カテゴリー「Thin Lizzy」の7件の記事

2023年1月26日 (木)

BLACK STAR RIDERS『WRONG SIDE OF PARADISE』(2023)

2023年1月20日にリリースされたBLACK STAR RIDERSの5thアルバム。日本盤未発売。

前作『ANOTHER STATE OF GRACE』(2019年)から3年4ヶ月ぶりの新作。2021年にスコット・ゴーハム(G/THIN LIZZY)とチャド・スゼリガー(Dr/ex. BREAKING BENJAMIN、ex. BLACK LABEL SOCIETY)が相次いで脱退し、新たにLAを拠点に活動するザック・セント・ジョン(Dr)が加入するも、新たなギタリストを加えることなくBLACK STAR RIDERSは4人編成で活動を継続することを決意します。

その後、デビュー時から在籍してきたNuclear Blast Recordsを離れ、新たに名門Earache Recordsと契約。プロデューサーには2ndアルバム『THE KILLER INSTINCT』(2015年)からバンドに関わり続けているジェイ・ラストン(ANTHRAXSONS OF APOLLOARMORED SAINTなど)を迎え、リードギターをクリスチャン・マルトゥッチ(G/STONE SOURコリィ・テイラー)とリッキー・ウォリック(Vo, G)とで分け合いながら制作を進めました。

基本路線はこれまでと一緒で、リッキーらしいTHE ALMIGHTYの男臭い哀愁感漂うハードロックに、スコットこそいなくなってしまったものの、それでもバンドのアイデンティティとしてキープし続けているTHIN LIZZYからの影響を散りばめた、王道感の強いUK/アイリッシュロックが展開されています。彼らにモダンな要素を求めるなんてことはありえないし、そんな彼らの姿も見たくない。そういった意味では、ファン納得の1枚ではないでしょうか。

オープニングを飾るタイトルトラック「Wrong Side Of Paradise」がどことなく『JUST ADD LIFE』(1996年)あたりのTHE ALMIGHTYと印象が重なるのは、最近リッキーがTHE ALMIGHTYの再結成について「絶対にないなんて言わない」とSNSで発言したことでの補正もあるのかな。なんとなくですが、スコットがいなくなったことで、今まで以上にTHE ALMIGHTYっぽさが強まっているのは気のせいでしょうか。

かと思えば、「Hustle」や「Better Than Saturday Night」ではモロにTHIN LIZZY節を展開。コード使いがまんまTHIN LIZZYな後者にはDEF LEPPARDのジョー・エリオットもハモりでゲスト参加しており、それっぽさを強調させることに成功しています。カッコいいったらありゃしない。

序盤に派手めな楽曲を揃える一方で、中盤に入ると地味でマニアックな楽曲が続きます。そんな中、THE OSMONDSのカバー「Crazy Horses」のタフなアレンジに光るものが見つけられ、今までどおりなのにネクストレベルに片足ツッコミ始めた感も伝わる。そんな予感めいたものを提示しつつ、「Don't Let The World (Get In The Way)」や「Green And Troubled Land」などで再び加速し、序盤こそダークだけど実はソウルフルっていう良曲「This Life Will Be The Death Of Me」で締めくくる終盤の流れも良し。デジタル限定のスペシャル・エディションにはさらに「Cut 'N' Run」「Suspcious Times」が追加されており、どちらも捨て曲と呼ぶには少々勿体ない仕上がり。ただ、「This Life Will Be The Death Of Me」でエンディングを迎えるのがアルバムとしては正しいので、あくまでオマケ程度に受け取っておくのが吉。

本作完成後にはクリスチャン・マルトゥッチがコリィ・テイラーとの活動に専念するためにバンドを脱退。WAYWARD SONSのサム・ウッドが新メンバーとして正式加入。基本的には4人編成で活動を続けるものの、今年2月からスタートするバンドの10周年記念英国ツアーにはスコットに加え、創設メンバーのひとりジミー・デグラッソ(Dr)もゲスト参加するそうです。それはそれで観たいぞ。

 


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2021年9月26日 (日)

JOHNNY THUNDERS『SO ALONE』(1978)

1978年10月にリリースされたジョニー・サンダースの1stソロアルバム。

1975年のNEW YORK DOLLS脱退を経て、一緒に脱退したジェリー・ノーラン(Dr)とTHE HEARTBREAKERSを結成。パンクムーブメントがイギリスで勃発する1977年に唯一のアルバム『L.A.M.F.』を発表しますが、そこから1年に初のソロアルバムを完成させます。

