実験性の強かった“ベルリン三部作”は、その音楽自体に対する評価は非常に高かったものの、セールス的には決して大成功とは言い難く、特にシングルヒットに関して言えば「Sound And Vision」の全英3位、「Boys Keep Swinging」の同7位以外はTOP10入りを逃しています(かの「"Heroes"」でさえ最高24位ですし)。そのポップ嗜好が前作『LODGER』(1979年)あたりから少しずつ復調し始め、従来の実験性をポップ感が上回り始めたのがこの『SCARY MONSTERS (AND THE SUPER CREEPS)』となります。
オープニングを飾る「It's No Game, Pt.1」での日本語ナレーションをフィーチャーしたアバンギャルドさに不意を突かれるも、以降は前作で試みたニューウェイヴ的手法が見事に開花。ロバート・フリップらしさ万歳のギターフレーズを随所に散りばめた「Scary Monsters (And Super Creeps)」、自身の代表曲「Space Oddity」の主人公・トム少佐は実は宇宙飛行士ではなく単なるジャンキーだったと歌う「Ashes to Ashes」、王道感の強いミディアムロック「Teenage Wildlife」など、時代とリンクした楽曲群がズラリと並びます。
この中から「Ashes to Ashes」が、シングルとしては「Space Oddity」(1975年)以来となる全英1位を獲得(セールス面でも本国で70万枚近いヒットに)。続く「Fashion」も全英5位/全米70位と好成績を残し、さらに「Scary Monsters (And Super Creeps)」(全英20位)、「Up The Hill Backwards」(同32位)とスマッシュヒットを続けます。特に本作リリース後には、QUEENとのコラボ曲「Under Pressure」(1981年)の全英1位/全米29位という話題作もあり、この良い流れを続く『LET'S DANCE』(1983年)での最盛期へとつなげていくことになります。
アルバムのレコーディングは、ウィルコと活動を共にしてきた永遠の相棒ノーマン・ワット・ロイ(B)、YESのスティーヴ・ハウ(G)の実子であるディラン・ハウ(Dr)の鉄壁トリオに、THE STYLE COUNCILなどで知られるミック・タルボット(Key, Piano)を迎えた編成で実施。プロデューサーにはMANIC STREET PREACHERSの諸作を手がけることで知られるデイヴ・エリンガという(彼らからしたら)若手を迎えて、たった1週間で録音を済ませたそうです。
収録された全11曲(デラックス盤ボーナスディスク収録曲除く)のうち、10曲はウィルコがこれまでに制作・発表してきた楽曲のセルフカバーで、残り1曲はボブ・ディランの「Can You Please Crawl Out Your Window?」カバーとなります。アルバムタイトルにも用いられた「Going Back Home」からもわかるように、DR. FEELGOOD時代の楽曲も複数含まれており、リリースから40年近くを経たいぶし銀のプレイ&演奏に、より深みが増したロジャーのボーカルが乗ることで、原曲とはまた違った魅力を感じ取ることができるはずです。
ちなみに、本作は全英3位という好記録を樹立。2014年11月には先にも触れたボーナスディスク付き2枚組デラックス・エディションも発表されています(日本盤は2015年2月リリース)。こちらには本編未収録の「Muskrat」に加え、「Some Kind Of Hero」「Keep On Loving You」「Turned 21」のウィルコ歌唱バージョン、2014年2月のWILKO JOHNSON BANDのライブ音源やロジャーとのコラボライブ音源など全18トラックが収められているので、アルバム本編がご自身の感性にフィットした方はぜひチェックしてみることをオススメします
前作『DON'T BELIEVE THE TRUTH』(2005年)発表後、日本では同年8月(『SUMMER SONIC』ヘッドライナーおよび名古屋)と11月(代々木第一体育館、大阪城ホール)と1年に二度も来日公演を行ったOASIS。2006年には初のベストアルバム『STOP THE CLOCK』のリリース、ロードムービー『LORD DON'T SLOW ME DOWN』の公開、ノエル・ギャラガー(Vo, G)の単独来日(MySpaceの企画でアコースティックライブ実施)など、充実した濃厚な日々を送り続けました。
