カテゴリー「Sting」の9件の記事

2022年6月16日 (木)

SHERYL CROW『SHERYL: MUSIC FROM THE FEATURE DOCUMENTARY』(2022)

2022年5月6日にリリースされたシェリル・クロウの最新コンピレーションアルバム。日本盤は同年5月18日発売。

本作は今年3月11日にアメリカのカルチャーコンベンション『SXSW』にてプレミアム公開され、5月6日に米・テレビネットワークSHOWTIMEにて放送されたドキュメンタリー映画『SHERYL』にあわせて制作された、サウンドトラック的立ち位置のベストアルバム。映画では1993年のメジャーデビュー以降に直面した性別や年齢での差別、うつ病やがんとの対峙など名声の代償と戦いながら才能を発揮していく彼女の約30年間を追った内容とのことです。

1962年生まれのシェリルが正式デビューしたのは、1993年8月発売のアルバム『TUESDAY NIGHT MUSIC CLUB』にて。当時、すでに31歳と遅咲きの印象ですが、このアルバムから生まれた「All I Wanna Do」(全米2位)、「Strong Enough」(同5位)の大ヒットが手伝い、アルバムも最高3位、アメリカだけで700万枚を超えるメガヒット作となりました。続く2ndアルバム『SHERYL CROW』(1996年)も全米6位/300万枚以上のヒットを記録し、このコンピレーションアルバムのオープニングを飾る代表曲のひとつ「If It Makes You Happy」(全米10位)や日本のテレビCMソングでもおなじみの「Everyday Is A Winding Road」(同11位)などを輩出しました。さらに、この時期には映画『007 トゥモロー・ネバー・ダイ』(1997年)の主題歌「Tomorrow Never Dies」(本作未収録)も担当するなど、早くもアーティストとして大きなピークを迎えています。

そんな黄金期の楽曲は、このコンピ盤のDISC 1にまるまる収録。最初の2枚のアルバムから15曲も選出されているあたりに、この時期に対する思い入れが伝わります。悪い言い方をしてしまえば、それ以降は初期2作の成功には追いつけていないと見なすこともできるわけですが……。まあとにかく、彼女の黄金期をリアルタイムで知らない世代には、おさらいとして十分な役割を果たす1枚ではないでしょうか。おまけ的に映画『カーズ』(2005年)のサウンドトラックから「Real Gone」のスタジオライブ音源も追加されていますしね。

そして、DISC 2は3rdアルバム『THE GLOBE SESSIONS』(1998年)以降の楽曲および新録曲3曲で構成。『THE GLOBE SESSIONS』から5thアルバム『WILDFLOWER』(2005年)あたりまでは僕自身もリアルタムで触れていたのですが、本作には『WILDFLOWER』からは1曲もセレクトされず。6thアルバム『DETOURS』(2008年)以降の3作はスルーされ、10thアルバム『BE MYSELF』(2017年)からは1曲のみ。しかし、最新作『THREADS』(2019年)からは6曲と多くセレクトされています。これは同作がコラボ曲で構成されていることも大きく影響しているのかなと。例えば、ジョージ・ハリスンのカバー「Beware Of Darkness」ではエリック・クラプトンスティング、ブランディ・カーライルと共演していますし、THE ROLLING STONESのカバー「Thw Worst」では本家キース・リチャーズとコラボを果たしていますしね。無駄に豪華。

新録3曲もある意味ではその流れを汲んでおり、ストーンズのカバー「Live With Me」にはミック・ジャガーがブルースハープでゲスト参加。アレンジ/演奏含め、本家に匹敵するカッコよさなので、ぜひストーンズファンやアーシーなハードロックを愛聴するリスナーにも触れてほしい1曲です。そのほかの新曲「Forever」と「Still The Same」はこれまでの彼女のスタイルの延長線上にある、ミディアム/スローナンバー。「Live With Me」でロックアーティストとしての存在感を示し、残りの2曲でシンガー/表現者としての深みを提示しているのかなと。

