STEELHEART『TANGLED IN REINS』(1992)
1992年6月16日(9日説も)にリリースされたSTEELHEARTの2ndアルバム。日本盤は同年6月21日発売。
全米40位まで上昇し、「I'll Never Let You Go」(全米23位)や「She's Gone」(同59位)のシングルヒットも生み出したデビューアルバム『STEELHEART』(1990年)から2年ぶりの新作。プロデューサーにトム・ワーマン(MOTLEY CRUE、POISON、L.A. GUNSなど)を迎えて制作された、前作以上に気合の入った1枚。
特にここ日本では泣きのパワーバラード「She's Gone」での、マイク(現ミレンコ)・マティアヴィッチ(Vo)の圧倒的なハイトーンボイスに注目が集まり、これ1曲の一発屋的のように見える彼らですが、この2作目のアルバムでは前作以上にバンド感を全面に打ち出した作風に。特にアメリカでは「She's Gone」よりも「I'll Never Let You Go」がヒットしたこともあり、「All Your Love」や「Mama Don't You Cry」といったバラード系ナンバーも「I'll Never Let You Go」の流れを汲むメジャーキーのアレンジが施されており、“第二の「She's Gone」”を期待した層には若干の肩透かしを与えたのではないでしょうか。
とはいえ、このアルバムにおいての聴きどころはそういったバラード以上に、リード曲としてMVも制作されたストレートでノリの良い「Sticky Side Up」やサイケデリックなミディアムヘヴィ「Electric Love Child」、グルーヴィーなリズムを持つ「Love 'Em And I'm Gone」のようなハードロックナンバー。オープニングを飾る「Loaded Mutha」を筆頭に、マイクの存在感の強いボーカルを全面に打ち出しつつも、ノリの良い演奏でグイグイ引っ張るバンドアンサンブルでしっかりと聴き手を楽しませてくれます。
そんな中、本作最大の注目曲が後半を配置。それがバンド名を冠した圧巻のファストチューン「Steelheart」。序盤、左右に振られたマイクのボーカルの聴きどころではありますが、最大の山場は1分10秒すぎに訪れるハイトーンパート(および後半5分前後に訪れるロングトーン)ではないでしょうか。前作では「She's Gone」というバラードでそのキーの高さを提示しましたが、やはりハードロックバンドは攻めの楽曲でそこをアピールしたいところ。そんなマイク(とバンドメンバー)の意地のようなものが見え隠れする1曲は、間違いなく本作におけるクライマックス。それがあるからこそ、続くピアノバラード「Mama Don't You Cry」がより映えるわけですから。
1stアルバムはアメリカンハードロックらしさも随所に散りばめられていたものの、ヨーロッパのバンド的空気もうっすら漂っていた印象もあり、だからこそ日本のリスナーにも十分に響いたのでしょう。しかし、今作では首尾一貫アメリカンハードロック&ヘアメタル的スタイルを誇示したことで、前作からのファンが離れたような印象もありました。個人的にはアルバム全体を通して聴いたとき、この2作目のほうが好みだったんですよね。それもあって、しばらく廃盤状態で日本ではストリーミング配信すらされていなかった本作は、忘れたころにCDを引っ張り出してリピートしていたものです。
ところが、2022年に入ってからここ日本でもストリーミング解禁、さらに1月26日にはユニバーサルミュージックが企画する『入手困難盤復活!! HR/HM VOL.4:北米編』の一環で、廉価盤として再発されることも決定。グランジ勃発後ということもあり、スルーされることの多いこの時期のB級HR/HMアルバムは少なくありませんが、全体的にもクオリティが高い本作はぜひこの機会に再注目していただきたい隠れた良作です。
▼STEELHEART『TANGLED IN REINS』
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