カテゴリー「Van Halen」の27件の記事

2022年12月31日 (土)

マイケル・ジャクソンの黄金期をオリジナルアルバムで振り返る(1979〜1991年)

2022年のうちに振り返っておきたいと思ったのが、マイケル・ジャクソン最大のヒット作にしてポップミュージック界における歴史的名盤『THRILLER』(1982年)について。自分は世代的に『THRILLER』バカ売れ期の末端にギリギリ触れており、当時のMTV(地上波時代ね)や『ベストヒットUSA』、『SONY MUSIC TV』を録画して「Thriller」のショートフィルムや「Beat It」「Billie Jean」のMVを何度もリピートしたものです。

なもんですから、原体験としては続く『BAD』(1987年)のほうがリアルタイム感が濃厚で、初来日となった後楽園球場公演をはじめさまざまな記憶がよみがえってきます(初めて&唯一生で観たのは1992年12月の『Dangerous Tour』でしたが)。

そんなこんなで、今年で『THRILLER』リリースから40年。アニバーサリー盤も発売されましたが、個人的には25周年盤のときの盛り上がりと比べるとやや気持ちが劣りますが(そりゃあマイケル生前でしたからね、25周年のタイミングは)、周年タイミングに取り上げておかなくちゃなと思いながらも、年末に向けての繁忙期でまったく触れる機会がなく、気づけば大晦日。時間も多少できたので、やるなら徹底したいなと思い、マイケルのソロキャリア黄金期の始まりといえる『OFF THE WALL』(1979年)から『DANGEROUS』(1991年)までの(個人的思い入れの強い)4作品について、コンパクトな形で触れていこうかなと思います。

 

 

『OFF THE WALL』(1979)

 

1979年8月10日にリリースされたマイケル・ジャクソンの5thアルバム。

古巣Motown Recordsを離れ、Epic Recordsへ移籍しての第1弾アルバム。意外にも全米チャートでは最高3位と1位を獲得していませんが、「Don't Stop 'Til You Get Enough」「Rock with You」とシングル2作連続全米1位を獲得し、ほかにも「Off The Wall」(同10位)、「She's Out Of My Life」(同10位)とヒット曲を連発し、アルバム自体は現在までにアメリカで900万枚以上、全世界で2000万枚以上の売り上げを記録しました。

初めてマイケル主導で制作されたアルバムであり、プロデューサーにはクインシー・ジョーンズを起用。ソングライター陣もポール・マッカートニー(「Girlfriend」)やスティーヴィー・ワンダー(「I Can't Help It」)、デヴィット・フォスター(「It's The Falling In Love」)などソウル/R&Bに捉われない幅広い人選で自身の表現の幅を広げています。

大ヒットした「Don't Stop 'Til You Get Enough」「Rock with You」のようなソウル/ディスコをベースにした楽曲はもちろんのこと、全体を通してポップフィールドでも通用する曲作りが徹底され始めたのがこの時期なのかな。ただ、続く『THRILLER』以降と比べると全体の統一感が強いことから、まだまだ“ブラックミュージックの範疇”というイメージが強いかもしれません。だからこそ、より気持ちよく楽しめる“アルバム”という印象が、彼の作品中もっとも強いのですが(以降の作品は良くも悪くも“プレイリスト”的なのかなと)。

ポップスとしての強度は『THRILLER』や『BAD』ほどではないものの、アルバムとしてのまとまりや完成度は同2作よりも数歩上。“キング・オブ・ポップ”の快進撃がここから始まったという点では、絶対に欠かすことのできない傑作第1号です。

 


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『THRILLER』(1982)

 

1982年11月29日にリリースされたマイケル・ジャクソンの6thアルバム。

前作から引き続きクインシー・ジョーンズを共同プロデューサーに起用。ソングライターに前作から引き続きのロッド・テンパートンに加え、スティーヴ・ポーカロ(TOTO)&ジョン・ベティス(「Human Nature」)やジェイムズ・イングラム(「P.Y.T. (Pretty Young Thing)」)などを起用。また、アルバムから漏れたアウトテイクの中にはマイケル・センベロが関わった「Carousel」や、Yellow Magic Orchestraの楽曲に新たに歌詞を付けた「Behind The Mask」などが含まれていたことも話題になりました。

また、ゲストアーティストのメンツも多彩で、「The Girl Is Mine」ではポール・マッカートニーとのデュエットを展開(同時期にポール側が発表した「Say Say Say」でも2人のデュエットを披露)。「Beat It」のギターソロではエディ・ヴァン・ヘイレン(VAN HALEN)をフィーチャー(かつ、リードギターをTOTOのスティーヴ・ルカサーが担当、ドラムもTOTOのジェフ・ポーカロがプレイ)したことでも話題となりました。

