2017/09/17

THERAPY?『NURSE』(1992)

北アイルランド・ベルファスト出身のトリオバンドTHERAPY?による、1992年秋発売のメジャー1stアルバム。1991年後半と1992年前半にそれぞれミニアルバム『BABYTEETH』『PLEASURE DEATH』をインディーズから発表し、のちにメジャーのA&Mと契約し、リリースされたのがこの『NURSE』というフルアルバムになります(『BABYTEETH』『PLEASURE DEATH』の2作品に収録された全楽曲は、のちに北米地区で『CAUCASIAN PSYCHOSIS』と題したコンピレーションアルバムとしてリリース)。

『BABYTEETH』や『PLEASURE DEATH』で展開された「オルタナインディロックとインダストリアルメタルをミックスしたサウンド」「カンカン鳴るメロタムの音と反復するパーカッシブなリズム、それに合わせてシークエンスされるギターリフ」「無機質だけど、どこかエモーショナルなメロディ」といった要素が、本作ではより強まっており、それが早くもこのバンドの個性として確立されつつあることが伺えます。オープニングを飾る「Nausea」はもちろんのこと、続くシングルヒット曲「Teethgrinder」はまさにそのもっともたる1曲と言えるでしょう。

かと思えば、次作『TROUBLEGUM』(1994年)以降その色合いがより強まっていく、ダークでひんやりとしたミディアム/スローのエモーショナルな要素が「Gone」あたりから感じられ、メジャーデビュー作の時点で“今後の大変貌の予兆”が散りばめられています。特にチェロを導入した叙情的な「Gone」、ダブのテイストを取り入れつつもどこかダークな「Deep Sleep」あたりはJOY DIVISIONに通ずるカラーがあり、このバンドがどこから生まれ、どこに向かっていこうとしているかが何となく理解できるのではないでしょうか。

ヘヴィなギターリフなメタリックな曲調が一部混在していることから、どうしてもHR/HMの流れを組むバンドと認識されそうですが、どちらかと言えば同時代にアメリカで勃発したグランジムーブメントに対するヨーロッパからの返答だったのでは……なんて言ってしまっては大袈裟でしょうか。残念ながら、彼らに続くような個性的なバンドがそこまでおらず、時代はもっと肉感的なダンスミュージック(マッドチェスターなど)へと接近。続くブリットポップにもかすらなかったものの(だからMANIC STREET PREACHERSTHE WiLDHEARTSといったバンドと共闘したのも頷ける話)、次作『TROUBLEGUM』を機にチャート的にも成功を収めるので、まぁよかったのかなと。



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投稿: 2017 09 17 12:00 午前 [1992年の作品, Therapy?] | 固定リンク

2017/04/20

THERAPY?『DISQUIET』(2015)

北アイルランド出身の3人組バンド、THERAPY?が2015年に発表した通算12枚目(インディーズからのミニアルバム2枚を含めたら14枚目)のオリジナルアルバム。オリジナル作品としては2012年の『A BRIEF CRACK OF LIGHT』から3年ぶりで、今作から新たにAmazing Recordsというレーベルに移籍しています。とはいえ、2003年の『HIGH ANXIETY』からは日本盤も発表されていないので、ここ日本で生活するリスナーにとってはそういった小さな話題はどうでもいい話かもしれませんが。

90年代半ばに若干ポップな作風でメジャーヒットを記録した彼らですが、1999年の5thアルバム『SUICIDE PACT – YOU FIRST』以降は初期のハードコア路線に回帰しつつも、独自のスタイルを築き上げてきたTHERAPY?。そんな彼らもすでに20年選手になり、大ヒット作となった2nd『TROUBLEGUM』(1994年)、3rd『INFERNAL LOVE』(1995年)がリリースから20年経ったことで古巣から2作のデラックスエディションも発売されました。当時のシングルカップリング曲や未発表テイクなどを含む2枚組(『TROUBLEGUM』のみ3枚組)は当時のファンには懐かしく、初めて彼らに触れるという若いリスナーには新鮮に映ったかもしれません。

そういった原点回帰的なリリースを経て発表された今作『DISQUIET』。1曲目の「Still Hurts」を聴いて驚いたファンは多かったのではないでしょうか。ここ最近の彼らにしては非常にストレートな、それでいてキャッチーなメロディと適度なヘヴィさを伴ったコンパクトな楽曲……つまり『TROUBLEGUM』『INFERNAL LOVE』で聴けた“おなじみの”路線だったのです。もちろん単なる焼き直しでは終わっておらず、そこには現在のTHERAPY?ならではの乾いたサウンドや重苦しさ・息苦しさもしっかり表現されています。

そのまま、こちらも初期ファンには嬉しい「Tides」へと続いていく構成。その後も『TROUBLEGUM』でのキャッチーさ、『INFERNAL LOVE』での若干宗教がかった暗くて冷たい感触がいたるところに感じられるのですから。とにかく本作はメロディが非常にわかりやすく、耳に残る楽曲が多い。もちろんそれ以前の(特にここ10年くらいの)作品も独自のスタイルが築き上げられており、あれはあれで嫌いではありませんでしたが、自分がTHERAPY?のどこに惹かれていたかを考えると、この原点回帰は大歓迎と言いたくなるわけです。

アンディ・ケアンズ(Vo, G)の声質やキーの低さに若干の寂しさを感じるものの、それ以外は否定のしようがないくらいにカッコいい楽曲ばかり。最初から最後まで、ここまですんなりと聴けてしまったTHERAPY?のアルバムは本当に久しぶりじゃないでしょうか。それを「引っ掛かりがなさすぎる」「ヤワくなった」と否定するリスナーもいるかもしれませんが、そういう方々が「Vulgar Display Of Powder」(タイトルはもちろん、PANTERAの名作アルバムタイトルをもじったもの)のような楽曲を聴いてどう思うのか、ぜひ聞いてみたいものです。

