カテゴリー「Who, the」の9件の記事

2023年1月10日 (火)

DAVID BOWIE『SCARY MONSTERS (AND THE SUPER CREEPS)』(1980)

1980年9月12日にリリースされたデヴィッド・ボウイの14thアルバム。

実験性の強かった“ベルリン三部作”は、その音楽自体に対する評価は非常に高かったものの、セールス的には決して大成功とは言い難く、特にシングルヒットに関して言えば「Sound And Vision」の全英3位、「Boys Keep Swinging」の同7位以外はTOP10入りを逃しています(かの「"Heroes"」でさえ最高24位ですし)。そのポップ嗜好が前作『LODGER』(1979年)あたりから少しずつ復調し始め、従来の実験性をポップ感が上回り始めたのがこの『SCARY MONSTERS (AND THE SUPER CREEPS)』となります。

共同プロデューサーにはトニー・ヴィスコンティ、レコーディングにカルロス・アロマー(G)やジョージ・マーレイ(B)、デニス・デイヴィス(Dr)といった鉄壁の布陣を迎えるも、過去3作でタッグを組んだブライアン・イーノ(Synth)は今作では不参加。代わりにロバート・フリップ(G/KING CRIMSON)、ロイ・ビタン(Piano)、ピート・タウンゼント(G/THE WHO)といった豪華な布陣が名を連ね、ボウイが思い描く新たなスタイル完成の手助けをしています。

オープニングを飾る「It's No Game, Pt.1」での日本語ナレーションをフィーチャーしたアバンギャルドさに不意を突かれるも、以降は前作で試みたニューウェイヴ的手法が見事に開花。ロバート・フリップらしさ万歳のギターフレーズを随所に散りばめた「Scary Monsters (And Super Creeps)」、自身の代表曲「Space Oddity」の主人公・トム少佐は実は宇宙飛行士ではなく単なるジャンキーだったと歌う「Ashes to Ashes」、王道感の強いミディアムロック「Teenage Wildlife」など、時代とリンクした楽曲群がズラリと並びます。

この中から「Ashes to Ashes」が、シングルとしては「Space Oddity」(1975年)以来となる全英1位を獲得(セールス面でも本国で70万枚近いヒットに)。続く「Fashion」も全英5位/全米70位と好成績を残し、さらに「Scary Monsters (And Super Creeps)」(全英20位)、「Up The Hill Backwards」(同32位)とスマッシュヒットを続けます。特に本作リリース後には、QUEENとのコラボ曲「Under Pressure」(1981年)の全英1位/全米29位という話題作もあり、この良い流れを続く『LET'S DANCE』(1983年)での最盛期へとつなげていくことになります。

実験性と大衆性を天秤にかけ、大衆性を若干強目に打ち出したことで、独自の先鋭的な個性を見事に保ちながら音楽的/セールス的にも成功を手にしたボウイ。『LET'S DANCE』では大衆性に全振りして旧来のファンを不安に陥れるものの、その采配含めてデヴィッド・ボウイ。僕は『LET'S DANCE』からボウイに入った世代ですが、この頃の空気感をリアルタイムで味わってみたかったなと思わせられる1枚です。

 


▼DAVID BOWIE『SCARY MONSTERS (AND THE SUPER CREEPS)』
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2022年11月26日 (土)

WILKO JOHNSON / ROGER DALTREY『GOING BACK HOME』(2014)

2014年3月25日にリリースされた、ウィルコ・ジョンソン(G/ex. DR. FEELGOOD)とロジャー・ダルトリー(Vo/THE WHO)のコラボアルバム。日本盤は同年4月2日発売。

2013年に末期のすい臓がんと診断され、本人の意向で延命治療は行わないことをアナウンスしたウィルコ。その後、残された時間を有効に使うため、なんとTHE WHOのロジャー・ダルトリーをフロントマンに迎えたスタジオアルバムを制作することを発表し、我々を驚かせたのでした。

アルバムのレコーディングは、ウィルコと活動を共にしてきた永遠の相棒ノーマン・ワット・ロイ(B)、YESのスティーヴ・ハウ(G)の実子であるディラン・ハウ(Dr)の鉄壁トリオに、THE STYLE COUNCILなどで知られるミック・タルボット(Key, Piano)を迎えた編成で実施。プロデューサーにはMANIC STREET PREACHERSの諸作を手がけることで知られるデイヴ・エリンガという(彼らからしたら)若手を迎えて、たった1週間で録音を済ませたそうです。