本作からは「The Girl Is Mine」(全米2位)、「Billie Jean」(同1位)、「Beat It」(同1位)、「Wanna Be Startin' Somethin'」(同5位)、「Human Nature」(同7位)、「P.Y.T. (Pretty Young Thing)」(同10位)、「Thriller」(同4位)とアルバム収録曲9曲中7曲がシングルヒット。オリジナルアルバムながらもグレイテストヒッツ的側面も強く、そういった意味でも(結果的に)プレイリストの先駆け的な1枚と言えるのではないでしょうか。

音楽的にも前作『OFF THE WALL』での方向性を推し進めつつ、ポップ色をより強めた「The Girl Is Mine」、ハードロックギターを採用した「Beat It」(さらに、アルバム未収録ながらもテクノ色を取り入れた「Behind The Mask」)など、“ポップ”を軸足により幅広いフィールドで戦おうという前向きさが伝わります。また、当時主流となり始めたミュージックビデオ制作にも果敢に取り組み、約14分にもおよぶ当時としては異例の大作「Thriller」が大反響を呼ぶなど、今や当たり前となった“音楽への映像の積極的導入”における先駆者的作品とも言えます。

全9曲と最近のアルバムと比べたら短い印象もありますが、1曲1曲の個が強いことから何度聴いても飽きがこない。リリースから40年経った今聴いても懐かしさと同時に新鮮さも常に見つけられる、「これぞ歴史的名盤」と言える1枚。いまだ超えることのできない壁(アメリカだけで3400万枚超、全世界で7000万枚超のセールス)を打ち立てた、ポップミュージック界のマスターピースです。

 


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2022年10月27日 (木)

SAMMY HAGAR & THE CIRCLE『AT YOUR SERVICE』(2015)

2015年5月19日にリリースされたSAMMY HAGAR & THE CIRCLEのライブアルバム。日本盤未発売。

本作はサミー・ヘイガーの新バンド・THE CIRCLEを携えて開催された2014年のツアーから収録されたもの。バンドメンバーはサミー(Vo, G)のほか、VAN HALENやCHICKENFOOTでサミーと活動を共にしたマイケル・アンソニー(B, Cho)、VAN HALEN脱退以降のソロ活動におけるサミーの片腕ヴィック・ジョンソン(G)、そしてジョン・ボーナム(LED ZEPPELIN)の愛息ジェイソン・ボーナム(Dr)という国籍/世代を超えた布陣。

内容的にもMONTROSEからスタートしたサミーのキャリアを総括するようなセットリスト。70〜80年代のサミーのソロヒット、『5150』(1986年)『OU812』(1988年)などサミー在籍時のVAN HALENのヒット曲、さらにはジェイソン絡みで「Good Times Bad Times」「Whole Lotta Love」「Rock And Roll」などLED ZEPPLEINの代表曲を含む、非常に豪華な選曲となっています。

ソロやVAN HALEN在籍時初期にも「Rock And Roll」をカバーしていたこともあり、サミーの歌うZEPナンバーの安定感は抜群。もちろん、あの頃から30年経ち加齢もあって声域も狭まりつつありますが(この時点で60代後半ですからね……汗)、それでもほかのシンガーには真似できない迫力は圧巻の一言。さらに、ヴィックのそつなく、どんなタイプの曲にも対応するギタープレイと、実父にも負けず劣らずの厚みとパワフルさで迫るジェイソンのドラミングもあり、ZEPナンバーとVAN HALENの名曲が並んでも違和感なく楽しめる。

これだけのパワープレイヤーが揃っているわけですから、当然各パートのソロコーナーも用意されています。マイケルはVAN HALEN時代を彷彿とさせるベースソロを、ヴィックは1分半程度に収められたフラッシーなソロをフィーチャー。ジェイソンに関してはZEPのインスト曲「Moby Dick」に絡めてソロを披露しています。なるほど、その手があったか。

この頃はまだご健在だったエディ・ヴァン・ヘイレンに敬意を表したヴィックのギタープレイは、個人的にはかなり好印象。「Best Of Both Worlds」でのトーンコントロールは本家には及ばないものの、必死に再現しよう(かつ、そこに自身の個性を加えよう)とする直向きさが感じら得ます。

