

バンドとしても最初の不和を乗り越えて完成させた『VOL.3 : (THE SUBLIMINAL VERSES)』とあって、勢いや荒削りさよりも安定感の強い演奏(およびそういったプレイが求められる楽曲)を楽しめる作品かなと。実際、アルバム同様にライブのオープニングを飾る「The Blister Exists」や「Before I Forget」「Vermilion」「Pulse Of The Maggots」など、スピードよりも重さやグルーヴを重視した楽曲が前作『IOWA』(2001年)以上に増えたことで、のちの“らしさ”をほぼ確立させていますし。そういった意味でも、SLIPKNOT最初の集大成を示す作品がこのライブアルバムなのかなと思います。

ポール・グレイ(B)&ジョーイ・ジョーディソン(Dr)を含むデビュー時からの黄金期ラインナップによるライブ音源が残されたという点においても、本作は非常に大きな意味を持つのではないでしょうか。特にこのアルバムにはジョーイのドラムソロも含まれていますし。終盤の「The Heretic Anthem」をはじめとした怒涛の展開(特に「Duality」「Spit It Out」「People = Shit」の流れ)は今聴いても本当にシビレるものがあり、映像がなくてもアガリっぱなしですよ。

SLIPKNOTというと視覚的側面でのエンタメ性(メンバーのヴィジュアル、ライブにおける演出など)を取り沙汰される機会が多いですが、こうやって音源のみで表現されることで彼らのライブ力/演奏力の高さを改めて実感することができるはずです。

現在では初期4作(およびポール&ジョーイ在籍時)を総括するグレイテスト・ヒッツ『ANTENNAS TO HELL』(2012年)が存在するのでアレですが、初期はこのライブアルバムがベスト盤的役割を果たしてくれました。そういった意味でも、個人的には重要な作品だったりします。YouTubeの普及やスマホによるライブ撮影の一般化、さらに映像作品が安価で入手できるようになった今、ライブアルバムにどれだけの価値があるのか正直わかりませんが、それでもコンピレーションアルバム以上に好きなんですよね、ライブアルバム。むしろ、ライブアルバムを1枚も作っていないロックバンドは信用できないというか。本作はそんな自分の思いにしっかり応えてくれる、大切な1枚です。

 


▼SLIPKNOT『9.0: LIVE』
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2021年7月28日 (水)

METAL CHURCH『CLASSIC LIVE』(2017)

2017年4月28日にリリースされたMETAL CHURCHのライブアルバム。本作の日本盤単品リリースは現在まで実現しておらず、代わりに最新オリジナルアルバム『DAMNED IF YOU DO』(2018年)デラックス盤にボーナスディスクとして付属。

本作は2016年に発表したマイク・ハウ(Vo)復帰作『XI』を携えたツアーにて披露された、1stアルバム『METAL CHURCH』(1984年)から5thアルバム『HANGING IN THE BALANCE』(1993年)までの楽曲からセレクトした9曲に、3rdアルバム『BLESSING IN DISGUISE』(1989年)収録の「Fake Healer」再録バージョン(ゲストボーカルにQUEENSRYCHEのトッド・ラ・トゥーレが参加)を加えた10曲で構成。まさに“CLASSIC”の名に相応しい内容となっています。

内訳的には下記のとおり。

1st『METAL CHURCH』(1984年):M-1
2nd『THE DARK』(1986年):M-5、M-6
3rd『BLESSING IN DISGUISE』(1989年)M-8、10
4th『THE HUMAN FACTOR』(1991年):M-2、4、9
5th『HANGING IN THE BALANCE』(1993年):M-3、7

『THE HUMAN FACTOR』からの楽曲が最も多く、『BLESSING IN DISGUISE』からのライブテイクが「Badlands」のみというのが不満っちゃあ不満ですが、マイク加入前の『THE DARK』から「Watch The Children Pray」「Start The Fire」のマイク歌唱バージョンを楽しめるとう点ではお得感が強いかなと。せっかくならもっと曲数を増やしてほしかったな、と思うのですが、当時のツアーでは旧曲をこれくらいしかやっていなかった可能性も大なので、まあ仕方ないのかな。ほかにも良い曲、たくさんあるんですけどね。