スティーヴ・リリィホワイト(U2、XTC、ULTRAVOX、モリッシーなど)を共同プロディーサーに迎え、レコーディングにはSEX PISTOLSスティーヴ・ジョーンズ(G)&ポール・クック(Dr)、フィル・ライノット(Ba, Vo/THIN LIZZY)、スティーヴ・マリオット(Harp, Piano, Vo/SMALL FACES、HUMBLE PIE)、クリッシー・ハインド(Vo/THE PRETENDERS)、ウォルター・ルー(G/THE HEARTBREAKERS)などジョニーの交友関係の幅広さを感じらせる面々が多数参加。『L.A.M.F.』の延長線上にありながらも、ソロならではのパーソナルな側面を感じさせる楽曲も含む、バランス感に優れた1枚に仕上がっています。

カバー曲が多いのも彼ならではといったところで、VENTURESの「Pipeline」のカッコよさ(HANOI ROCKSのカバーはこれが元でしょう)をはじめ、THE SHANGRI-LAS「Great Big Kiss」、オーティス・ブラックウェル(THE WHOなどもカバーした)「Daddy Rollin' Stone」、NEW YORK DOLL時代のセルフカバー「Subway Train」など彼らしいセレクト/アレンジで楽しませてくれます。

かと思えば、今日までマイケル・モンローGUNS N' ROSESなどさまざまなアーティストにカバーされてきた「You Can't Put Your Arms Around A Memory」や「Ask Me No Questions」といったミディアムスローのアコースティックナンバー、NEW YORK DOLLSの延長線上にありながらも時代に呼応したサウンドの「Leave Me Alone」、SEX PISTOLSに対するディスソング「London Boys」などオリジナルソングも魅力的。1992年のCD化の際にはオリジナルの10曲に加え、T. REX「The Wizard」のカバーなどを含む4曲が追加されており、こちらも捨て曲なしで楽しむことができるはずです。

『L.A.M.F.』はオリジナル版に音質面で難があり、のちに数々の“別ミックス”が続発するという珍事を生み出しましたが、そういった意味ではジョニー・サンダースのソロワークスにおける入門盤は本作がいいのかなと。『L.A.M.F.』も破壊力も捨てがたいですが、ソングライティング面、アレンジ面での総合力では本作のほうが数歩かなと感じています。事実、僕もジョニーのソロ作品は本作(1992年の初CD化時)からでしたしね。NEW YORK DOLLSからの流れで聴くにもちょうど良い気がします。

ジョニーのヘロヘロボーカルも、どこか初期のキース・リチャーズを彷彿とさせるものがありますし。そういった意味でも本作は“究極のヘタウマ芸術”における、ひとつの到達点ではないでしょうか。

 


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2019年9月 9日 (月)

BLACK STAR RIDERS『ANOTHER STATE OF GRACE』(2019)

2019年9月6日に世界同時リリースとなった、BLACK STAR RIDERSの4thアルバム。

全英6位と大健闘した前作『HEAVY FIRE』(2017年)から2年半ぶりに発表された本作ですが、ここまでの間にバンド内に大きな変化が訪れました。それは、アルバム発表後のジミー・デグラッソ(Dr)脱退と、ツアー終了後のデイモン・ジョンソン(G)の脱退というアクシデント。前者はチャド・スゼリガー(ex. BREAKING BENJAMIN、ex. BLACK LABEL SOCIETY)を迎えて乗り越えましたが、後者であるデイモン脱退はバンドに大きな影響を及ぼしたはずです(とはいえ、デイモンの離脱は友好的なものであり、以降もTHIN LIZZYやリッキー・ウォリックとのプロジェクトには参加するとのこと)。

結果、その後新たに決定した南米ツアーをTHUNDERのルーク・モーリーがサポート参加することでことなきを得、2019年に入ってから新ギタリストとしてSTONE SOURのクリスチャン・マルトゥッチが加入。リッキー・ウォリック(Vo, G)、スコット・ゴーハム(G)、ロビー・クレイン(B)にチャド&クリスチャンという新編成で制作されたのが、このニューアルバムなわけです。