残念ながら、先のドキュメンタリー映画は今のところ日本では視聴不可ですが、この作品を観てからサントラに触れるとより味わい深く楽しめるのかな。もちろん、彼女のキャリアを総括するという点においても、本作はそれなりに効力のある内容なので、これからシェリル・クロウというアーティストに触れてみようとおもうビギナーにもうってつけの作品だと思います。僕もこのアルバムを聴いて、抜け落ちていた2000年代後半以降の音源(特にコラボ作『THREADS』)を積極的にチェックしてみようと思えたくらいでしたから。

 


▼SHERYL CROW『SHERYL: MUSIC FROM THE FEATURE DOCUMENTARY』
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2022年3月12日 (土)

ブライアン・アダムスのベストアルバムを総括する(2022年版)

ブライアン・アダムスの最新オリジナルアルバム『SO HAPPY IT HURTS』(2022年)、素晴らしい内容でしたね。この新作を機に、ぜひ若い世代にも彼の名作たちに触れていただきたい(そのためのサブスクリプションサービスですしね)。しかし、数あるオリジナルアルバムのどれから手を出したらいいのか、せっかくならオイシイとこ取りして手軽に楽しみたい! そういう方のために、このエントリーでは複数制作されている彼のベストアルバム/グレイテストヒッツアルバムを簡単に紹介していきたいと思います。

紹介するのは、アーティスト主導で制作された4作品。レーベル主導で販売された『ICON』(2010年)は除外しています。このエントリーを頼りに、どの時代のどの作品が自分に適しているか、吟味してみてください(もちろん、ヒット曲/代表曲の被りが多いので、全部手を出す必要はありません)。

 

 

『SO FAR SO GOOD』(1993)

 

1993年11月2日発売の、ブライアン・アダムス初の公式ベストアルバム(日本盤は同年11月8日発売)。CD1枚モノ。

過去には日本限定で『HITS ON FIRE』(1988年)という2枚組作品(DISC 1が当時の最新作『INTO THE FIRE』、DISC 2に『CUTS LIKE A KNIFE』『RECKLESS』からのヒットシングルに加え、アルバム未収録のシングルB面曲やライブテイクをコンパイル)が限定販売されましたが、ワールドワイドでのベストアルバムは今作が初めて。全米ブレイクのきっかけとなった3rdアルバム『CUTS LIKE A KNIFE』(1983年)からシングル3曲、メガヒットとなった4thアルバム『RECKLESS』(1984年)からは全米1位を記録した「Heaven」を含む6曲、5thアルバム『INTO THE FIRE』(1987年)からは「Heat Of The Night」1曲のみ、そして当時の最新オリジナルアルバムである6thアルバム『WAKING UP THE NEIGHBOURS』(1991年)からは世界的大ヒット曲「(Everything I Do) I Do It For You」を含む3曲をピックアップ。さらに、本作のみの新曲としてシングルヒット(全米7位/全英2位)もした「Please Forgive Me」が用意されています。

『CUTS LIKE A KNIFE』『RECKLESS』からのヒットシングルは網羅されていますが、『INTO THE FIRE』からは「Hearts On Fire」(全米26位/全英57位)、「Victim Of Love」(全米32位/全英68位)の2曲、『WAKING UP THE NEIGHBOURS』からは「There Will Never Be Another Tonight」(全米31位/全英32位)、「Thought I'd Died And Gone To Heaven」(全米13位/全英8位)、「All I Want Is You」(全英22位)あたりのシングル曲が選外に。かつ、このアルバムと同時期にリリースされ大ヒット中だった、映画『三銃士』の主題歌として制作されたロッド・スチュワートスティングとのコラボ曲「All For Love」(全米1位/全英2位)も未収録となっています。