今のMETAL CHURCHの姿をライブ音源を通じて体験するというよりは、過去の名曲群を今のライブサウンドで聴くというくらいのスタンスなのかな。さすがにイマドキ、CDにライブ音源9曲+ボートラでスタジオ再録1曲はモノ足りなさすぎますよ。

そういう意味では『DAMNED IF YOU DO』のレビューにも書いたように、『DAMNED IF YOU DO』のオマケ程度でこのライブベストを楽しむのがもっとも正しい聴き方なのかな?という気も。あとは、2019年8月の25年ぶり再来日公演の余韻を味わったり、同ライブに行けなかったことを悔しがりながら聴くのもアリかと(笑)。

……なんてこと言って、実はそのライブがマイク・ハウ在籍時最後の来日になるとは、当時は思いもしませんでしたが……。

マイク・ハウの冥福をお祈りいたします。

 


▼METAL CHURCH『CLASSIC LIVE』
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METAL CHURCH『HANGING IN THE BALANCE』(1993)

1993年10月7日にリリースされたMETAL CHURCHの5thアルバム。日本盤は同年8月21日に先行発売。

Epic Records移籍第1弾アルバム『THE HUMAN FACTOR』(1991年)が前々作『BLESSING IN DISGUISE』(1989年)同様に高評価を獲得したものの、湾岸戦争勃発の影響によるワールドツアー短縮、および不景気からくるレーベル内淘汰によりアルバム1枚で契約打ち切りとなってしまったMETAL CHURCH。そんな苦境にもめげず、新たにジョーン・ジェット運営のBlackhearts Recordsと契約(アメリカと日本のみ。ヨーロッパではSPV / Steamhammer Recordsと契約)し、2年半ぶりの新作を完成させます。

アートワークの酷さに聴く前から引き気味になるリスナーも少なくないでしょうが、中身は前作の延長線上にある王道パワーメタルの良作。インディーズ落ちによる予算削減も影響してか、音質はあまり良くないのですが、その生々しいサウンドがミドルヘヴィナンバーには不思議と合っているような気がします。

重めのミドルナンバーと疾走感の強い楽曲が交互に並ぶ序盤の構成は、過去2作のスラッシュメタルの影響下にある作風とは異なるものが感じられ、特にジェリー・カントレル(G/ALICE IN CHAINS)がリードギターで参加したオープニング曲「Gods Of Second Chance」や、BメロがJUDAS PRIEST的なアップチューン「Losers In The Game」(この2曲のタイトルの素晴らしさよ)、前作を経たことで生まれたシャッフル調のヘヴィチューン「Hypnotized」、当時のツアーでオープニングを飾った「No Friend Of Mine」、いかにも彼ららしいヘヴィバラード「Waiting For A Savior」という前半の流れは完璧に近いものがあります。

後半もBUDGIE「Breadfan」を彷彿とさせるイントロの「Conductor」から始まり、アメリカ人目線で原爆について歌われた「Little Boy」(コーラスでジョーン・ジェットもゲスト参加)、ザクザク刻むギターリフが気持ち良い「Down To The River」、緩急に富んだアコースティックギターの使い方が絶品な「End Of The Age」、終盤に向けての小休止的インスト「Lovers And Madmen」を経て突入するパワフルなミドルチューン「A Subtle War」という構成で締め括り。特に後半は7〜8分台の長尺曲「Little Boy」「End Of The Age」で魅せる構築美にうっとり。その合間に入るアップチューンがそれぞれタイプが異なることと相まって、前作とは異なる色彩美で聴き手を魅了します。

マイク・ハウ(Vo)のボーカルも良好ですし、これでレコーディング環境やミックスにもっとお金をかけていたら最強のメタルアルバムになっていたはずだし、彼らも解散という道を選ばずに済んだのでは……もちろん、今となってはの話ですが。

本作を携えたワールドツアーを2年にわたり続けたMETAL CHURCHでしたが、1996年にバンドは解散の道を選択。マイク・ハウは音楽業界を引退することとなるのでした(その19年後、マイクはMETAL CHURCH復帰とともに業界にカムバック)。

