BRING ME THE HORIZON『POST HUMAN: NeX GEn』(2024)
2024年5月24日にデジタルリリースされたBRING ME THE HORIZONの7thフルアルバム。国内盤含めCDやアナログなどのフィジカルリリースは9月27日を予定。
まとまった新作音源集としては、今作との連続性を感じさせる9曲入りEP『POST HUMAN: SURVIVAL HORROR』(2020年)から3年7ヶ月ぶり、正式なフルアルバムとしては初の全英1位を記録した『amo』(2019年)以来5年4ヶ月ぶりとなります。当初は昨年夏に配信が予定されていた本作ですが、メンバーが納得いく仕上がり基準に達していないということで、発売を翌年に延期。その新作を想定してブッキングされた来日公演および『NEX_FEST 2023』でしたが、ライブのコンセプトも中途半端な形となってしまい、その年末にはブレイクの立役者のひとりであるジョーダン・フィッシュ(Key)が脱退してしまいます。
残されたメンバーはバンドの頭脳であるオリヴァー・サイクス(Vo)を中心に制作を続行。2024年に突入してからは1月に「Koo-Aid」をデジタルリリースしたのみでしたが、5月23日に突如アルバムのデジタルリリースを告知。待望のフルアルバムがついに日の目を見たわけです。
2021年から長期にわたり制作を推し進めてきた結果、先行シングル6曲という異常な状況に陥りましたが、アルバムは全16曲/約55分と非常にボリューミー。初期デスコアの余韻をちょっとだけ残しつつも、最新型のヘヴィロック/メタルを下地にしつつもモダンでポップ、ジャンルの枠を超えて万人受けしそうな内容に仕上がっています。
ここでは『POST HUMAN: SURVIVAL HORROR』同様、全曲解説をじっくりしてみたいと思います。
M-1. [ost] dreamseeker
M-2. YOUtopia
20秒に満たないイントロダクションからシームレスで突入するオープニングトラック「YOUtopia」。90年代後半から2000年代前半のニューメタルやメタルコアからの影響が強く感じられる、非常にポジティブな色合いに満ち溢れた1曲です。この壮大さの中には近年の彼らのステージとの共通点も多く見受けられます。クライマックスのブラストビートは初期の片鱗を残していますが、そこを含めつつも“脱メタル”な意欲作と言えるのではないでしょうか。
M-3. Kool-Aid
2024年1月に配信された、本作からのリードトラック(本作から通算6曲目のシングル)。前曲から連続性を持たせた構成もあってか、単曲で聴いたときとはまた違った印象も。新体制として最初の1曲ながらも、それ以前のラウドな側面を多めに残した作風は「変わらずに進むよ」という意思の表れなのかな。とはいえ、全体を覆う質感やアレンジからはメタルの枠には収まりきらない、視野の広さも感じさせます。正直、最初にこの曲を聴いたときはここまで攻めのアルバムになるとは予想もしてなかったよ。
M-4. Top 10 staTues tHat CriEd bloOd
「YOUtopia」の流れを汲む、“2010年代のBMTH meets ポップパンク/イージーコア”な新曲。ポストハードコア的側面も残しつつも、非常に軽やかに、跳ねるように進行するスタイルからはかつてのFACTとの共通点も見受けられます。『POST HUMAN: SURVIVAL HORROR』での経験もしっかり昇華させつつ、ラウドなバンドサウンドとモダンなデジタルサウンドをバランスよくミックスしていて、とにかく気持ちよく響く。間違いなくライブにおける新たなキラーチューンになるはず。
M-5. liMOusIne (feat. AURORA)
BMTH同様、今年の『SUMMER SONIC 2024』での来日も決定しているノルウェー出身のシンガーソングライター、オーロラをフィーチャーした新曲。ダウンチューニングを施したゴリゴリのギターを軸に、引きずるようなスローテンポで展開されるバンドアンサンブルは一時期のDEFTONESと通ずるものもあり、ポストロック経由のニューメタルの進化形と呼べなくもないかな。これまでも随所に散りばめられていた堪能的なテイストが、ここで爆発的に発揮されているのも高ポイント。とにかく好き。これで年内にDEFTONESが新作発表したら、いい流れができそうな気がする。
M-6. DArkSide
2023年10月に配信された、本作から5曲目となるリードトラック。方向性的には『THAT'S THE SPIRIT』(2015年)以降の流れを汲むもので、メロディの質感やアレンジの面で相当ブラッシュアップされた印象。シンガロングできそうなサビなど含め、アンセミックな1曲ではあるものの、この手の楽曲が彼らに複数存在することから披露するタイミングを選びそう。
M-7. a bulleT w- my namE On (feat. UNDERØATH)
アメリカの老舗ポストハードコア/メタルコアバンドUNDERØATHをフィーチャーした新曲。エモーショナルなメロディラインやギターフレーズ、ブレイクダウンパートを取り入れつつもエレクトロニカ的デジタルエフェクトも散りばめたアレンジなど、古き良き時代の開放的メタルコアと密室系デジタルをバランスよくミックスしたそのスタイルは非常に興味深いなと。アルバム中盤におけるひとつの山がこれに当たるのかしら。
