TONY MARTIN『THORNS』(2022)
2022年1月14日にリリースされたトニー・マーティンの3rdアルバム。日本盤未発売。
1987年のBLACK SABBATHのアルバム『THE ETERNAL IDOL』に参加したことで、そのキャリアが一気に開けたトニー・マーティン。『FORBIDDEN』(1995年)を最後にバンドを離れて以降は、さまざまなプロジェクトに参加してきましたが、純粋なソロアルバムとしては『SCREAM』(2005年)以来実に16年2ヶ月ぶりとなります。
レコーディングにはVENOMのダニー・“ダンテ”・ニーダム、元HAMMERFALLのマグナス・ルセーン(B)、RAINBOWなど数々のバンドで活躍するセッションプレイヤーのグレッグ・スミス(B)、アルバムの曲作りにも貢献したスコット・マクレラン(G)、前作『SCREAM』にも参加したトニーの息子ジョー・ハーフォード(G)、DARIO MOLLO / TONY MARTINとしての活動でも知られるダリオ・モロ(G)などが参加。トニー自身もギターやベース、バイオリンで演奏面にも加わっています。
基本的にはこれまでトニーが関わってきたバンド(主にサバス)やソロ作の延長線上にある、こってりした様式美メタルを展開。そこに演奏面で若干モダンな味付けが加えられていますが、特段目くじらを立てるような突拍子もないことはやっていないのでご安心を。オープニングを飾る「As The World Burns」からしてめくるめく様式美HR/HMの世界を堪能することができるはずです。
そんな中、アコースティックギターを軸にすることで様式美メタルというよりはラテン調の空気が強まった「Crying Wolf」や、語り風の歌唱でアーシーさを強調した「This Is Your Damnation」のような変化球も用意されています。特に後者は、ちょっとアルバムの流れからは外れる空気感があり、ラストに控えた壮大なタイトルトラック「Thorn」の序章と呼ぶにはちょっと軽すぎるかな……という印象も。いろいろやりたかったのはわかるんですが、さすがにこれはボーナストラック的に最後の最後に置くのが良かったんじゃないかという気がします。
しかし、それ以外の楽曲は良くも悪くもトニー・マーティンのイメージから外れることのない、期待通りのヘヴィメタルで聴き手を楽しませてくれることでしょう。「期待通り」ということは、それ以上でもそれ以下でもないので、“Something Special”を求める方にはちょっと肩透かしを喰らう内容かもしれませんが、ダウンチューニングで低音が強調された作風や、「Black Widow Angel」中盤でのブイブイ唸るベースフレーズ、「Thorn」でのDISTURBEDを彷彿とさせるボイスパーカッション(フェイク)などニューメタル以降のテイストも少々含まれているので、そのへんをアクセントとして受け入れられたら問題なく楽しめる1枚かと思います(個人的には突拍子もないアクセントに最初は困惑しましたが、慣れたらそこまで気になりませんでした)。
現時点で64歳という高齢ながらも、ここまでしっかりハイトーンを聴かせることができるという点では評価に値するものがありますし、楽曲もこの手のしたいるが好きなリスナーには問答無用の1枚ではないでしょうか。あと、これを機にトニー在籍時のサバスの諸作品(『HEADLESS CROSS』『TYR』『CROSS PURPOSES』『FORBIDDEN』)の再発およびストリーミング解禁を早急にお願いしたいところです。
▼TONY MARTIN『THORNS』
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