カテゴリー「Suede」の18件の記事

2024年6月 4日 (火)

THE TEARS『HERE COME THE TEARS』(2005)

2005年6月6日にリリースされたTHE TEARS唯一のオリジナルアルバム。日本盤は同年7月20日発売。

2003年に活動休止を発表したSUEDEのフロントマン、ブレット・アンダーソン(Vo)が同バンドの初期2作(1stアルバム『SUEDE』、2ndアルバム『DOG MAN STAR』)でギタリスト&ソングライターとして活躍すたバーナード・バトラー(G)と約10年ぶりに和解を果たしたことで、THE TEARSと命名された新バンドを2004年に結成します。ブレットとバーニー以外のメンバーは、バーニーのソロ活動を支えてきた日本人ドラマーのマコト・サカモト(Dr)のほか、ネイサン・フィッシャー(B)、ウィル・フォスター(Key)という布陣。

楽曲制作はブレット&バーニーの2人で行われ、アルバムのプロデュースをバーニーが担当。ブレットもアディショナル・プロデューサーとして名を連ねていますが、2000年代に入りTHE LIBERTINESTHE CRIBSなどの作品で培ったバーニーのプロデューサーとしての才能が、ここでも遺憾なく発揮されています。

この2人が再タッグを組むと言われたら、誰もがSUEDE初期の2作で展開されたデカダンな世界観&グラマラスなサウンドを想像することでしょう。しかし、実際にここで鳴らされているのはSUEDE後期、特にバーニー脱退後の3rdアルバム『COMING UP』(1996年)以降の音を下地にしたもので、SUEDEとして当時の最終作でもある『A NEW MORNING』(2002年)との共通点も見受けられます。つまり、本作はポップサイドに振り切った1枚ということになります。

しかし、この2人が揃ったんだから単なるポップアルバムで終わらない。本作で2人がイメージしたのは、デヴィッド・ボウイが初期に残した『THE MAN WHO SOLD THE WORLD』(1970年)『HUNKY DORY』(1971年)という2枚。ボウイが“ジギー・スターダスト”としてグラムロックスターへと君臨する前に残した、ポップでロックでフォーキーなテイスト……つまり、2人にとってのルーツサウンドを今再びここで体現しようと試みたわけです。

確かにSUEDE初期のような危うさは希釈ながらも、90年代前半に彼らがトライした「70年代初期のグラムロックのモダン化」を10年越しに再挑戦したという意思は十分に伝わります。『SUEDE』や『DOG MAN STAR』のあとにこの『HERE COME THE TEARS』を聴いたらつながりは感じられないかもしれませんが、その後のSUEDEが歩んだ道のり、そしてバーニーがMcALMONT AND BUTLERやソロ活動を通じて重ねてきたキャリアを踏まえれば十分に納得できる仕上がりではないでしょうか。

『A NEW MORNING』は悪い意味で「出来上がって」しまっていたブレットのボーカルも、本作ではSUEDE中期までの豪快さが少しだけ復調している。それもそれも、隣で“らしい”ギターを奏でるバーニーの存在が与える影響がかなり大きいはず。オープニングを飾る「Refugees」(全英9位)こそSUEDE末期の延長のようではあるものの、「Lovers」(同24位)や「Two Creatures」などでは2000年代の音で表現されるモダンなグラムロックを存分に楽しむことができるし、「The Ghost Of You」のような繊細さを伴う楽曲では初期SUEDEのシングルカップリング曲で見せた色合いを追体験できる。さらに、アルバム終盤に向けて展開されるディープな世界観も、完全に一緒とないかないものの、どこか初期のSUEDEとイメージが重なる部分がある。当時死滅していたブリットポップやグラムロックをモダンな質感で再構築したという点で、本作が果たした役割は非常に大きなものがありますし、実際に亜洋的にもしっかり作り込まれた良質なロックアルバムだと断言できるはずです。

初期のSUEDEの完全再現を求めていたリスナーには、本作は肩透かしな1枚なのかもしれませんが、ここまでブレットとバーニーそれぞれのたどった道を追ってきた筆者のような人間には、これを否定することはできない。そう考えると、一部のファンにとっては“踏み絵”のような作品なのかもしれませんね。

なお、本作リリース直後の2005年8月には『SUMMER SONIC 05』へ出演するために、ブレット&バーニーは2003年の初来日ツアー以来12年ぶりに揃って来日。本国ではアルバムチャート15位とまずまずの数字を残すものの、同年秋に所属レーベルから解雇されてしまい、以降のツアーはすべて白紙に。2006年にブレットがソロ活動へと移行したのを機に、バンドは1年足らずで活動を終了させたのでした。