『WAKING UP THE NEIGHBOURS』が引き続きロングヒット中だった時期の1枚ということもあり、80年代のブライアンをおさらいするに最適な内容。ブレイク前の1stアルバム『BRYAN ADAMS』(1980年)、2ndアルバム『YOU WANT IT YOU GOT IT』(1981年)は気持ち良いくらいにスルーされているのも納得です。非シングル曲の「Kids Wanna Rock」(『RECKLESS』収録曲)も選ばれていることもあり、本作と『WAKING UP THE NEIGHBOURS』を持っていれば、この時点でのブライアン・アダムズはほぼ網羅できるといったところでしょうか。

実は、このテキストを書き始めて初めて気づいたのですが、先月まで配信されていた本ベストアルバム。いつの間にかサブスクから消えてます。あれ、もしかしてこの時点で企画倒れでは……(汗)。

 


▼BRYAN ADAMS『SO FAR SO GOOD』
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『THE BEST OF ME』(1999)

 

1999年11月15日発売の、ブライアン・アダムス2作目のベストアルバム(日本盤は同年11月17日発売)。CD1枚モノ。

『SO FAR SO GOOD』から6年のスパンを経て制作された本作ですが、その間にオリジナルアルバムは『18 'TIL I DIE』(1996年)『ON A DAY LIKE TODAY』(1998年)の2枚しか出ておらず、かつ両作ともアメリカではかつてのようなヒットにはつながっていないこともあってか、本ベストアルバムが全米リリースされるのは2001年になってからでした。

全16曲の収録曲のうち『SO FAR SO GOOD』との被りは5曲と意外に少なめで、その内訳は4thアルバム『RECKLESS』から2曲(「Summer Of '69」「Run To You」と地味なセレクト)、6thアルバム『WAKING UP THE NEIGHBOURS』から2曲(「Can't Stop This Thing We Started」「(Everything I Do) I Do It For You」)、1stベストアルバム『SO FAR SO GOOD』から当時の新曲「Please Forgive Me」、アルバム未収録だったブライアン&ロッド・スチュワート&スティングによる「All For Love」(1993年)、7thアルバム『18 'TIL I DIE』から4曲、8thアルバム『ON A DAY LIKE TODAY』から3曲(うち「Cloud Number Nine」は未発表リミックスバージョン)、そして1997年に発表されたライブアルバム『MTV UNPLUGGED』のみ収録の新曲2曲(「I'm Ready」「Back To You」)と、本作のために制作された新曲「The Best Of Me」。『SO FAR SO GOOD』が80年代のUSヒットに寄せたものだとしたら、本作は90年代以降のUKヒットを総括した内容といったところでしょうか。

上記のように『SO FAR SO GOOD』との被りが比較的少ないこともあり、1993年以降の90年代を振り返る意味では非常に手軽な内容と言えます。とはいえ、本作も泣く泣くカットされた90年代のヒット曲が少なくないので、『SO FAR SO GOOD』同様にあくまでビギナー向けの1枚といったところでしょうか。

なお、本作も2022年2月までサブスク上で確認できたものの、気づけば『SO FAR SO GOOD』とともに消えてしまいました。

 


▼BRYAN ADAMS『THE BEST OF ME』
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2021年11月30日 (火)

STING『TEN SUMMONER'S TALES』(1993)

1993年3月9日にリリースされたスティングの4thアルバム。日本盤は同年2月28日に先行発売。

実の父親の死と直面したこともあり、内省的で重苦しさも感じられた前作『THE SOUL CAGE』(1991年)から2年ぶりの新作は、正反対で陽気な作風。スティング(Vo, B)のほか、ドミニク・ミラー(G)、ヴィニー・カリウタ(Dr)、デヴィッド・サンシャス(Key)という布陣を軸に制作されたこともあってか、非常にバンド感の強い内容に仕上がっています。

THE POLICE時代を彷彿とさせる大きなノリのポップロック「If I Ever Lose My Faith In You」を筆頭に、そのタイトルからもわかるようにマカロニウェスタンをパロったカントリーロック「Love Is Stronger Than Justice (The Munificent Seven)」と、頭2曲だけでも過去3作とは異なるテイストであることが伝わります。特にジャズに系統した初期2作からは想像もできないポップさは、ある意味THE POLICE時代からの続きが描かれているようにも映ります。

