カテゴリー「Scorpions」の19件の記事

2022年3月 3日 (木)

SCORPIONS『HUMANITY: HOUR I』(2007)

ヨーロッパで2007年5月14日、北米では同年8月28日にリリースされたSCORPIONSの16thアルバム。日本盤は『蠍団の警鐘 - ヒューマニティー:アワーI』の邦題で、同年6月20日発売。

前作『UNBREAKABLE』(2004年)でHR/HM路線へと回帰したものの、チャート的には成功したとは言い難かったSCORPIONS(前々作『EYE II EYE』(1999年)から2作連続でBillboardアルバムチャートランク外)。しかし、さらにハード路線を極めた今作では全米63位と、『PURE INSTINCT』(1996年)の最高99位以来となる全米チャート入りを成し遂げます。

新たなプロデューサーとしてデスモンド・チャイルドBON JOVIAEROSMITHKISSなどとのコライトで有名)&ジェイムズ・マイケル(SIXX:A.M.のフロントマン。およびPAPA ROACH、HAMMERFALLなどのプロデューサー)を迎えた本作は、前作以上に往年の“らしさ”をメロディやアレンジに取り戻しつつ、モダンなヘヴィさも効果的に取り入れた意欲作。また、ビリー・コーガン(Vo/SMASHING PUMPKINS)が「The Cross」、エリック・バジリアン(G/THE HOOTERSなど)が「Love Will Keep Us Alive」、ジョン・5(G/ROB ZOMBIEなど)が「Hour I」にゲスト参加しているのも、このプロデューサーならではの人選かもしれません。

実は本作、バンドにとってキャリア初のコンセプトアルバム。デズモンド・チャイルドが大まかなストーリーを草案し、楽曲制作が進められたとのこと。ソングライターとしても著名な2人をプロデューサーに迎えたこともあり、彼らは作曲でも全面的に関与。それ以外にもマーティ・フレドリクセン、アンドレアス・カールソンなど人気のソングライターがコライトで名を連ねており、ある意味では外部のライターたちがバンドに“らしさ”を思い出させていると受け取ることもできるのではないでしょうか。その効果は非常に絶大で、80年代のSCORPIONSらしいメロディラインやアレンジを随所から見つけることができます。

一方で、前作から引き続きダウンチューニングを起用していることで、そのダークさが本作が持つヘヴィさを強めることに一役買っている。「The Game Of Life」や「You're Lovin' Me To Death」での程よいメロウ&ヘヴィさはその好例だと断言できます。

かと思えば、過去数作でトライしたビートルズQUEENの流れを汲む壮大なバラード「The Future Never Dies」があったり、グランジ以降のモダンヘヴィネスをなぜか2007年に取り入れた(笑)「321」もある。後半、バラードタイプの楽曲が立て続けに収録されており(「Love Will Keep Us Alive」「We Will Rise Again」「Your Last Song」「Love Is War」)、そこで若干萎えてしまいますが、ミドルパートでビリー・コーガンをフィーチャーしたメロウなヘヴィロック「The Cross」やグランジ寄りのリフワークが印象的なアンセムナンバー「Humanity」がラストに置かれているので、アルバムとしてもなんとなく締まる印象を受けます。

ヘヴィながらもソフトさもしっかり感じられるのは、全体を通してデヴィッド・キャンベルによるオーケストレーションが効果的にフィーチャーされているからでしょうか。ドラマチックなヘヴィロックという点ではSCORPIONSの全キャリア中、本作がもっともバランス感に優れているように感じます。バンドとしてもようやく過渡期を抜け出しそうな予感も伝わり、これが次作『STING IN THE TAIL』(2010年)での完全復活へとつながっていくと思うと、本作も非常に意味の大きな1枚ではないでしょうか。

 


▼SCORPIONS『HUMANITY: HOUR I』
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SCORPIONS『UNBREAKABLE』(2004)

2004年6月22日にリリースされたSCORPIONSの15tアルバム。日本盤は『反撃の蠍団』の邦題で、同年6月9日先行発売。

『PURE INSTINCT』(1996年)『EYE II EYE』(1999年)と2つの“問題作”をEast West Recordsから発表したのち、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団とのコラボアルバム『MOMENT OF GLORY』(2000年)をEMI Classicsから、アコースティック・ライブアルバム『ACOUSTICA』(2001年)をEast Westから立て続けにリリースしたSCORPIONS。ソフトサイドに振り切った作品が多数続いた中、バンドはついにHR/HM路線へと本格的に回帰します。

