COREY TAYLOR『CMFT』(2020)
2020年10月2日にリリースされたコリィ・テイラー(SLIPKNOT、STONE SOUR)の1stソロアルバム。
メインバンドであるSLIPKNOTとSTONE SOURはどちらかの活動がひと段落している間に片方が動くという形でしたが、SLIPKNOTが『WE ARE NOT YOUR KIND』(2019年)に伴う活動が(コロナの影響もあって早めに)落ち着いたタイミングに、コリィはSTONE SOURとしての活動に移行するのではなく初めてのソロ名義でのアルバム作りに挑むことになります(STONE SOURとしては2017年のオリジナルアルバム『HYDROGRAD』と、それに伴うツアーの模様を収めた2019年のライブアルバム『HELLO, YOU BASTARDS: LIVE IN RENO』を持ってしばらく小休止に入るようです)。
アルバムはコリィと、STONE SOURの作品でも共作しているジェイ・ラストンの共同プロデュース。レコーディングにはSTONE SOURのメンバーでもあるクリスチャン・マルトゥッチ(G)、俳優でもあるザック・ストーン(G)、2011年にSTONE SOURのライブにサポート参加した経験を持つジェイソン・クリストファー(B/ex. PRONG、ex. MINISTRY、ex. セバスチャン・バックなど)、ダスティン・ロバート(Dr)という布陣が参加し、STONE SOURよりもレイドバックしたオーソドックスなハードロックを展開しています。
コリィが歌っている時点でSTONE SOURとの共通点はいくらでも見つけられますが、とりわけ本作では80年代の王道アメリカンハードロックにスポットを当てたような、どこか懐かしさが感じられるキャッチーな楽曲が多数用意されています。「Samantha's Gone」なんてヘアメタルチックなメジャーキーの楽曲ですし、「Kansas」あたりもレイドバックしたヘアメタル的なポップ感が強まっている。かと思えば、「Meine Lux」の歌い出しの〈1, 2, 1, 2, 3, 4!〉はブルース・スプリングスティーン的だし楽曲自体はVAN HALEN以降のハードブギーだし、アコースティックギターを軸にしたブルージーなバラード「Silverfish」のような楽曲もしっかり用意されています。
かと思えば後半でに入ると、「Culture Head」では全体的には80年代的な香りがするけどオルタナ感を髣髴とさせるリフは90年代的で、「Everybody Dies On My Birthday」もグランジ以降の作風に80's風メロディを乗せた印象を受ける。思いっきり肩の力が抜けた「The Maria Fire」はSTONE SOURでは体験できなかったテイストで、続くピアノバラード「Home」もソロアルバムならではの試み。そんな中、ヒップホップアーティストのテック・ナインとキッド・ブーキーをフィーチャーしたラップメタル調の「CMFT Must Be Stopped」は唯一SLIPKNOTの匂いを感じさせる(あくまでボーカルスタイルのみ。楽曲自体はアリーナ/スタジアムロック風)。で、最後の最後にハードコアパンク・スタイルのファストナンバー「European Tour Bus Bathroom Song」で締めくくり。いやあ、やりたい放題だな(笑)。
アルバムとしてはひとつの音楽スタイルを軸に持って構築されていくようなものとは異なり、ソロアルバムならではの“とっ散らかり感”が強い作風ですが、コリィ・テイラーという才能が特定のバンド2つの中だけでは表現しきれなかった個がここで余すところなく発揮されていると考えれば、非常に納得のいく内容ではないでしょうか。巨大になりすぎた2つのモダンメタルバンドのフロントマンが、いろんな意味でガス抜きを行なった結果がこれなら、今後アルバムを重ねるごとにもっと違った側面も見えてくるかもしれない。例えば、今回みたいに自身のルーツを見せるのではなく、今夢中になっている“HR/HM以外の”音楽を表現するとか。むしろそっちのほうが気になったりして。
改めて、コリィ・テイラーが歌えば(それがHR/HMの範疇にあれば)どんな楽曲でも“コリィ・テイラーの曲”になる。それだけ強烈な個性を持つシンガーなんだってことを再確認させてくれる、彼のキャリアにおける重要作のひとつだと断言できます。
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