SOFT BALLET『EARTH BORN』(1989)
2002年夏に奇跡的復活を果たしたSOFT BALLET。その彼等のデビューアルバムがこの「EARTH BORN」。リリースは1989年だから、今から14年前ってことになりますか。ある意味、あの時点でこんなアルバムを作っていたってことが驚きというか、改めて聴いてみてもメッチャ新鮮なんですよね、このアルバム。
所謂エレポップだったりテクノポップの延長線上にある作風で、例えばDEPECHE MODEであったりULTRAVOXといったUKバンドを彷彿させる、優雅さと緻密さを持ち合わせたサウンド作り/曲作りが印象的で、一歩間違うと当時主流だったTM NETWORK辺りのラインに行ってしまいそうにもなるんですが、最終的にああいう形にならなかったのは最初からコンセプトがしっかりしていた点と、遠藤遼一という個性的なシンガー、そして他の二人(森岡賢と藤井麻輝)の強烈な個性‥‥こういった濃い要素が当時日本に蔓延していた他のエレポップ/ダンス・ユニットと一線を画していたわけです。ゴス的な要素が強いのもこのユニットの強力な個性だしね。
バックトラックは完全に打ち込み主体で、基本的にはシンセも全てプログラミングによるものでしょう。そこに所々生楽器(アコースティックピアノであったり、エレキ&亜コーステックギターであったり)が挿入される。非常に人工的で機械的な印象が強いんですが、何故かボーカルまでは機械的になりきれない。所々人工処理されたボーカルパートもあるんですが、基本的には熱っぽい遠藤のボーカルが全体を覆っている。このバランス感こそがSOFT BALLETがSOFT BALLETである所以なのかもしれませんね(そしてそういった均等を完全に解体したのが、後々連発するリミックスワークなのかな、と)。
もうこのアルバムはオープニングの "BODY TO BODY" が全てなんですね‥‥っていうのは少々言い過ぎでしょうか。とにかくそれくらい、この曲のインパクトが強いのね。当然ながらこの俺も、リアルタイムでこの曲を聴いて衝撃を受けたひとりだからさぁ、やっぱりねぇ。ビジュアル要素のインパクトも相当でしたが、曲自体は実は非常にしっかりと作られた、ポップでメロディアスなナンバーばかりなんですよね、このアルバム。歌メロだけ取ったら普通のポップソングとして通用するものばかりだし。けど、バックトラックは非常にマニアックなんですよね。まぁマニアックとはいっても、実はこのアルバムのサウンドが一番一般受けしやすい、判りやすいサウンドなんじゃないかな、と今となっては思うわけですが。後にどんどんマニアックな方向へと突き進んでいきますからね、このユニットは。まぁそれは「売れることを拒否」した結果なのではなくて、単純に作家陣(森岡と藤井)の音楽家としての成長を意味するものなんですけどね。
エレポップ的なものって、実は'80年代前半にかなり流行っていて、そういう意味では'89年という時代(当時はバンドブーム真っ盛り)にこの音/スタイルで勝負するということは、かなりリスキーだったはずなんですよ。しかもかなりダークだし。ところがこのユニットはそういったマイナス要素を逆手にとって、最大に武器にしてしまった。よりそういった面を増長させて、唯一無二の存在へと上り詰めるわけです。そういう意味では「早すぎたバンド」なのかもしれませんね。実際、彼等が最初の活動休止を宣言した頃、世の中は第二次バンドブームといえる「ビジュアル系」ブームだったわけですから。SOFT BALLETのようなユニットもそのルーツのひとつとして挙げられることも多いようですしね。
そうそう、このアルバムを聴いていると、ふと同じような方向を目指していた海外のバンドを思い出します‥‥そう、NINE INCH NAILS。ほぼ同時期に誕生したといっていいこの2組。意外なほど共通点が多いような気が‥‥まぁSOFT BALLETが3人で役割分担してることを、トレント・レズナーは全部ひとりでこなしてしまっていたわけですが。
改めて聴いてみて、本当にカッコイイと思いますよ。多少時代の流れを感じさせるサウンドがなきにしもあらずですが、十分通用すると思うし。"BORDER DAYS" とか "EARTH BORN" とか今聴いてもイケてると思うしね。復活後の彼等も好きですが、やはり思い入れでは初期の3枚なんですよね‥‥。
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