その考えは「Field Of Gol」や「Seven Days」などといったポップ色の強い楽曲で、さらに確信へと変わります。かと思えば、初期作の延長線上にあるアレンジの「Heavy Cloud No Rain」もあるのですが、楽曲のスタイル自体はロックンロールのフォーマットにあり、このあたりからもスティングが本作で何を示したかったのかがご理解いただけるはずです。

ブギー調の「She's Too Good For Me」、変拍子を用いた「Saint Augustine In Hell」などは“もしTHE POLICEが90年代まで続いていたら”なんて想像してしまいたくなる作風だし、「Everybody Laughed But You」はTHE POLICEからソロを経て再びバンドに戻ったら……なんてこともイメージしたくなる仕上がり。さらに、アルバムのエンドロール的な「Epilogue (Nothing 'Bout Me)」の軽やかさ含め、本当に終始聴きやすいアルバムなんですよね。

また、本作には映画関連の楽曲が2曲含まれており、それもあって認知度がある程度高い作品かもしれません。その中でも「Shape Of My Heart」は映画『レオン』のエンディングで印象的な使われ方をしたこともあり、特に日本のリスナーの中にはこのアルバムがお気に入りという方が少なくないはずです。

楽曲のポップさはさることながら、それを巧みなアレンジ&演奏で支えるバンドエンバーの才能には驚かされるばかり。同作を携えた来日公演、僕も当時日本武道館に足を運びましたが、ヴィニー・カリウタのドラミングの素晴らしさや、ドミニク・ミラーのギタリストとしての多才さに圧倒されたことをよく覚えています。そりゃあこの2人、続く『MERCURY FALLING』(1996年)でも続投するわけです(ドミニクに至っては『THE SOUL CAGE』から3作連続なので、もはや片腕的存在でしょうしね)。

ソロ1作目『THE DREAM OF THE BLUE TURTLES』(1985年)に若干の敷居の高さを覚え、なおかつTHE POLICE時代のテイストを求めるのであれば、本作は入門編としてうってつけの1枚だと断言します。スティングのソロキャリアにおいても、もっとも間口が広くて奥がドロドロ(笑)な1枚ですしね。

 


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STING『THE BRIDGE』(2021)

2021年11月19日にリリースされたスティング通算15作目のスタジオアルバム。

今年3月に過去に制作した他アーティストとのデュエット曲/コラボ曲を集めたコンピ盤『DUETS』(2021年)をリリースしたばかりのスティングですが、新録スタジオ作品としてはTHE POLICE時代を含む過去曲のリワークアルバム『MY SONGS』(2019年)以来2年半ぶり、オリジナル作品としては『57TH & 9TH』以来5年ぶり。過去数作に携わったマーティン・キーゼンバウムとスティング自身のプロデュースにより制作されました。

海外通常盤は全10曲で36分と、トータル37分の前作にも匹敵するコンパクトさ。デラックス盤およびデジタル/ストリーミング向けはボーナストラック3曲を追加した45分という程よい長さ(日本盤はさらにデラックス盤13曲に「I Guess The Lord Must Be In New York City」を追加した14曲入り)。「世界的規模のパンデミックにより人命が奪われ、人と人が離れ離れになり、混乱とロックダウンと未曾有の社会的/政治的混乱に見舞われた1年間に書かれた曲を収録」とのことで、アルバムタイトルの『THE BRIDGE』はこういった経緯から、離れ離れになった人々の間に橋を架けることから導かれたものなんだとか。

レコーディングにはドミニク・ミラー(G)、ブランフォード・マルサリス(Sax)といった古くからの盟友やジョシュ・フリース(Dr)、マヌ・カチェ(Dr)、マーティン・キーゼンバウム(Key)、フレッド・ルノーディン(Synth)といった錚々たる面々が参加。レコーディングの多くがリモートで進められたそうです。