オリジナルアルバムとしては『EYE II EYE』から5年強と長いスパンを経て届けられた本作。ラルフ・リーカーマン(B)の脱退を経て、現在までバンドに所属するパウエル・マチヴォダ(B)が加入し、以降12年にわたり続く新体制が完成します(レコーディングでは一部バリー・スパークスなどがプレイ)。『PURE INSTINCT』以来となるアーウィン・ムスパー(CHICAGO、BON JOVIVAN HALENなど)との共同プロデュースで、80年代〜90年代初頭の路線を踏襲した“キャッチーなハードロック”アルバムを完成させます。

アルバム冒頭を飾るミドルチューン「New Generation」はギターリフこそヘヴィですが、メロディラインなどは90年代のポップ路線を踏襲するスタイル。続く「Love 'Em Or Leave 'Em」は従来の彼ららしい、憂いあるメロディラインの良曲ですが、全体的にダウンチューニングで録音されていることもあり、ここ数作と比べるとエッジが効いたテイストに感じられるかもしれません。

その後も「Deep And Dark」「Borderline」とミドルヘヴィ路線が続きますが、M-5「Blood Too Hot」でアップチューンが登場。ようやく往年のSCORPIONSらしさを取り戻した、そう思える1曲にホッとすることでしょう。しかし、M-6「Maybe I Maybe You」でのクラシックとのコラボを通過した叙情的なバラードで空気は一度変化。この流れに過剰にドラマチックなバラードはちょっと浮いているような気がするのですが、どうでしょうか。

アルバム後半は、これも従来の彼ららしいメロウなミドルナンバー「Someday Is Now」や「My City My Town」で再び空気を取り戻す。メロディ自体は『PURE INSTINCT』の流れを汲むポップさが備わっていますが、アレンジの硬質さがそれ以前の作風に回帰していることから、不思議と嫌味に感じられない。オープニング曲こそ多少蛇足に思えますが、それ以降の流れはそこまで悪いものではありません。

その後、これも中期の彼ららしいバラード寄りの「Through My Eyes」、メジャーキーのパワーロック「Can You Feel It」、ミドルヘヴィの「This Time」と似通ったテンポ感の楽曲が続き、ラストはバラード「She Said」と軽やかなロックンロール「Remember The Good Times (Retro Garage Mix)」で締めくくり。全体を通して従来の“らしさ”を意識しすぎたのか、過去2作よりも王道のSCORPIONS節を楽しめるものの、楽曲のクオリティは“問題作”と言われた2作には及ばないかな。そこだけが残念。

再びHR/HM路線へと立ち返ったものの、まだまだ手探り状態。バンドが本当の意味で“らしさ”を取り戻すには、もうちょっと時間がかかりそうです。

 


▼SCORPIONS『UNBREAKABLE』
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2022年3月 2日 (水)

SCORPIONS『VIRGIN KILLER』(1976)

1976年秋に発表されたSCORPIONSの4thアルバム。日本では『狂熱の蠍団〜ヴァージン・キラー』の邦題で知られる1枚です。

当時のメンバーはクラウス・マイネ(Vo)、ルドルフ・シェンカー(G)、ウリ・ジョン・ロート(G, Vo)、フランシス・ブッフホルツ(B)、ルディ・レナーズ(Dr)。前作『IN TRANCE』(1975年)を携えた初のイギリス公演も成功を収め、本国・西ドイツ(当時)以外にも確実にその名を広め始めたタイミングに、その人気を決定づける1枚を完成させます。

アルバムのオープニングナンバー「Pictured Life」は、哀愁味を帯びたマイナートーンのメロディライン含め、初期の彼らを代表する1曲。初期の彼らのスタイルがひとつ完成したと言っても過言ではないでしょう。かと思えば、「Catch Your Train」「Virgin Killer」のように爆発力の強い疾走チューンもこの時期の彼らの特徴的な楽曲で、特に後者はガナるようなクライス・マイネの歌唱スタイルと相まってどことなくパンキッシュさも伝わってきます。

かと思えば、ブルージーなミディアムスローナンバー「In Your Park」、LED ZEPPELIN的なスタイルの「Backstage Queen」といった70年代的な楽曲も存在。そしてなにより、ウリがボーカルを担当する「Hell-Cat」や「Polar Nights」の存在。これが非常に大きい。特に前者の放つ独特の空気感は今のSCORPIONSには存在しないもので、ウリが影響を受けたジミ・ヘンドリクス色が濃厚。その個性的なギタープレイ含め、最初に耳にしたときはなかなか受け付けがたかったですが、今となっては良いアクセントとして受け止めています。