プロデュースを手がけたのは、2ndアルバム『THE KILLER INSTINCT』(2015年)や前作『HEAVY FIRE』のミキシングを担当したジェイ・ラストン(ANTHRAXSONS OF APOLLOARMORED SAINTなど)。BLACK STAR RIDERSのことを熟知している人間が手がけたこともあってか、非常にナチュラルでリラックスした内容に仕上がっています。

オープニングトラック「Tonight The Moonlight Let Me Down」からして、完全無欠のTHIN LIZZY節。特にこの曲はサビでタイトルを歌い上げることで、サビ入りが同じ〈Tonight〜〉ってことで「Jailbreak」がフラッシュバックするんですよね。曲調的にも非常に近いものがありますし、これはナイスオマージュじゃないでしょうか。

続く「Another State Of Grace」のマイナー調3連ビートも“いかにも”だし、「Ain't The End Of The World」も「そうそう、これこれ!」と言いたくなるくらいの“らしさ”に満ち溢れているし。

かと思えば、ハモンドオルガンをフィーチャーしたファンキーなノリの「Soldier In The Ghetto」や、アコースティック色を強めた「Why Do You Love Your Guns?」「What Will It Take?」などバラエティに富んだ楽曲も含まれている。これまで同様、「単なるTHIN LIZZYのコピー」ではなく「THIN LIZZYをリスペクトし、オマージュしながらもオリジナリティを極めていく」姿勢は変わっていませんし、むしろそれぞれの要素が強まっているのかなという印象を受けました。うん、良き良き。

クリスチャンからソングライティング面でのインプットがあったようですし、新編成による大きな変化は本作以降に訪れるのかなという気がしないでもないですが、これはこれで非常に良くできた新世代クラシックロックアルバム。安心して楽しめる1枚です。

 


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2019年5月24日 (金)

THIN LIZZY『THUNDER AND LIGHTNING』(1983)

1983年3月にリリースされた、THIN LIZZYの通算12枚目にして最後のスタジオアルバム。

解散が決定してから制作されたアルバムって、その多くが“やっつけ”だったり過去のパブリックイメージに沿った想定範囲内の内容だったりすることが多いんだけど、これは異常にテンションが高く、かつ過去のイメージに捉われず新境地に到達してしまったという異色の1枚です。

フィル・ライノット(Vo, B)、スコット・ゴーハム(G)、ブライアン・ダウニー(Dr)という黄金期のメンバーに、前作『RENEGADE』(1981年)から加入したダーレン・ワートン(Key)に、本作が初参加のジョン・サイクス(G)という5人で制作。ジョン・サイクスがソングライティング面で大健闘したのかというと、ジョンの名前は「Cold Sweat」で確認できるのみ。ジョンが加入したのは本作のレコーディング直前で、すでに大半の楽曲は完成していたそうですから、またジョンのような若いミュージシャンが加わったことで演奏に熱が入ったってことなのかもしれませんね。

前のめりなスピードチューン「Thunder And Lightning」のスリリングな構成、ダークで穏やかな「The Sun Goes Down」、メロディアスハードロック「The Holy War」「Cold Sweat」など正統派HR/HMファンにもアピールする楽曲を含みつつも、「Baby Please Don't Go」や「Bad Habits」「Heart Attack」のように従来のTHIN LIZZYファンにも馴染みやすい楽曲もしっかり用意されている。完全に変わったのではなく、バンドとしての軸は残しつつも時代に歩み寄ってヘヴィなスタイルを取り入れた。それがこの進化の理由なのかもしれません。

フィルの味わい深い中音域で歌われる楽曲群は、当時主流だったハイトーンやがなるようなボーカルとは相反するもので、それがどこかパンク的でもあり。そこがTHIN LIZZYを唯一無二のバンドとして知らしめた要因といえるでしょう。事実、「Thunder And Lightning」はバックトラックだけ聴けばスピードメタル的な作風ですが、フィルのボーカルが乗ると急にパンクロックっぽくなるから不思議です。

古くからのファンには賛否あるようですが、僕は初めて聴いたTHIN LIZZYのスタジオアルバムがこれだったので、やっぱり思い入れが強いんですよね(生粋のジョン・サイクス・ファンなもので)。でも、ジョンが弾いているから云々を抜きにしても、本作は非常に素晴らしいハードロックアルバムだと断言できます。

最後に、本作で好きなギタープレイのほとんどが、ジョンのものではなくてスコットのプレイだという事実も書き残しておきたいと思います。

 