収録された全11曲(デラックス盤ボーナスディスク収録曲除く)のうち、10曲はウィルコがこれまでに制作・発表してきた楽曲のセルフカバーで、残り1曲はボブ・ディランの「Can You Please Crawl Out Your Window?」カバーとなります。アルバムタイトルにも用いられた「Going Back Home」からもわかるように、DR. FEELGOOD時代の楽曲も複数含まれており、リリースから40年近くを経たいぶし銀のプレイ&演奏に、より深みが増したロジャーのボーカルが乗ることで、原曲とはまた違った魅力を感じ取ることができるはずです。

そりゃあ原曲で聴ける「若き日のパブロック/パンクロック/ガレージロック直系のストレートさ」も間違いなくカッコいいですが、今の年齢だからこそ生み出せるこの空気感と説得力も誰にも真似できないもの。自分の人生の終わりが数ヶ月後に近づいたウィルコのギタープレイは、かつての鬼気迫るものとは若干異なるものの、最後の最後に文字通り「音を楽しむ」こと=音楽と向き合った結果がこの音/演奏であり、そこに真摯に応えるロジャーの(まったく年齢を感じさせない)パワフルな歌声と、そこから伝わる生命力の強さにはただただ圧倒されます。

個人的にはオルガンやピアノの入ったロックンロールが大好きなので、ここで聴けるミック・タルボットのプレイは最高の一言。原曲を知るリスナーにもぜひ味わってもらいたい魅力のひとつです。こういうアルバムはしのごの言わず、無心で楽しむのが一番。ひたすら大音量で再生しまくってください。

ちなみに、本作は全英3位という好記録を樹立。2014年11月には先にも触れたボーナスディスク付き2枚組デラックス・エディションも発表されています(日本盤は2015年2月リリース)。こちらには本編未収録の「Muskrat」に加え、「Some Kind Of Hero」「Keep On Loving You」「Turned 21」のウィルコ歌唱バージョン、2014年2月のWILKO JOHNSON BANDのライブ音源やロジャーとのコラボライブ音源など全18トラックが収められているので、アルバム本編がご自身の感性にフィットした方はぜひチェックしてみることをオススメします

なお、その後のウィルコですが、2014年3月に本作を提げた来日公演を行うも、4月下旬にはすべてのスケジュールをキャンセル。5月には腫瘍摘出手術を行い、見事回復したことを宣言します。余命数ヶ月と言われたものの、その後8年間もサバイブ。2022年11月21日にこの世を去りました。

 


▼WILKO JOHNSON / ROGER DALTREY『GOING BACK HOME』
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2021年8月 1日 (日)

OASIS『DIG OUT YOUR SOUL』(2008)

2008年10月6日にリリースされたOASISの7thアルバム。日本盤は同年10月1日先行発売。

前作『DON'T BELIEVE THE TRUTH』(2005年)発表後、日本では同年8月(『SUMMER SONIC』ヘッドライナーおよび名古屋)と11月(代々木第一体育館、大阪城ホール)と1年に二度も来日公演を行ったOASIS。2006年には初のベストアルバム『STOP THE CLOCK』のリリース、ロードムービー『LORD DON'T SLOW ME DOWN』の公開、ノエル・ギャラガー(Vo, G)の単独来日(MySpaceの企画でアコースティックライブ実施)など、充実した濃厚な日々を送り続けました。

2007年夏から次作の制作に突入したバンドは、デイヴ・サーディを再度プロデューサーに起用。サポートドラマーにザック・スターキー、キーボーディストに2002年のツアーからサポート参加するジェイ・ダーリントン(ex. KULA SHAKER)を迎え、『DON'T BELIEVE THE TRUTH』で到達したスタイルの“次”を提示する意欲作を完成させます(ザックはツアーには不参加)。