 


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2023年11月21日 (火)

MANIC STREET PREACHERS / SUEDE@Zepp Haneda(2023年11月18日、19日)

2022年秋、当初は北米のみで実施されたMANIC STREET PREACHERSSUEDEのダブルヘッドラインツアーが羨ましくて仕方なかったんです。マニックスは2019年から来日が実現していないし、SUEDEに至っては2016年のサマソニ以来とんとご無沙汰。現在の国内での知名度を考えると、単独来日は難しいだけに、この2組で日本に来たらなんとかなるんじゃないか……なんて淡い期待を寄せていたら2023年秋にようやく実現。いやあ、よかったよかった。

東京2公演のみというなかなかシビアな状況ですが、これは2公演とも観ないわけにはいかないと、早々にチケットを確保。初日はフロア後方からまったり観察し、2日目は真ん中あたりで思い切り楽しもうと、それぞれ違った角度から2日間楽しみました。


■11月18日

Img_7844 この日は先行がマニックス。ステージ上のバックドロップが10数年前のベストアルバム『NATIONAL TREASURES - THE COMPLETE SINGLES』(2011年)のジャケット……あれ、最新作『THE ULTRA VIVID LAMENT』(2021年)中心じゃないのか……はい、この時点で萎えました。ただでさえ新作からの楽曲以外は対して変わり映えがないマニックスなので、これは良くも悪くもいつもどおりか、と。

実際、オープニングの「Motorcycle Emptiness」「Everything Must Go」という既視感の強い流れを、冷静に眺めていた気がします。もちろん、久しぶりに生で見れた喜びはありますが、素直に入り込めない。う〜ん。完全なる贅沢病。その後「1985」や「Die In The Summertime」なんてレア曲でアガり、新作からの「Still Snowing In Sapporo」や近作からの「Walk Me To The Bridge」あたりでは高揚感も味わえたかな。

中盤のジェームズ・ディーン・ブラッドフィールド(Vo, G)によるアコースティックパートでは、珍しく「Suicide Is Painless (Theme From MASH)」をセレクト。そして「Slash 'n' Burn」でバンド編成に戻り、「Enola/Alone」や「International Blue」を含むものの王道の流れでクライマックスへ。「Motown Junk」なしの約80分のセットで終了しました。冷静に考えれば選曲や演奏含め、鉄壁の内容なんだけど、デビュー時から夢中になってきたバンドだからこそ自分の中でハードルが上がってるのかな。「もっと無茶してほしい!」と思ってしまうんですよね。そういう意味では、この日の内容は平均点+αといったところでしょうか。

Img_7845 約30分のインターバルを経て、この日のトリであるSUEDEが登場。こちらは完全なる新作モードのライブをぶちかましてくれました。最新作『AUTOFICTION』(2022年)のラストを飾る「Turn Off Your Brain And Yell」から始まる変化球的オープニングも、いかにもひねくれてるし、そこから「Personality Disorder」「15 Again」と新曲を連発する流れも最高。ブレット・アンダーソン(Vo)は若干年齢を感じさせるものの、相変わらずマイクをブンブン振り回しながら暴れまくり。いいぞ、もっとやれ。

新曲3連発で空気を十分に作ったところで、「Trash」「Animal Nitrate」の名曲オンパレード。さらに「Killing Of A Flashboy」なんてレア曲や前作『THE BLUE HOUR』(2018年)収録の名バラード「Life Is Golden」も飛び出し、前半だけで大満足。その後も新作からの楽曲と往年のヒット曲を交えてライブは進行するのですが、すべてがパーフェクト。「The Wild Ones」ではブレットがギター弾き語りを披露し(トラブルもありましたが)、終盤はヒットシングルのオンパレードで大団円。公演が土曜開催ということで、あの名曲披露にも期待したのですが、残念ながらなし。それだけが心残りでした。

セットリスト

MANIC STREET PREACHERS
01. Motorcycle Emptiness
02. Everything Must Go
03. 1985
04. You Stole The Sun From My Heart
05. Still Snowing In Sapporo
06. Die In The Summertime
07. Walk Me To The Bridge
08. From Despair To Where
09. A Design For Life
10. Suicide Is Painless (Theme From MASH)
11. Slash 'n' Burn
12. Your Love Alone Is Not Enough
13. Enola/Alone
14. International Blue
15. Stay Beautiful
16. You Love Us
17. If You Tolerate This Your Children Will Be Next