2007年夏から次作の制作に突入したバンドは、デイヴ・サーディを再度プロデューサーに起用。サポートドラマーにザック・スターキー、キーボーディストに2002年のツアーからサポート参加するジェイ・ダーリントン(ex. KULA SHAKER)を迎え、『DON'T BELIEVE THE TRUTH』で到達したスタイルの“次”を提示する意欲作を完成させます(ザックはツアーには不参加)。
前作ではノエルとの共同プロデュースでしたが、今作ではデイヴがひとりでプロデュース/ミックスを手がけたこともあってか、非常にモダンな音像なのが印象的です。その影響もあり、楽曲のスタイルもどこか目新しさが感じられ、リアム・ギャラガー(Vo)、ノエル、アンディ・ベル(B/ex. RIDE、ex. HURRICANE #1)、ゲム・アーチャー(G/ex. HEAVY STEREO)体制で早くもネクストステップに突入したことが伺えます。これを吉とするか無しとするかで、評価は大きく異なるのではないでしょうか。
ソングライティングに関してはノエルが全11曲中6曲を手がけており、「Bag It Up」「The Turning」「Waiting For The Rapture」「The Shock Of The Lightning」(全英3位)と冒頭4曲がノエル曲で占められているのも印象的。かつ、6曲目「(Get Off Your) High Horse Lady」と7曲目「Falling Down」(同10位)もノエル曲なので、アルバムの前半がほぼノエル色で染められていることになります。過去のOASISと比べたら比較的地味な部類に入るものの、モダンな音像と相まって同時代のガレージロックにも匹敵する豪快さが感じられるはずです。
他メンバーが書いた楽曲も良曲揃いで、リアムは「I'm Outta Time」(同12位)、「Ain't Got Nothin'」「Soldier On」の3曲を提供し、普段ノエルが提示していたセンチメンタルなカラーを補っている。アンディは「The Nature Of Reality」、ゲムは「To Be Where There's Life」と、やはりノエルにない色をそれぞれ提供しており、この対比が非常に面白いなと。バンドとして相互関係がしっかり築かれていることが、こういったクレジットからも透けて見えるような気がしてきます。
チャート的には全英1位、全米5位とひさしぶりに成功したように映りますが、売り上げ的には前作の半分程度まで落ち込み、1stアルバム『DEFINITELY MAYBE』(1994年)以来となる“全英1位シングルを含まないアルバム”という不名誉な記録を打ち立てることに。そして、2009年3月には東名阪と札幌を回るアリーナツアーを行い、同年7月には『FUJI ROCK FESTIVAL』初日ヘッドライナーとして再来日。しかし、その翌月にノエルが脱退を表明し、OASISは解散することになります。
まず、アルバムの冒頭を飾る「Turn Up The Sun」がアンディの楽曲という時点で“ノエル一強体制”が終焉したことを匂わせているし、さらにアンディはもう1曲「Keep The Dream Alive」を提供している。ゲムも単独で書いた「A Bell Will Ring」のほか、リアムとの共作「Love Like A Bomb」も用意。リアムも単独で「The Meaning Of Soul」「Guess God Thinks I'm Abel」を提供しており、ノエル楽曲はリードシングル「Lyla」(全英1位)や「The Importance Of Being Idle」(同1位)、「Let There Be Love」(同2位)など5曲にとどまっており、全キャリア中もっともノエル色の薄い1枚と言えるのではないでしょうか。
本作には『1. OUTSIDE』や『EARTHLING』で見せたド派手なアレンジは皆無ですし、『BLACK TIE WHITE NOISE』のようなダンサブルさもゼロ。あるのはソウルやフォーク、ロックンロールをベースにした穏やかな“いい曲”。そこに往年のボウイを思わせるゴシック感も若干散りばめられておりますが、そのへんは単なる味付けにすぎず、やっていること自体は間違いなく『'hours...'』の“その先”。もっと言えば、初期の名盤『HUNKY DORY』(1971年)の“その先”と解釈することもできる。そんな「地味だけど、時の経過とともにじわじわ効いてくる」1枚なのです。この時点でボウイ55歳。人生も折り返しに入り、いかにエキセントリックなアートを生み出すかということよりも、純粋に音楽を楽しむ方向にシフトしたってことなんでしょうか。
