カテゴリー「Steve Vai」の13件の記事

2023年1月29日 (日)

STEVE VAI『VAI / GASH』(2023)

2023年1月27日にリリースされたステーヴィ・ヴァイの“VAI / GASH”名義による唯一のアルバム(スティーヴ・ヴァイとしては通算11作目)。日本盤は同年1月25日発売。

昨年1月発売の『INVIOLATE』 (2022年)から1年ぶりに発表された本作は、当初1991年頃に制作されていたものの、現在までお蔵入りとなっていた1枚。無名のシンガー、ジョニー・“ガッシュ”・ソンブロットとのコラボレーションから生まれた、ヴァイらしからぬバイカーズ・ロック作品です。

80年代後半以降、バイカー・カルチャーに惹かれるようになったヴァイでしたが、バイクに乗っているときに合う音楽を既存の作品から見つけることができず、「だったら自分で作ってやろう」と計画したのが本作。そんなタイミングにガッシュというミステリアスなシンガーと出会い、今回収録された8曲をレコーディングしたとのことです。本当は、自身の活動が落ち着いてからさらに追加レコーディングをしてリリースする予定だったそうですが、1998年9月にガッシュがバイク事故で急逝。そういった事情もあってここまでリリースが見合わせられていましたが、2021〜2年頃にヴァイ自身が本作についてコメントするようになり、近々リリースが実現することを匂わせていました。

さて、そんな本作ですが、確かにここ30年くらいのヴァイのイメージからはかけ離れた、爽快感の強いアメリカンロック(あるいはアメリカンハードロック)が展開されています。8曲中7曲がヴァイ単独で書かれたもので、M-7「New Generation」のみMOTLEY CRUEのニッキー・シックス(B)との共作。80年代から仲の良かった2人が、本作のレコーディング数年前に書いたものなんだとか。

確かに、バイク乗りっぽいイメージの強い豪快なロックチューンが満載で、ヴァイのプレイも奇抜さが抑え気味。ガッシュのワイルドなボーカルを活かしながら、ノリのよりリフワークやソロプレイを聴かせてくれます。そもそもヴァイ、80年代半ばはデヴィッド・リー・ロスとタッグを組んでいたわけで、こういったアメリカンロックと向き合うことにも違和感を感じさせないはずで、「Busted」や「Woman Fever」「She Saved My Life Tonight」あたりはデイヴに提供してもまったく違和感なく楽しめるようなテイストです。

かと思えば、「Let's Jam」はサミー・ヘイガーあたりが歌ったらぴったりな作風だし、ニッキーとの共作「New Generation」もどことなくヘアメタル/パーティロック的で、ヴィンス・ニールが歌っても行けそうな気がするし。本編ラストを飾るミディアムバラード「Flowers Of Fire」も、ここまで名前が挙がったアーティストやバンドがプレイしても全然行けてしまう印象がある。けど、ヴァイ的にはそうじゃないんでしょうね。そのへんはもう、本人の感覚がすべてなので僕がどうこう言ってもアレなんですが。

全8曲で約30分という昔ながらも尺ですが、もしガッシュが早逝しなかったらほかにどんな曲が生まれていなのかな。たらればを言い出したらきりがないですが、これはこれで潔いクールなロックアルバムだと思います。

 


▼STEVE VAI『VAI / GASH』
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2022年5月15日 (日)

WHITESNAKE『GREATEST HITS 2022 - REVISITED - REMIXED - REMASTERED -』(2022)

2022年5月6日にデジタルリリースされたWHITESNAKEのグレイテストヒッツアルバム。フィジカル(CDおよびアナログ盤)の海外でのリリースは6月17日、日本でのCD発売は6月21日を予定。

本作は5月10日からスタートしたWHITESNAKEの“フェアウェル・ツアー”に先駆け発表された、いわゆる“黄金期”(=Geffen Records所属期)の楽曲をまとめたコンピレーションアルバム。もともと1994年に同タイトルおよび同企画のベスト盤が発表済みですが、今回はその収録内容を見直したほか、全曲リミックス/リマスタリングを施したほか、いわゆるシングル表題曲に関しては一部楽器パートの変更&新規録音が追加されるという、いわば「過去の楽曲を今風に作り直しましたよ」的編集盤なわけです。昨今のデラックスエディションや“Red, White & Blues Trilogy”コンピ盤と同じ方向性ですね。なので、ここでは1994年盤とは完全に別モノとして考えて、話を進めたいと思います。

デヴィッド・カヴァデール(Vo)によると、本作は「オリジナルの『GREATEST HITS』をさらに発展させた作品だ。80年代や90年代のサウンドのタイムカプセルを掘り起こし、すべての曲をサウンド面で最新なものにアップデートしたんだ。オリジナルの音源を聖なる遺物として考えてくれているファンのために、オリジナルアルバムはいつも通りそのままに残しておいたよ」とのこと。いやいや、オリジナルアルバムも曲順とかいじってますやん(苦笑)。

