2WO『VOYEURS』(1998)
ロブ・ハルフォードが1998年3月(日本では2月)、2WO(=TWO)名義でリリースしたアルバム。JUDAS PRIEST脱退後、“PANTERA以降”を彷彿とさせるサウンドのFIGHTでスタジオアルバム2枚を発表後、自然消滅。その延長として、トレント・レズナー(NINE INCH NAILS)をエグゼクティブプロデューサーに迎え制作された本作は、トレントが主宰するNothing Recordsからリリースされました。
トレントのプロデュースというだけで、生粋のメタルファンは嫌な予感しかしないわけですが、聴いてもらえばおわかりのように本作は完全なるインダストリアルメタルアルバム。NINE INCH NAILSのような変態性も過激さもなく、ギターを軸にしつつもダークでモダンな味付けが施された平坦な楽曲を、ロブが低〜中音域のみで歌うという、メタラーにはある種FIGHTの『WAR OF WORDS』(1993年)よりも拷問的な1枚。
が、しかし。NINE INCH NAILSやMARILYN MANSONなどを当時から普通に愛聴していた自分のような偏った人間には、このアルバムはそこまで悪いものには思えなかったんですよね。そりゃあ聴く頻度はFIGHTやJUDAS PRIESTの諸作品より明らかに低かったですけど、発売から20年経った今聴くと「……あれ、そこまで悪くないかも?」と思えるのですから、本当に不思議です。
アルバムを直接的にプロデュースしたのは、以降もロブのソロ活動に関わるボブ・マーレットと、SKINNY PUPPYやMARILYN MANSONとの仕事で知られるデイヴ・オギルヴィの2名。なるほど、音を聴けば納得のいく布陣ですね。で、アルバムでギターを弾いているのがジョン・オウリーなる人物。この人、本作をリリースしたしばらくあとにMARILYN MANSONに加入し、ジョン・5と名乗るようになります……そう、今やROB ZOMBIEなどで活躍中のあのジョン・5です。それを知ると、本作がなるべくしてこうなったというのが頷けるはずです。
ですが、ロブ自身は本当にこれをやりたくて……やりたかったんでしょうね、なんだかんだで新しモノ好きですから。思えば、80年代半ばにストック・エイトケン・ウォーターマンをプロデューサーに迎えようと考えたのもロブですし、いち早くPANTERAの面々とレコーディングして初ソロ曲「Light Comes Out Of Black」を発表したりするような人ですから。ロブが当時NINE INCH NAILSやトレントが手がけるMARILYN MANSONを聴いてないわけがない。
グランジ以降のヘヴィロック「I Am A Pig」を筆頭に、NIN的ないかがわしさを持つ「My Ceiling's Low」、ドラムンベース的テイストを含む「If」、90年代半ばに流行ったオルタナロック的な「Deep In The Ground」、ダークなインダストリアルナンバー「Bed Of Rust」など風変わりな曲もいくつか含まれているものの、全体的にはデジタル風味のヘヴィロック。それをロブが落ち着いた歌い方で聴かせるから、メタルファンには不評なんでしょうけど、当時のMARILYN MANSONの諸作を楽しむ耳で聴けば本当にすんなり入っていける。うん、今聴くと20年前よりも素直に楽しめるんですよ。まあ完全に珍味ですけどね。
本家プリーストも『JUGULATOR』という珍味を発表した1997〜98年というタイミング、ある意味では変革期だったんでしょうけど、あれはあれで面白かったなぁと最近改めて実感しているところです。ゴスメイクして打ち込みバックに歌うロブ御大、観てみたかったなぁ。