にしても、やっぱり「Poundcake」や「When It's Love」「Why Can't This Be Love」「Finish What Ya Started」「Right Now」、そしてラストにアコースティックで披露される「Dreams」と……二度とエディのプレイでは聴くことができない名曲の数々を、今のサミーのボーカルとマイケルのコーラス(&ベース)、そしてエディに対するリスペクトが込められたヴィックのギタープレイで楽しめるという意味では、本作はVAN HALEのファンはもちろん、アメリカンハードロックを愛するリスナーにも届いてほしい1枚(2枚組作品)ですね。

ちなみに本作、2015年12月には映像版ライブDVDも発売されています。すでに廃盤状態のようですが、どうやらリージョンフリーらしいので、見つけたら即購入してみてはどうでしょう。

 


▼SAMMY HAGAR & THE CIRCLE『AT YOUR SERVICE』
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SAMMY HAGAR & THE CIRCLE『CRAZY TIMES』(2022)

2022年9月30日にリリースされたSAMMY HAGAR & THE CIRCLEの2ndオリジナルアルバム。

THE CIRCLEを携えたアルバムとしては、ライブアルバム『AT YOUR SERVICE』(2015年)、リモート・レコーディングによるカバー曲を集めたコンピレーションアルバム『LOCKDOWN 2020』(2021年)を含めると4作目。オリジナル作としては『SPACE BETWEEN』(2019年)から3年4ヶ月ぶりの新作となります。前作は日本盤未発売でしたが、今作はUniversal Music流通ということもあり、無事日本でも日の目を見ることになりました。

メンバーはサミー・ヘイガー(Vo, G)のほか、VAN HALEN時代の盟友マイケル・アンソニー(B, Cho)、サミーのソロ活動におけるパートナーのヴィック・ジョンソン(G)、故ジョン・ボーナム(LED ZEPPELIN)の愛息ジェイソン・ボーナム(Dr)と不動の4人。プロデューサーにはデイヴ・コブ(RIVAL SONSEUROPESLASHなど)を迎えて制作されたこともあり、このバンド本来のヘヴィさに適度なレイドバック感が加わった、鋭角さと心地よさが程よいバランスでミックスされた1枚に仕上がっています。

オープニングを飾るイントロダクション的小楽曲「Intro: The Beginning Of The End」のアコースティック加減に、最初こそ不安を覚えますが(「あれ、今回必要以上にレイドバックしてる?」と)、サミーらしいヘヴィさが堪能できる「Slow Drain」に移行すると空気が一変。「Be Still」や「Father Time」など随所に緩やかな楽曲も配置されているものの、そこはサミーのこと、全体を通してご機嫌なアメリカン・ハードロックを堪能することができます。

個人的には「Slow Drain」「Feed Your Head」とこのバンドらしいヘヴィチューンの連発と、そこに続くエルヴィス・コステロ「Pump It Up」のカバー。手垢のついたカバーではありますが、このアルバムの流れで聴くと非常に“らしく”聴こえてくるから不思議です。

そして、タイトルトラック「Crazy Times」のスリリングさといったら。この曲のみ、サミーとバンド、そしてプロデューサーのデイヴ・コブとの共同作業で制作されたとのことで、それこそデイヴ・コブが手がけるRIVAL SONSの諸作やEUROPEの近作にも通ずるテイストは、この手のサウンドが好物というリスナーにはたまらないものがあるはずです(もちろん、筆者にとってもね)。

あと、「Funky Feng Shui」(『LOCKDOWN 2020』のオープニングに収録された1分少々のバージョンの完全版)や「Father Time」には、今は亡き“VAN HAGAR(=サミー在籍時のVAN HALEN)”の香りもプンプン嗅ぎ取ることができる。もちろんVAN HAGARの2分の1が存在しており、声の要素に関しては完全にそんまんまなわけですから、当たり前っちゃあ当たり前なんですが、もはやVAN HALENの新作を望むことができないだけに、なんとも不思議な気持ちになるわけです。ありがたい話なんですけどね。

アルバムは全10トラックで完結する、38分程度のコンパクトな内容なのですが、日本盤CD(通常盤のみ)とデジタル&ストリーミング版にはボーナストラックとして「2120」「Father Time (Acoustic)」を追加。個人的には「Intro: The Beginning Of The End」から緩やかに始まり、その拡大バージョンとなるサイケデリックなヘヴィーチューン「Childhood's End」で締めくくる形が完璧と感じられたので、ボートラ2曲は蛇足かな。