そのほか、プレスリリースによると「“Red, White & Blues Trilogy”でも新たなサウンドを付け加えてくれたキーボーディストのデレク・シェレニアンが今回も参加しており、ここに収録されている半数以上の楽曲に新たなハモンドオルガンの音色を付け加えてくれている。彼の熱いパフォーマンスは、No.1スマッシュヒット曲「Here I Go Again」や「Fool For Your Loving」「You're Gonna Break My Heart Again」といった楽曲で聴くことができる。1989年のアルバム『SLIP OF THE TONGUE』に収録されている「The Deeper The love」や「Judgement Day」といった楽曲では、エイドリアン・ヴァンデンバーグによる新たなギターパフォーマンスも収録されている」そうで、確かにシンセやオルガンがかなり新鮮に響くアレンジですし、『SLIP OF THE TONGUE』の楽曲におけるギターリフやバッキングプレイの“スティーヴ・ヴァイが弾くオリジナルテイクとの質感の違い”はこうした差し替えによる効果だったのだと気づかされます。エイドリアン、オリジナル音源収録時は腱鞘炎でレコーディングに参加できなかった無念をこういう形で果たすことになるとは、30数年前は考えもしなかったでしょうね。

また、「これらの新たに付け加えられた要素に加え、デイヴィッド・カヴァデールは貴重品保管室を掘り起こし、オリジナルレコーディング音源には入っていなかった、ギタリスト:ジョン・サイクスによるヴィンテージなパフォーマンスを初めて今回公開している。彼のその貴重なパフォーマンスは、「Slide it In」のソロパートや「Give Me All Your Love」のリズムギターパートで聴くことができる」そう。『SLIDE IT IN』(1984年)『WHITESNAKE』(1987年)の楽曲に関しては、ギターソロにもちょっとしたニュアンスの違い、もっと言ってしまえば“オリジナルのギターソロを別の人間がコピーした”ような違和感を覚えるんですよね……このへん、リミックスの影響なのかなという気もしますが、どうなんでしょう。

あ、もうひとつ。Rhino Records企画の編集盤とはいえ、最初はこの時代のベスト盤に『FOREVERMORE』(2011年)から1曲(タイトルトラック)を追加するのはいかがなものかと思いました。しかし、「Crying In The Rain」から続き、アルバムのエンディングというポジションにこの「Forevermore」が置かれるという構成自体は、聴いてみると意外と悪くないなとも感じ、結果オーライかな。とはいえ、取ってつけた感は否めませんが。

全体を通してドライなミックスが施されたことで、オリジナルテイクにあったアリーナロック級のダイナイックさが激減しており、それを“現代的”と前向きに捉えるか、あるいは“年齢とともにショボくなった”とネガティブに受け取るか……そのへんは聴き手に委ねます。僕自身は一長一短の仕上がりで、なんとも言えないかな。ただ、アルバムごとにプロデューサーやプレイヤーの異なるあの時期=80年代の楽曲(ついでに「Forevermore」も)を、統一感を求めて再構築したという点では、非常に聴きやすい1枚だとは思いました。

今後実現するのかどうか微妙な“フェアウェル・ツアー”日本公演を前に、たまに思い出したように再生することもあるのかな……そんな1枚です。

 


▼WHITESNAKE『GREATEST HITS 2022 - REVISITED - REMIXED - REMASTERED -』
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2022年1月29日 (土)

STEVE VAI『INVIOLATE』(2022)

2022年1月28日にリリースされたスティーヴ・ヴァイの10thアルバム(1998年の『FLEX-ABLE LEFTOVERS』、2016年の『MODERN PRIMITIVE』含む)。日本盤は海外に先駆け、同年1月26日発売。

『PASSION AND WARFARE』(1990年)の25周年記念盤に同梱される形で発表された前作『MODERN PRIMITIVE』は、『PASSION AND WARFARE』制作当時から書き溜めていたアイディアを正式に形にすべく新たにレコーディングした新作音源集だったので、純然たる完全書き下ろしの新作となると『THE STORY OF LIGHT』(2012年)以来実に9年7ヶ月ぶり。ずいぶん空いたように映りますが、ヴァイはその間もライブアルバム&映像作品『STILLNESS IN MOTION: VAI LIVE IN L.A.』(2015年)や、トーシン・アバシ(ANIMALS AS LEADERS)、ヌーノ・ベッテンコート(EXTREME)、ザック・ワイルドBLACK LABEL SOCIETYOZZY OSBOURNE)、イングヴェイ・マルムスティーンによるGENERATION AXEのライブアルバム『THE GUITARS THAT DESTROYED THE WORLD: LIVE IN CHINA』(2019年)などで忙しくしていたので、正直10年も経ったという感覚はゼロなんですよね。

特に近年は肩の手術やばね指発症による手術など、心配になる情報も多々ありましたが、そんな中でもサポーターを装着した状態で左手のフィンガリングのみでプレイする「Knappsack」(本作にも収録)の動画を公開し、その奇才ぶり健在をアピール。そんなこんなでようやく届けられたのが本作なわけです。

そもそもは「クリーントーンのギターによる作品」「通常の歪ませたギターによる作品」「8弦ギターを使ったヘヴィな作品」の3作品の制作を想定していたそうですが、コロナによるロックダウンを受け複数のミュージシャンでスタジオに集まることが困難になり頓挫。まずは「Candlepower」(2020年配信リリース)から取り掛かり、その後はボーカルアルバムを想定していたようですが、上記のように幾多のトラブルが発生し、紆余曲折を経て当初の3作品をひとつにまとめたような内容に仕上がったとのこと。ボーカルアルバムはまたこの次に……ということで、まずは今年予定されているツアーを想定したドライブ感があり、かつプログレッシヴで、ヴァイらしいサイケデリック感も強い1枚に仕上がりました。