楽曲の多くは3分前後とコンパクトなものが多く、オープニングを飾るシリアスなロックチューン「Rushing Water」を筆頭に、口笛をフィーチャーした親しみやすいポップロック「If It's Love」、穏やかなミディアムチューン「The Book Of Numbers」、エレクトロ色の強いミディアムバラード「Loving You」などバラエティに富んだ仕上がりに。このあたりスティングらしい通常運転と受け取れますが、楽曲のシンプルさにはより磨きがかかり、無駄を極力排除したアレンジ含めモダンなテイストが強まっています。

また、変拍子を用いつつもキャッチーさを失っていない「Harmony Road」、過去の「Field Of Gold」や「Shapes Of My Heart」にも通ずる抒情的なアコースティックバラード「For Her Love」、カントリーや民謡などからの影響も強い「The Hills On The Border」、さらにそこにジャジーさを加えた「Captain Bateman」や「The Bells Of St. Thomas」と、終盤に向けてディープさを強めていき、本編ラストをシンプルなアコースティックナンバー「The Bridge」で締めくくります。

デラックス盤はその後、「The Bridge」の延長線上にあるテイストの「Waters Of Tyne」、ダンサブル&グルーヴィーなバンドアレンジとスキャットのみで進行する「Captain Bateman's Basement」、若干モダンアレンジのオーティス・レディングのカバー「(Sittin' On) The Dock Of The Bay」が続きますが、アルバムの構成としては10曲でちょうどいいような気がします。

この10月で70歳になったばかりのスティングですが、その創作欲や作曲家としての才能はまだ枯れることを知らず、今作でも遺憾なく発揮されています。トータルでロック色の強かった前作『57TH & 9TH』とは若干カラーが異なるものの、延長線的アルバムとして受け取ることもできるし、よりモダンさに磨きがかかっていると同時に40年以上にわたるキャリアを総括するような内容でもある。スティングのファンなら文句なしで楽しむことができ、これから彼の作品に触れてみようと思っているリスナーにも入門編に最適な1枚です。

 


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2019年6月24日 (月)

STING『MY SONGS』(2019)

2019年5月発売の、スティングの通算14作目となるスタジオアルバム。本作はTHE POLICE時代およびソロ名義での楽曲を“リ・ワーク”したもので、EDM系プロデューサー/DJのデイヴ・オーデが手がけた再構築曲(主にソロ楽曲)と、マーティン・キアーズズンバウムがプロデュースしたバンド編成の再アレンジ曲が軸になっています。

まず、ダンストラック風に再構築された冒頭3曲(「Brand New Day」「Desert Rose」「If You Love Somebody Set Them Free」)は賛否分かれるところではないかなと。原曲の完成度が高いし、ライブでのアレンジもその都度さまざまだったとは思いますが、結局はこういう形でリミックス(ですよね?)でお茶を濁すしかなかったのかなと。思えばスティング、過去にも「Roxanne」をパフ・ダディのリミックスでヒットさせていますし、そういった(今の世代が知らないであろう過去の楽曲を現代的にリ・ワークすることで、楽曲の良さを再び浸透させる)狙いもあったのかなと。なので、原曲世代がブーたれるのも理解できるけど、ここはそっと目を瞑っておきましょう。

で、バンド編成で再レコーディングされた楽曲群は主にTHE POLICE時代のナンバーが中心。最近のライブで披露されているアレンジにほぼ近いものばかりで、原曲の良さを残しつつ現編成での個性を打ち出している。かつ、スティングの今の声量/声域に合わせて節回しを変えたり、キーを下げたりしているわけです。

そりゃ、オールドファンはどの曲も原曲への思いが強いでしょうから、ここで展開されているアレンジや演奏には不満もあるでしょう。ていうか、だったらこのアルバムに手を出さなきゃいいわけですが(とはいっても、それでも聴きたくなってしまうのがファンとしての悲しいサガなのも重々理解しています)……。

