W.A.S.P.『THE HEADLESS CHILDREN』(1989)
1989年4月中旬にリリースされた、W.A.S.P.の4thアルバム。日本では半月遅れの同年5月上旬に発売されました。
デビュー時のインパクトのせいもあって、楽曲よりもそのショッキングなヴィジュアルにばかり目が行きがちだったW.A.S.P.。本作はのちにブラッキ・ローレンス(Vo, G)のソロ作品としてスタートした『THE CRIMSON IDOL』(1992年)の片鱗が見え隠れする、非常に音楽性の高い1枚に仕上がっています。
本作制作時のメンバーはブラッキー、クリス・ホルムス(G)、ジョニー・ロッド(B)の3人。脱退後にL.A. GUNSへ加入したスティーヴ・ライリー(Dr)に代わり、本作ではゲストプレイヤーとしてフランキー・バネリー(QUIET RIOT)が参加しています。また、ケン・ヘンズレー(元URIAH HEEP)がキーボードプレイヤーとして、リタ・フォードなど多数の仲間が「Thunderhead」のコーラスのレコーディングに加わりました。
L.A.メタル(ヘアメタル)の延長線上にある“セックス、ドラッグ&ロックンロール”的な世界観から離れ、よりリリカルで深みのある歌詞と、HR/HMバンドとしての起承転結が色濃く表れたサウンド/アレンジを本格的に導入することで、前作までに混在したパーティ路線が完全に払拭。7分を超えるエピカルな「The Heretic (The Lost Child)」でオープニングを飾ると、THE WHOのカバー「The Real Me」を挟みつつ「The Headless Children」「Thunderhead」という5〜6分台の壮大なメタルナンバーが続きます。ここまでの流れ、本当にシリアスでメタリック。歌詞に関しては「Animal (Fuck Like A Beast)」「I Wanna Be Somebody」「Blind In Texas」なんて歌っていたバンドと同じバンドとは思えないほどです。
もちろん「Mean Man」や「Rebel In The F.D.G.」のようなストレートなハードロックもあるのですが、メロディアスなバラード「Forever Free」や疾走メタル「Maneater」、ツーバス連打のメタルシャッフル「The Neutron Bomber」などを聴いてしまうと、かつてのいかがわしさはどこへやら……ただただカッコいいHR/HMバンドの姿がイメージできてしまうのですから不思議なものです。
初期3作のスタイルももちろん素晴らしいのですが、非常に完成度の高い『THE CRIMSON IDOL』を愛してやまないというリスナーにはぜひ続けて今作も聴いていただきたいものです。初期3作と『THE CRIMSON IDOL』以降をつなぐ、非常に重要な1枚ですから。
なお、現在流通している盤(配信バージョン含む)はボートラを多数含む仕様となっており、JETHRO TULLのカバー「Locomotive Breath」やアルバム未収録曲、「L.O.V.E. Machine」や「Blind In Texas」のライブテイクが追加されています。こちらの6曲はアルバム本編の流れとは若干毛色が異なりますし、むしろ本編10曲の完成度が異常に高いのでオマケ程度の気持ちで接してもらえると。
▼W.A.S.P.『THE HEADLESS CHILDREN』
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