レコーディングは曲ごとに異なるバンド編成で実施されており、そのメンツもベースはブライアン・ベラーやヘンリック・リンダー(DIRTY LOOPS)、ビリー・シーン(SONS OF APOLLOMR. BIGなど)、フィリップ・バイノー、ドラムはジェレミー・コルソン、テリー・ボジオ、ヴィニー・カリウタと名手ばかり。中でもテリー・ボジオとはVAI名義での『SEX & RELIGION』(1993年)以来の共演実現とって、非常にワクワクするものがあります。

オープニングを飾る「Teeth Of The Hydra」は、アルバムジャケットでヴァイが手にするトリプルネックの最新アックス“The Hydra”を用いた、まさにこのアルバムを象徴するような1曲。このThe Hydraは「7弦と12弦ギター、4弦3/4スケールのベース、13弦のハープ弦、シングルコイル、ハムバッキング、ピエゾ、MIDI、サスティナー・ピックアップ、フローティングおよびハードテイルのトレモロ・ブリッジ、フェイズ・スプリッターなど」を備えた想像を絶する1本(1本?)で、これひとつで1曲の中で非常に多彩なサウンドを響かせています。ホント、これを披露したいがために作ったアルバムなんでしょうね(笑)。

以降は、これまでのヴァイらしさを凝縮した多彩なナンバーがずらりと並びます。オリジナルバージョンは打ち込みだったところを新たにヘンリック・リンダー&テリー・ボジオのリズム隊で再録音した「Candlepower」や、気心知れたビリー・シーンとのハードドライヴィングナンバー「Avalancha」、ヴァイらしい味付けでブルースが展開される「Greenish Blues」、ムーディーなスローバラード「Sandman Cloud Mist」など、この手のギターインストアルバムがそこまで得意ではない筆者にしては最後までスルスル聴き進められ、バラエティ豊かな良作ではないでしょうか。

ヴァイのギタープレイは感情を揺さぶったりエモさを味わったりというタイプではなく、どちらかといえばそのテクニックを楽しむタイプの人なのかなと。その一方で、ソングライティングに関してはしっかりしている人でもあるので、毎回肩肘張らずに楽しむことができる。そういった意味では、今回も我々の期待を裏切らない1枚です。

 


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2020年10月 3日 (土)

DEREK SHERINIAN『THE PHOENIX』(2020)

2020年9月18日にリリースされたデレク・シェリニアンの8thソロアルバム。日本盤は同年9月30日に発売されました。

DREAM THEATER、現在はSONS OF APOLLOやBLACK COUNTRY COMMUNIONのキーボーディストとして活動中のデレク。ソロアルバムは『OCEANA』(2011年)以来、実に9年ぶりとなります。

全8曲から構成された本作は、過去のソロ作でもタッグを組んできたサイモン・フィリップス(Dr)との共同プロデュース作。サイモンは全曲でドラマーも務めており、デレクとサイモン以外は各曲ごとに異なるギタリスト/ベーシストを迎えています。

オープニングを飾るタイトルトラック「The Phoenix」では、過去のデレクのソロ作にも参加した経験を持つザック・ワイルド(G/BLACK LABEL SOCIETYOZZY OSBOURNEZAKK SABBATH)と、SONS OF APOLLOのバンドメイトであるビリー・シーン(B/MR. BIG、THE WINERY DOGSなど)、テルミン奏者のアルメン・ラーが参加。ザックとビリーのユニゾンプレイもさることながら、2人に触発されてデレクもインタープレイを聴かせてくれるところがポイントでしょうか。

2曲目「Empyrean Sky」では、同じくSONS OF APOLLOのロン“バンブルフット”サール(G)とジミー・ジョンソン(B/アラン・ホールズワースなど)と共演。SONS OF APOLLO的なヘヴィさもにじませつつも、シンセの音色&フレーズにより全体的にはフュージョン色が強い印象を受けます。3曲目「Clouds Of Ganymede」ではスティーヴ・ヴァイ(G)&トニー・フランクリン(B)という名手たちと共演。ヴァイがプレイすることで全体がヴァイ色に染まり、デレクのフレージングも自然とヴァイっぽくなってしまうのはご愛嬌。4曲目「Dragonfly」はアーネスト・ティブス(B)とのトリオ編成。アーネストはサイモンとの縁から参加したのでしょうか、シンセではなくピアノを軸にしたデレクのプレイと、ジャズ&フュージョン色濃厚なリズム隊のアンサンブルは前3曲とは異なる空気を醸し出しており、本作における良いアクセントとなっています。