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2018年1月13日 (土)

THIN LIZZY『LIVE AND DANGEROUS』(1978)

1978年初夏にリリースされた、THIN LIZZY初のライブアルバム。本作は1976年のロンドン公演、および1977年のフィラデルフィア&トロントでのライブから抜粋された音源(一部、1978年にパリのスタジオで録り直されたものも収録)が、アナログ盤では2枚組として、CDになってからは1枚にまとめられリリースされております。

時期的には名盤『JAILBREAK』(1976年)から『JONNY THE FOX』(1976年)、『BAD REPUTATION』(1977年)といったアルバムが連発された期間のライブ録音であり、バンドとしては非常に脂の乗ったタイミングだったことは間違いありません。もちろん、だからこそ音源として残しておこうという思いも少なからずあったはずですから。特にイギリスでは当時の最新スタジオ作『BAD REPUTATION』が全英4位という過去最高位を記録したあとだけに、ここで過去の楽曲をひとまとめしたカタログ的1枚を作っておこうという思いもあったことでしょう。しかも、録音時期や状態が異なる楽曲の数々を勢いに乗ったバンドのライブ演奏で表現することで、このバンドの魅力が最大限に伝わるはずですしね。

だって、冒頭からいきなり「Jailbreak」「Emerald」の2連発ですよ。ライブのオープニングにふさわしいワイルドな「Jailbreak」から、このバンドの本質的部分が端的に表れた「Emerald」へとつなぐ流れは圧巻ですし、そこからポップで心地よい「Southbound」、ライブバンドTHIN LIZZYの魅力が遺憾なく発揮された「Rosalie (Cowgirl's Song)」、レゲエビートを導入したダンサブルな「Dancing in the Moonlight (It's Caught Me in Its Spotlight)」と、本当に序盤5曲の流れは完璧。さらにそこから、中盤には名バラード「Still In Love With You」があったり、以降もドラマチックな「Cowboy Song」、さまざまなアーティストにカバーされてきた代表曲「The Boys Are Back In Town」、グルーヴィーな「Don't Believe A Word」など名曲が目白押しなわけですよ。

さらに、終盤にはアッパーな「Are You Ready」、軽快なブギー「Suicide」、コール&レスポンスが気持ちいい「Baby Drives Me Crazy」、ストレートなロックチューン「The Rocker」と続いて終了。ちなみに「Baby Drives Me Crazy」で登場するハーモニカは、かのヒューイ・ルイスが吹いていることで有名だったりします(HUEY LEWIS & THE NEWS結成前のヒューイが参加したCLOVERが当時THIN LIZZYのオープニングアクトを務めていたため実現)。

すでに『BAD REPUTATION』では3曲しかレコーディングに参加していなかったブライアン・ロバートソン(G)にとって、最後の参加作品となってしまった本作。そのサウンドからも当時のバンド内の緊張感が伝わってくるような気もしますし、だからこそ生み出すことができたバンドマジックも存在している、真の意味での絶頂期の1枚と言えるでしょう。もしTHIN LIZZYのアルバムをどれから聴いていいか迷ったら、まずは本作を手にすることをオススメします。



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2017年3月 9日 (木)

BLACK STAR RIDERS『HEAVY FIRE』(2017)

THE ALMIGHTYのリッキー・ウォリック(Vo, G)、元THIN LIZZYのスコット・ゴーハム(G)を中心に結成された、“THIN LIZZYの正統的後継バンド”BLACK STAR RIDERS。彼らが2015年の2ndアルバム『THE KILLER INSTINCT』に続いて発表したのが、本作『HEAVY FIRE』です。2月初頭に発表された今作は、すでにイギリスで初登場6位という好成績を残しています。

もともとは“フィル・ライノットのいないTHIN LIZZY”がライブ活動の延長で、オリジナル曲を発表する上でTHIN LIZZYの名前を使わないため、そして「THIN LIZZYの物語を次のステップに進めるため」に新た結成されたのがBLACK STAR RIDERSというバンド。現在はリッキー、スコットのほか、BROTHER CANEなどで活躍したデイモン・ジョンソン(G)、ヴィンス・ニールのソロプロジェクトやRATTに在籍したロビー・クレイン(B)、Y&TやMEGADETHなど数々のバンドで活動し、最近はRATTにも参加しているジミー・デグラッソ(Dr)という5人で活動しています。

