TOKYO MOTOR FIST『TOKYO MOTOR FIST』(2017)
80年代末にシーンに登場しながらも中ヒット止まりだった2つのアメリカンHRバンド、DANGER DANGERとTRIXTER。両者は解散やメンバーチェンジなどを経て、2017年現在も存続しており、前者は2014年9月にデビュー25周年記念の来日公演を行い、後者は2015年にアルバム『HUMAN ERA』を発表しています。
そんな2バンドから、DANGER DANGERのフロントマンであるテッド・ポーリー(Vo)と、TRIXTERのメインソングライター兼プロデューサーでもあるスティーヴ・ブラウン(G)が、90年代にRAINBOWに在籍したグレッグ・スミス(B)とチャック・バーギー(Dr)と新バンドTOKYO MOTOR FISTを結成。2017年2月に待望の1stアルバム『TOKYO MOTOR FIST』をリリースしました。
80年代末から90年代初頭にデビューしたUSバンドの中では印象的な美メロ楽曲が多かったTRIXTER。個人的にも彼らの1枚目(1990年の『TRIXTER』)と2枚目(1992年の『HEAR!』)は今でも気に入っている作品です。このTOKYO MOTOR FISTでは楽曲のソングライティングのみならず、プロデュースからミックス、エンジニアリングまですべての制作作業をスティーヴが担当。楽曲の軸のみなら“TRIXTERの新作”と呼んでも差し支えない内容かと思います。しかし、そこに“いかにもアメリカン”な適度に枯れて適度に湿り気のある声を持つテッドのボーカルが加わることで、TRIXTERはもちろんDANGER DANGERとも違う別のバンドとして成立するわけです。
派手ではないもののどっしりとボトムを支えるリズム隊のプレイ、能天気なアメリカ人というよりはどこか影のあるメロとアレンジ、そして重厚なコーラスワークと、ここで聴けるのはDEF LEPPARDやFIREHOUSEにも通ずる正統派ハードロックサウンドそのもの。「Pickin' Up The Pieces」「Love Me Insane」「Shameless」の頭3曲なんてまさにそれなんだけど、かといってボーカルがハイトーンすぎずに程よい温度感を保っている。バラードナンバー「Don't Let Me Go」も歌い上げすぎていないから、気持ち良く聴けてしまうんです。
かと思うと、「Put Me To Shame」みたいにマイナーキーの泣きメロHRもあれば、引きずるようなヘヴィさを持つ「Done To Me」もあるし、AOR調のミディアムナンバー「Get You Off My Mind」もある。そして最後はアップテンポの美メロナンバー「Fallin' Apart」で幕を降ろすわけです。どの曲も3〜4分程度でコンパクト、ひたすらメロディの気持ちよさにヤられて、気がついたら11曲41分があっという間に終わっている。で、また最初から聴き返しているという、そんなスルメ的魅力の1枚です。
聴く人によっては「ボーカルはもっと声を張り上げてないと」と難をつけるかもしれませんが、僕としてはこれくらいの温度感がちょうどよく感じられる。むしろ、これくらいだから何度も何度もリピートしたくなってしまうんです。決して2017年的な作品ではないけど、逆にこの時代にこういったサウンドと真正面から向き合ったテッド&スティーヴの2人に賞賛を送りたいくらい。それぞれのメインバンドとうまく並行して、2枚目3枚目と良質な作品を発表し続けてほしいものです。