中盤に入り、5曲目「Temple Of Helios」では再びバンブルフット&ジミー・ジョンソンと共演。プログレッシヴロック的でもありつつ、どこか往年のジェフ・ベック作品にも通ずるテイストが感じられ、改めてデレクってこういうことがやりたい人なんだろうなと感じました。6曲目「Them Changes」はバディ・マイルスのカバーで、本作唯一のボーカルナンバー。アーネスト・ティブスと、BLACK COUNTRY COMMUNIONのバンドメイトであるジョー・ボナマッサ(G, Vo)が参加しており、随所にテクニカルなプレイがフィーチャーされつつも軸はジョーのソウルフルなボーカルという、ほかの楽曲とは一線を画する風合いとなっています。7曲目「Octopus Pedigree」は本作3つめのバンブルフット&ジミー・ジョンソン共演曲で、ほか2曲との共通項も多い作風。ラストの8曲目「Pesadelo」はキコ・ルーレイロ(G/MEGADETH、ex. ANGRA)、トニー・フランクリン、アルメン・ラーという組み合わせの、ラテン風味のメタルチューンです。曲中盤にはキコのアコースティックギターもフィーチャーされており、先頃リリースされたキコのソロ作『OPEN SOURCE』(2020年)とひと味もふた味も違った良曲です。

デレクのソロ作に触れるのは本作が初めてのことで、そもそも個人的にもこの手のインストものはそこまで熱心に聴くタイプではありません。が、本作はSONS OF APOLLOの延長で楽しむことができました。キーボーディストのソロ作品ながらもギター比重が非常に高いので、少しでもギターを弾く素養のある方なら間違いなく堪能できる1枚だと思います。

 


▼DEREK SHERINIAN『THE PHOENIX』
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2020年8月 4日 (火)

ALCATRAZZ『BORN INNOCENT』(2020)

2020年7月末にリリースされたALCATRAZZの4thアルバム。『DANGEROUS GAMES』(1986年)以来、実に34年ぶり(!)のニューアルバムです。

『NO PAROLE FROM ROCK'N'ROLL』(1983年)ではイングヴェイ・マルムスティーン、『DISTURBING THE PEACE』(1985年)ではスティーヴ・ヴァイというクセの強いギタリストを迎えてきたALCATRAZZ(というかグラハム・ボネット)。『DANGEROUS GAMES』ではダニー・ジョンソンという前任2名と比べるとネームバリューもカリスマ性も劣る人選だったためか、バンドは同作を最後に解散することになります。

その後、2006年に再結成してからはハウイー・サイモンを迎えてライブ活動を行っていましたが、2019年にジョー・スタンプという技術的にも知名度的にも文句なしのアックスマンが加入。ゲイリー・シェア(B)やジミー・ウォルドー(Key)といったオリジナルメンバー、そしてマーク・ベンケチェア(Dr)という新編成でオリジナルアルバム完成へと至るわけです。

気になる内容ですが、ネオクラシカルを基盤にした「いかにもグラハム・ボネットらしい」ハードロックが展開されています。ALCATRAZZらしいと言えば「らしい」仕上がりですし、別にALCATRAZZ以外の名前で発表されたとしても「グラハム・ボネットが関わったバンド」として捉えたら納得のいく内容ではないでしょうか。つまり、ALCATRAZZでデビューして以降のグラハムは常にこういった楽曲スタイルが求められ続けてきた、という表れかもしれません。そういう意味では、文句なしに満足できる「HR/HMの良作」だと断言できます。

ジョー・スタンプのプレイはどうかといいますと、「London 1666」や「Darkness Awaits」などではジョー・スタンプらしいテク&フレーズ炸裂のリフ&ソロワークを楽しむことができます。が……実は日本盤ボーナストラック含む全15曲中、6曲でゲストギタリストをフィーチャーしており、せっかくの見せ場が少なくなっている気がしないでもありません。だって、タイトルトラック「Born Innocent」にはクリス・インペリテリ、「Finn McCool.」には若井望、「I Am The King」にはボブ・キューリック(R.I.P.)などが参加しているわけですから。それでも、クセの強いゲストに負けない個性を発揮しているので、最後まで安心して楽しめるのではないでしょうか。

とにかく本作、34年ぶりの新作というお祭り感が強く、スティーヴ・ヴァイが「Dirty Like The City」の作曲に携わったのに加え、RIOTRIOT Vのドン・ヴァン・スタヴァン(B)やMICHAEL SCHENKER FESTのスティーヴ・マン(今回はブラス・アレンジ)などもゲスト参加。その他のゲストプレイヤー含め、グラハムとALCATRAZZを祝福するような豪華な仕上がりとなっています。その結果が全15曲で68分半という長尺にも表れているのでしょう。海外盤は「Darkness Awaits」と「Reality」を除く13曲入りで60分以内に収まっていますが、はやり長すぎて1曲1曲のインパクトが薄まってしまっているのは否めません。特にその感覚は、後半に進めば進むほど……絞りに絞って、全10曲くらいのコンパクトな内容だったら、もっと手放しで喜べたんですけどねえ。

まあ、だからといって捨て曲が含まれているわけではないので、ここからじっくり時間をかけて、すべての曲を堪能できればと思います。良い曲が多いというのも困りものですね(苦笑)。

 


▼ALCATRAZZ『BORN INNOCENT』
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2020年4月22日 (水)

VAI『SEX & RELIGION』(1993)

1993年7月に発表された、スティーヴ・ヴァイの新プロジェクトVAI唯一のアルバム。ヴァイのソロ作品としてカウントすると、通算3作目のスタジオアルバムに当たります。

