WARRANT『DOG EAT DOG』(1992)
1992年8月25日にリリースされたWARRANTの3rdアルバム。
デビューアルバム『DIRTY ROTTEN FILTHY STINKING RICK』(1989年)から引き続き、前作『CHERRY PIE』(1990年)も全米7位/ダブルプラチナム(200万枚)という好成績を残し、「Cherry Pie」(全米10位)や「I Saw Red」(同10位)、「Uncle Tom's Cabin」(同78位)、「Blind Faith」(同88位)とヒットシングルを連発させたWARRANT。1992年に入ると映画『ファイティング・キッズ(原題:GLADIATOR)』の主題歌としてQUEENの名曲「We Will Rock You」(同83位)と、グランジ全盛の中も健闘を続けました。
『CHERRY PIE』から約2年ぶりに届けられた本作では、プロデューサーを過去2作を手がけたボー・ヒル(RATT、WINGER、KIXなど)からマイケル・ワグナー(SKID ROW、DOKKEN、METALLICAなど)に交代。音を聴けばその理由も納得のいく、非常にストイックなHR/HMアルバムに仕上がっています。
良くも悪くも「Cherry Pie」というパーティロックのイメージが強かったWARRANTだけに、本作を前にしたときは「え、WARRANTがダークでメタリックなアルバム?」と動揺したものです。グランジやグルーヴメタルが持て囃された時代だけに、彼らも流行りに乗ったか……そう思ったリスナーも少なくなかったはず。ですが、本作への布石はすでに前作『CHERRY PIE』で確認することもできました。それが「Uncle Tom's Cabin」の存在なのです。
「Uncle Tom's Cabin」は当時の彼らにしてはメタリックすぎて、特にオープニング曲「Cherry Pie」から空気が一変させる役割も強くて違和感を覚えた方もいらしたのではないでしょうか。彼らはすでにこの頃からパーティロックと正統派ハードロックの2軸を備えており、続く3作目では時代の空気も多少読みながら正統派ハードロック寄りへと全振りしたのではないか……今となってはそう感じています。だから、別に意味もなく時流に乗ったのではなく、自然なシフトだったんですよね。
オープニングを飾る「Machine Gun」のヘヴィ&タフさには、もはや過去2作のWARRANTの姿は見当たりません。続くミドルヘヴィの「The Hole In My Wall」や「April 2031」、そこからシームレスに続くマイナー調バラード「Andy Warhol Was Right」という流れは、今聴くと非常に練り込まれているなと感じるものの、1992年当時は若干早かったのかなという気も。特に「Andy Warhol Was Right」は前作での「Blind Faith」をよりハードにしたらこうなるのかな、という気がしないでもない。そは言い過ぎか(笑)。
全体を通して聴くと、同じマイケル・ワグナーが手がけたSKID ROWの2ndアルバム『SLAVE TO THE GRIND』(1991年)との共通点もゼロではないことに気づく。そうか、タフ路線の参考としてWARRANTは『SLAVE TO THE GRIND』を意識して、マイケルを起用したのか……そう気づいたのは、つい最近のこと(苦笑)。それまでは、ただひたすら「俺の思うWARRANTじゃない」という気持ちが強かったかな、完成度の高さのわりに。
ヘヴィバラード「The Bitter Pill」やストレートなハードロック「All My Bridges Are Burning」「Quicksand」、アーシーなピアノバラード「Let It Rain」、豪速球のスピードメタル「Inside Out」、肩の力が抜けた軽快なロックチューン「Sad Theresa」など、実は個性的で良曲揃いの本作。一度「Cherry Pie」のイメージを取っ払ってから接してみると、グランジ影響下のHR/HMとは一味違った魅力が見えてくるはずです。リリースから30年を経た今、ぜひ再評価してみてください。
なお、参考までに本作は全米25位/50万枚と過去2作に及ばない数字ながらも、それなりの成績を残しています。
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