RUN D.M.C.『RAISING HELL』(1986)
1986年5月27日にリリースされたRUN D.M.C.の3rdアルバム。
80年代半ば、いわゆるMTV世代のポップスリスナーにとって初めて接したヒップホップがRUN D.M.C.かBEASTIE BOYSだった、という現在40代後〜50代前半の方は少なくないと思います。RUN D.M.C.の「Walk This Way」とBEASTIE BOYS「(You Gotta) Fight For Your Right (To Party!)」はともにBillboard Hot 100にてトップ10入りするほどのヒットになり、かつ2曲ともロック/ハードロックをベースにしたトラックなのでライト層の入り口としても効果的でした。当の僕もRUN D.M.C.の「Walk This Way」が初めて本格的に接するヒップホップとなり、続くBEASTIE BOYSの1stアルバム『LICENSED TO ILL』(1986年)とこの『RAISING HELL』がヒップホップの入り口になったのですから。
当時すでにAEROSMITHが大好きだった僕は、「Walk This Way」のカバーに本家(スティーヴン・タイラーとジョー・ペリー)が参加したMVをVHSテープに録画して、何度もリピートし。気づいたらレンタルレコード店でこのアルバムを借りていました。しかし、まだまだヒップホップ/ラップというものが斬新すぎた自分は、「Walk This Way」や「It's Tricky」「Raising Hell」といったギターが入ったトラックばかりを再生して、アルバム自体はそこまで深く聴き込んでいなかった記憶があります。サンプリング文化なんてものはまだまだ自分には未知の世界だったので、「It's Tricky」がTHE KNACK「My Sharona」のギターリフをサンプリングしているなんて気づいていませんでしたし、アルバム冒頭を飾る「Peter Piper」の元ネタがボブ・ジェームズ「Take Me To Mardi Gras」だと知るのも、そこから10数年以上経ってからでした。
1986年12月だったかな。RUN D.M.C.の初来日公演があって(確かNHKホールだった記憶が)、なぜかチケットを購入して行った記憶も。METALLICAに続いて人生二度目の外タレがRUN D.M.C.。なぜ行ったか? そりゃAEROSMITH目当てでしょうが(来るはずないのに)。このアルバムを聴くと、そんな淡い中学生時代の思い出がよみがえります。
本作の本当の魅力に気づいたのは、たぶん20代になってから。ラップやヒップホップがヒットチャートを賑わし、洋楽リスナーの中では当たり前のように定着して以降だったかな。幼い頃はギターの入った曲にしか興味を示さなかった自分が、ビート(音色や鳴りの違い)やスクラッチの気持ち良さに気づき、その流れでラップの気持ちよさにたどり着く。そうなると、冒頭の「Peter Piper」からすでに気持ちよく、シームレスに続く曲構成や低音の鳴りの心地よさ、音数が少ないからこそのカッコよさにどんどんハマっていくわけです。
今もそこまで真剣にヒップホップを聴き漁っているわけではないですし、自分にフィットするものに手を出して聴く程度のリスナーですが、そんな僕でも本作は初期ヒップホップの入り口、教科書として非常によくできた名作だと理解しています。深夜にヘッドフォンで、大音量で聴く気持ち良さといったら。ねえ?
にしても、先の「Walk This Way」はもちろんですが、「It's Tricky」や「You Be Illin'」といった曲が全米トップ100に入っていた80年代半ばって、本当に面白い時代だったなと。そんな時代を多感な10代半ばに過ごせたのは、今も音楽と触れる上で大きな財産だと思っています。
……と、今回は急に思い出話に花咲かせてみました。たまにはこういうのもね。
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