1990年秋にWHITESNAKEがライブ活動を停止すると同時に、バンドを離れたヴァイは前作『PASSION AND WARFARE』(1990年)に続くアルバムの準備に取り掛かります。ここでヴァイは自分と肩を並べる“バケモノ級”アーティストを求め、T.M.スティーヴンス(B)&テリー・ボジオ(Dr)という強烈なリズム隊とタッグを組むことに。さらに、当時無名だった若干21歳のデヴィン・タウンゼンド(Vo, G)を発掘し、最終的にはVAIというバンド(プロジェクト)名でアルバムを完成させ、ツアーに臨むことになります。

全13曲(日本盤のみ14曲)中、インストは3曲。つまり、10曲が歌モノというヴァイの作品としては異色の内容。しかも、内1曲(ラストの「Rescue Me Or Bury Me」)ではヴァイ自身がボーカルも担当しています。作曲はもちろん、作詞まで含めて (2曲を除いて)すべてヴァイが手がけるという点にでは、歌われる内容やメッセージまで含めて彼の作品であるわけで、歌と言葉で何かを伝えようとする意識の変化には興味深いものがあるなと、リリース当時感じていました。

アルバムを聴くとまず何より、デヴィンというボーカリストの力量に驚かされるはずです。今やSTRAPPING YOUNG LADやDEVIN TOWNSEND PROJECTでお馴染みのデヴィンですが、声域の広さやパワフルさと繊細さを併せ持つ表現力、マイク・パットン(FAITH NO MORE)にも匹敵する変態性(ラップボーカルやスクリーム、さらにオペラボーカルまで)は、今まで出会ったことのないタイプで、正直どう捉えていいのかわからなかった記憶も。しかも、ヴィジュアルがアレじゃないですか(笑)。「あ、ヴァイやボジオと渡り歩くくらいだから、やっぱりヤバイ人なんだ」と(苦笑)。

「『PASSION AND WARFARE』に変態的なボーカルを乗せるとこんなふうになるのね」という内容は、歌モノロック/メタル観点で捉えれば若干の敷居の高さを覚える作風ですが、プレイヤー視点で聴くとギター、ドラム、ベースそれぞれのハイテクさに耳と心を奪われるはず。そういった意味では、80年代前半の“ニューウェイヴ期”のKING CRIMSONに通ずるものもあると、個人的には感じています。

序盤の「In My Dreams With You」や「Still My Bleeding Heart」で魅せるポップネスと、「Dirty Black Hole」でのセバスチャン・バック(ex. SKID ROW)ばりのシャウト&スクリームとのギャップ、ハンパないです(笑)。MVも制作された終盤の山場「Down Deep Into The Pain」からヴァイ自身が歌う「Rescue Me Or Bury Me」へと続く最後の構成など、とにかく最初から最後まで沸点みたいな変態度の高い1枚です。

 


▼VAI『SEX & RELIGION』
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STEVE VAI『PASSION AND WARFARE』(1990)

1990年5月に発表されたスティーヴ・ヴァイの2ndアルバム。

イングヴェイ・マルムスティーンの後任としてALCATRAZZに加入したことで、メタルファンにその名を知らしめたスティーヴ・ヴァイ(もちろん、それ以前にはフランク・ザッパ門下生というキャリアがあるわけですが、HR/HM観点では今回は割愛)。その後、デヴィッド・リー・ロスとのコラボレーションでさらに知名度を上げ、1989年にはWHITESNAKEに加入して多くのファンを驚かせます。

このソロアルバムはWHITESNAKEの『SLIP OF THE TONGUE』(1989年)参加後に発表されたものですが、ALCATRAZZで名を上げてから初めてリリースされるソロアルバムでもありました。そういった意味でも、本作に対する注目度は当時かなり大きなものがありました。

それもあってか、WHITESNAKEのツアー中に発表された本作は全米18位と、インスト・アルバムにも関わらず大ヒットを記録。WHITESNAKEのライブでも本作から「For The Love Of God」と「The Audience Is Listening」がソロコーナーで披露されたことは、今でもよく覚えています。

さて、気になる内容ですが、先に書いた「スティーヴ・ヴァイというギタリストの原点」を考えれば納得のいくテイストで、全編HR/HMリスナーを満足させるような作りではないかもしれません。テイストのひとつにハードロックが用意されているだけで、実はジャズやフュージョンの要素も随所から感じられるし、インドなど東洋からのテイストも散りばめられている。それらがプログレッシヴなバンドアンサンブルで構築されることによって、「クセは強いのに意外と聴きやすい」作品へと昇華されているわけです。

その聴きやすさの要因に、色彩豊かなギターのサウンドメイクも付け加えられるはず。ALCATRAZZやデヴィッド・リー・ロス、あるいはWHITENAKE『SLIP OF THE TONGUE』を通過したリスナーなら、耳馴染みのあるカラフルなギターエフェクトが全編で感じることができ、そこも親しみやすさに一躍買っているのではないでしょうか。

アルバム中盤の「For The Love Of God」「The Audience Is Listening」を大きな山場として用意し、そこへ向けて、あるいはそれ以降も気持ちが盛り上がっていけるような、バラエティに富んだ楽曲が用意され、それらの曲順が緻密に考えられている。そこも含めて、スティーヴ・ヴァイという奇才らしい1枚と言えるでしょう。