前作ではノエルとの共同プロデュースでしたが、今作ではデイヴがひとりでプロデュース/ミックスを手がけたこともあってか、非常にモダンな音像なのが印象的です。その影響もあり、楽曲のスタイルもどこか目新しさが感じられ、リアム・ギャラガー(Vo)、ノエル、アンディ・ベル(B/ex. RIDE、ex. HURRICANE #1)、ゲム・アーチャー(G/ex. HEAVY STEREO)体制で早くもネクストステップに突入したことが伺えます。これを吉とするか無しとするかで、評価は大きく異なるのではないでしょうか。

ソングライティングに関してはノエルが全11曲中6曲を手がけており、「Bag It Up」「The Turning」「Waiting For The Rapture」「The Shock Of The Lightning」(全英3位)と冒頭4曲がノエル曲で占められているのも印象的。かつ、6曲目「(Get Off Your) High Horse Lady」と7曲目「Falling Down」(同10位)もノエル曲なので、アルバムの前半がほぼノエル色で染められていることになります。過去のOASISと比べたら比較的地味な部類に入るものの、モダンな音像と相まって同時代のガレージロックにも匹敵する豪快さが感じられるはずです。

他メンバーが書いた楽曲も良曲揃いで、リアムは「I'm Outta Time」(同12位)、「Ain't Got Nothin'」「Soldier On」の3曲を提供し、普段ノエルが提示していたセンチメンタルなカラーを補っている。アンディは「The Nature Of Reality」、ゲムは「To Be Where There's Life」と、やはりノエルにない色をそれぞれ提供しており、この対比が非常に面白いなと。バンドとして相互関係がしっかり築かれていることが、こういったクレジットからも透けて見えるような気がしてきます。

チャート的には全英1位、全米5位とひさしぶりに成功したように映りますが、売り上げ的には前作の半分程度まで落ち込み、1stアルバム『DEFINITELY MAYBE』(1994年)以来となる“全英1位シングルを含まないアルバム”という不名誉な記録を打ち立てることに。そして、2009年3月には東名阪と札幌を回るアリーナツアーを行い、同年7月には『FUJI ROCK FESTIVAL』初日ヘッドライナーとして再来日。しかし、その翌月にノエルが脱退を表明し、OASISは解散することになります。

結果として本作がラストアルバムとなってしまいましたが、ここには終わりを目前にした悲壮感もなければ、メンバー間の不和によるズレも見つからない。むしろ、“第3期OASIS”を確立させていこうとするポジティブさが伝わり、もしあのときノエルが脱退を思いとどまっていたら、幻の8thアルバムでどんなサウンドを聴かせてくれていたのか……なんて、たら・れば話を今さらしたくなってしまいます。

だからといって、彼らの再結成を望んでいるのかと言われると、実はまったくそんなことは思っておらず(苦笑)。あの時系列での続きが見たかっただけで、今のリアム&ノエルがまたOASISを再開させてもね……と思ってしまうわけです。それよりは、もっと気合いの入った双方のソロ作を聴きたいです。あと、アンディはRIDEで頑張っているので足引っ張らないで!(笑)

 


▼OASIS『DIG OUT YOUR SOUL』
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2021年7月27日 (火)

OASIS『DON'T BELIEVE THE TRUTH』(2005)

2005年5月30日にリリースされたOASISの6thアルバム。日本盤は同年5月25日に先行発売。

リアム・ギャラガー(Vo)、ノエル・ギャラガー(Vo, G)、アラン・ホワイト(Dr)にアンディ・ベル(B/ex. RIDE、ex. HURRICANE #1)、ゲム・アーチャー(G/ex. HEAVY STEREO)という新編成で“第2のデビューアルバム”ともいえる前作『HEATHEN CHEMISTRY』(2002年)を制作し、大ヒットにつなげたOASIS。しかし、2004年に10年近くにわたりバンドに在籍したアランが脱退してしまい、早くも新編成が崩壊します。

バンドは新たなドラマーとして、リンゴ・スター(ex. THE BEATLES)の実子ザック・スターキー(THE WHOなど)をサポートメンバーに迎え、レコーディングに突入。プロデューサーのひとりにデイヴ・サーディー(HELMETSLAYERSYSTEM OF A DOWNなど)が参加した本作は一聴すると地味に映るものの、実は“『(WHAT'S THE STORY) MORNING GLORY?』(1995年)再び”という精神性と、“バンド”感を再び取り戻そうとする気概が入り混じった非常に意欲的な1枚ではないかと思うのです。

