STEVE JONES『MERCY』(1987)
1987年7月にリリースされたスティーヴ・ジョーンズの1stソロアルバム。
SEX PISTOLSのギタリストとして知られるスティーヴ・ジョーンズですが、バンド解散後はTHE PROFESSIONALSやCHEQUERED PASTといったバンド活動のほか、フィル・ライノット(THIN LIZZY)やイギー・ポップ、アンディ・テイラーと共演するなどして、音楽を続けてきました。そんな彼が1986年にMCA Recordsと単独契約。同年秋にはアメリカのテレビドラマ『特捜刑事マイアミ・バイス』の挿入歌として初のソロ楽曲「Mercy」を、同じく1986年11月公開(日本では1988年6月公開)の映画『サムシング・ワイルド』に「With You Or Without You」を提供するなどして、ソロキャリアを重ねていきます。
同2曲を含む初のソロアルバム、プロデュースを手がけるのはスティーヴ自身とボブ・ローズ(マイケル・デ・バレス、ジュリアン・レノンなど)、ポール・ラニ(MEGADETH、ENUFF Z'NUFF、SANCTUARYなど)という面々。ギターやベースに加え、スティーヴ自身がボーカルを担当しており、ドラムはブライアン・アダムスとの活動で知られるミッキー・カリーと名手ジム・ケルトナー、キーボードはボブ・ローズが担っています。
ピストルズでの重厚感の強いギターサウンド、直近のイギー・ポップ『BLAH-BLAH-BLAH』(1986年)やアンディ・テイラー『THUNDER』(1987年)で聴かせたワイルドなギタープレイをイメージして本作に触れると、その地味な作風に驚くのではないでしょうか。豪快なハードロックやパンクロックはここには皆無で、終始穏やかなトーンで展開されるミディアロックの数々は、クスリ抜けして真人間になったスティーヴがそのまま反映されたかのような仕上がりです(「Drugs Suck」なんてタイトルの曲まで収録されるくらいですからね)。
抜けの良いシンセ&ドラムとギターが比較的抑えめというミックスに、1987年という時代性を感じずにはいられません。スティーヴの中低音中心のボーカルのせいもあり、個人的にはチャーリー・セクストンのデビューアルバム『PICTURES FOR PLEASURE』(1985年)と似た印象を受けるのですが、年齢的なこともありチャーリーのほうがみずみずしく華やかさが勝っており、じゃあこのスティーヴのソロアルバムの魅力はどこかと問われると……純粋に曲の良さなのかな、と。
メロディメイカーとしては(自身の声域を考慮したこともあってか)飛び抜けた個性は感じられないものの、不思議と聴いていて心地よい曲ばかり。ラストのスタンダードナンバー「Love Letters」のカバーまで全10曲、大きな山場や高揚感を迎えることなく終了するものの、なぜか嫌いになれない1枚なんですよ。
スティーヴが心の平穏を取り戻すため、リハビリがてら取り掛かった本作は続く2ndアルバム『FIRE AND GASOLINE』(1989年)で本領発揮するための、プレ・ソロデビュー作なのかもしれません。ホント、傑作ハードロックアルバム『FIRE AND GASOLINE』と比べると対照的な内容ですからね。
このアルバムと『FIRE AND GASOLINE』、しばらく廃盤状態でしたが2019年初頭にRock Candyから再発。昨年にはサブスクでも無事解禁されております。
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