そのほか、クラウスの伸びやかな歌声とブルージーなウリのギタープレイが絶妙なハーモニーを生み出す「Crying Days」や「Yellow Raven」といったスローナンバーも聴きどころのひとつ。マティアス・ヤプス(G)以降のポップ路線には存在しない、アダルトな香りはこの編成ならでは。この時期のほうが好きという初期にこだわるファンが少なくない理由も、わからないでもありません。それくらい唯一無二の空気感が、ここには存在するのですから。

初期SCORPIONSの大まかなスタイルはこのアルバムでほぼ完成。続く『TAKEN BY FORCE』(1977年)がダメ押しとなり、翌1978年春にはついに初来日公演まで実現し、かの名ライブアルバム『TOKYO TAPES』(1978年)へとつながっていくのでした。

にしても本作、その内容以上に初期のアートワークのほうが話題になりすぎて、正当な評価が下しにくくなっているような気がしてなりません。今所持していたら児ポにひっかかりそうなあのジャケット、以前CDで所持していたものの、ある時期を境に手放したことを付け加えておきます。さすがにあれが今突然目の前に現れたら、気が気じゃないですものね(苦笑)。

 


▼SCORPIONS『VIRGIN KILLER』
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SCORPIONS『EYE II EYE』(1999)

1999年3月9日にリリースされたSCORPIONSの14thアルバム。日本盤は同年4月21日発売。

前作『PURE INSTINCT』(1996年)完成後に新ドラマーとしてジェイムズ・コタック(Dr)が加入し、新たな体制でレコーディングに臨んだ約3年ぶりの新作。ヨーロッパや日本では引き続きEast West RecordsなどWarner系からのリリースでしたが、アメリカのみインディーズのKoch Recordsからの発売となりました。

新たなプロデューサーにオーストリア出身のピーター・ウルフ(CHICAGO、STARSHIP、HEARTなど)を迎えた本作は、ポップサイドに振り切った前作以上の異色作/問題作。オープニングを飾る「Mysterious」の、コンピューターによる同期(シーケンサーサウンド)を多用したアレンジに度肝を抜かれ、続く「To Be No. 1」もブラックコンテンポラリーからの影響が強いテクノポップ風アレンジに、多くのファンが“コレジャナイ”感を覚えたことでしょう。

もちろん、従来の彼ららしいバラード「Obsession」なども用意されているのですが、それすらも同期サウンドが用いられており、さらにはQUEEN風の多重録音コーラスなども付け加えられている。バンド結成から25年以上を経て、さらにはロックバンドとして次のフェーズへと向かおうとする貪欲さは素晴らしいと思うのですが、バンドが目指すものとファンが求めるものの乖離が大きすぎ、最初は面食らうのではないでしょうか。

しかし、楽曲自体のクオリティは非常に高く(これも前作同様)、超一流のロック/ポップスとして通用するものばかり。先に挙げたアルバム冒頭の3曲(「Mysterious」「To Be No. 1」「Obsession」)は過去のSCORPIONSと比較さえしなければ、この時代にリリースされた楽曲群の中でもトップクラスの仕上がりだと断言できます。

それに、「Mind Like A Tree」や「Yellow Butterfly」みたいなヘヴィなナンバーもしっかり用意されているし、レゲエタッチの「Eye To Eye」もHR/HMではないものの悪くない。とはいえ、ドイツ語で歌われる「Du bist so schmutzig」のグルーヴィーさは当時流行したニューメタルやラップメタルへ迎合したみたいな仕上がりで、悪くはないんだけどどうかと思いますよ(ちなみにこの曲、ジェイムズ・コタックもボーカルで参加しています)。

彼ら自身がクラブミュージック愛好家であったり普段からクラブに出入りしているならまだしも、このアレンジは確実にプロデューサー自身のテイストなわけで、そこに取って付けた感を覚えてしまう。そういった意味では非常に勿体ない1枚なんですよね。これも前作同様、BGMとして流しっぱなしにしておけば楽しめる良作ではありますが、いざ「SCORPIONSを聴くぞ!」というマインドで接するにはちょっと酷な迷作かも。90年代初頭の「Wind Of Change」での世界的成功を経て、バンドが“らしさ”をもう一度掴み取るまでの迷走期ならではの1枚ではないでしょうか。

なお、本作は一時期Spotifyで国内配信もされていましたが、現在は日本のストリーミングサービスでは聴くことができません。50年のキャリア中もっとも問題となったWarner時代の2作品も、7年ぶり新作『ROCK BELIEVER』(2022年)リリースのこのタイミングにしっかり聴けるようにしてもらいたいものです。だって、楽曲自体は良い出来なんですから。

 


▼SCORPIONS『EYE II EYE』
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SCORPIONS『PURE INSTINCT』(1996)

