TNT『INTUITION』(1989)
1989年初頭にリリースされた、TNTの4thアルバム。前作『TELL NO TALES』(1987年)が“北欧メタル”の流れに乗り、ここ日本でも高く評価されたことを受け発表された今作。前作で見せたポップでキャッチーな路線を押し進めた、非常に耳障りの良い1枚に仕上がっています。
オープニングのインタールード「A Nation Free (Intro)」でのドラマチックな展開は、往年のQUEENを思わせるものがあり、これから始まる煌びやかな世界への期待を高めるに十分な役割を果たしてくれます。で、そこからどんな曲に続くのかと思えば、それまでのTNTからしたら異色の「Caught Between The Tigers」。跳ね気味のリズムが印象的な、世が世ならファンクメタルと呼びたくなるような1曲で聴き手を驚かせます。
そんな予想外な流れから、リードシングル「Tonight I'm Falling」へと続くのですが、この王道ポップメタルを初めて聴いたときの感動といったら……キラキラしたメロディはもちろんのこと、それを華麗に演出するバンドアンサンブルをはじめ、トニー・ハーネル(Vo)のハイトーンボーカルやロニー・ル・テクロ(G)のテクニカルなギターソロなど、とにかくすべての要素が完璧な形で合致した、傑作中の傑作と言えるでしょう。
さらにそこから、分厚いコーラスとドラマチックなアレンジが素晴らしいバラード「End Of The Line」、先の「Tonight I'm Falling」をよりポップかつキャッチーに昇華させたタイトルトラック「Intuition」と続き、アルバム前半はあっという間に終了。後半はヘヴィなリフとグルーヴィーなリズム、パワフルなポーカルの相性も抜群な「Forever Shine On」から始まり、ポップ路線の「Learn To Love」、ロニーが歌うおふざけ調の短尺曲「Ordinary Lover」、「Tonight I'm Falling」や「Intuition」と並ぶポップチューン「Take Me Down (Fallen Angel)」、北欧のバンドらしい陰りと感動的なメロディ&アンサンブルが絶妙なハーモニーを生み出すバラード「Wisdom」で幕を下ろします。
全10曲で37分と標準よりも短めの作品で、インタールード的な楽曲が2曲含まれているので歌モノは実質8曲となりますが、前作も全11曲で30分強という短さだったので、それと比べたら……とは思いつつも、もう2曲くらい欲しかった印象も。ですが、この10曲で完璧な構成を構築してしまっているので、ほかにどんな曲が加えればいいのか悩ましいところ。これはこれで正解だったんでしょうね。
ちなみに本作、当時としてはかなり音質の素晴らしいアルバムだった印象があります。ギターの音色やドラムの質感など、当時としてはかなり異色でしたよね。確かドラムに関しては、ケネス・オディイン(Dr)がバスドラ、スネア、タム、シンバルなど曲に合った最良の音をサンプリングし、それをトリガーだったかエレドラだったかを使って叩くという、緻密な作業が繰り広げられていたそうなんです(と、当時の音楽誌で読んだ記憶があります)。今でこそそういった手法は珍しくないですが、30年前の、しかもハードロックバンドでここまで徹底して作り込んでいたのって、おそらくDEF LEPPARDぐらいじゃないかって気がします。あとは『OUT OF THIS WORLD』(1988年)期のEUROPEとか。そう考えると、本作の方向性って“北欧版『HYSTERIA』”と言えるんじゃないかな……言い過ぎですか?
前作にあったメタリックなファストチューンは皆無ですが、ここまでに名前が挙がったようなバンドに興味がある方なら絶対に興味を示す1枚だと思います。日本ではなぜか本作のデジタル配信およびストリーミングは行われていませんが、ぜひ盤で聴いてみることをオススメします。(※2019.10.09.追記:知らない間にストリーミング配信がスタートしていました!)
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