ボーカルナンバーは皆無ですが、スティーヴ・ヴァイというギタリストに少しでも触れたことがあるリスナーなら、間違いなく響くはずの1枚。かつ、昨今のメタルコアやジェントなどのヘヴィ系ギターにも通ずる要素満載なので、何気に幅広い層にアピールできる良盤だと思っております。

 


▼STEVE VAI『PASSION AND WARFARE』
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2019年10月 9日 (水)

WHITESNAKE『SLIP OF THE TONGUE: 30TH ANNIVERSARY EDITION』(2019)

WHITESNAKEの問題作『SLIP OF THE TONGUE』(1989年)が今年でリリース30周年。Geffen時代の音源権利がRhino Recordsに移ったこともあり、『WHITESNAKE』(1987年)『SLIDE IT IN』(1984年)に続いて最新リマスタリング&未発表音源をたっぷり追加したアニバーサリーエディションが2019年10月4日に発売されました(日本盤は少々遅れて、10月23日発売とのこと)。

『SLIP OF THE TONGUE』というアルバム自体に関しては、過去にこちらで執筆済み。そちらでは2009年に海外で発表された20周年エディションについても触れていますが、その際にはオリジナル盤からの改悪(曲順の変更)が加えられていましたが、今回の30周年盤も『WHITESNAKE』『SLIDE IT IN』同様にオリジナルとも20周年盤とも異なる新たな改悪(笑)が加えられており、さすがに頭を抱えております。

基本的にはデヴィッド・カヴァーデイル(Vo)とその側近によるアイデアなんでしょうけど……うん、アメリカかぶれしたイギリス人の考えることはわからない!とちゃぶ台をひっくり返したい気持ちです。

さてさて、30周年バージョンについてここからたっぷり書いていきますよ。本作はCD1枚モノの通常盤、CD2枚組のデラックスエディション、CD6枚+DVDからなるボックスセット(スーパーデラックスエディション)の3仕様が用意されていますが、今回ここで触れるのは未発表音源が豊富なボックスセット関して。それぞれのディスクの中身について触れていきたいと思います。

 

まずはDISC 1。こちらは最新リマスタリングを施した『SLIP OF THE TONGUE』本編に当時のシングルのみに収録された別テイクなどを追加したもの。全17曲入りで、こちらが基本となるのでしょうか。収録曲は下記のとおり。

<2019年バージョン>
01. Slip Of The Tongue
02. Kittens Got Claws
03. Cheap An' Nasty
04. Now You're Gone
05. The Deepr The Love
06. Judgment Day
07. Sailing Ships
08. Wings Of The Storm
09. Slow Pork Music
10. Fool For Your Loving 1989
11. Sweet Lady Luck (Single B-Side)
12. Now You're Gone (Chris Lord-Alge Single Remix)
13. Fool For Your Loving 1989 (Vai Voltage Mix)
14. Slip Of The Tongue (Alternate Intro & Breakdown)
15. Cheap An' Nasty (Alternate Solo & End)
16. Judgment Day (Alternate & Extended Solos)
17. Fool For Your Loving 1989 (Alternate AOR Mix With CHR Intro)

アルバム本編がM-1〜10なのですが、なんですかこの味わい深さもへったくれもない流れは……頭3曲の流れはまだいいとしても、M6「Judgment Day」〜M7「Sailing Ships」の構成は疑問しか残らない。長尺の大作を2曲並べたかったんだろうけど、アルバムの締め用に作られた壮大なアレンジの「Sailing Ships」のあとにまだ3曲も残っていて、「Sailing Ships」の余韻をぶち壊すかのように「Wings Of The Storm」が始まる。さらにエンディングが「Fool For Your Loving」て……正気ですか?

ちなみにこちら、リマスタリングといいながらも「Kittens Got Claws」がオリジナルからいじられていたりします。スティーヴ・ヴァイ(G)によるオープニングの“猫ギター”がカットされたのは明らかな変化ですが、ほかにもイントロのリフの裏で鳴っていたヴァイのソロが若干前に押し出されているような。あと、オリジナル盤では軽く感じられたドラムの音も2009年リマスター盤よりもさらに硬質にミキシングされている印象も受けました。これはこれで悪くないね(曲順を除けば)。

M-11〜13は2009年バージョンにも収録されていたもの。M-12「Now You're Gone (Chris Lord-Alge Single Remix)」は「U.S. Single Mix」として親しまれてきたものですね。さらに今回は初出の別バージョンを追加収録。M-14「Slip Of The Tongue (Alternate Intro & Breakdown)」はいきなりブラスシンセから始まるイントロ縮小&ギターソロ後のブレイクパートに変なソロ(笑)が追加されたバージョンです。いや、あの緊張感のあるブレイクにそれ入れちゃう?っていうヴァイのセンスよ……。M-15&16は文字どおり、ギターソロを差し替えたもので、M-17はM-10のミックス違い。M-14〜16に関してはオリジナルバージョンに30年慣れ親しんだこともあり、ちょっと違和感があるかな。

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2019年7月 4日 (木)

ALICE COOPER『HEY STOOPID』(1991)

