TIN MACHINE『TIN MACHINE II』(1991)
1991年9月2日にリリースされたTIN MACHINEの2ndアルバム。日本盤は同年9月4日発売。
ソロキャリアを一旦ストップさせて、バンドの一員に徹することで新たな“ムーブ”を求めたデヴィッド・ボウイ。1989年に1stアルバム『TIN MACHINE』を発表するも、イギリスで3位、アメリカでは28位とそこまで大きな成功を収めることはできませんでした。その後、1990年のソロキャリアを総括するツアー(および、ソロ時代のカタログリイシュー)を経て、それまで在籍したEMIを離れて新興レーベルのVictory Musicと新たに契約し、本作を完成させます。
バンドメンバーはボウイ(Vo, G)、リーヴス・ガブレルス(G)、トニー・セイルス(B)、ハント・セイルス(Dr)と前作と同様。プロデューサーには前作から引き続きティム・パルマー(TEARS FOR FEARS、オジー・オズボーン、U2など)が参加し、「One Shot」のみヒュー・パジャム(THE POLICE、GENESIS、ピーター・ガブリエルなど)がプロデュース&ミックスを手がけています。また、前作では全14曲中5曲がボウイ単独で書き下ろされた楽曲でしたが、今作はボウイ単独は「A Big Hurt」1曲のみ。「Sorry」に至ってはハント単独名義での楽曲ですし、この曲と「Stateside」ではハントがリードボーカル担当と、完全にボウイが4分の1に徹しようと務めていることが伺えます。
楽曲は前作よりもより産業ロック/ハードロック的な質感が増しており、ボウイのソロ作でいえば直近の『NEVER LET ME DOWN』(1987年)にもっとも近いんじゃないでしょうか。ただ、あのアルバムが80年代半ば的な音だったのに対し、こちらはより1990年前後の質感に近付いており、感触的にはそこまで悪い印象は受けません。
ただ、曲から“ボウイらしさ”が伝わらない。大半の楽曲はボウイとリーヴスの共作で、演奏もリーヴスの派手なギターが目立つアレンジ。ボウイはお膳立てされたトラックの上で好きに歌っている……といったところでしょうか。「Baby Universal」や「You Belong In Rock N' Roll」など、確かに今聴いても水準以上の仕上がりだと思います。だけど、ボウイがキャリアを総括する際にここからどの曲を選ぶかと言われると非常に困ってしまう。そんな歯痒い1枚とも言えるのです。
あと、個人的に一番グッときたのがROXY MUSICのカバー「If There Is Something」というのもどうかと思いました。ボウイ以外が歌うヌルいブルースロック「Stateside」や「Sorry」は、純度の高いボウイを求めて本作に触れるのならば蛇足以外の何ものでもないですし、やはり全体的に「無理して聴かなくていいかな」という空気が漂っているのは否めないかな。うん、ボウイのカタログで最後に聴くべき番外編だと思っておけば間違いありません。
そんなこと書いてますが、このアルバム。日本では現在廃盤状態。海外では2020年7月にMusic On CDを通じて最初されていますが、デジタル配信は現在まで未解禁。日本のみならず海外のSpotifyにもApple Musicでも聴くことができない状況です。これに関しては随分前から海外でも話題になっており、本作だけがISO/Parlophone(現在カタログを管理するレーベル)以外からのリリースであることなどがデジタル配信未解禁の理由ではないかと言われています。もしデジタル解禁するならリリース30周年の2021年に踏み切ったはずですが、そんな噂一切なかったですしね。この先、気軽に聴くことができる日が来るのかどうか……まあ中古CDなら安価で入手可能なので、気になる方はAmazonなりディスクユニオンなりで探してみてはどうでしょう。
▼TIN MACHINE『TIN MACHINE II』
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