 


▼METAL CHURCH『HANGING IN THE BALANCE』
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2021年7月 6日 (火)

SKID ROW『RISE OF THE DAMNATION ARMY - UNITED WORLD REBELLION: CHAPTER TWO』(2014)

2014年8月5日にリリースされたSKID ROWのEP。日本盤未発売。

前作『UNITED WORLD REBELLION: CHAPTER ONE』(2013年)に次ぐ本作は、三部作の第2弾。参加メンバーは前作同様にジョニー・ソーリンガー(Vo)、デイヴ・スネイク・セイボ(G)、スコッティ・ヒル(G)、レイチェル・ボラン(B)、ロブ・ハマースミス(Dr)の5人。

内容も前作から引き続き、オリジナル5曲+カバー2曲の全7曲で構成されています。前作で先祖返りしてリスナーを驚かせた彼らですが、前の1枚をデビュー作『SKID ROW』(1989年)寄りのテイストと無理矢理括るならば、続く今作は2ndアルバム『SLAVE TO THE GRIND』(1991年)寄りのテイストで統一されているかな、という衣装を受けます。良くも悪くも『SKID ROW』の路線を焼き直した楽曲が散見されたものの、個人的にはご祝儀的に高評価を与えた前作を経て、ここでは『SLAVE TO THE GRIND』のテイストを用いているものの、より今の5人らしさが強く滲み出ているかな、という気もしています。

前作にあったメジャーキーのパワーバラードは皆無で、唯一「Catch Your Fall」がそっち寄りの1曲。ただ、ここでは『SLAVE TO THE GRIND』に収録されていそうなダークサイドを表現しており、かつ単なる焼き直しで終わらないオリジナリティも伝わってくる。

かと思えば、「Slave To The Grind」の“腹違いの弟”的なファストチューン「Damnation Army」があったり、地を這うようにダーク&ヘヴィな「Zero Day」がある。後者のみギリギリ3rdアルバム『SUBHUMAN RACE』(1995年)的かなという気がしますが、全体を通して聴いたときの統一感もあって、スルスルと楽しめてしまう。本来彼らが4thアルバム『THICKSKIN』(2003年)でやろうとしていたことの一端ってこういうことだと思うんですが、ようやくここであの路線が消化できたんじゃないでしょうか。10年かかったか……(苦笑)。

カバー曲はQUEEN「Sheer Heart Attack」、AEROSMITH「Rats In The Cellar」とド直球なセレクト。どちらもアップテンポの軽やかなハードロックですが、むしろこの2曲って前のEPに入れるべきだったんじゃないかな。で、前のEPに収めていたE・Z・O「Fire Fire」やJUDAS PRIEST「United」がこっちに入っていると収まりがよかったような気がするんですが……難しいものですね。

本EP発売前の2014年4月には19年ぶりの来日公演も実現。三部作完結編の登場を期待されていたところ、2015年春にジョニーが脱退。以降、トニー・ハーネル(TNT)やZPサート(ex. DRAGONFORCE)がフロントに立っていますが、噂される三部作完結編となるフルアルバムはいまだ届けられず。そして、2021年6月末にジョニーの病死がアナウンスされました……。

実は昨日からの更新は、この訃報を受けて「このタイミングにフラットな視点で、ジョニー在籍時のSKID ROWを総括しよう」と思ったことがきっかけでした。2014年の来日時は仕事の都合などもあり足を運ぶことができませんでしたが、本当にあのとき無理してでも観ておけばよかったな……と今回振り返ってみて改めて実感しました。

ZPサートを含む布陣で三部作をしっかり完結させてくれるのか、それとも別の方向へと進むのか。なんにせよ、今のSKID ROWから目を逸らすことなく、しっかり行く末を見届けようと思います。

最後に、ジョニー・ソーリンガーの冥福をお祈りいたします。

 


▼SKID ROW『RISE OF THE DAMNATION ARMY - UNITED WORLD REBELLION: CHAPTER TWO』
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