まず、アルバムの冒頭を飾る「Turn Up The Sun」がアンディの楽曲という時点で“ノエル一強体制”が終焉したことを匂わせているし、さらにアンディはもう1曲「Keep The Dream Alive」を提供している。ゲムも単独で書いた「A Bell Will Ring」のほか、リアムとの共作「Love Like A Bomb」も用意。リアムも単独で「The Meaning Of Soul」「Guess God Thinks I'm Abel」を提供しており、ノエル楽曲はリードシングル「Lyla」(全英1位)や「The Importance Of Being Idle」(同1位)、「Let There Be Love」(同2位)など5曲にとどまっており、全キャリア中もっともノエル色の薄い1枚と言えるのではないでしょうか。

冒頭2曲が非常に地味なこともあり、リリース当時はあまり印象がよくなかった本作。実はアルバムとしての充実度は中後期でもっとも高い力作ではないかと確信しています。アンディ曲はHURRICANE #1色濃厚ながらも、リアムが歌うことでしっかりOASIS化しているし、ゲムの曲もしかり。そして、リアムが書いたアルバムの中で良いスパイスとなっており、OASISの新たな可能性をしっかり提示している。

この色彩豊かさ、“『(WHAT'S THE STORY) MORNING GLORY?』再び”を無意識のうちに狙ったものだったんだろうな。きっとその想いは、ノエルではなくほかのメンバーが漠然としてイメージしていたものだったのかも……というのは言い過ぎでしょうか。

OASIS現役期間中で、個人的にはもっとも聴く頻度の低かったアルバムですが、実はここ5年くらいで一番リピートする機会が増えたのが本作。古き良きブリティッシュロック(ブリットポップに非ず)を2000年代にリバイバルさせ、かつ90年代半ばの自身をもう一度よみがえらせようとした挑戦の1枚。ぜひ偏見なしに触れてみることをオススメします。

 


▼OASIS『DON'T BELIEVE THE TRUTH』
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2021年1月 9日 (土)

DAVID BOWIE『HEATHEN』(2002)

2002年6月11日にリリースされたデヴィッド・ボウイの23rdアルバム。日本盤は海外に先駆けて、同年6月5日に発売。

90年代に入ってからのボウイは『BLACK TIE WHITE NOISE』(1993年)でソロ活動を再びソフトランディングさせ、以降は『1. OUTSIDE』(1995年)『EARTHLING』(1997年) と実験的かつ前衛的な作品に着手し続けます。しかし、特に『EARTHLING』ではドラムンベースやインダストリアルロックなど良くも悪くも時代に迎合するかのように、モダンなテイストを前面に打ち出すも絶対的な成功とは言い難い結果を残すにとどまりました。

そんな実験と挫折(とちょっとの手応え)を経て、前作『'hours...'』(1999年)では原点回帰とも言える「良い曲を作ることにこだわる」作風へとシフト。結果的にはこちらも成功とは言い切れないような結果しか残せませんでしたが、同作は間違いなく90年代のボウイの頂点であり、続く2000年代への布石でした。

『'hours...'』での試みの“その先”として、本来は2001年に『TOY』というアルバムをリリースする予定でした。同作は60年代にボウイが制作した楽曲をセルフカバーし、そこに新曲を加えるといった内容で、方向的には『'hours...'』の延長線上にあるものだったと言えるでしょう。ところが、同作のために制作した新曲に手応えを感じたボウイは、『TOY』という作品をお蔵入りにし、完全なるオリジナルアルバム制作に着手。かつ、そのアルバムのプロデューサーに70年代からの盟友であるトニー・ヴィスコンティを約20年ぶりに迎えることになるのでした。

本作には『1. OUTSIDE』や『EARTHLING』で見せたド派手なアレンジは皆無ですし、『BLACK TIE WHITE NOISE』のようなダンサブルさもゼロ。あるのはソウルやフォーク、ロックンロールをベースにした穏やかな“いい曲”。そこに往年のボウイを思わせるゴシック感も若干散りばめられておりますが、そのへんは単なる味付けにすぎず、やっていること自体は間違いなく『'hours...'』の“その先”。もっと言えば、初期の名盤『HUNKY DORY』(1971年)の“その先”と解釈することもできる。そんな「地味だけど、時の経過とともにじわじわ効いてくる」1枚なのです。この時点でボウイ55歳。人生も折り返しに入り、いかにエキセントリックなアートを生み出すかということよりも、純粋に音楽を楽しむ方向にシフトしたってことなんでしょうか。