1996年5月21日にリリースされたSCORPIONSの13thアルバム。日本盤は『ピュア・インスティンクト〜蠍の本能』の邦題で、同年5月20日発売。

ラルフ・リーカーマン(B)を新メンバーに迎え制作した前作『FACE THE HEAT』(1993年)から2年8ヶ月ぶりの新作。その間にはスタジオ新曲を含む通算3作目のライブアルバム『LIVE BITES』(1995年)のリリースもありましたが、同作発売直前には70年代からのメンバーであるハーマン・ラレベル(Dr)が脱退と、90年代に入ってからメンバーチェンジが続くことになります。

さらに、この時期にバンドはレーベルとマネジメントも一新。長きにわたり在籍したVertigo RecordsからAtlantic Recrods(北米のみ)およびEast West Records(それ以外)へと移籍し、アーウィン・ムスパー(CHICAGO、BON JOVIVAN HALENなど)とキース・オルセン(WHITESNAKEEUROPEHEARTなど)を共同プロデューサーに迎え新作を完成させます。

アルバム完成後に新メンバーとしてジェイムズ・コタック(Dr/ex. KINGDOM COME、ex. WARRANTなど)が加入しますが、レコーディングにはセッションドラマーのカート・クレスが参加。全体的な作風は『CRAZY WORLD』(1990年)の延長線上にあるポップロック/バラード中心のソフトな内容となっています。

バグパイプをフィーチャーしたオープニング曲「Wild Child」こそ王道のハードロック感が伝わりますが、3曲目にして早くもバラード「Does Anyone Know」が登場。その後もM-7「When You Came Into My Life」、M-9「Time Will Call Your Name」、M-10「You And I」、M-11「Are You The One?」とバラードタイプの楽曲が全11曲中5曲と約半数を占める結果に。

また、M-2「But The Best For You」はメロウなロックチューンながらも、ラテン調のアコギをフィーチャー。M-4「Stone In My Shoe」は爽快感の強いメジャーキーのポップロック、M-5「Soul Behind The Face」やM-8「Where The River Flows」は穏やかなトーンのAORナンバーと、全体を通じてHR/HM色を抑えたテイストでまとめられています。時代に呼応したハードエッジな作風だった前作『FACE THE HEAT』からの反動といえばそれまでですが、SCORPIONSにハードロックを求める層には若干厳しい内容と言わざるを得ません。

ですが、1曲1曲のクオリティの高さは問答無用なだけに、駄作と切り捨てることもできない。「Wind Of Change」路線を求めるライト層にはリーチする良作ではあるものの、コアなHR/HMリスナーには“軽すぎる”1枚ではないでしょうか。

たまに聴くと本当に良いアルバムだなと思うし、何か作業をしている横で流しっぱなしにする分には文句なしの良アルバム。聴くタイミングや気分を選ぶ1枚かもしれませんね。

なお、本作は2022年3月現在、日本のみならず海外でもストリーミング未配信。このタイミングにぜひとも解禁していただきたいものです。

 


▼SCORPIONS『PURE INSTINCT』
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2022年3月 1日 (火)

SCORPIONS『ROCK BELIEVER』(2022)

2022年2月25日(イギリスのみ22日)にリリースされたSCORPIONSの19thアルバム。

前作『RETURN TO FOREVER』(2015年)から約7年ぶりという、過去最長スパンを経て届けられた新作。もっとも、その間にはバンド結成50周年を記念した過去作のリイシュー企画や、新曲を含むバラード中心のコンピレーションアルバム『BORN TO TOUCH YOUR FEELINGS: BEST OF ROCK BALLADS』(2017年)のリリースもあり、さらには長期にわたるワールドツアーもありました。実際、バンドはツアー終了後の2018年から次作の準備を始めていたそうで、当初はプロデューサーにグレッグ・フィデルマン(METALLICASLIPKNOTSLAYERなど)を迎えLAにてレコーディングを行う予定だったとのこと。しかし、ご存じのとおり2020年以降のコロナ禍が影響し、そのプランは頓挫することになります。

結果として、バンドは主要メンバーのクラウス・マイネ(Vo)、ルドルフ・シェンカー(G)、マティアス・ヤプス(G)が生活する地元・ドイツのハノーファーにてレコーディングに着手。移動制限が緩和されてから、ポーランド在住のパウエル・マチヴォダ(B)、スウェーデン在住のミッキー・ディー(Dr)が合流し、ポップス畑出身のハンス=マーティン・バフとの共同プロデュースによる1年がかりのレコーディングが完了します。

MOTÖRHEADでの活動を経て加入したミッキー・ディーの初参加オリジナルアルバムにして、『UNBREAKABLE』(2004年)以降長きにわたり在籍したSony MusicからUniversal系のVertigo Recordsへの復帰第1弾作品となる本作。ちょうどデビューアルバム『LONESOME CROW』(1972年2月発売)からまる50年という節目に届けられることもあってか、その内容は原点回帰的であると同時に50年の集大成ともいえる内容に仕上がっています。