御年75歳(!)のサミーが今もシャウトしまくる様は圧巻の一言。時代遅れと言われようがこれしかできないとまでに自身のスタイルを突き通す本作は、本国でチャート的に振るわなくても(最高4位まで上昇した前作と比べ、今作は95位と低調)、その中身の輝きに偽りなし。普段FOO FIGHTERSあたりを聴いているリスナーにも届いてほしい1枚です。

 


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2021年6月11日 (金)

MAMMOTH WVH『MAMMOTH WVH』(2021)

2021年6月11日にリリースされたMAMMOTH WVHの1stアルバム。

MAMMOTH WVHは2020年10月に急逝したエディ・ヴァン・ヘイレンの実子であり、末期VAN HALENのベーシストでもあるウルフギャング・ヴァン・ヘイレンのソロプロジェクト。昨年11月に配信リリースされたオリジナル曲「Distance」が同名義での初作品となりましたが、今作はそれに次ぐフルアルバムとなります。

レコーディングは米・カリフォルニアに構えるVAN HALEN所有の5150 Studioにて実施。ウルフギャングはベースのみならず、歌やギター、ドラムなどすべてのボーカルパフォーマンス&楽器演奏を自身ひとりでこなし、プロデュースのみマイケル“エルヴィス”バスケット(ALTER BRIDGEINCUBUSSLASHcoldrainなど)に任せるという、まさにソロプロジェクトの名にふさわしい1枚に仕上がっています。

正直、親の七光りでここまで来た感が否めなかったウルフギャングですが、このアルバムを聴くとしっかり偉大な親から音楽を学び、いろんな才能を身に付けていたんだなと感心させられます。まず、その楽曲やサウンドはモダンなハードロックといった感じで、VAN HALENとはかけ離れたものがあります。なので、オールドファンはそこに関してあまり期待しすぎないほうがいいでしょう。

ただ、どの曲も非常にバラエティに富んだもので、歌も演奏もそつなくこなしている感が強い。それこそFOO FIGHTERSから暑苦しさを取り除くとこうなるんじゃないか?っていう、パワーポップとガレージロックとハードロックの中間といったバランス感が保たれており、適度なサイケ感と泣きメロ要素も散りばめられており、日本人の耳にも優しい。いや、むしろこれはアメリカ人よりも日本人向けじゃないかしら。そんな気がします。

アルバム本編ラストを飾るサイケな「Stone」のみ6分半の大作ですが、それ以外はすべて3〜4分とコンパクト。このへんのバランス感にも非常に優れており、ソングライターとしての非凡さは父親譲りかな。もしこの才能が、のちのVAN HALENで活かされていたら……と思ったのですが、VAN HALENでは出る幕もなかったんだろうな。なにせ周りが我が強い父親と、我が強い叔父と、我が強いフロントマンですし(苦笑)。

なお、日本盤のみボーナストラック「Talk & Walk」を追加収録。その前に収録されているのが先の「Distance」(一応ボーナストラック扱い)なんですが、できることなら収録順を逆にしたほうがよかったのでは? それくらい、「Talk & Walk」がアルバム本編のノリを引き継ぐ良曲だけに、ちょっとチグハグさが否めません。

どれも80点以上の優れた楽曲ですが、1曲だけでも95点レベルのキラーチューンがあったら完璧なデビューアルバムだったんだけどなあ。破綻することなく終始安心して聴ける1枚だけに、ちょっと優等生すぎたかしら。そこは次作へ向けた及第点ですね。

 


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2021年4月15日 (木)

SAMMY HAGAR & THE CIRCLE『LOCKDOWN 2020』(2021)

2021年1月8日にリリースされた、サミー・ヘイガー率いるTHE CIRCLEの最新アルバム(スタジオ作品としては2作目)。日本盤未発売。

本作には昨年3月のロックダウン以降、「Lockdown Sessions」と題してYouTube上にて公開されたリモート・レコーディング楽曲を収録。バンドのオリジナル新曲「Funky Feng Shui」を筆頭に、ヘイガー在籍時のVAN HALENナンバーやAC/DC、BUFFALO SPRINGFIELD、THE WHO、ボブ・マーリー、リトル・リチャードなどの楽曲をカバー。昨年9月までに公開された全10曲に、新たにリモート・レコーディングされたデヴィッド・ボウイ「Heroes」を加えた全11曲が収録されています。

もともとの趣旨が「ロックダウン期間中、アーティストもリスナーも楽しめるように」という気楽なものだったこともあり、1曲1曲はフルスケールでカバーされておらず、2分前後のショートバージョンでアレンジされたものが中心。リモートで合わせていくことを考えたら、これくらいの尺が丁度いいのはわかりますし、そもそものちのアルバム化なんて想定もしていなかったでしょうからね。そこに関しては仕方ないので、文句をつけるべきではないかな。

