RIP SLYME『TOKYO CLASSIC』(2002)
誤解を恐れずに言うならば、俺はヒップホップと呼ばれるジャンルがそれ程好きでもない。あ、嫌いって意味じゃないですよ? ただ、例えば自分が好きなパワーポップだったりハードロックやガレージサウンド‥‥そういったものと比べた場合、どうしても一歩二歩自分の中では退いたポジションにいるジャンル。それが自分にとってのヒップホップなんですよ。
けどね、「ヒップホップ的なもの」は好きなんですよ。この微妙な線引きをどこまで理解してくれるかは読み手次第なんですけど‥‥リアルでコアなヒップホップに対しては苦手意識があっても、例えばロックにヒップホップ的要素を取り入れたもの、ファンクにヒップホップ的要素を取り入れたもの、ポップミュージックにヒップホップ的要素を取り入れたもの‥‥そういったものの方が自分的には受け入れやすいんですね。
で、今回取り上げるRIP SLYME。今月に入って取り上げてきたアルバム群と比べれば明らかに異色なわけですが、これも全然自分的には「あり」なんですよ。むしろモロ直球っていうか。例えば‥‥固有名詞を挙げるのは避けますが‥‥一般的なヒップホップと比べればRIP SLYMEというのは非常にポップで、もしかしたらそういったヒップホップを愛聴するファンからは「あんなのヒップホップじゃねぇよ!」と軽蔑されてるのかもしれません。
けどね、俺はそれでいいと思ってるんですよ。何故RIP SLYMEがここまで大ヒットしたか。それは彼等の楽曲がポップだったから。ヒットチャート上に乗っても、全然違和感のないポップソングだったからなんですよ。
と、当たり前のことを書いてみましたが‥‥とはいいながらも、実は未だに彼等のことを「ヒップホップだから」という理由だけで毛嫌いするロック/ポップフィールドのリスナーが多いという事実。今回はこの辺のリスナーに向けて書いていこうかと思ってます。勿論、彼等のことが気になりつつも敬遠してきた人も読んで今後の参考にしてみてください。
前作「5」も十分にポップで親しみやすいアルバムだったけど、このアルバム「TOKYO CLASSIC」はそれとは比べものにならない程更にポップなんですわ。勿論、基本にあるのはヒップホップでありラップだったりするんですが、今回はそこからも逸脱しようとする意志が強く表れています。ま、その基本となるのが大ヒットシングル3枚‥‥"One"、"FUNKASTIC"、そして"楽園ベイベー"なんですね。彼等の根底にある「普遍的なポップ要素」を端的に表した"One"、生バンド&ブラス隊を取り入れたファンクチューン"FUNKASTIC"、そしてボサノバテイストで脳天気さ満点のサマーソング"楽園ベイベー"。もうね、これだけで十分なんですよ。前作ではまだヒップホップ的「型」に拘ったところが多々見受けられたんですが(勿論、遊び心も十分でしたが)、今作では当然従来の色を持った"By the Way"や"Tokyo Classic"のような曲もあるんですが、やはりメインとなるのは先のシングル曲であり、それに匹敵する各MCのソロナンバーの多彩さなんですよ。特にROLLING STONESもカバーしたマディ・ウォーターズの"MANNISH BOY"を独自の解釈でカバーしたRYO-Z(しかもここではラップすらせず、普通のブルーズマンの如く唄っている!)、ラップというよりは昨今のR&Bダンスチューンと呼べるPESによる"STAND PLAY"、ILMARIによるダニー・ハザウェイやマーヴィン・ゲイ的フィーリングを持ったソウルチューン"Bring your style(夜の森)"、そして最もヒップヒップに拘ったSUによる"スーマンシップDEモッコリ"‥‥それぞれのキャラクターと声を生かした4曲。4人の声ってのはそれぞれホントに魅力的で、韻の踏み方もタメもメロのなぞり方も全く別々の個性を持ってるんですね。で、個々のソロナンバーもよく出来た楽曲なんですが、やっぱりこのユニットはこの4つの全く違った声が重なることによって生まれる「ポップ感」が命なんだな、とこのアルバムで再確認することが出来ると思うんですよ。そういう意味ではホントに考えて作られてるように感じます。そういう意図がなかったとしても、それぞれのソロナンバーを入れた結果、より4人揃った時の魅力が増して感じられるように自然と構成されてるし。
海外ではRAGE AGAINST THE MACHINEやLIMP BIZKIT、あるいはBEASTIE BOYSやEMINEMによって、ここ日本ではDRAGON ASHによって、ヒップホップ側とロック/ポップサイドがどんどん接近し、いい意味で互いが互いのいい部分を取り入れることによって、ロックファンに優しいヒップホップ、あるいはヒップホップファンに優しいロック/ポップスが生まれ、互いのジャンルがよりクロスオーバーし、「見えない壁」は以前程感じられなくなったように思います。何十年もヒップホップ一筋でやってきた人達、あるいはそのファンからすればこういう存在というのは疎ましいものなのかもしれません。でもね、ひとつのジャンルがずっと同じままを保ちつつ生きながらえるってことは少ないわけですよ。ブルーズがロックンロールを生んだように、ファンクやR&Bがヒップホップを生んだように‥‥そのヒップホップだって生まれて早20年以上。どんどんいろんなものを吸収して、また吐き出して更に進化していくと思うんですね。そういった意味で、DRAGON ASH的なロックフィールドからヒップホップ的要素を取り入れたものもあるだろうし、ヒップホップをよりポップなものとして、完全にポップスとして機能してしまうようなものだってあってもいいし。勿論、好き嫌いはあるでしょうけど、俺はむしろこういう変化を好意的に受け入れていきたいと思います。
とかいいながら、実は俺、RIP SLYMEのアルバムをあんまりヒップホップと認識して聴いてはないんですよね。むしろモーニング娘。のダンス☆マン・ナンバーと同じようなファンクソング、あるいはファンク的ポップソングとして聴いてる節があるんですが。そういう意味ではやはりRIP SLYMEも「ヒップホップ的なもの」だから好きなのかもね。
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