全12曲の収録曲の中には、もはや80年代以降のボウイの十八番ともいえるカバー曲も3曲収録。中にはPIXIESの「Cactus」なんてものも含まれており、そのセンスに思わずニヤリとしてしまいます。また、アルバムにはカルロス・アロマー(G)などおなじみの面々に加え、ピート・タウンゼンド(G/THE WHO)が「Slow Burn」に、デイヴ・グロール(G/FOO FIGHTERS)が「I've Been Waiting For You」にそれぞれゲスト参加しているというトピックも用意されています。が、本作を前にすると、そういった要素はおまけにしかすぎないなと思わされます。

それくらいよく作り込まれた、純粋に“良い”作品。リリースされた当時より大人になった今聴くほうが、その魅力にたくさん気づける“今聴くべき”1枚です。そんなアルバムに異教徒や野蛮人を意味する『HEATHEN』と名付け、ジャケットではそのタイトルを上下逆に表記するというユーモアもさすがの一言です。

なお、現在まで未発表のアルバム『TOY』の収録曲の大半は、すでにいろいろな形で発表済み。『HEATHEN』には「Slip Away」(オリジナルタイトルは「Uncle Floyd」)と「Afraid」がリテイクという形で収録され、同作のデラックス盤では「Baby Loves That Way」「Conversation Piece」「Shadow Man」「You've Got A Habit Of Leaving」、3枚組ベストアルバム『NOTHING HAS CHANGED』(2014年)では「Let Me Sleep Beside You」「Toy (Your Turn To Drive)」「Shadow Man」をそれぞれ耳にすることができます。

 


▼DAVID BOWIE『HEATHEN』
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2020年4月27日 (月)

MICK JAGGER『GODDESS IN THE DOORWAY』(2001)

2001年11月に発表されたミック・ジャガーの4thソロアルバム。

ソロ名義では前作『WANDERING SPIRIT』(1993年)から8年9ヶ月ぶりのアルバム。同作以降、THE ROLLING STONESとして『VOODOO LOUNGE』(1994年)『BRIDGES TO BABYLON』(1997年)と精力的な活動が続き、それに伴うワールドツアーも大々的に行われていたので、ミック個人としてもアク抜き、もしくはインプットの意味でこのソロアルバムを制作したのでしょう。

ビル・ラズウェルやナイル・ロジャース(1st『SHE'S THE BOSS』)、デイヴ・スチュワート(2nd『PRIMITIVE COOL』)、リック・ルービン(3rd『WANDERING SPIRIT』)と毎回旬のプロデューサーを迎えて制作してきたソロ作ですが、この『GODDESS IN THE DOORWAY』ではストーンズでの仕事で知られるマット・クリフォード、AEROSMITHオジー・オズボーン、キャリー・アンダーウッド、フェイス・ヒルなど幅広いアーティストを手がけるマーティ・フレデリクセンとミック自身の3人による共同プロデュースで制作。楽曲の大半はミック単独で書かれたものですが、数曲でマット・クリフォードと共作、さらにロブ・トーマス(MATCHBOX TWENTY)、レニー・クラヴィッツ、ワイクリフ・ジョン(THE FUGEES)ともコラボしています。

前作がナマ感の強いバンドサウンドを軸にした作風だったのに対し、今作では曲ごとにバンドサウンドや打ち込みをセレクトした初期の路線に回帰。ただ、ポップス色濃厚だった『SHE'S THE BOSS』とも異なり、ゴスペルやソウル、ラテンなどのルーツミュージックを現代的に解釈した作風の、比較的地味な楽曲が揃った1枚に仕上がっています。

そういった意味では、過去3作と比較すると非常に肩の力が抜けているのが明確な作品かもしれません。それが、先のアク抜きにもつながり、ルーツミュージックの現代的解釈(および、さまざまなアーティストとのコラボ)がインプットになったのかなと。つまり、本作はアーティストとして制作することに意味を見出す、リスナー視点では評価の難しい1枚とも言えるでしょう。