選曲に関してですが、意外にもVAN HALENナンバーが3曲も含まれており、「Right Now」といった代表曲に加え、地味な「Don't Tell Me (What Love Can Do)」、サミー在籍時後期には演奏される機会もなかった名作『5150』(1986年)のオープニング曲「Good Enough」など意外なセレクト。前2曲はアレンジも非常に凝っていますが、キーこそ下がっているもののストレートにカバーされた「Good Enough」は、冒頭の「Hello, baby〜!」の第一声にアガるのではないでしょうか。

そのほかのカバーセレクトに関しては、AC/DCやTHE WHOなど定番曲の中にボブ・マーリー「Three Little Birds」やBUFFALO SPRINGFIELD「For What It's Worth」が含まれることで良い味を出しているなと。あと、「Keep A-Knockin'」に関してはボンゾ(ジョン・ボーナム)の息子であるジェイソン・ボーナム(Dr)にこの冒頭フレーズを叩かせたかっただけなんじゃないか?という気もしますが(笑)。

上記のほかにも、随所にほかのロック・クラシックからの引用も含まれていたりと、遊び心満載の1枚。30分にも満たない尺は腹八分目といったところで、お遊びならこれくらいのボリュームで十分かな。ただ、いざCDで購入しようかと考えると、ちょっと割高感が否めませんが。

コロナ禍がなかったら生まれなかった作品はたくさん存在しますが、本作も間違いなくその1枚。無駄な批判よりも、まずは素直に楽しむ心を忘れずにいたいです。

 


▼SAMMY HAGAR & THE CIRCLE『LOCKDOWN 2020』
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2020年4月20日 (月)

VAN HALEN『TOKYO DOME LIVE IN CONCERT』(2015)

2015年3月末にリリースされた、VAN HALENにとって2作目となるライブアルバム。コンピやボックスセットを除く公式作品としては2020年4月現在、本作がバンドにとって最新かつ最後のアイテムです。

タイトルからもおわかりのとおり、本作は2013年6月21日に実施された東京ドーム公演から、(映像を使ったインターバルなどを除いて)当日披露された全25曲を完全収録したもの。なぜライブから2年近くも経ち、しかもこの日本公演の音源をリリースすることになったのかは諸説ありますが、恐らく同年夏に予定されていた最新ツアーを前に新しいアイテムを発表しようとした結果、一番手軽に発表できる音源がこれだったというのが本当のところみたいですね(当初は未公開のデモ音源をリマスタリングして発表する予定もあったようですが、元音源の紛失が発覚したという話もありましたし)。

このライブには僕も足を運んでいますが、初めて観る「デヴィッド・リー・ロスが在籍するVAN HALEN」に会場でめちゃめちゃ興奮した記憶があります。行く前は「マイケル・アンソニー(B)いないし、完全な形じゃないのでテンション下がるわー」とか言ってたくせに、ステージで見せるデイヴの完璧なパフォーマンスに圧倒され、溜飲が下がったわけですよ。

サミー・ヘイガー在籍時唯一のライブアルバム『LIVE: RIGHT HERE, RIGHT NOW』(1993年)では大半がスタジオで再録音されたという話ですが、本作はどうなんでしょう。上記のような事情を考えれば、そこまで大きな“修正”は行われていないのではないかと思いますが……。

選曲自体は、当時の最新作『A DIFFERENT KIND OF TRUTH』(2012年)からの楽曲は3曲に抑え、『VAN HALEN』(1978年)から『1984』(1984年)までの6作からの代表曲をバランスよく選出た印象。CDで冷静に聴いてみても、構成もそこまで悪くないかなと感じます。日本でのライブらしく、というか日本での生活がそこそこあるデイヴらしく、曲中の煽りがイミフなカタコト日本語なのもご愛嬌。とはいえ、「Everybody Wants Some!!」での緊張感ある演奏の合間に「ニホンゴガヘタデスミマセン。ニホンゴガヘタクソデスミマセン。デモ……ナニヲカンガエテイタンダ?」なんて素っ頓狂な日本語が飛び込んでくると、思いっきりズッコケてしまいますけどね(笑)。