SUEDE
01. Turn Off Your Brain And Yell
02. Personality Disorder
03. 15 Again
04. Trash
05. Animal Nitrate
06. Killing Of A Flashboy
07. Life Is Golden
08. She Still Leads Me On
09. Can't Get Enough
10. Shadow Self
11. The Wild Ones
12. Everything Will Flow
13. So Young
14. Metal Mickey
15. Beautiful Ones


■11月19日

Img_7852 この日は出演順が入れ替わり、トップバッターをSUEDEが務めたのですが……セトリ、大幅に変えてきやがった! 「She Still Leads Me On」「Personality Disorder」と『AUTOFICTION』の冒頭と同じ流れで、前日のダークな幕開けとは異なる装い。そこから前日にはなかった「The Drowners」(!)を挟んで「Trash」「Animal Nitrate」……気づいたらどんどんフロア前方に移動している自分がいました。そんなの興奮せずにはいられないってば。

しかも、この日はそれ以降がまたすごい。「We Are The Pigs」「Flytipping」「This Hollywood Life」「Filmstar」って流れはどうなのよ。さらに、「The Asphalt World」をニール・コドリング(Key, G)のピアノ伴奏で歌ってくれたり……翌年に控えた2ndアルバム『DOG MAN STAR』(1994年)30周年を前祝いするような選曲を前に、「やっぱり2日間来てよかった」と強く実感するのでした。

そういえば、この日はブレットが突然ステージ上で倒れる場面がありました。どうやら、ステージ上が濡れていて滑ったようですが、あっちゃんの件のあとだけにヒヤッとしたんですよね……その後も元気そうにマイクをブンブン振り回していたのでホッとしましたが。みんな元気に、長生きしてくれ。

Img_7859 SUEDEが前日以上の白熱ぶりを見せたあとだけに、セトリを変える印象のないマニックスは分が悪いなと、ちょっと気持ちが落ち着き始めていたのですが、マニックスはマニックスなりに頑張ってました。演奏はもちろん鉄壁、セトリも序盤は前日と一緒なのですが、この日は「Die In The Summertime」から「Little Baby Nothing」に差し替えるサービスぶりを見せます。おお、いいじゃないか。

さらに、ジェームズのアコースティックパートでは、なんと「(I Miss the) Tokyo Skyline」をワンコーラス披露してから「This Is Yesterday」へと続ける大盤振る舞い。SUEDEのパフォーマンスに対抗意識を燃やしてか、ライブ全体の熱量も前日以上でした。あと、自分の周りのお客さんが海外の方ばかりだったことも影響して、こちら側も気づいたら前日以上の熱気でステージと向き合っていた気がします。単純と言えば単純ですが、そういうシチュエーションも大事ですよね。

マニックスもSUEDEも、どちらも90年代から夢中になって追い続けてきたバンドで、当初はマニックスに肩入れしていたものの、近年はSUEDEに傾きつつある自分。この2日間のレポからもそれは十分に伝わることでしょう。しかし、大好物2つを目の前にして過ごした週末を終え、最終的には「みんな違ってみんないい」精神で両者優勝!でいいじゃないかと。そんなポジティブな気持ちを抱え、帰路に着いたのでした。

セットリスト

SUEDE
01. She Still Leads Me On
02. Personality Disorder
03. The Drowners
04. Trash
05. Animal Nitrate
06. We Are The Pigs
07. Flytipping
08. This Hollywood Life
09. Filmstar
10. Shadow Self
11. The Asphalt World
12. The Only Way I Can Love You
13. So Young
14. Metal Mickey
15. Beautiful Ones

MANIC STREET PREACHERS
01. Motorcycle Emptiness
02. Everything Must Go
03. 1985
04. You Stole The Sun From My Heart
05. Still Snowing In Sapporo
06. Little Baby Nothing
07. Walk Me To The Bridge
08. From Despair To Where
09. A Design For Life
10. (I Miss the) Tokyo Skyline
11. This Is Yesterday
12. Slash 'n' Burn
13. Your Love Alone Is Not Enough
14. Enola/Alone
15. International Blue
16. Stay Beautiful
17. You Love Us
18. If You Tolerate This Your Children Will Be Next

 

2023年1月 4日 (水)