もちろん、ミックが作っているんですから悪いわけがない。平均点以上の仕上がりですし、こちら側も今まで以上にリラックスして聴くことができる作品だと思います。でも、視点を変えると“アクの弱い”アルバムとも言えるわけでして。確かに、先のロブ・トーマスやレニー・クラヴィッツに加え、ボノ(U2)やジョー・ペリー(AEROSMITH)、ピート・タウンゼンド(THE WHO)といった豪華ゲストも多数参加しています。でも、そういったスタープレイヤーの華やかさが表出した作風というわけでもなく、過去のソロ作と比較してもどうにも影の薄い1枚とも言えるわけでして。

ライトリスナーにはオススメはしないけど、ストーンズファンなら聴いておいて損はしない。そんな1枚かもしれません。まあミックのソロに手を出すなんて、確実にストーンズにヤラれた人以外いないでしょうから(偏見です)。

 


▼MICK JAGGER『GODDESS IN THE DOORWAY』
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2018年8月 8日 (水)

THE WHO『WHO'S NEXT』(1971)

1971年8月に発表された、THE WHO通算5作目のオリジナルアルバム。前作『TOMMY』(1969年)で示したコンセプチュアルかつシアトリカルな“ロックオペラ”スタイルを確立させ、初期のスタイルとは異なる個性を手に入れたTHE WHO。続くこのアルバムでは、初期の彼らが持っていたハードロックバンド的な側面が強調されています。

おそらく、本作の前に発表されたライブアルバム『LIVE AT LEEDS』(1970年)で示したライブバンドとしての爆発力、そこで表現されたハードロックバンド的な演奏スタイルも『WHO'S NEXT』という傑作に大きな影響を与えているはずです。結果、このアルバムは初の全英1位を獲得。アメリカでも前作同様の4位を記録し、アメリカだけでも300万枚を超える大ヒット作となりました。

興味深いのは、本作はバンド4人のサウンドのみならず、シンセサイザーやシーケンサーといった電子楽器が積極的に用いられていること。オープニングを飾る「Baba O'Riley」で常に流れているシンセのシーケンスは、非常に象徴的なサウンドといえるでしょう。特にこの曲と、ラストを飾る8分半におよぶ大作「Won't Get Fooled Again」はその色合いが強いものの、ハードロックバンドとしての豪快さは全く損なわれておらず、70年代前半の彼らにとって代表曲と呼べる作品ではないでしょうか。

そのほかにも、カントリー的な匂いが感じられる「Love Ain't for Keeping」や「Going Mobile」、ブラスをフィーチャーしたゴージャズな「My Wife」、ピアノやシンセの音色が心地よいミディアムナンバー「The Song Is Over」、ひんやりとしたアコースティックテイストからパワフルな展開をしていく「Behind Blue Eyes」など、聴きごたえの強い楽曲ばかり。なんだかんだで、彼らのオリジナルアルバムの中ではもっとも聴きやすくて好きな1枚かもしれません。

実は、本作をアルバム通してちゃんと聴いたのは、だいぶ大人になってからのこと。もともとTHE WHOってそこまで積極的に接してこなかったバンドで、代表曲をベストアルバムなどで掻い摘んで聴く程度。あとは、いろんなバンドがカバーしたもので原曲を知るみたいな。だからこのアルバムの収録曲に関しても、「Baba O'Riley」をMR. BIGで、「Won't Get Fooled Again」をVAN HALENで先に知ったという。で、アルバムをちゃんと聴いてからは、「Behind Blue Eyes」をLIMP BIZKITがカバーして「ああ、この曲知ってる!」となったり。その程度の知識なんです。申し訳ありません。



▼THE WHO『WHO'S NEXT』
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2004年9月16日 (木)

THE WHOの録って出しライヴ盤シリーズ

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 注文から約2ヶ月。本日ようやく我が家にも届きました。

 今回注文したのは、

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・ISLE OF WIGHT, 12.06.04(ワイト島フェス。全23曲)
・YOKOHAMA, 24.07.04(ウドーストック横浜。全16曲)