このアルバムを評するに当たって、デイヴのボーカルの関して「昔より歌えていない」とか「衰えた」なんて声も多いですが、それに対しては反論を。当日のライブを観た人ならおわかりのとおり、当時すでに60歳に近づいていたデイヴはこの日も2時間フルで動いていましたし、そのパフォーマンスは圧巻の一言。それをこなしながら20曲以上も歌っているわけですから、そこを差し引いても大健闘だと思いますけどね。つうか還暦間近のお爺ちゃんに何を求めているんだよ。そんなんだったら昔のブートレグ聴いていろよ、と。

……おっと、言葉が荒くなってしまいましたね。何はともあれ、デイヴ在籍時唯一のライブ作品ですし、もはや復活も望めそうがない今はこれをありがたく楽しませていただきたいと思います。リリースから5年経ちましたが、無心で楽しめる最高の「デイヴ期グレイテストヒッツ・アルバム」ですので。

 


▼VAN HALEN『TOKYO DOME LIVE IN CONCERT』
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VAN HALEN『LIVE: RIGHT HERE, RIGHT NOW』(1993)

1993年2月に発表されたVAN HALEN初のライブアルバム。

今ほど映像作品が安価で流通していなかった80年代、デヴィッド・リー・ロス在籍時のライブ作品は公式リリースされることはありませんでした。しかし、サミー・ヘイガーにフロントが代わってから、初のライブビデオ(当時はVHSでしたね)『LIVE WITHOUT A NET』(1987年)をリリース。『5150』(1986年)からはMVが1本も制作されたなかったこともあり、このライブ映像は“動くVAN HAGAR”を目撃できるという意味で、非常に重宝しました。また、日本のファンは1989年初頭の“VAN HAGAR”初来日時(『OU812』ツアー)の東京ドーム公演が、当時テレビ朝日で深夜に放送されたものを録画して、それこそビデオテープが擦り切れるほど楽しんだのではないでしょうか(僕もそのひとりですが)。

で、作品としては『LIVE WITHOUT A NET』に続いて発表されたのが、1993年1月発売の『LIVE: RIGHT HERE, RIGHT NOW』というライブビデオ。全17曲入りで120分という、『FOR UNLAWFUL CARNAL KNOWLEDGE』(1991年)を携えたツアーの様子をまるまる楽しめるという、非常に画期的な映像作品でした(DVDが登場する以前はビデオテープ主流だったこともあり、2時間を超えるライブがまるまるリリースされることは少なく、60〜90分程度に編集されることが多かったのです)。

今回紹介するライブアルバムは、このライブ映像作品のCD版ということになりますが、収録曲数は24曲と映像版より7曲多い構成。つまり、ツアーで披露された楽曲を網羅するような“いいとこ取り”な内容、要するに“1993年時点でのVAN HAGARグレイテストヒッツ”的作品に仕上がっているわけです。

なので、大ヒットした『FOR UNLAWFUL CARNAL KNOWLEDGE』からの楽曲群を軸に、「When It's Love」や「Dreams」「Love Walks In」「Finish What Ya Started」といったサミー期のヒット曲も楽しめ、なおかつ「Ain't Talkin' 'Bout Love」「Panama」「You Really Got Me」「Jump」というデイヴ期の代表曲、さらには「One Way To Rock」「Give to Live」といったサミーのソロナンバー(日本盤初版にはボーナスディスクで「Eagles Fly」も楽しめました)や、ここでしか聴けないTHE WHOのカバー「Won't Get Fooled Again」も堪能できる、至れり尽くせりなセットリストなのですよ。

『FOR UNLAWFUL CARNAL KNOWLEDGE』ツアーなので同作からの楽曲が多いのは致し方ありませんが、それでも来日が実現しなかった1991年当時の“脂の乗ったプレイ”を存分に味わえるという意味では、あの頃本作が果たした役割は非常に大きなものがありました(実は、演奏や歌の大半はあとからスタジオ修正/再録音されていることを、のちにサミーが明かしているのですが……)。アンディ・ジョーンズ特有のモワッとした、クセの強いミックスは2020年に聴くとちょっとアレですが、結局サミー在籍時のライブ作品はこれが最後(CDではこれが最初で最後)だったので、今となっては非常に貴重なアイテムと言えるかもしれませんね。なんだかんだで好きなライブアルバムです。

 


▼VAN HALEN『LIVE: RIGHT HERE, RIGHT NOW』
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2020年4月19日 (日)

VAN HALEN『THE BEST OF BOTH WORLDS』(2004)