キャリアとしては最終コーナーを折り返したスティングが、現在の活動と合わせて今一度過去と向き合った結果、こういう作品に着手した。そういう意味では、本作は『57TH & 9TH』(2016年)での手応えがあってこその1枚なのかなと思います。

そりゃあ20〜30代の彼が醸し出す緊張感やスリリングなアンサンブルは皆無ですよ。ただ、今の年齢でなければ出せない安定感と成熟感は20〜30代の彼には出せないものであり、ロックが老いと向き合う/成熟していくことの意味を体現しているという点においては評価すべき作品だと思います。

なんだかんだで名曲しか入っていないし、原曲を収めたベスト盤を聴き飽きたであろう人には新鮮さや新たな魅力を見つけることができるかもしれない、そんな可能性も秘めた作品集。“今の耳”で楽しみたい1枚です。

 


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2019年1月 3日 (木)

STING『...NOTHING LIKE THE SUN』(1987)

スティングが1987年秋に発表した、通算2作目のスタジオソロアルバム。本作からは「We'll Be Together」(全米7位/全英41位)、「Be Still My Beating Heart」(全米15位)、「Englishman In New York」(全米84位/全英51位)、「Fragile」(全英70位)、「They Dance Alone」(全英94位)などのシングルヒットが生まれ、アルバム自体も全米9位、全英1位という好成績に恵まれました。特に「We'll Be Together」「Englishman In New York」が当時ビールやビデオテープのCMソングに使用されたこともあり、日本のファンの間でも馴染み深いアルバムの1枚と言えるでしょう。

前作『THE DREAM OF THE BLUE TURTLES』(1985年)THE POLICE時代の恩恵もあり大ヒットを記録。そういう意味では続く今作でソロアーティストとしてのスティングの真価が問われるわけですが、そういった外野からの声を完全に無視するかのように、このアルバムではジャズを軸にした独自の世界観が展開されています。

アルバムのオープニングを飾る「The Lazarus Heart」のジャズやフュージョンを彷彿とさせるノリ、「Englishman In New York」でのレゲエとジャズをミックスしたテイストは、まさにスティングならではと言えるでしょう。また、「They Dance Alone」後半の展開や、ジミ・ヘンドリクスのカバー「Little Wing」に感じられるインプロ的緊張感は、本作に到るまでに彼が経験したソロツアーが大きく反映されているのではないでしょうか。

そういえば、本作は参加メンバーもそうそうたるもので、ルーベン・ブラデス(Vo, G)、ハイラム・ブロック(G)、エリック・クラプトン(G)、マーク・ノップラー(G)、アンディ・サマーズ(G)、マーク・イーガン(B)、ケンウッド・デナード(Dr)、マヌ・カチェ(Dr)、アンディ・ニューマーク(Dr)、ケニー・カークランド(Key)、ブランフォード・マルサリス(Sax)、ギル・エヴァンス(オーケストラ指揮)、GIL EVANS ORCHESTRAなど、ジャズやフュージョン、ブラックミュージック、ロックなどさまざまなジャンルからトップアーティストが勢揃い。ギル・エヴァンスが参加してるというのが、そもそもポップス/ロック界的には当時、相当衝撃的だったような記憶があります。

『THE DREAM OF THE BLUE TURTLES』と比較すると全体的に穏やかで、ロックやポップスのジャンルにおいてはかなり地味な部類に入る作品だと思います。事実、当時高校生だった自分にはかなり大人な内容で、正直すぐに気に入ったかと言われると微妙でしたし。が、中にはグッとくる楽曲も多かったですし、スティングが活動を重ねアルバムを重ねていくごとに、振り返ってこの作品を聴くと「これ、ものすごいアルバムなんじゃないか……」と少しずつ気づくという。そんな濃さと奥深さを持つ傑作のひとつだと思います。

