JEFF BECK『YOU HAD IT COMING』(2000)
2000年11月15日にリリースされた、ジェフ・ベック名義での8thアルバム。
前作『WHO ELSE!』(1999年)でドラムンベースなどモダンなテクノサウンドをフィーチャーしたバクトラックと、常に進化を続ける先鋭的なギタープレイで我々を驚かせたベック。僕自身、『GUITAR SHOP』(1989年)以降は彼の新作に積極的に触れてきたわけではなかったのですが、この『WHO ELSE!』で得た衝撃は何ものにも変え難いものがありました。当時通っていたクラブでも「What Mama Said」や「Psycho Sam」のような楽曲が流れると、めちゃめちゃアガりましたからね。
そんな『WHO ELSE!』から2年立たずに届けられた『YOU HAD IT COMING』は、前作の方向性をさらに推し進めたもの。新たなプロデューサーとしてアンディ・ライト(SIMPLY RED、SIMPLE MINDS、EURYTHMICSなど)を迎え、ジェニファー・バトン(G)やランディ・ホープ-テイラー(B)、スティーヴ・アレクザンダー(Dr)といった前作参加メンバーのほか、エイデン・ラヴ(Programming)やイモージェン・ヒープ(Vo)も参加。長きにわたりタッグを組んできたトニー・ハイムス(Key)はスケジュールの都合で参加できなかったようですが、“鉄は熱いうちに打て”じゃないですけど、ベックがノっているタイミングに好きなだけ作れる環境で強行した結果がこの良作誕生につながったんだから、結果オーライだと思います。
前作およびそのツアーではベック自身が信頼を置くジェニファー・バトンのプレイが大々的にフィーチャーされていましたが、それは本作でも同様。オープニングを飾るドラムンベース調の「Earthquake」はそのジェニファーが単独で作曲を手がけた楽曲ですからね。そのジェニファーのテクニカル&アグレッシヴなプレイも随所に散りばめられており、ベック自身もそれに触発されたかのように若々しくてエネルギッシュ、だけど要所要所に年齢相応の枯れた味付けも感じられ、前作以上に聴き応えのある内容に仕上がっています。
また、前作は完全インストゥルメンタル作品だったのに対し、本作では「Dirty Mind」やブルースの名曲「Rollin' And Tumblin'」といった歌モノも用意。このテクノ路線で定番の「Rollin' And Tumblin'」を取り上げるセンスにも唸らせられるものがあります。常に時代の先を読みつつも、決してルーツは忘れない。だからこそ、僕自身この人のことをここまで信頼できたんだと思います。
僕自身は“テクノロジー3部作”と勝手に呼んでいる『WHO ELSE!』から『JEFF』(2003年)までの一連の流れの中で、実はもっともコンパクトでバランス感に優れた傑作がこの2作目『YOU HAD IT COMING』じゃないかなと思っております。「Left Hook」での暴れっぷりとか、今聴いても圧倒的ですしね。
▼JEFF BECK『YOU HAD IT COMING』
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