2022年総括

仕事始めのタイミングになりましたので、例年より数日遅いですが2022年のまとめ記事をアップしておきます。

昨年は「アルバム/シングル/楽曲と枠にこだわらず、20作品に縛る」形でまとめ、別途「HR/HM、ラウド編」で別エントリーを作っていましたが、今年はもうそういう枠を全部取っ払って(ジャンル分け面倒くさい)ひとつのエントリーに包括し、「ジャンル/アルバム/シングル/楽曲と枠にこだわらず、30作品に縛る」という形にさせていただきました。これなら一般総括の20作品の中からあえてメタル系を外したり入れたりと悩まなくて済むしね。

というわけで特に順位付けをせずアルファベット→50音順で30作品、掲載していきます。

 

Afterglow『独創収差』(楽曲)

 

ARCHITECTS『the classic symptoms of a broken spirit』(アルバム/レビュー

 

asmi「PAKU」(楽曲)

 

DEF LEPPARD『DIAMOND STAR HALOS』(アルバム/レビュー

 

Foi『HER』(アルバム)

 

GREYHAVEN『THE BRIGHT AND BEAUTIFUL WORLD』(アルバム/レビュー

 

THE HELLACOPTERS『EYES OF OBLIVION』(アルバム/レビュー

 

Ho99o9『SKIN』(アルバム/レビュー

 

IBARAKI『RASHOMON』(アルバム/レビュー

 

ITHACA『THEY FEAR US』(アルバム/レビュー

 

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2022年10月14日 (金)

SUEDE『BLOODSPORTS』(2013)

2013年3月18日にリリースされたSUEDEの6thアルバム。日本盤は同年3月27日発売。

「See you in the next life.」という言葉を残し、2003年末のライブをもって活動停止したSUEDE。その後ブレット・アンダーソン(Vo)は元メンバーのバーナード・バトラー(G)とTHE TEARSを結成するも、短命で終わり、以降はソロ活動を続けていました。しかし、2010年にキャリティコンサートのためにブレット、マット・イズマン(B)、サイモン・ギルバート(Dr)、リチャード・オークス(G)、ニール・コドリング(Key, G)という3rdアルバム『COMING UP』(1996年)、4thアルバム『HEAD MUSIC』(1999年)の黄金期メンバーで一夜限りのライブを敢行。このライブの成功を受け、以降もヨーロッパのさまざまな音楽フェス参加や2万人規模の単独コンサートを次々に行い、再始動が本格的なものとなっていきます。

その流れで、5thアルバム『A NEW MORNING』(2002年)以来実に10年半ぶりとなるオリジナルアルバム制作にも着手。プロデューサーに初期3作(1993年の1stアルバム『SUEDE』、1994年の2ndアルバム『DOG MAN STAR』、そして3rdアルバム『COMING UP』)を手掛けたエド・ビューラーを迎え、まさに初期3作の魅力をバランスよく配分した「SUEDEよ、再び」な習作的1枚を完成させます。

基本的には『SUEDE』と『DOG MAN STAR』の中間に位置する(悪く言えばいいとこ取り)サウンド/楽曲ですが、「Hit Me」など要所要所に『COMING UP』期を思わせる“ガッツのあるポップロック”も配置されている。思えば『COMING UP』期のメンバーで『SUEDE』や『DOG MAN STAR』をモチーフにした作品は過去に制作したことがなかったこともあり、「バーナード・バトラー抜きでそれをやると、こうなるんだね」という納得感のある内容と言えるのではないでしょうか。もちろん、良い意味で。

過去2年のライブ活動でSUEDEのヒットチューンを久しぶりに演奏したことで、従来の「SUEDEらしさ」を自身の体に叩き込み、その上で臨んだ「SUEDEよ、再び」な習作ですから、そりゃあこうなるわな、と。『HEAD MUSIC』や『A NEW MORNING』で攻めすぎた(=実験がすぎた)ことで、再び原点を取り戻した……もし“あのまま”歴史が続いていたら、2005年くらいにはこんなアルバムが誕生していたのかもしれません。そういう意味ではちょっと遅すぎた1枚であり、そのわりには「可もなく不可もなく」な1枚ではないでしょうか。平均点は軽く超えているものの、従来のファンからすれば「こんなものじゃないぞ」と。

本国イギリスでは最高10位を記録し、それなりの成功を収めた今作。ここで得た手応えが、より攻めていながらも“らしさ”に満ち溢れた次作『NIGHT THOUGHTS』(2016年)へとつながっていくわけですから、ここでのワンクッションは必要だったと今なら断言できますよね。SUEDEの全キャリア中では重要度の低い1枚かもしれませんが、聴きやすさやトータルバランスにおいては非常に優れた良作だと付け加えておきます。

 


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2022年10月 9日 (日)

SUEDE『AUTOFICTION』(2022)