ですが本作、実はかなり闇の深い1枚でもあります。本作の制作に向かう過程で、スティングは最愛の母親を亡くしています。また、ツアーで訪れた南米で触れた、現地の内戦などでの犠牲者たち……こういった出来事から受けた死生観が、歌詞に落とし込まれている。それがアルバム全体を多く「明るくなりきれない」空気につながっているのではないでしょうか。

また、本作は当時としては破格のフル・デジタル・レコーディング作品。そんな触れ込みもあって、当時のCDとしてはかなり音が良かった記憶が。もちろん、現在はもっと音の良い作品は山ほどあるので、今となってはどうってことのないトピックですが。



▼STING『...NOTHING LIKE THE SUN』
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2019年1月 2日 (水)

ARCADIA『SO RED THE ROSE』(1985)

1985年秋にリリースされたARCADIA唯一のオリジナルアルバム。「Election Day」(全米6位/全英7位)、「Goodbye Is Forever」(全米33位)、「The Promise」(全英37位)、「The Flame」(全英58位)というシングルヒットも手伝って、アルバム自体も全米23位(ミリオン突破)、全英30位という好成績を残しています。

ARCADIAとは、当時活動休止中だったDURAN DURANのサイモン・ル・ボン(Vo)、ニック・ローズ(Key)、ロジャー・テイラー(Dr)が結成したサイドプロジェクト。先にアンディ・テイラー(G)、ジョン・テイラー(B)がTHE POWER STATIONを結成したことを受け、1年遅れでこちらを始動させたわけです。

この面子に加え、アルバムのプロデューサーがDURAN DURANの『SEVEN AND THE RAGGED TIGER』(1983年)などを手がけたアレックス・サドキンという布陣。さらに、アルバムにはゲストプレイヤーとして土屋昌巳(G/ex. 一風堂。後期JAPANのツアーにも参加していましたしね、この流れは理解できます)、カルロス・アロマー(G/デヴィッド・ボウイなど)、デヴィッド・ギルモア(G/PINK FLOYD)、ハービー・ハンコック(Key)、アンディー・マッケイ(Sax/ROXY MUSIC)、スティーヴ・ジョーダン(Dr)、スティング(Cho)、グレイス・ジョーンズ(Cho)などが参加。もうこれだけで、アルバムのテイストがイメージできるかと思います。

で、その中身はDURAN DURANからブラックミュージック寄りのニューウェイブテイストは残しつつパンクロックの要素を排除し、シンセポップ色を強めたもの。DURAN DURANの耽美な世界観を強調させたそのサウンドは、『RIO』(1982年)や『SEVEN AND THE RAGGED TIGER』の延長線上にもあり、その後DURAN DURANが進むかもしれなかった“もうひとつの可能性”と捉えることができます。

というわけで、当然のように「Hungry Like The Wolf」や「The Reflex」といったテキストの楽曲は皆無。ミドルテンポ中心の作風なので、終始安心して聴いていられるかと思います。それもあって、THE POWER STATIONにあった刺激的な要素はゼロで、そこに不満をこぼす人も少なくないのでは。しかし、当時中学生だった自分は不思議とこの「どことなくエロを感じさせる、大人の雰囲気」に惹かれたんですよね。

サイモンの歌とニックのソングライティング&シンセが強く、ロジャーのカラーはほとんど感じらないかもしれません(苦笑)。また、曲によってはグレイス・ジョーンズ(「Election Day」)やスティング(「The Promise」)のコーラスが際立っており、刺激とまでは言わないけど良いフックにはなっているのではないでしょうか。

このアルバムでの世界観にジョン・テイラーが持ち帰ったファンクロックのテイストが加わったことで、DURAN DURANの『NOTORIOUS』(1986年)に続く……と考えると、DURAN DURANというバンドの史実上絶対に欠かせない1枚だと断言できるはずです。

 


▼ARCADIA『SO RED THE ROSE』
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2017年12月14日 (木)

STING『THE DREAM OF THE BLUE TURTLES』(1985)