確かに本作にはTHIN LIZZYの“香り”がそこらじゅうから感じられます。それはリッキーの「どことなくフィル・ライノットに似た」男臭い歌声だったり、独特な節回しを含むメロディだったり、随所にフィーチャーされるツインリードギターだったり……それらがミックスされることでTHIN LIZZYっぽい“香り”になるのですが、あくまで“っぽい”止まり。そこにアイリッシュトラッド的な要素ではなく、アメリカンロック的な大らかなノリやブルース、フォークなどのテイストが加わることで独自の世界観が作り上げられています。

今作は前作同様、アメリカ・ナッシュビルでレコーディングを敢行。プロデューサーには前作から引き続きニック・ラスカリニクス(ALICE IN CHAINSDEFTONESFOO FIGHTERSなど)を迎えて制作されており、そのへんも本作の方向性に大きな影響を与えているのかもしれません(それ以前にバンド内のアメリカ人比率が高いことも大きいと思いますが)。THIN LIZZYが本来持ち合わせていた音楽的“アイリッシュ訛り”が払拭され、よりワールドワイドで戦える音に昇華されています(もちろんこれは、THIN LIZZY元来のサウンドがワールドワイドで戦えないという意味ではありません。「クセが弱まったぶん、より幅広い人たちに聴いてもらえる体制が整った」ということです)。

王道THIN LIZZY調の「Testify Or Say Goodbye」みたいな曲を残しつつも、全体ではTHIN LIZZYテイストは調味料程度で、リッキーやスコットなどのメンバーが本来持つ個性がより強く出始めています。それを良しとするか、それともなしとするかで本作の評価は大きく分かれるかもしれません。個人的には全体のバランス感が絶妙で、過去2作以上にお気に入りな1枚です。

 


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2004年1月 4日 (日)

THIN LIZZY『BBC RADIO ONE LIVE IN CONCERT』(1992)

先日、「THIN LIZZY、歴代ベスト・ライヴ・アルバムに選ばれる」というニュースを取り上げたんですが、ここで選ばれたのは「LIVE AND DANGEROUS」という初期の名ライヴアルバムなんですね。もうこれは聴いていて当たり前なライヴ盤なわけですよ、俺からすると。'70年代のリティッシュロックを語る上で(ま、正確にはフィル・ライノットがアイリッシュってこともあって、厳密にはブリティッシュロックではないのかもしれませんが)外せない1枚なわけですよ。例えば俺的には‥‥イギリス人ではないけど、イギリスからブレイクしていったという意味では外せない‥‥AC/DCの「IF YOU WANT BLOOD YOU'VE GOT IT」と同じくらいの意味合いを持つ作品なわけですよ。

で、そのTHIN LIZZYなんですが、バンド存続時に2枚のライヴ盤を出してるんですね。ひとつが上に挙げた「LIVE AND DANGEROUS」、そしてもう1枚(正確には2枚組なので1組と呼ぶべきか)が解散時のツアーをまとめた「LIFE」という作品。編成も音楽性も異なる2種類のライヴ盤なのですが、ファンならどちらも抑えておきたいアルバムですよね。

解散後暫くして‥‥'86年1月4日にフィルが亡くなります。そして'90年代に入り、何故かTHIN LIZZYが再評価される機会が増えます。未発表曲を含むベスト盤がリリースされたり、ラジオ音源を使用したライヴ盤が出回ったり‥‥今回紹介するアルバムも、そういう意味では「未公認」に近い形でリリースされたライヴ盤なのですが‥‥けどこれ、歴史的価値の点で考えると非常に重要な1枚な気がするんですよね。

ここに収められた音源は、'83年8月に出演したイギリス「READING FESTIVAL」で演奏した際のものです。この時のライヴは当時、英BBCラジオで放送され、この音源もその為にレコーディングされたものです。なので商品化を目的にレコーディングされたものではないので、音質も最高とは言い難いレベルです(ま、そんなに悪くはないですけど、所々酷い箇所も見受けられます)。当日、同フェスのヘッドライナーとして出演した際の演奏が、ほぼ完全収録という形で収められたこのライヴ盤が、何故そんなに希少価値があるのか‥‥それは、このライヴが正真正銘の「THIN LIZZYのラストライヴ」だったからなのです。