1991年7月にリリースされた、アリス・クーパー通算19作目のスタジオアルバム。前作『TRASH』(1989年)で収めた成功をフォローアップするために制作された本作は、前作以上に多数のソングライター&ゲストが参加した豪華な内容となっています。

「Poison」(全米7位/全英2位)や「House Of Fire」(全米59位/全英65位)などの好記録もあり、アルバム『TRASH』は全米20位/全英2位という久しぶりのヒット作に。時代的にもギリギリHR/HMがシーンでもてはやされ、また制作時は景気的にもギリギリ不況に陥る前だったこともあり、この『HEY STOOPID』にはかなりの大金が注ぎ込まれたのではないか……そのサウンドプロダクションやゲスト陣を前にすると、改めてそう実感します。

プロデューサーにピーター・コリンズ(RUSHQUEENSRYCHEゲイリー・ムーアなど)を迎えた本作は、『TRASH』以上に産業ロック色の強い、きめ細やかなサウンドを伴う非常に“作り込まれた”1枚。ソングライティングは基本アリスとジャック・ポンティが軸になっていますが、「Dangerous Tonight」では前作での立役者デズモンド・チャイルド、「Feed My Frankenstein」ではゾディアック・ワープマインド、「Die For You」ではニッキー・シックス&ミックマーズ(MOTLEY CRUE)とジム・ヴァランスがそれぞれ関わっています。

で、特筆すべきなのはゲスト陣。タイトルトラック「Hey Stoopid」にはスラッシュ(G/GUNS N' ROSES)&ジョー・サトリアーニ(G)、オジー・オズボーン(Vo)が参加。それぞれ聴けばすぐにわかるくらいの個性を発揮しています。オジーなんてまんまだからね(笑)。

そのほか、「Burning Our Bed」「Little By Little」「Wind-Up Toy」にもジョー・サトリアーニ、「Feed My Frankenstein」にはニッキー・シックス(B)、スティーヴ・ヴァイ(G)、ジョー・サトリアーニ、「Hurricane Years」「Dirty Dreams」にはヴィニー・ムーア(G/彼は本作のツアーにも一部参加しました)、「Die For You」にはミック・マーズ(G)……と、クレジットを羅列するだけで文字数稼げてしまうくらい(笑)。

これだけ豪華なんだもん、出来が悪いわけがない。曲も良い、サウンドも良い、演奏も抜群。個人的には「Might As Well Be On Mars」みたいにドラマチックな曲がお気に入りです。

(そういえば、「Feed My Frankenstein」は映画『ウェインズ・ワールド』でも使用され、アリスも劇中に登場しましたね。懐かしい……)

ですが本作、先に記したように不景気に突入し、それによってウケる音楽の傾向も80年代的ハデなものからダークでシンプルなものへとシフトしていき(そう、1991年ってグランジ元年ですものね)……「Hey Stoopid」(全米78位/全英21位)、「Love's A Loaded Gun」(全英38位)、「Feed My Frankenstein」(同27位)とイギリスでこそまずまずのシングルヒットを残したものの、アルバム自体は全米47位/全英4位止まり。アメリカでの売り上げは前作の半分(50万枚)程度で終了しています。

そういえば、本作発売後にはJUDAS PRIESTMOTORHEAD、DANGEROUS TOYS、METAL CHURCHといったレーベルメイトとともに移動式フェスツアー『OPERATION ROCK & ROLL TOUR』も実施したのですが、不景気の煽りを受け31公演を終えたところで終了したという話も。あの時代を通過していない世代にはわかりにくい話かもしれませんが、結構深刻だったんですよ、あの頃は(と、急にオッサン目線)。

まあ、何はともあれ。あと1年早くリリースされていたら『TRASH』並みのヒット作になったはず。それくらい、力の入った(&お金をつぎ込んだ)隠れた名盤です。

 


▼ALICE COOPER『HEY STOOPID』
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2018年5月16日 (水)

WHITESNAKE『SLIP OF THE TONGUE』(1989)

1989年11月にリリースされた、WHITESNAKE通算8作目のスタジオアルバム。1987年春に発表された前作『WHITESNAKE』からのシングル「Here I Go Again」は全米1位、「Is This Love」が全米2位という大ヒットとなり、アルバム自体も全米2位、全英8位まで上昇。アメリカだけで800万枚以上ものセールスの大出世作となりました。これを受けて、『WHITESNAKE』を携えたツアーでのバンドメンバー……エイドリアン・ヴァンデンバーグ(G)、ヴィヴィアン・キャンベル(G)、ルディ・サーゾ(B)、トミー・アルドリッジ(Dr)でレコーディングに突入しようとしたところ、ヴィヴィアンが脱退。代わりに加入したのがスティーヴ・ヴァイというゲテモノギタリストだったことから、当時はかなりの大騒ぎとなりました。

曰く「ブルースベースのハードロックバンドに、ブルースが弾けないキワモノギタリストが加入した」と。確かにそうかもしれませんが、そもそも前作『WHITESNAKE』の時点でWHITESNAKEはブルースという軸のひとつを放棄していたような気もするのですが……まあ、いいでしょう。