 最近はこの手のネット限定ライヴ盤が多いよね。PIXIESもこないだフジロックの音源をネット+タワレコ店頭で限定発売したばかりだし(けど肝心の "Debaser" をカットするとは‥‥!!)。

 音が思った以上に良かったのが驚きというか。完全なミックスは施されてないけど、まぁサウンドボード音源だとしてもかなり良い音源だと思いますよ。バランスも良いし。

 現在横浜の方を聴いてるんだけど‥‥やっぱり絵付き/生で観た方が迫力が全然違うんだろうなぁ‥‥って当たり前だけど。

 "Baba O'Riley" でのピートの歌が最高過ぎ。俺にとってのTHE WHOは "My Generation" でも "Who Are You" でもなく、この曲と "Summertime Blues"、そして "Won't Get Fooled Again" です!



▼THE WHO「THEN AND NOW! 1964-2004」(amazon

2003年2月21日 (金)

ANTHRAX『WE'VE COME FOR YOU ALL』(2003)

80年代前半に登場したスラッシュメタルと呼ばれたジャンルの中で、そのシーンを支えた「四天王」と呼ばれたバンドがいたわけですよ。METALLICAであり、SLAYERであり、昨年春に解散してしまったMEGADETHであり、そして今回紹介するANTHRAXの4バンド。METALLICAはベースのジェイソン・ニューステッドが脱退した後、結局ベーシストが決定する前にスタジオ入りし、未だ新作完成の朗報は飛び込んで来ないし、SLAYERはドラマーのチェンジがあったりしたものの、昨年末に2年連続で来日し、改めてその凄さを我々に知らしめました。しかし、MEGADETHは先に書いた通りだし、ANTHRAXなんて‥‥もっと悲惨ですからね。

ANTHRAXなんて名前を一昨年末からよくニュースで目にしたのを、皆さん憶えているでしょうか? 「9・11」以降、アメリカ全土を襲った「炭疽菌」騒動。その炭疽菌、英語では「Anthrax」というんですね。俺、この件で初めて知ったもん、意味。皆さん知ってましたか? こんなことでもない限り、誰もその意味なんて考えもしなかったんでしょうね(その昔、WOLFSBANEというバンドがいたのですが、その意味なんて「トリカブト」ですからね。バンド名考える方もいろいろ大変なわけですよええ)。この炭疽菌騒動が尾を引き、ANTHRAXはその活動にストップがかかってしまうんですよ。しかもそれまでメンバー各自がソロ活動を行い、よしこれから再びバンドで暴れるぞって矢先にですから。一時はバンド名変えるんじゃないか!?なんて噂もありましたが、2001年11月末、ニューヨークで行われたテロで犠牲になった消防士の為のベネフィット・コンサートにて、ANTHRAXのメンバーは「WE'RE NOT CHANGING OUR NAME」と書かれた作業服を着て登場(メンバー5人それぞれの服に「WE'RE」「NOT」「CHANGING」「OUR」「NAME」と書かれていたという、ね)、改めて「バンドのANTHRAXは炭疽菌(Anthrax)とは無関係、これからもみんなをハッピーにしてくぜ」という力強い「無言のアピール」をしたのでした。

で、今回のアルバム。実は約5年振りのアルバムなんですよね。そうか、前作『VOLUME 8 : THE THREAT IS REAL!』ってそんな前になるのか。'98年と'03年じゃそりゃ時代も変わるわな。ひと回りどころかふた回りくらいしてそうだもんな、流行が。世間がまだラップメタルだ何だと騒ぐ前だしな。メタルにラップの要素を取り入れた、というか、ラップそのものをかのPUBLIC ENEMYと共にやっていた元祖的存在が、最もそういうジャンルが主流だった時に不在だったわけですよ。これは大きいですよね。

ところが彼等、この5年振り、通算9作目のオリジナルアルバムで、一切そういう要素を用いていないんですよ。つうかANTHRAXが初めてヒップホップをやったのが87年でしたっけ?(「I'm The Manという曲)ヒップホップユニットがハードロック的要素を用いたのと同じ頃(BEASTIE BOYSの「Fight For Your Right」のことね)、同じようにメタルバンドがヒップホップの要素を取り入れてたわけですよ、既に16年も前に。けど、彼等が常に「ヒップホップ要素をメイン」にしたことなんて、一度もなかったわけですよ。それは、彼等がヘヴィメタルバンドだったから。スラッシュとかハードコアとかパンクとかいろんな要素を飲み込んだヘヴィメタルバンド、ANTHRAX。彼等がそういった方向を主要素としてアルバムを作ったことがなかったから、流行に流されることがなかったから、こうやって未だに生き残っているわけですよ。つうかもう20年ですよ、登場して!