M-8. [ost] (spi)ritual
どことなく宗教チックな色合いの、2分弱のインタールードはNINE INCH NAILSからの影響も感じられるんじゃないかな。
M-9. n/A
シリアスな前曲からの、脱力系の歌モノにびっくりするのでは。WEEZER的なユルめのパワーポップのようでもあり、その一方でバンドの味付けは比較的ラウド寄り(グランジっぽくもあるのかな)。特に中盤からのアレンジは刺激的で、バンドとしての新たな可能性を感じさせてくれます。従来のファンはどう思うか知らんけど、本作からBMTHに興味を持ったリスナーには優しい1曲ではないでしょうか。
M-10. LosT
2023年5月に配信された、本作から3曲目のリードトラック。当時は「BMTHがポップパンクに挑戦!?」「エモ/ポップパンク復権か!?」なんて一部で騒がれたけど、今思うとここからすべてが始まっていたんだね。アルバム発売前のライブではこの曲だけ浮きがちだったけど、今作を軸にしたツアーだったら自然な形で馴染むはず。アルバムの流れ的にも前曲からいい形でつながっているし、本当に気持ちいい構成だよね。
M-11. sTraNgeRs
2022年7月に配信された、本作から2曲目のリードトラック。2022年時点では次のアルバムが『THAT'S THE SPIRIT』〜『amo』の流れを汲む方向性からいかに抜け出すか、模索の途中だったのかな。このアルバムに収録された新曲群を目の当たりにしたら、そう感じずにはいられません。けど、こうした曲をしっかり残しているという点では『THAT'S THE SPIRIT』以降ファンになったリスナーに対して誠実でもあるのかな。そういった点では、アルバム全体のバランス取りにも難航したのかもしれませんね。
M-12. R.i.p. (duskCOre RemIx)
比較的従来のスタイルにも寄り添いつつ新規軸を見せるアルバム用新曲。ライブで映えるというよりは、アルバムの中の1曲として輝きを増すタイプのような気がします。そのタイトルと曲終盤のSE含め、続く次曲への序章と受け取ることもできるのかな。
M-13. AmEN! (feat. Lil Uzi Vert and Daryl Palumbo of GLASSJAW)
2023年6月に配信された、本作から4曲目のリードトラック。エモ/ポップパンクな「LosT」から日を置かずに配信されたこちらは、ラッパーのリル・ウージー・ヴァートやUSポストハードコアバンドGLASSJAWのダリル・パルンボ(Vo)をフィーチャーした、本作中もっともヘヴィな1曲。歌メロこそ完全に昨今のBMTHですが、演奏やアレンジ面からは2ndアルバム『SUICIDE SEASON』(2008年)期の味わいも。こういう曲がひとつ含まれると、長尺のアルバムにおける最良のアクセントとして作用している気がします。
M-14. [ost] p.u.s.s.-e
アルバム終盤へ向けたインタールード的インストナンバー。ドラムンベースをベースに、いろんなコラージュをミックスすることで聴き手をカオスな方向へと誘います。
M-15. DiE4u
2021年9月に配信された、本作からの第1弾リードトラック。このアルバムの時点ではアルバムのイメージなんてまったくできていませんでしたよね……。
M-16. DIg It
アルバムの締めくくりに用意されたのは、本作中最長となる7分超の新曲(実質5分で、その後仕掛けあり)。アルバムの終末感の強い作風/曲調はまさにクライマックスに相応しい。アレンジ的にはヒップホップ寄りで、曲が進むにつれてカオティックな装いに。バンドがひとつの場所にとどまることなく、進化や成長を続けていく。その姿の(現時点における)終着点がここなのかなという気がしました。オールドスクールなHR/HMの枠から抜けきれないリスナーにはここまでかなり厳しい内容かもしれません(それはそれで否定しません)が、筆者にとってはここで鳴っている音は現在進行形でリアルに感じられるものばかり。だからこそ、これを数年後に聴いたときにどう響くのかも気になるところです。
以上16曲、駆け足で解説してきましたが、いかがでしょうか。多くの楽曲で日本のラウドロックバンドPaleduskのDAIDAI(G)がコライト/アディショナル・プロデューサーでクレジットされている点も、本作は大きな注目ポイントではないでしょうか。個人的には満点に近い内容で、想像以上の仕上がりでした。配信開始後、デジタルで音源も購入しましたが、この週末はずっとこのアルバムばかり聴いていました。というか、しばらくこれしか聴けない体になってしまったのですよ……。
もうこのアルバムを無理してメタルの枠に収めたり、メタルの文脈で語ること、やめません? そういうジャンル分けが彼らの日本での広まりを邪魔するんじゃないかと、このアルバムを聴いて危機感を覚えてしまったもので。単純に「カッコいいロック」で十分。間違いなく、2024年のロックシーンを語る上で(良くも悪くも)避けては通れない傑作/問題作。だからこそ、ジャンルの枠を超えてさまざまな人に聴いてほしいんです。
これらの楽曲がZOZOマリンスタジアムで、爆音で鳴らされるのが今から楽しみでなりません。
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