2004年7月にリリースされた、VAN HALENにとって2作目のベストアルバム。

初のグレイテストヒッツ・アルバムとなった『BEST OF VOLUME 1』(1996年)から8年ぶりのベスト盤ですが、その間にバンドが発表した新作は三代目ボーカルのゲイリー・シェローン(EXTREME)が参加した『VAN HALEN III』(1998年)のみ。しかも、ゲイリーはその後しばらくして脱退しております。どうしてそんなタイミングにまたベスト?という経緯は、実は2004年当時に書いた『5150』(1986年)レビューに記されております。

つまり、ゲイリー脱退→ボーカル不在時にエディ・ヴァン・ヘイレンの舌癌発覚で活動休止→サミー・ヘイガー復帰&ツアー実施→ツアーに向けた新しいアイテムが必要→新曲作ろうぜ、ということでこのお手軽ベストが用意されたわけです。なので、同じベストでも『VOLUME 2』にはならなかったわけですね。

とはいえ、その内容はCD2枚組ということもあり全キャリアを網羅するような大ボリューム。デビュー作『VAN HALEN』(1978年)からサミー在籍時ラスト作となった10thアルバム『BALANCE』(1995年)までのオリジナル作に、当時バンド唯一のライブアルバムだった『LIVE: RIGHT HERE, RIGHT NOW』(1993年)からのテイクも含む全36曲で構成されています。

あれ、『VAN HALEN III』の楽曲は……って、ツアーでサミーがこの作品からの楽曲を歌うとは思えませんしね。あと、『BEST OF VOLUME 1』に収録された「Humans Being」やデヴィッド・リー・ロスとの12年ぶり新曲も未収録。ここまで入れてしまったら、全米1位まで獲得した『BEST OF VOLUME 1』がカタログとして意味を持たなくなってしまうので、あえて差別化したんでしょうか。

アルバムは『BEST OF VOLUME 1』同様に、デビュー作収録のインスト「Eruption」からスタート。“2つの世界(デイヴ期、サミー期)のベスト”といいながらも、結局はエディのバンドなんだっていう象徴的なオープニングですよね。で、そのあとにサミー歌唱の新曲3曲が続くのですが、『VAN HALEN III』からの続きというよりは、サミーが参加した『BALANCE』からの続いという印象が強い作風かな。ダウンチューニングでヘヴィさを強調していますが、芯にあるのは開放的なアメリカン・ハードロック。アレンジには随所にサミーー在籍時の名曲群を彷彿とさせる味付けが、豊富に用意されています。シングル向けな突出した魅力こそ薄いものの、おまけとしては十分な役割を果たしているです。

以降はデイヴ期/サミー期、リリースされた時期関係なく、ご機嫌なナンバーが目白押し。「You Really Got Me」や「(Oh) Pretty Woman」「Dancing In The Street」など『BEST OF VOLUME 1』からは外されたカバー曲も含まれており、まさにキャリアを総括するような“ベスト of ベスト”と断言できる内容です。シングル曲だけを楽しみたければ、本作だけ持っていれば十分っていう作品集ですね(むしろ、チャートインしたシングル曲でここに収録されていないのは「So This Is Love?」くらいかな? ラジオヒットした「Somebody Get Me A Doctor」や「Mean Street」「Don't Tell Me (What Love Can Do)」あたりも収録容量の関係で外れているけど)。

可能性は薄いけど、もし今後VAN HALENが再び表舞台に舞い戻り、ツアーを行うようなことがあれば……デイヴが歌う新曲を含む“3つめのベスト盤”が生まれる可能性がありますが、その可能性はゼロに近いのかな。

 


▼VAN HALEN『THE BEST OF BOTH WORLDS』
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VAN HALEN『BEST OF VOLUME 1』(1996)

1996年10月にリリースされた、VAN HALEN初のベストアルバム。

デビューアルバム『VAN HALEN』(1978年)から直近の最新オリジナルアルバム『BALANCE』(1995年)までの10作から、厳選されたヒットシングルの数々とアルバム未収録のサントラ提供曲、そしてデヴィッド・リー・ロスと12年ぶりに制作した新曲2曲を含む全17曲で構成。「なんであの曲がないの?」とツッコミたく気持ちを抑えつつ、CD1枚に収めるならこれがベストかな?というコンパクトな1枚に仕上がっています。

デビュー作収録の衝撃的なインスト「Eruption」からスタートする構成は素晴らしいと思うのですが、本来ならそこに続くはずの「You Really Got Me」は未収録で、代わりに「Ain't Talkin' 'Bout Love」が並ぶという選曲には当時ひっくり返ったものですが、おそらくオリジナル曲にこだわった結果こういう選曲になったんでしょうね。なので、カバー曲ばかりがシングルカットされた5thアルバム『DIVER DOWN』(1982年)からは1曲もセレクトされておらず。そういった点では若干消化不良気味かもしれません。