特にここ日本では黄金期と比べたら知名度がないに等しいTHERAPY?。リリースから2年も経ちましたが、いまだに飽きずに楽しめる本作は一聴の価値ありです。



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投稿: 2017 04 20 12:00 午前 [2015年の作品, Therapy?] | 固定リンク

2004/05/09

THERAPY?『CAUCASIAN PSYCHOSIS』(1992)

アイルランド出身のトリオバンド(現在は4人組)、THERAPY?が'91年にイギリスでリリースした1stミニアルバム「BABYTEETH」(7曲入り)と、'92年初頭に同じくイギリスでリリースされた2ndミニアルバム「PLEASURE DEATH」(6曲入り)を1枚にまとめて北米地区でリリースしたのが、今回紹介する「CAUCASIAN PSYCHOSIS」というアルバム。ミニアルバムにしろこの編集盤にしろ、インディーズからのリリースで、このリリースを経て'92年後半にメジャーの「A&M」から正式なファースト・フルアルバム「NURSE」でメジャーデビューするわけですが、まぁこれらの初期音源はそのファーストへの習作というか、インディーバンドならではの「これから何かが始まる感」が強い、面白い音源集になってるわけですよ。

THERAPY?というと、時期によって音楽的にもちょっとずつ変化があるので一概に「こういうバンド!」と断言し辛い面もあるんですが、まぁ基本的には「ヘヴィなギター、ヘヴィーに反復されるギターリフ、哀愁味漂うメロディー」ってことになるんでしょうか? ただ、このアルバムの前半部(1stミニアルバム「BABYTEETH」)の頃はまだメロディー面は弱いんですよね。どちらかというと「ノリ」を重視した作風で、例えば1曲目の "Meat Abstract" なんて反復されるギターリフがまるでテクノのそれみたいだし、リズムもダンス系のそれに近いし、かなりその辺を意識したアレンジになってたりします。で、無機質なサンプリングが被さることで、更にインダストリアル系の色合いも強いし。また "Loser Cop" のイントロ部ではジャジーのサックスが被さっていて、かなりフリーキーな印象を受けます。というように、特に「これがTHERAPY?サウンドだ!」という限定がし辛い、ちょっと散漫な印象を受ける7曲なんですよね。勿論悪くないと思うし、これだけ聴いたら「何だか面白そうな存在だな~」と思うでしょうし。実際、俺もそのひとりだったしね。

で、アルバム後半部(「PLEASURE DEATH」)になると、メジャー盤「NURSE」移行の作風にかなり近づきます。いや、既にここで「THERAPY?サウンド」が一度完成したと言ってもいいかもしれません。その後を感じさせる "Dancin' With Manson" とか名曲と名高い "Potato Junkie" 辺りはそのままメジャー盤に入っていてもおかしくないですしね(特に後者は後にリリースされるベスト盤にも選出されてますし)。

実は俺が最初に聴いたTHERAPY?の音源集もこの2ndミニアルバムでした。この音源がリリースされた当時('92年初頭)、俺はイギリスに短期留学中でして、現地での音楽情報収集に「Metal Hammer」や「Kerrang!」といった音楽誌を読んでいたんですね。その両方でこの「PLEASURE DEATH」というミニアルバムが取り上げられていて、しかも「Kerrang!」においては5つ星が付いてたと記憶してます。それで買ったんだよな、これ。で、ハマるまではいかなかったんだけど、何だか良さげなバンドだなーってことで気に入って。

帰国して暫くしてから、友達が「THERAPY?ってバンド、知ってるかー?」って俺に聞いてきて。で、「あー知ってる知ってる。向こう(イギリス)でも話題みたいだよー」って話になって。そこでその友人は俺に「アルバムいいよなー」って言うんですよ。「アルバム!? ミニアルバムじゃなくて??」って話になって‥‥そこで初めて「CAUCASIAN PSYCHOSIS」の存在を知ってね。ちょっとブートっぽい作りが怪しいかなぁと思ったんですが、収録曲を見ると後半に先のミニアルバム収録曲が全部入ってるんで「あー、別に海賊盤でもなさそうだなー」と。調べるとアメリカ向けに2つのミニアルバムを1枚にまとめたものだった、と。しかもこの編集盤をリリースしてるのが、インディーレーベルとしても老舗的存在な「Touch And Go」だったりしたもんだから(最初気づかなかったんだよね、それに)‥‥一体何事だ、と。しかもその頃には既に「A&M」との契約も決まっていたし‥‥アメリカではグランジで盛り上がっている中、イギリス(正確にはアイルランド)からはそれとは違った波が訪れようとしてるなぁ‥‥MANIC STREET PREACHERSといい、そのすぐ後に登場するTHE WiLDHEARTSといい‥‥そんな予感めいたことを感じさせてくれたのが、このTHERAPY?でした。ま、上にも書いたように、俺がこのバンドにハマっていくのは、更に1年以上経ってからの話なんですけどね。それはまた別の機会にってことで。

THERAPY?をこれから聴こうって人には絶対にオススメしない1枚ですし、オリジナルアルバムを全部聴いてから最後に手を出しても遅くない作品集だと思いますよ。実際、ベスト盤にもここから数曲入ってますし、そこで初期の作風が気に入ったら手を出すもよし、といった感じかな。



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投稿: 2004 05 09 05:14 午後 [1992年の作品, Therapy?] | 固定リンク