2022年9月16日にリリースされたSUEDEの9thアルバム。

再結成後4作目、全英5位をマークした前作『THE BLUE HOUR』(2018年)から4年ぶりのオリジナルアルバム。再結成以降在籍していたEdsel / Demon Music Groupを離れ、新たにBMGと契約(日本では過去2作と変わらずワーナー・ミュージックジャパンから発売)した本作は、4thアルバム『HEAD MUSIC』(1999年)以来23年ぶりの全英TOP3入り(最高2位)を記録するなど、好意的に受け入れられているようです。

プロデューサーにデビュー作『SUEDE』(1993年)から3rdアルバム『COMING UP』(1996年)までの3作や復活後の『BLOODSPORTS』(2013年)などを手掛けた名手エド・ビューラー(PULP、WHITE LIES、THE COURTEENERSなど)を迎えた本作は、ブレット・アンダーソン(Vo)曰く「僕らのパンクレコード」とのこと。今年でシングル「The Drowners」でのデビューから30周年という節目を迎えた彼らが、新章に突入したと同時に原点回帰ともいえる躍動感に満ち溢れた作品集を完成させたという点では、「僕らのパンクレコード」という例えもあながち間違っていないのかもしれません。

前作『THE BLUE HOUR』ではアラン・モウルダー(NINE INCH NAILSSMASHING PUMPKINSRIDEなど)と初タッグを組み、実験的ながらもいかにもSUEDEらしいスタイルを展開させていましたが(アランは今作のミックスでも関わっています)、今作で聴くことのできる瑞々しいロックサウンドは確かに初期衝動生が感じられるものであり、デビュー作『SUEDE』とは違った角度から攻めるデビューアルバムと言えなくもない。彼ららしいグラマラスな要素は随所に散りばめられており、そのシンプルでストレートな(それでいて、どことなく捻くれている)サウンドやアレンジは間違いなくSUEDEそのもの。だけど、要所要所で新しさも見つけることができ、単なる懐古主義では終わっていない。そのさじ加減含めて、非常にバランス感に優れた1枚だと思いました。

シングルカットされた「She Still Leads Me On」や「15 Again」、そして「The Only Way I Can Love You」などは間違いなく過去の王道感を踏襲した“これぞ”な楽曲ばかり。「Drive Myself Home」のようなスローバラードもその流れを汲むものといえるでしょう。そんな中、「Black Ice」や「It's Always The Quiet Ones」のようなダークでムーディな楽曲があったりするのは、どことなく原点に立ち返ったような印象もある。

そして何より、「That Boy On The Stage」や「Shadow Self」のようなグラマラスな楽曲には不思議とTHE SMITHSあたりとの共通点も見受けられ、ラストナンバー「Turn Off Your Brain And Yell」にはJOY DIVISIONを彷彿とさせる空気感が漂っている。このへん含め、SUEDEおよびブレットが目指した「僕らのパンクレコード」というのは70年代後半のオリジナルパンクそのものではなく、THE SMITHSやJOY DIVISIONのようなバンドを含む「精神性や音楽との向き合い方におけるパンク」を意識した(あるいは無意識のうちにそこへ向かった)のではないでしょうか。

大ヒット作『COMING UP』のような突き抜けるほどのポップネスはここにはないかもしれないけど、それでも僕らが愛した『SUEDE』や『DOG MAN STAR』(1994年)でのSUEDEを重なる部分がたくさん見つけられるし、なにより過去2作でトライで得た経験が見事に活かされた形で原点回帰を成功させている。アルバムのクライマックスを飾る「What Am I Without You?」や「Turn Off Your Brain And Yell」を聴けば、本作が間違いなくSUEDEが過去を大切にしたままネクストレベルへ到達したことがご理解いただけるはずです。30周年にしてとんでもない傑作を生み出したなあ。ここまできたら、早くこれらの楽曲をライブで聴かせてください!