楽曲の作風的には前2作(『STING IN THE TAIL』(2010年)と『RETURN TO FOREVER』)ほど80年代の大ブレイク期に寄せたものではなく、もうちょっとオールドスタイルで70年代の諸作品へと接近したテイストかな。序盤2曲「Gas In The Tank」「Roots In My Blood」が珍しくアップチューン続きというのも、大ブレイク後のそれとは明らかに異なりますし、抜けの良いメジャーキーのアンセムナンバー「Rock Believer」も良い意味で“バタ臭さ”が抜けている。かと思えば、「Is There Anybody There?」にも匹敵するレゲエタッチの「Shining Of Your Soul」もあり、バラエティ豊かさでいえば近作イチではないでしょうか。

また、ミドルテンポ中心だった直近の2作と比べると、先の冒頭2曲以外にも「Hot And Cold」や「When I Lay My Bones To Rest」「Peacemaker」といったアップテンポの楽曲が多数用意されている。さらに、全11曲(ボーナストラック除く)中バラードが本編ラストの「When You Know (Where You Come From)」のみという潔さ。このアルバムタイトル含め真の意味で原点=ロックに回帰し、それでいて過去のさまざまな片鱗が随所に散りばめられている、そんなSCORPIONSの強い意志が伝わる力作ではないでしょうか。

確かにルドルフ・シェンカーのカミソリリフはここには存在しませんし、安定感あふれる大人のロックサウンドからはエッジが効いた往年のバンドサウンドを見つけることもできない。クラウス・マイネもすでに73歳ということで音域的にも衰えを感じずにはいられない。それでも彼らはロックを信じて〈I'm a Rock Believer Like You〉という一節にすべての思いを詰め込んだ(この一節、アルバムパッケージの“ある場所”でも見つけることができるくらい重要なものなのです)。過去は過去として、今をありのままに生きようとするその姿を、このリアルな音から感じ取り、しっかり楽しみたいと思います。

なお、本作は全11曲入りの通常盤に加え、ボーナストラック5曲を追加したデラックスエディションも用意。海外盤は本編とボーナストラックを分けたCD2枚組仕様となっていますが、日本盤はすべて1枚のディスクにまとめられています。さらに、日本盤にはかつての「Big City Nights」のように日本での思い出を綴った新曲「Out Go The Lights」も追加収録(UK盤には別に「Hammersmith」、フランス盤には「Language Of The Heart」を用意)。基本的には「When You Know (Where You Come From)」で一度締めくくって、ちょっと余韻を楽しんでから「Shoot For Your Heart」以降のボートラを楽しむのがベストかな。

もはや刺激を求めるような存在ではないものの、王道感の強さは随一。これぞSCORPIONSという名作をとくとご堪能あれ。

 


▼SCORPIONS『ROCK BELIEVER』
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SCORPIONS『SAVAGE AMUSEMENT』(1988)

1988年4月18日にリリースされたSCORPIOSの10thアルバム。日本盤は同年5月25日発売。

キャリア2作目のライブアルバム『WORLD WIDE LIVE』(1985年)を挟み、前作『LOVE AT FIRST STING』(1984年)から約4年ぶりに発表されたスタジオアルバム。前作が全米6位(セールス300万枚超え)を記録、さらに「Rock You Like A Hurricane」(全米25位)、「Still Loving You」(同64位)というヒットシングルも生まれ、アメリカでの本格的大成功を収めたことで、続く今作もさらに北米向けのサウンドメイキングが進むことになります。

プロデュース&ミックスは3作目『IN TRANCE』(1975年)から引き続きディーター・ダークス(ACCEPTTWISTED SISTER、BLACK 'N BLUEなど)が担当しているものの、一部楽曲(シングルカットされた「Rhythm Of Love」「Believe In Love」ではマイク・シプリー(DEF LEPPARDTHE CARSCHEAP TRICKなど)がミックスを手がけています。音の質感的には前作の延長線上にある、アメリカでのヒットを意識したビッグプロダクションなのですが、本作ではその傾向がさらに激化。中でもゲートリバーブを強めにかけた独特のドラムサウンドが特徴的で、古くからのファンには賛否分かれるものがあるのではないでしょうか。