曲作りは基本的にデヴィッド・カヴァーデイル(Vo)とエイドリアンの2人で進め、さてスタジオに入りましょうというときにエイドリアンの腱鞘炎が発覚。完治までレコーディングを待てなかったカヴァーデイルは、エイドリアンのデモをもとにヴァイにすべてのギターパートを担当させる。エイドリアンがプレイしたベーシックな部分(プレイのテイスト)は残しつつも、ところどころにヴァイらしい派手なオカズが挿入された、“ギターオリンピック”的なサウンドが展開されてしまいます。

リリース当時、やれギターがうるさいだのなんだの叩かれましたが、ちゃんと聴くとそもそも楽曲の根本の部分がしっかり作り込まれていない、つまり詰めが甘いと気付くんじゃないでしょうか。例えばキー設定が高すぎてデヴィッドはただわめいているように聴こえるし、それによってリズム隊も軽く聴こえてしまう。そこにあんなギターが乗るもんだから、ねぇ。エイドリアン、もうちょっとどうにかならなかったのかと。

そんなだから、リメイクした「Fool For Your Loving」も浮きまくり。この曲までキーを上げてしまい、原曲の雰囲気壊しまくりです。前作での「Here I Go Again」も「Crying In The Rain」も原曲どおりのキーだったからこそあの世界観をよりゴージャスにすることができたのに……嗚呼、全部空回り。

ただ、そんなアルバムの中にも「これは!」と呼べる楽曲がいくつか存在します。そこだけは声を大にして伝えておきたい。それが「Now You're Gone」や「The Deeper The Love」といった前作の延長線上にあるポップ路線と、「Judgment Day」と「Sailing Ships」の大作路線。特に「Judgment Day」は今でもライブで頻繁に演奏されており、いわば「WHITESNAKE版(LED ZEPPELINの)『Kashmir』」みたいな楽曲として愛されています(ホントかな)。で、「Sailing Ships」は……これは以前取り上げた『STARKERS IN TOKYO』(1997年)のアコースティックバージョンが素晴らしいので、こちらを聴いてもらえば(スタジオ版じゃないのかと)。スタジオ版は後半のボーカルキーが上がるところがちょっとね。悪くないんだけど、やりすぎ感が強くて。

と、ここまで書いたら「これは駄作なんじゃないか?」とお思いかもしれません。そう、駄作かもしれませんが……嫌いになれないのも事実。何気によく聴くんですよ、このアルバム。リリースタイミングが大学受験間際だったこともあり、受験の往復や勉強の合間によく聴いたし、浪人中もなんだかんだで聴いたので、そういう記憶が強いのかもしれません。だからこそ、嫌いになれない。少なくとも自分の中では「そこそこ」の1枚です。

なお、WHITESNAKEは本作をリリースした1年後の1990年秋、ワールドツアーの終焉をもってバンド活動を休止してしまいます。

あ、もうひとつ。『SLIDE IT IN』(1984年)や『WHITESNAKE』同様、本作には複数のバージョンが存在するので、そちらについても記しておきます。

 

<1889年バージョン>
01. Slip Of The Tongue
02. Cheap An' Nasty
03. Fool For Your Loving
04. Now You're Gone
05. Kittens Got Claws
06. Wings Of The Storm
07. The Deeper The Love
08. Judgment Day
09. Slow Poke Music
10. Sailing Ships

↑こちらは下↓のジャケットで発売された、オリジナルバージョン。僕はこの曲順に慣れ親しんでいたので、20年後に発表された20周年バージョンおよび現行のリマスターバージョンの曲順はなんとなく馴染めずにいます。

 


▼WHITESNAKE『SLIP OF THE TONGUE (ORIGINAL EDITION)』
(amazon:国内盤CD / 海外盤CD

 

で、こちら↓が現行バージョン。2曲目に「Judgment Day」の時点であり得ない。後半の侘び寂びの無さもあり得ない。戻してくれ、頼むから。

<2009年バージョン>
01. Slip Of The Tongue
02. Judgment Day
03. Fool For Your Loving
04. Now You're Gone
05. Kitten's Got Claws
06. Cheap An' Nasty
07. The Deeper The Love
08. Slow Poke Music
09. Wings Of The Storm
10. Sailing Ships
11. Sweet Lady Luck [Single B-Side]
12. Now You're Gone [U.S. Single Remix]
13. Fool For Your Loving [Vai Voltage Mix]
14. Judgment Day [Live... In the Shadow of the Blues]
15. Slip Of The Tongue [Live at Donington 1990]
16. Kitten's Got Claws [Live at Donington 1990]

再発版はシングルのみ収録のトラックや複数のライブ盤からのライブ音源も混ざっていて、なんだか忙しいので困ります。ホント、作り手の気まぐれで10数年経ってから曲順変えるのやめてほしい。お前にとってそれが正解でも、俺たちの思い出まで修正できないんだから。

というわけで、僕はリマスター盤もプレイリストでオリジナルの曲順に戻して再生してます。本作はまだストリーミング配信されてないみたいだけど、どうせじきに配信始まるはずだから、その際にはぜひオリジナルバージョンでの再生をオススメします!(まだ一度も聴いてない人にとっては、それこそこれもお節介かしらね)

 


▼WHITESNAKE『SLIP OF THE TONGUE (NEW EDITION)』
(amazon:海外盤CD / 海外盤CD+DVD

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