 


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2020年8月23日 (日)

SUEDE『HEAD MUSIC』(1999)

1999年5月初頭にリリースされたSUEDEの4thアルバム。日本盤は海外に先駆け、同年4月下旬に発売されました。

ブレット・アンダーソン(Vo)、マット・オズマン(B)、サイモン・ギルバート(Dr)にリチャード・オークス(G)、ニール・コドリング(Key, G)を加えた新編成で制作した前作『COMING UP』(1996年)がデビュー作『SUEDE』(1993年)以来の全英1位を獲得し、本国では初のプラチナアルバムに。さらに同作からは「Trash」(全英3位)や「Saturday Night」(同6位)など5曲ものTOP10ヒットを生み出し、バンド史上最大のヒットを飛ばすことになりました。

前作と同じ編成で再びスタジオ入りしたSUEDEは、それまでのエド・ビューラーからスティーヴ・オズボーン(NEW ORDERPLACEBOU2など)へとプロデューサーを変更し、そのサウンドにもテコ入れ。グラムロックの影響下にあったタフでポップなバンドサウンドに、ダンスミュージック的エレクトロニクスの要素を加えた新機軸を打ち出します。

ヒットした「Electricity」(全英5位)や「Everything Will Flow」(同24位)、あるいは「She's In Fashon」(同13位)など前作の延長線上にあるポップロックをベースにしつつ、そこに「Savoir Faire」や「Down」、「Head Music」のようにエレクトロの色合いを強めた楽曲が並ぶ。かと思えば、「Can't Get Enough」(同23位)や「Elephant Man」のようなドギツいグラムロックもしっかり用意されていて、楽曲単位では非常に“SUEDEらしい”ナンバーばかりなのです。

しかし、それなのに不思議と“らしくない”という批判の声が多かったアルバムでもある。きっと、『COMING UP』に当時の“らしさ”を求めたブリットポップ・リスナーからしたらクラブミュージックに片足突っ込んだ“脱ロック”的な姿勢が気に入らなかったんでしょうね。

ちゃんと聴けば、「Down」のような楽曲は前作までにも存在したし、メロディそのものは非常に素晴らしいものがあるはず。なのに、その表現方法がこれまでと違ったものだから……悲しいですね。

確かに全体的なクオリティとしては、中途半端さは否めません。もっとエレクトロの色を強めて舵を切ったほうが潔かったのかもしれない。けど、それをやれない(やらない)のもSUEDEの信念であり、同時に弱点でもあったわけですが。

本当にね、1曲1曲は非常に素晴らしいんですよ。シングルカットされた楽曲はどれも高品質ですし、「He's Gone」や「Crack In The Union Jack」みたいに刺さる曲もあるし。前作の完成度が高すぎたばかりに、ちょっと割りに合わないグレーな評価が下されてしまった、非常に残念な1枚。でも、キャリア3作目となる全英1位はしっかり獲得しているんですけどね。

にしても、『HEAD MUSIC』というタイトルでこういうサウンドを提供するセンス、好きだなあ。

 


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2019年10月 4日 (金)

SUEDE『COMING UP』(1996)

1996年9月にリリースされた、SUEDE通算3作目のオリジナルアルバム。

前作『DOG MAN STAR』(1994年)完成直前にバーナード・バトラー(G)が脱退し、同作のツアーには当時若干18歳のリチャード・オークスを起用。そのまま正式加入すると、バンドは新たにニール・コドリング(Key)を加えた5人編成でレコーディングに突入。過去2作を手がけたエド・ビューラーを迎えて完成されたのが、このキャリア最大ヒット作となった3rdアルバムです。

本作からは先行シングル「Trash」がまず全英3位と過去最高位を記録。これを受けて、アルバムもデビュー作『SUEDE』(1993年)に続く2作目の全英1位を獲得しました。その後も「Beautiful Ones」(同8位)、「Saturday Night」(同6位)、「Lazy」(同9位)、「Filmstar」(同9位)と計5曲ものTOP10ヒットを生み出し、アルバム自体もキャリア初となるプラチナムに認定されました。

過去2作にあったダークさや、淫らで危うい影の部分が払拭された本作は、突き抜け感がハンパなく、まばゆいほどの光を放っているポジティブな1枚。〈We're the trash you and me〉と歌われるリード曲「Trash」は、このフレーズを筆頭に歌われている内容は過去2作を踏襲したものと言えますが、今作ではそのネガティブさを肯定し、受け入れ、それでも前に進もうとするポジティブさが伝わってきます。

つまり、精神性は何ら変わっていないのに、それらを表現する手段がマニアックなものからポピュラリティの高いものへとシフトしたことで、それまで見向きもしなかった人までもを巻き込むことに成功した。これが彼らの大ブレイクの理由だったのかなと。確かにリリース当時、初期のいなたさを愛好するバーナード派からはそっぽを向かれました。しかし、そういったネガティブ要素を払拭するほどの勢いが当時に彼らに備わっていたのもまた事実です。

とにかく、どの曲もよく作り込まれていてキャッチー。そりゃあアルバム収録曲の半分がシングルカットされても不思議じゃないわ。しかも、時代はブリットポップ最盛期。彼らもその流行にうまく乗ることができたわけです。