また、基本的に各アルバムから代表的ヒット曲を1曲セレクトしている形ですが、アルバム自体がバカ売れした作品からは複数ピックアップしているのも、まあ納得の範疇。ちなみに『VAN HALEN』(「Eruption」含め3曲)、『1984』(1984年/「Jump」と「Panama」。日本盤はボートラとして「Hot For Teacher」追加の3曲)、『5150』(1986年/「Why Can't This Be Love」「Dreams」)、『FOR UNLAWFUL CARNAL KNOWLEDGE』(1991年/「Poundcake」「Right Now」)の4作品がそれで、デイヴ時代とサミー・ヘイガー時代半々といったところでしょうか(選曲的にはトータルでデイヴ歌唱曲が多めですけどね)。

気になる初収録曲3曲についても。サミー在籍時最後の楽曲となった「Humans Being」は映画『ツイスター』提供曲。1996年前半にシングルリリースもされましたが、楽曲としては『BALANCE』からの流れを組むモノトーンなヘヴィ路線。サビ以外はパッとしない印象で、アルバムの中に入っていたら“流して”しまいそうな1曲かもしれません。

で、デイヴが参加した新録2曲もその傾向が強い“普通の曲”。「Can't Get This Stuff No More」は初期デイヴ参加作にありそうなノリですが、5分以上もあると間延びした感が否めず。「Me Wise Magic」は序盤の低音ボーカルに違和感を覚えますが、サビでの“開ける”感はさすがかなと。「第1期VAN HALEN復活!」と過剰に期待しすぎたせいか、その期待を裏切られた感は否めません。とはいえ、彼らのヒット曲を手軽に楽しみたいという点においては、本作は非常に重宝する1枚ではないかと思います。入門編としても最適ですしね。

タイトルにあるとおり、本来ならこのあと『VOLUME 2』も計画していたんでしょうけど、ご存知のとおりバンドは本作のあとにオリジナルアルバムを2枚しか発表していませんし、ヒット曲にも恵まれず。結果、別の形でベストアルバムを制作することになるのでした。

 


▼VAN HALEN『BEST OF VOLUME 1』
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2020年4月18日 (土)

VAN HALEN『DIVER DOWN』(1982)

1982年4月にリリースされたVAN HALENの5thアルバム。

3rdアルバム『WOMEN AND CHILDREN FIRST』(1980年)、4thアルバム『FAIR WARNING』(1981年)とオリジナル曲のみで勝負した作品を連発したVAN HALENですが、セールスは下がる一方。年に1枚というな創作ペースも災いし、ここでいわゆる“マンネリ感”が強く表出してしまます。

全12曲と一見すると今までで一番楽曲が多い印象を受けますが、内訳的には3曲がインスト/インタールードで、そのうち2つは次の曲の前奏的な役割。さらにカバー曲が過去最多の5曲と、歌モノ・オリジナル曲は実質4曲という体たらく。完全に過渡期中の過渡期やん。

ですが、本作は「(Oh) Pretty Woman」(全米12位)や「Dancing In The Street」(同38位)と、カバー曲ながらもヒットシングルが続出。アルバム自体も全米3位と過去最高順位を打ち出し、セールス面でもダブルミリオン達成と息を吹き返すきっかけを与えてくれます(最終的に、現在までに400万枚以上を売り上げています)。

また、エディ・ヴァン・ヘイレン(G)のギターも前作『FAIR WARNING』から引き続き水を得た魚のように、変幻自在なプレイで我々を楽しませてくれます。「Hang 'Em High」での難易度高めなリフ、「Cathedral」でのバイオリン風ボリュームコントロール、「Dancing In The Street」でのディレイを用いたダンサブルな味付けなど、インパクトは強めかと。

カバー曲中心なので、楽曲自体は悪いわけがない。また、アレンジ的にも至るところから“らしさ”が感じられる。バンドの創作面でのマンネリ感は否めないものの、プレイヤビリティにおいてはさらに高まっていることが伺えるはずです。

なお、「Big Bad Bill (Is Sweet Wlliam Now)」ではアレックス(Dr)&エディ兄弟の実父ジャン・ヴァン・ヘイレンがクラリネットで参加。そういうお遊び感もあってか、“ユルさ”が印象に残る1枚。だからこそ、次に『1984』(1984年)や「Jump」という傑作が産み落とされるなんて、誰も想像できなかったのではないでしょうか。

 


▼VAN HALEN『DIVER DOWN』
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