SUPERCHUNK『WILD LONELINESS』(2022)
2022年2月25日にリリースされたSUPERCHUNKの12thアルバム。
前作『WHAT A TIME TO BE ALIVE』(2018年)から4年ぶりの新作。前作も4年半というスパンを経て届けられた1枚だったので、ここ最近のリリースペースどおりといったところでしょうか。といっても、その間にはアコースティックアルバム『ACOUSTIC FOOLISH』(2019年)もありましたし、特にここ2年はコロナの影響もあったので、もしかしたら思ったよりも早く着手&完成したんじゃないかという印象もありますが。
前作は当時アメリカ大統領だったドナルド・トランプに向けた“怒り”がダイレクトに表現された、まさにアメリカで生活する彼らの日常に根付いた1枚でしたが、今作では昨今のコロナ禍で失ったものを歌うのではなく、逆に感謝すべきことについて歌っているとのこと。そのポジティブシンキングは音楽面にもダイレクトに表れており、随所にフィーチャーされたピアノに加え、「Highly Suspect」でのブラスセクションやタイトルトラック「Wild Loneliness」でのアンディ・スタック(WYE OAK)のサックス、「This Night」でのオーウェン・パレットによるストリングスなど、多彩さに満ちあふれた楽曲群を楽しむことができます。
また、そういった彩り豊かなサウンドを豪華ゲスト陣がバックアップ。「On the Floor」には元R.E.M.のマイク・ミルズがボーカルで参加したほか、「Endless Summer」にはTEENAGE FANCLUBのノーマン・ブレイク&レイモンド・マッギンリーがハーモニーで加わり、さらにシャロン・ヴァン・エッテン、フランクリン・ブルーノ、トレイシーアン・キャンベル(CAMERA OBSCURA)などバラエティ豊かな面々が華を添えています。
こうした多数のゲスト参加が実現したのも、今作をリモートレコーディングで制作したことが大きな要因。バンド4人のベーシックトラックも離れ離れで録音が進められたことで、住む場所や国が異なる面々にも気軽に声をかけることができた。また、誘われたほうもデータのやり取りで済むことから自宅などで気軽に録音できる。対面できないという点での不便さは残りますが、ある意味では以前よりもコラボレーションが手軽に済ませられるようになった利点のほうが大きい。こうした意外な共演は今後もさまざまな場面で増えていくんでしょうね。
そういったオープンマインドでポジティブな姿勢は楽曲自体にもストレートに表現されており、前のめり加減が印象的だった前作と比べるとアコースティックギターを随所に使用したことでゆったりと落ち着いた空気が全体を覆っている。もちろん、疾走感の強い楽曲も複数存在しますが、それらも以前より余裕を持って楽しんでいる様子が伝わる。制作過程を知らずに聴いたら、きっとスタジオで膝をつけ合わせてセッションしながらレコーディングしたアルバムだと感じるんじゃないでしょうか。それくらい、全体から伝わるリラックス感と優しさは2022年という時代だからこそ強く響くものがあります。素敵じゃないか。
オルタナティヴロックとかパワーポップとか、そういうジャンル分けすらもはや不要な、普遍性の強い1枚をキャリア30年超のバンドがリモートで作り上げたという事実。脱帽ものです。現実に疲れたとき、いろんなことを諦めざるを得ないとき、このアルバムを再生するだけで心の豊かさを取り戻せる。そんな1枚としてこの先も愛聴していくことになりそうです。
▼SUPERCHUNK『WILD LONELINESS』
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