楽曲の方向性も前作までに存在した湿り気の強いメロディの楽曲が減退し、ドラマチックで派手なスタイルを特化させたものが複数存在。序盤4曲(Don't Stop At The Top」「Rhythm Of Love」「Passion Rules The Game」「Media Overkill」)でのミドルテンポを中心とした作風も、明らかに前作での「Rock You Like A Hurricane」のヒットを受けてという印象が強い。また、「Media Overkill」ではトーキングモジュレーター(マウスワウ)を用いたギタープレイも採用されており、このへんは直近の大ヒット曲であるBON JOVI「Livin' On A Prayer」の二番煎じも否めない。良くも悪くもアメリカでのヒットに振り回された作風というのが、本作の評価かもしれません。

また、本作は全9曲中バラードが2曲(「Walking On The Edge」「Believe In Love」)というバランス感も特徴的で、前者はマイナーキーを用いた従来の路線に近いもので、後者はメジャーキーのパワーバラードといった印象。シングルカットもされた「Believe In Love」は明らかにアメリカ向けに書かれたものではあるものの、ここでの経験が次作『CRAZY WORLD』(1990年)での「Wind Of Change」につながったと考えると、興味深いものがあるのではないでしょうか。

そんな賛否両論ある本作ですが、アルバム後半には「We Let It Rock... You Let It Rol」や「Love On The Run」といった攻撃的なメタルチューンも用意されており、中でも「Love On The Run」の疾走感は今聴いてもたまらないカッコよさがあります。ここに「We Let It Rock... You Let It Rol」と「Love On The Run」の中間にあるロックンロール調のアップチューンがもうひとつ用意され、かつ曲順をさらに吟味していればさらに良い作品として受け入れられていたのでないか……と思うのですが、いかがでしょう?

個人的にはリアルタイムで初めて触れたSCORPIONSの新作がこれなので、内容はともかく思い入れは一際強い作品かもしれません(『LOVE AT FIRST STING』はちょっとだけ後追いだったので)。実際、当時は「Rhythm Of Love」を筆頭にアルバム冒頭の3曲はかなりリピートした記憶がありますしね。

なお、本作の現行盤(バンド結成50周年を記念して2015年に制作されたバージョン)には本作制作時のアウトテイク(すべてデモ音源)が複数用意されているほか、チャリティアルバム『STAIRWAY TO HEAVEN / HIGHWAY TO HELL』(1989年)およびバンドのコンピレーションアルバム『BEST OF ROCKERS 'N' BALLADS』(1989年)のために制作されたTHE WHOのカバー「I Can't Explain」が追加収録されています。このカバーでブルース・フェアバーン(BON JOVI、AEROSMITHAC/DCなど)と初共演しており、これが続く『CRAZY WORLD』への布石となり、90年代へと向けた新たなステップにつながっていくわけです。

 


▼SCORPIONS『SAVAGE AMUSEMENT』
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SCORPIONS『RETURN TO FOREVER』(2015)

2015年2月20日にリリースされたSCORPIONSの18thアルバム。日本盤は『祝杯の蠍団〜リターン・トゥ・フォエヴァー』の邦題で、同年3月4日発売。

オリジナルバムとしては『STING IN THE TAIL』(2010年)から約5年ぶり、スタジオ新録作品としてはカバーアルバム『COMEBLACK』(2011年)から3年4ヶ月ぶりの新作。プロデューサーは『STING IN THE TAIL』、『COMEBLACK』から引き続き、ミカエル・ノルド・アンダーソン&マーティン・ハンセン(THE RASMUSなど)が担当しています。

レコーディグメンバーはクラウス・マイネ(Vo)、ルドルフ・シェンカー(G)、マティアス・ヤプス(G)、パウエル・マチヴォダ(B)ジェイムズ・コタック(Dr)の5人。2016年秋にジェイムズが脱退し、元MOTÖRHEADのミッキー・ディー(Dr)に交代するので、14thアルバム『UNBREAKABLE』(2004年)から続いた布陣はここで一旦終了することになります。

作風的には完全復活を遂げた前作『STING IN THE TAIL』の延長線上にある、80年代〜90年代初頭の彼ららしさに満ち溢れた楽曲が並びます。それもそのはずで、本作には80〜90年代にライティングされたもののお蔵入りとなっていたアウトテイクを流用したものが多く含まれているから。例えば、ブギー調の「Rock My Car」の原曲は80年年代半ば、「House Of Cards」は90年代末、「Catch Your Luck And Play」は80年代後半、「Hard Rockin' The Place」は80年代初頭と、それぞれ原曲を書いた時期はまちまち。しかし、その時期ならではの空気感が多少なりとも残されており、その結果全体を覆う空気感が80年代半ばから後半にかけてのHR/HM一大ブームの頃を彷彿とさせる、非常にゴージャスなものとしてまとめ上げられているのです。