初期2作の完成度も捨てがたいですが、本作の無敵感もまた何物にも変えがたいものがある。どれが一番好きかと問われると本当に悩みますし、日によって変わってくるとは思いますが、やっぱりアンセミックなロックチューン「Trash」から始まり、再びアンセミックなバラード「Saturday Night」で幕を下ろす本作はタイミングや心情を選ばず、いつ聴いてもベストだと思います。

そういった意味では、もっとも初心者にオススメしやすい1枚かもしれません。

 


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2019年6月 7日 (金)

SUEDE『DOG MAN STAR』(1994)

1994年10月に発表された、SUEDEの2ndアルバム。

デビューアルバム『SUEDE』(1993年)はブリットポップ前夜のリリースながらも全英1位を獲得し、早くもトップバンドの仲間入りを果たします。と同時に、ブレット・アンダーソン(Vo)のスキャンダラスな発言が一人歩きすることで、音楽面以上にそちら側で話題になることも増え、そういった状況に嫌気がさしたバーナード・バトラー(G)は2ndアルバム完成直前にバンドを脱退。ギターのレコーディングはすでに完了していたこともあり、本作『DOG MAN STAR』はバーナード在籍時最後のスタジオ作品となってしまいました。

アルバムリリースと前後して、オーディションを経て新ギタリストのリチャード・オークスが加入。当時まだ17歳というその年齢に驚かされましたが、個人的には「バーナードのいないSUEDEなんて……」という思いが強く、この時期の彼らに対しては消極的だったことをよく覚えています。

しかし、それと作品の完成度は別の話。1stアルバムも確かに素晴らしい内容ですが、現在までにおいてSUEDEというバンドのなんたるかが的確に表現されているのが実はこの2ndアルバムではないかと信じています。それくらい寸分の隙もない、徹底した完成度の1枚なのです。

いわゆるギターロック然としたイメージの強かった前作と比べると、本作はその要素も残しつつ(「Heroin」「New Generation」など)、よりダークでディープな方向へと突き進んでいます。どこか黒魔術を思わせる不気味なオープニングトラック「Introduction The Band」や、重量級のロッカバラード「This Hollywood Life」なんて、前作では考えられなかった方向性でしょう。ブラスセクションをフィーチャーした「We Are The Pigs」もまた然り。

ですが、本作最大の聴きどころ(山場)は多数用意されたスローナンバー、これなのですよ。前半だったら超名曲の「The Wild Ones」や「The Power」といったドラマチックでセンチメンタルな楽曲群は、グラムロック期のデヴィッド・ボウイと完全に重なるし、後半のクライマックスとなる「The 2 Of Us」から「Still Life」までの4曲の流れは本当に壮絶なものがあるし、中でも9分半にもわたる「The Asphalt World」のアレンジ(およびバーナードのギタープレイ)・構成は圧巻の一言です。この後半のためだけに本作を購入しても決して損しないと言い切れるほど、名作中の名作なのです。

ここで初期のスタイルを完璧な形で完結させてしまったSUEDE。ギタリストの交代ということもあり、この後の方向性を模索することになるのは仕方ないわけですが、にも関わらず次作『COMING UP』(1996年)で新たな最盛期を築き上げてしまうのですから、本当にこの時期の彼らは神がかっていたわけです。

 


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2018年12月31日 (月)

2018年総括(1):洋楽アルバム編

2018年もあと半日で終わりということで、毎年恒例となった今年の総括を書いていこうと思います。

その年のお気に入りアルバムを洋楽10枚(+次点10枚)、邦楽10枚(+次点10枚)、2018年気になったアイドルソング10曲(+次点5曲)、そして今年印象に残ったライブ10本をピックアップしました。アルファベット順、五十音順に並べており、順位は付けていませんが特に印象に残った作品には「●」を付けています。

特にこの結果で今の音楽シーンを斬ろうとかそういった思いは一切ありません。ごく私的な、単純に気に入った/よく聴いたレベルでの「今年の10枚」です。

まずは洋楽アルバム編です。


■洋楽10枚(アルファベット順)

今年はまず最初に、次点の10枚から紹介していきたいと思います。たまにはやり方を変えて、新鮮さを保たないとね。

<次点>
・BLOOD ORANGE『NEGRO SWAN』
・CHVRCHES『LOVE IS DEAD』
・JACK WHITE『BOARDING HOUSE REACH』(レビュー
・KAMASI WASHINGTON『HEAVEN AND EAERTH』
・KURT VILE『BOTTLE IT IN』
・THE LEMON TWIGS『GO TO SCHOOL』
・MUSE『SIMULATION THEORY』(レビュー
・NINE INCH NAILS『BAD WITCH』(レビュー
・STARCRAWLER『STARCRAWLER』(レビュー
・VOIVOD『THE WAKE』(レビュー