THE POLICEの活動休止を経て、1985年6月に発表されたスティング初のソロアルバム。「If You Love Somebody Set Them Free」(全米3位)や「Fortress Around Your Heart」(全米8位)、「Russians」(全米16位)、「Love Is the Seventh Wave」(全米17位)とシングルヒットを連発したおかげもあり、アルバムも全米2位まで上昇し、300万枚以上を売り上げる大ヒット作となりました。

本作はオマー・ハキム(Dr)、ダリル・ジョーンズ(B)、ケニー・カークランド(Key)、ブランフォード・マルサリス(Sax)といったジャズ/フュージョン界で名の知られたミュージシャンたちと制作(本作でスティングはギターをプレイ)。そのサウンドもジャズテイストを強めたポップ/ロックサウンドで、“THE POLICEのスティング”らしい内容に仕上がっています。

クールでジャジーなオープニングトラック「If You Love Somebody Set Them Free」にいきなり驚かされるものの、ポップなレゲエソング「Love Is the Seventh Wave」や重厚な「Russians」などを聴くと、「ああ、“あの”スティングだ」と納得させられる。その後もジャズやフュージョンからの影響が強い楽曲がたびたび登場しますが、THE POLICEを通過していれば特に違和感なく楽しめるのではないでしょうか。

確かに派手なギターリフも激しいリズムも、ロックバンドならではの緊張感もここでは希薄です。それを良しとするか否かで本作の評価は分かれるかもしれません。が、ポップアルバムとして接するのであれば、本作は非常にクオリティの高い1枚だと断言できます。曲もしっかり作り込まれているし、各プレイヤーの存在感の強いプレイも圧巻の一言だし。それはそれで緊張感が感じられるのですが、それはロックバンドならではのアレとは別モノ。比較するのはやめておきましょう。

ちなみに5曲目「Shadows In The Rain」は、THE POLICEの3rdアルバム『ZENYATTA MONDATTA』(1980年)のセルフカバー。こちらは原曲と聴き比べてみることをオススメします。スティングがソロで何をやりたかったのかが、明白ですから。

このアルバムも中学生の頃に死ぬほど聴き込んだ1枚。残念ながらこの当時のライブは生で観ることはできませんでしたが、当時の様子はライブビデオなどで確認することができます。



▼STING『THE DREAM OF THE BLUE TURTLES』
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2004年9月 1日 (水)

とみぃ洋楽100番勝負(13)

●第13回「Russians」 STING('85)

 で、そのスティングのソロ作から。やっぱりインパクトはこの曲を含む1枚目が一番だよね。当時中学生だった俺にとって「ジャズ」ってものをより親しみやすくしてくれたのが、このアルバム。ま、厳密には「新鋭ジャズ・ミュージシャンをバックに迎えたロックアルバム」なんだけど。ブランフォード・マルサリス、ケニー・カークランド、オマー・ハキム、ダリル・ジョーンズ‥‥なんだこのメンツ!

 "Russians" って曲自体はジャズでもなんでもない、暗くて社会派な歌詞が印象的なスローソングなんだけど、やっぱり今聴いてもいい曲だなぁ‥‥ほら、俺って暗いからさ。笑

 奇しくも今、ロシアで起きてる事件。そして'85年当時の米ソ(当時はソビエト連邦だったんだよな、まだ)冷戦関係。状況は違っても、重なる部分は沢山ある。いつの時代も犠牲になるのは子供達。

 ちょっと脱線したけど‥‥とにかく名ソングライターだと確信した、この曲聴いて。だから俺はPOLICEよりもソロの方が好きなんだよ。そしてスティングは続くアルバムで、名曲中の名曲、"Fragile" を生み出すわけですよ。

 '90年代以降の、若干後期POLICEを意識したかのようなポップロック路線も好きだけど、このアルバムにある鬼気迫る感覚。これは後にも先にも「ブルータートルの夢」にしか生まれなかったね。それはメンバーによる奇跡でもあり、スティング自身の奇跡でもあったわけだけど。偶然による産物。20年近く経った今聴いても鳥肌立つよ。



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