そんな中、本作のために新たに制作されたオープニングトラック「Going Out With A Bang」やリードシングル「We Built This House」は『STING IN THE TAIL』からの空気を引き継ぎつつ、しっかりと往年のSCORPIONS節を踏襲した良質なハードロックチューン。なんとなくですが、過去のアウトテイクを総決算しながら、それに見合うようなテイストの楽曲をあえて用意したようにも映ります。しかし、それこそが我々リスナーがバンドに求めるSCORPIONS像でもあるわけで、この試みは見事に成功したのではないでしょうか。

ただ、全12曲(ボーナストラック除く)中バラードが3曲(「House Of Cards」「Eye Of The Storm」「Gypsy Life」)と比較的多めなのが玉に瑕。これもファンが求めるSCORPIONS像ではあるものの、せいぜい2曲程度に抑えてもらえたら尚よかったのにと思わずにはいられません。その点を除けば、本作は完璧な1枚なんですけどね。

極端な例えですが、前作が“21世紀の『LOVE AT FIRST STING』(1984年)だとしたら今作は“21世紀の『SAVAGE AMUSEMENT』(1988年)かな、という印象。わかる人ならわかってもらえるのではないでしょうか。

なお、本作はボーナストラックも豊富に用意されており、それらはデラックスエディションや配信バージョンなどを通じて耳にすることができます。この中には『SAVAGE AMUSEMENT』期のアウトテイクとして制作された「Dancing With The Moonligh」も収録。実はこの曲、「Dancing In The Moonligh」というタイトルのデモテイクが『SAVAGE AMUSEMENT』現行盤に収録されているので、ぜひ聴き比べてみることをオススメします。

 


▼SCORPIONS『RETURN TO FOREVER』
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2022年1月13日 (木)

SCORPIONS『BLACKOUT』(1982)

1982年3月29日にリリースされたSCORPIONSの8thアルバム。日本盤は当時、『蠍魔宮〜ブラックアウト』という邦題で発売されました(蠍魔宮て)。

前作『ANIMAL MAGNETISM』(1980年)発売がちょうどイギリスでのNWOBHM(=New Wave Of British Heavy Metal)ムーブメント拡散期と重なったことで、RAINBOWJUDAS PRIESTらとともに人気を集め、その勢いのまま彼らは本格的にアメリカ進出。今作リリースがUSメタルブーム勃発期だったこともあり、同作は全米10位という大成功を収めます。本作のヒットが、続く『LOVE AT FIRST STING』(1984年)の爆発的ヒットにつながるわけですね。

バンドの代表作のひとつとして知られる本作ですが、ヘアメタルなどのキャッチーさが強まった『LOVE AT FIRST STING』路線のベースが今作の時点ですで完成していることに気付かされるかと思います。アグレッシヴさを強めた疾走チューン「Blackout」や「Now!」「Dynamite」あたりはNWOBHMムーブメントから受けた影響が表れた仕上がりですが、続く「Can't Live Without You」や「Arizona」でのポップさは以降の彼らの作品にも反映されていくことになるし、70年代から備えてきた憂いを満ちたマイナーキーの「No One Like You」や「You Give Me All I Need」もバンドの大きな武器として作用している。次作以降は後者のポップサイドが強調されていくことになるので、今作はSCORPIONSのヘヴィメタルサイドが強めに表出した初期〜中期最後の1枚と言えるかもしれません。

ギタリスト2人のコンビネーション/チームワークはメタルバンドとして最高潮を迎えており、ルドルフ・シェンカー(G)のリフワークが冴えまくっている点や、ウリ・ジョン・ロート(G)の後任として加入したマティアス・ヤプス(G)のソロワークにおける存在感の強さがより増していることは本作の聴きどころのひとつではないでしょうか。もちろん、クラウス・マイネ(Vo)のボーカルも絶頂期と呼ぶにふさわしいものですし、ゲンザイはバンドを離れているフランシス・ブッホルツ(B)&ハーマン・ラレベル(Dr)のリズム隊から生まれる躍動感も次作以降にはあまり感じられないものが含まれているわけですからね。

かつ、先に触れたポップサイド/メロウサイドの充実や、終盤に置かれたミドルヘヴィの「China White」や泣きのバラード「When The Smoke Is Going Down」含め、続く次作での“完璧な作品至上主義”へと到達する前の“ライブバンド然とした存在感”は80年代初頭というタイミングならではのもの。“80年代のSCORPIONS”のパブリックイメージが完成の域に達しつつあるという点でも、実は本作は『LOVE AT FIRST STING』以上に(バンドにとっても、HR/HMシーンにとっても)重要な1枚ではないでしょうか。