メタル系以外は、自宅でまったりしているときに流していることが多かったか、移動中に聴く頻度が多かったものが中心。BLOOD ORANGEやMUSEなんて、まさにそれですね。CHVRCHESはフジロック以降、がっつり聴いていた記憶が。KAMASI WASHINGTONはレビュー仕事でディスク1のみ先に届いて、こっちばかりリピートしてたんだよな。THE LEMON TWIGSは常にセレクトするというタイプではないんだけど、個人的趣味からしてやっぱり外せないなと。KURT VILEも然り。

STARCRAWLERは今年1月のリリースだったけど、ちょっと12月まで持続させられなかったな、自分の中で。今年後半、もうひと跳ねあったら、自分内評価もまた変わったのかも。

さて、続いてここからが本編。僕が選んだ2018年の洋楽アルバム10枚です。

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2018年11月 9日 (金)

SUEDE『THE BLUE HOUR』(2018)

2018年9月リリースの、SUEDE通算8枚目のスタジオアルバム。再結成後としては3作目のアルバムとなり、過去2作でプロデュースを務めた(初期作でおなじみの)エド・ビューラーが離れ、新たにアラン・モウルダーが初プロデュースを担当しています。

復活後の『BLOODSPORTS』(2013年)、『NIGHT THOUGHTS』(2016年)、そして本作は三部作を想定して制作されたそうで、その最終章となる今作は映画のサントラ的テイストが好印象だった前作を引き継ぐ、“これぞSUEDE!”なお耽美アルバムに仕上がっています。

本作のタイトル『THE BLUE HOUR』とは、日の出前と日の入り後に発生する空が濃青色に染まる時間帯を指します(アルバムジャケットで表現されている、まさにこの絵ですね)。つまり、深夜を表現した『NIGHT THOUGHTS』から夜明けまでの短い時間帯、その刹那を凝縮したのがこのアルバムなわけです。もう、この時点でSUEDEそのもの。聴く前から「これは傑作に決まってる!」と勝手に決めつけていました。

で、実際に聴いたら……これ、キャリア最高傑作じゃないか?って言いたくなるくらい、本当に素晴らしい内容なんです。問答無用のデビューアルバム『SUEDE』(1993年)はもちろん、続く『DOG MAN STAR』(1994年)や大ヒット作の3rdアルバム『COMING UP』(1996年)に並ぶ、いや、僕個人としては(現時点では)それらを超えたと言いたくなるくらい、圧倒的な内容だと思うのです。

序盤のドラマチックな流れといい、その楽曲群を見事な形で表現する楽器隊、「これしかない!」と言わんばかりに唯一無二なブレット・アンダーソン(Vo)のボーカル。すべてが完璧なバランスの上で成り立っており、そのどれもが他者を邪魔しない控えめさを持ち合わせている。なのに、「これじゃなくちゃダメ!」と納得するぐらいの説得力と存在感も兼ね備えている。だけど、どこかいびつ……うまく表現できないのですが、本当にそんなアルバムなのです。

パワフルなギターロックもあれば、ストリングスを効果的に用いたスローナンバーも多数用意。むしろ、そっちが中心なのですが、だからといってロックバンド的なパンチが弱いかと言われると、全然そんなことがない。むしろ、このバンドの場合はそっち側でノックアウトを狙ってくるから油断大敵。気づけばハートを鷲掴みにされ、目には涙が……みたいなことになるので、聴く際には細心の注意を。

曲単位でこれが好き!というよりも、アルバム全体を通してひとつの曲(組曲)みたいなアルバム。そう思っていたのですが、ふとしたときにYouTubeでたどり着いた「Life Is Golden」のMVにドキリとさせられ、気づいたらこの曲を延々リピートしていた。歌詞の内容とチェルノブイリの廃墟感を表した映像に後頭部を思いっきり殴られたような衝撃を受けました。個人的にこんな1曲がまたSUEDEの中から出てくるなんて、想像もしてなかったから本当に不意打ちを食らった気分です。

地味だけど豪華。そして濃厚。2018年はまだ終わっていませんが、間違いなく本年度のベストアルバムです。



▼SUEDE『THE BLUE HOUR』
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