本来、彼等は'83年初頭に「THUNDER AND LIGHTNING」というスタジオアルバムを発表し、それに伴うツアーで解散することになってました。資料によると同年5月の日本公演がラストになる予定だったそうです。が、このフェアウェル・ツアーが大盛況だったこともあり、プロモーター側がどんどん追加公演を増やしていき、解散が先延ばしになり、結局3ヶ月も延長されてしまった、というのが真相みたいですが‥‥どちらにしても、英国を代表する大フェスティバルで最期を迎えることができたのは、ある意味幸せだったのかもしれませんね。

演奏された曲目はラストアルバム「THUNDER AND LIGHTNING」からの4曲を含む、正にベストヒット的内容になってます。たった14曲ということもあって、確かに完全に納得がいく選曲とは言い難いですが、それでも「あぁ、こういう形か‥‥」と個人的には納得ができるんですけどね。フェスだからね、どうしても7~80分程度でしょ、どんなに最長でも。そんな場所でもラストでは "Still In Love With You" を10分近くに渡って演奏してしまうんですから。しかもそこでのスコット・ゴーハムとジョン・サイクスのギターバトルがまた凄いのなんのって。最後の最後で力を振り絞って1音1音を奏でてる様が目に浮かぶようなプレイなんですよね。個人的にも共に大好きなギタリストなので、尚更ですよね。

そうそう、最初この音源を聴いた時(まだその頃は「LIFE」を聴いてなかったんです)、てっきりジョン・サイクスのプレイだと思ってた方が、実はスコット・ゴーハムのものだったことを知らされた時、もの凄いショックを受けましたからね。だってさ、メチャクチャ若返ってるんだもん、スコットのプレイが。ジョンに感化されて凄い速弾きとかしてるのね。"Thunder & Lightning" とか聴くと凄いよね。初期の頃の、シンプルだったTHIN LIZZYが好きだったファンには不評なラストアルバムだけど、俺はこれ、LIZZYの作品でも3本指に入るくらい好きだし。メタリックだけど、曲自体はメロディアスでポップなんだよね。そこは間違いなくフィルの持ち味なんだよな、と。ジョン・サイクスの才能も正直、まだまだ完全に開花したとは言い難いものですしね、この頃は(結局「ジョン・サイクスらしさ」が完全開花したのって、WHITESNAKEで「サーペンス・アルバス」を制作してる時期でしょ?)。

このライヴだと、やはり個人的にピークとなるのは "Emerald" 以降の流れですかね。ここから "The Cowboy Song" ~ "The Boys Are Back In Town" ~ "Suicide" で一旦本編終了して、その後 "Rosalie" ~ "Dancing In The Moonlight" ~ "The Cowgirl Song" のメドレーがあって、最後の最後に "Still In Love With You" で聴かせ/歌わせ/泣かせて終わるという構成。実は前半は新曲や当時未発表だった "A Nihgt In The Life Of A Blues Singer"(確か後のフィルのソロシングルに収録されたんでしたっけ?)といった新しめの曲が中心なんですよ‥‥限られた時間を考えれば、バランス的には申し分ないのかもしれませんね。

実はこのラストライヴ音源集、現在ではなかなか手に入りにくい一品みたいなんですね。俺が持ってるのは国内盤なんですが、これをリリースしていたのが、今は亡き「アルファ・レコード」なんです(当時、YMOやSOFT BALLETといったアーティストのリリース元。現在はソニーがここの音源を再発してますが、それも国内アーティストに関してのみ)。だから‥‥権利関係がどうなってるのか判りませんが、少なくとも再発は暫く有り得ないでしょうね。となると、輸入盤なんですが‥‥amazonでも品切れ状態が続いてるようです。もし店頭でこのCDを見つけたなら、とりあえず買ってみることをオススメします。あ、その前にまず「LIVE AND DANGEROUS」やスタジオアルバム(ベストでも可)を聴いているのが大前提ですけどね。

最後に‥‥あれから18年経ちましたか。当時中学生だった俺は、結局リアルタイムでTHIN LIZZYを通過することはありませんでした(何せ最初にフィルの事をしったのが、ゲイリー・ムーアーとのデュエット曲 "Out In The Field" ですからね)。後追いで、しかも'90年代に入ってから彼等に夢中になった俺ですが‥‥やはりいいものは、いつ聴いてもいいんですよ。カッコイイ音を、素直にカッコイイと言える。それが素敵なんですから。



▼THIN LIZZY『BBC RADIO ONE LIVE IN CONCERT』
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