国内サブスクリプションでは、つい最近まで5thアルバム『TAKEN BY FORCE』(1977年)から10thアルバム『SAVAGE AMUSEMENT』(1988年)までのバンド充実期の名作たちが未配信でしたが、2021年12月に突然カタログに加わったことを確認。これも2022年2月22日にリリース予定の7年ぶり新作『ROCK FOREVER』へ向けての施策なんでしょうか。だとしたら、こうして代表作の数々が手軽に楽しめるようになった今回の配慮は非常にうれしい限りです。

 


▼SCORPIONS『BLACKOUT』
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2021年2月 2日 (火)

MICHAEL SCHENKER GROUP『IMMORTAL』(2021)

2021年1月29日にリリースされた、MICHAEL SCHENKER GROUP名義での11thアルバム。前作がゲイリー・バーデン(Vo)と組んだ『IN THE MIDST OF BEAUTY』(2008年)とのことなので、約13年ぶりということになります。といっても、マイケル・シェンカー(G)自身は現在MICHAEL SCHENKER FESTとしても活動しているので、そこから数えると『REVELATION』(2019年)から1年4ヶ月ぶりの新作。ここ数年、かなりハイペースで制作していますね。

さてさて。MSG名義としては1980年のデビューから約40年、シェンカー自身も音楽活動を開始してから50年という節目のタイミングということもあって、今回はMSG名義での制作となったようですね。ところが、いざ蓋を開けてみるとあまりMSGである意味が感じられないというか……ぶっちゃけ、MICHAEL SCHENKER FESTとの差別化をあまり意識していないんじゃないか、という印象を受けます。

それもそのはず、アルバム自体複数のボーカリスト、バンドメンバーと制作しているんですから。過去のMSGのように固定メンバーでアルバムまるまる1枚作るという発想は、もはやシェンカーの中には存在しないのではないでしょうか。

歌い手に関してはTEMPLE OF ROCKでタッグを組んだマイケル・ヴォスやFEST参加のロニー・ロメロといったおなじみの面々に加え、ラルフ・シーパース(PRIMAL FEAR、ex. GAMMA RAY)、ジョー・リン・ターナー(ex. RAINBOWなど)という過去にはありえなかった人選。さらにSCORPIONS「In Search Of Peace Of Mind」のセルフカバーにはロニーのほかゲイリー・バーデン、ドゥギー・ホワイト、ロビン・マッコーリーという過去バンドに携わった/現在FESTにも名を連ねるオールスターズが勢揃い。ゲイリー・バーデンをメインに使わないのは良しとして(笑)、彼とはFESTで活動を共にしているからあえてMSGからは外したってことなんですかね。だとしても、それはMSGなのかって話ですが。

演奏陣もバリー・スパークス(B)、サイモン・フィリップス(Dr)、ボド・ショプフ(Dr)、ブライアン・ティッシー(Dr)、スティーヴ・マン(Key)、デレク・シェリニアン(Key)という興味深いメンツが参加。デレクは意外なところですね。ちなみに、サイモンは先のSCORPIONSのセルフカバーのみ参加です。

サウンドや楽曲の質感自体は、先にも書いたようにFEST寄りの80年代後半以降の正統派HR/HM。キラキラした質感やモダンなテイストは、初期MSGのそれとは結びつかないものばかりですが、だからといって楽曲自体が優れていないわけではなく、どれも非常によく作り込まれたHR/HMチューンばかり。そういう楽曲なもんだから、ラルフがあのメタリックな高音で歌えばそれっぽく仕上がるし、ジョーが歌えば彼が参加した過去のバンドっぽくも聴こえる。だけど、楽曲の軸やギタープレイ自体はシェンカーそのもので、ドキッとさせられたり惹きつけられたりするポイントは思った以上にたくさんありました。

そんな中、後半に入り「The Queen Of Thorns And Roses」や「Come On Over」あたりからは初期のMSGっぽさ(後者はMICHAEL SCHENKER GROPというよりはMcAULEY SCHENKER GROUPっぽいかもしれませんが)も表出している。で、そういう楽曲をマイケル・ヴォスやロニー・ロメロという安心安定のシンガーが歌うというのも非常に腑に落ちるという。あと、ジョーが歌う「Sangria Morte」もMSGとRAINBOWの中間ぽくて好印象。リフワークやソロは完全にシェンカーそのものですが。

結局ね、聴く前は「なんでこれをMSG名義でやるかなあ」と貶そうくらいの気持ちでいたんですが、最初に聴き終えたときに満喫しまくっている自分に気づいたんです。ああ、いいアルバムだなあって。そういうことなんです。名前や枠やガワなんて今のシェンカーにはどうでもよくて、中身こそがすべてなんだと。本当にいいHR/HMアルバム、それで十分です。

 


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