今回のアルバムも、基本的には前作の延長線上にある作風。つうか現ボーカルのジョン・ブッシュが加わって以降のアルバム(『SOUND OF WHITE NOISE』(93年)、『STOMP 442』(95年)、そして前作)って、どれも同じ方向性を持った音楽をやってるんですよ。前任ボーカルのジョーイ・ベラドナ在籍時後期から突き進めていったヘヴィな音像を持ったミディアム/スロウでメロディアスなヘヴィメタル。それをよりモダンにさせた『SOUND OF WHITE NOISE』は初の全米チャート・トップ10入りを記録し、続く『STOMP 442』は初期のザクザクしたギターサウンドと生々しいサウンドが融合させ、更に深い方向へ進んでいくんですね。で、ちょっとだけ時流に乗ったかのようなヘヴィロック色を散りばめた前作。新作もこういった方向にある1枚なんですが、個人的には前作以上に好きなアルバムかもしれません。ちょっとセカンドの頃の彼等を思い浮かべつつも、モダンなギターサウンドが2003年らしい「What Doesn't Die」でスタートし、その後はミディアムテンポのヘヴィナンバーが続く前半。特に「Any Place But Here」なんて本来METALLICAが進むべき方向だと思うんですよ、これ。それをANTHRAXが我流でやってしまうという。そういえばジョン・ブッシュって昔、METALLICAもシンガーとして向かい入れたかったという話があったんですよね‥‥そう考えると、非常に面白い曲ですねこれ。そしてこの曲を境に、後半は更にバラエティ豊かな方向に進みます。パンキッシュでグルーヴィーな「Nobody Knows Anything」、PANTERAのダイムバッグ・ダレルが如何にも彼らしいギターソロで参加する、ちょっと風変わりなアルペジオを持った「Strap It On」、超高速ブラスト・ビートがメチャメチャ気持ちいい「Black Dahlia」なんて、サビだけ聴いたらSLAYERみたいですからね! 更に「Taking The Music Back」にはゲストボーカルとしてTHE WHOのロジャー・ダルトリーが参加。とても判りやすいので、すぐ気づくと思いますが‥‥ジョンとの対比も面白いですよね。

普通にメタルをずっと聴いてる人にとっては「取るに足らないアルバム」かもしれないけど、最近のメタルから殆ど離れている俺にとっては、とても興味深い1枚でした。特出した1曲があるとか、超名盤ってわけではないんだけど、安心して聴けるアルバム。ガキの頃から知ってる馴染みのバンドが、今でもあの頃と変わらない「音」と「歌」を聴かせてくれる。それだけで十分じゃない? 今の時代、確かに革新的なサウンドも必要だし、実際そういうアーティストも魅力的で惹かれるんだけど‥‥それだけじゃないんだよね。こういうベテランが「聴き手から求められるものを、的確に表現し、尚かつそこに留まるんじゃなくて前進している」ことを続ける限り、まだロックシーンは大丈夫だと思う。だから、METALLICAも、デイヴ・ムステインも考え過ぎだってば。セールス的に失敗することとかファンが失望するだとか、そういうことを考える前に表舞台に立って音を出し続けるANTHRAXやSLAYERの方が、俺は信用できる。メジャーとかインディーズ落ちとか関係ないよ。

これは暫くの間、ヘヴィローテーションになりそうな予感。つうかここ数年のヘヴィ/ラウド系を中心に聴いてる子達にとって、こういう音ってどうなんでしょうね? METALLICAとかは聴くんだろうけど、ANTHRAXやSLAYERといった「あくまでメタル」なバンドの音がちゃんと届いてるんでしょうか? 現役メタラーでもないくせに、妙に心配してしまうわけですよ。

 


▼ANTHRAX『WE'VE COME FOR YOU ALL』
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