TWENTY ONE PILOTS『SCALED AND ICY』(2021)
2021年5月21日にリリースされたTWENTY ONE PILOTSの6thアルバム。メジャーリリースとしては3作目『VESSEL』(2013年)から数えて4作目。
全米2位を記録した前作『TRENCH』(2018年)から2年7ヶ月ぶり。コロナ禍らしく、タイラー・ジョセフ(Vo, B, Key)は自身のホームスタジオで作詞作曲/プロデュースを進め、ジョシュ・ダン(Dr)はアメリカ国内を転々としながらドラムのエンジニアリングに取り組むというリモートレコーディングでの果てに完成された1枚は、非常にポジティブかつポップな内容に仕上がっています。
良い意味で“ロック”を広く捉え、落ち着いたトーンで全体を覆った前作『TRENCH』は、大ヒット作『BLURRYFACE』(2015年)に続く1枚としては納得の内容でしたが、それに続く今作がここまで“開けた”ポップ作になるとは、正直驚かされました。彼らのコアなファンはこの路線を想像していたのかもしれませんが、僕自身は前作の流れを汲むマニアックな作品になると思っていたので。
うん、非常にわかりやすいんです。もちろん過去作同様にヒップホップ以降のモダンポップスがベースにあるのですが、本作にはもっと芯の部分にベーシックな“ロック”を感じる。そこが前作との大きな違いでしょうか。卵が先か鶏が先か、じゃないですけど、前作と今作はそういった意味でスタート地点が真逆だけど、表現しようとしているものは一緒。だから、軸足の違いがより強くにじみ出ているのではないでしょうか。
正直、2人というグループとしてはミニマムな編成だからこそ、レコーディングのフットワークも軽かったはずなんです。しかし、それがロックダウンによって分断されてしまった。結果、2人組なのに制作方法としてはこれまであり得なかった遠距離でのデータのやり取りで進めることになる。でも、そういった困難は間違いなく2人をより前向きな方向へと導いた……んじゃないかと、このアルバムを聴いて一方的に考えていました。それくらい、今のこのタイミングに聴くことで高揚感が増す、希望に満ちた良作なのですよ。
11曲で38分という尺も程よく、かつ1曲1曲がかっちりと作り込まれているから安心して聴き進められる。序盤から中盤、後半にかけて、とにかくビートの効いたポップ&キャッチーなロック/ポップチューンでたたみ込む構成にニヤニヤが止まりません。だけど……そんな作品だからこそ、ラスト2曲「No Chances」「Redecorate」の陰りがより強く響くんです。冒頭からずっと煽られ続けて気持ちが上がっていたところ、最後でいきなり現実に引き戻されるような、そんなトリッキーさも彼らならでは。この2曲があるから、再びオープニング「Good Day」からリピートしてみようと思える。そんな構成力の勝利な1枚です。
僕の中で前作は聴くタイミングを選ぶ1枚でしたが、今作は間違いなく時と場合を選ばず楽しめる良作。ポジティブなときもネガティブなときも、変わらず接することができるという意味では、出世作『BLURRYFACE』に近いのかもしれません。
▼TWENTY ONE PILOTS『SCALED AND ICY』
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