全12曲の収録曲の中には、もはや80年代以降のボウイの十八番ともいえるカバー曲も3曲収録。中にはPIXIESの「Cactus」なんてものも含まれており、そのセンスに思わずニヤリとしてしまいます。また、アルバムにはカルロス・アロマー(G)などおなじみの面々に加え、ピート・タウンゼンド(G/THE WHO)が「Slow Burn」に、デイヴ・グロール(G/FOO FIGHTERS)が「I've Been Waiting For You」にそれぞれゲスト参加しているというトピックも用意されています。が、本作を前にすると、そういった要素はおまけにしかすぎないなと思わされます。
なお、現在まで未発表のアルバム『TOY』の収録曲の大半は、すでにいろいろな形で発表済み。『HEATHEN』には「Slip Away」(オリジナルタイトルは「Uncle Floyd」)と「Afraid」がリテイクという形で収録され、同作のデラックス盤では「Baby Loves That Way」「Conversation Piece」「Shadow Man」「You've Got A Habit Of Leaving」、3枚組ベストアルバム『NOTHING HAS CHANGED』(2014年)では「Let Me Sleep Beside You」「Toy (Your Turn To Drive)」「Shadow Man」をそれぞれ耳にすることができます。
ビル・ラズウェルやナイル・ロジャース(1st『SHE'S THE BOSS』)、デイヴ・スチュワート(2nd『PRIMITIVE COOL』)、リック・ルービン(3rd『WANDERING SPIRIT』)と毎回旬のプロデューサーを迎えて制作してきたソロ作ですが、この『GODDESS IN THE DOORWAY』ではストーンズでの仕事で知られるマット・クリフォード、AEROSMITHやオジー・オズボーン、キャリー・アンダーウッド、フェイス・ヒルなど幅広いアーティストを手がけるマーティ・フレデリクセンとミック自身の3人による共同プロデュースで制作。楽曲の大半はミック単独で書かれたものですが、数曲でマット・クリフォードと共作、さらにロブ・トーマス(MATCHBOX TWENTY)、レニー・クラヴィッツ、ワイクリフ・ジョン(THE FUGEES)ともコラボしています。
前作がナマ感の強いバンドサウンドを軸にした作風だったのに対し、今作では曲ごとにバンドサウンドや打ち込みをセレクトした初期の路線に回帰。ただ、ポップス色濃厚だった『SHE'S THE BOSS』とも異なり、ゴスペルやソウル、ラテンなどのルーツミュージックを現代的に解釈した作風の、比較的地味な楽曲が揃った1枚に仕上がっています。
おそらく、本作の前に発表されたライブアルバム『LIVE AT LEEDS』(1970年)で示したライブバンドとしての爆発力、そこで表現されたハードロックバンド的な演奏スタイルも『WHO'S NEXT』という傑作に大きな影響を与えているはずです。結果、このアルバムは初の全英1位を獲得。アメリカでも前作同様の4位を記録し、アメリカだけでも300万枚を超える大ヒット作となりました。
興味深いのは、本作はバンド4人のサウンドのみならず、シンセサイザーやシーケンサーといった電子楽器が積極的に用いられていること。オープニングを飾る「Baba O'Riley」で常に流れているシンセのシーケンスは、非常に象徴的なサウンドといえるでしょう。特にこの曲と、ラストを飾る8分半におよぶ大作「Won't Get Fooled Again」はその色合いが強いものの、ハードロックバンドとしての豪快さは全く損なわれておらず、70年代前半の彼らにとって代表曲と呼べる作品ではないでしょうか。
そのほかにも、カントリー的な匂いが感じられる「Love Ain't for Keeping」や「Going Mobile」、ブラスをフィーチャーしたゴージャズな「My Wife」、ピアノやシンセの音色が心地よいミディアムナンバー「The Song Is Over」、ひんやりとしたアコースティックテイストからパワフルな展開をしていく「Behind Blue Eyes」など、聴きごたえの強い楽曲ばかり。なんだかんだで、彼らのオリジナルアルバムの中ではもっとも聴きやすくて好きな1枚かもしれません。
実は、本作をアルバム通してちゃんと聴いたのは、だいぶ大人になってからのこと。もともとTHE WHOってそこまで積極的に接してこなかったバンドで、代表曲をベストアルバムなどで掻い摘んで聴く程度。あとは、いろんなバンドがカバーしたもので原曲を知るみたいな。だからこのアルバムの収録曲に関しても、「Baba O'Riley」をMR. BIGで、「Won't Get Fooled Again」をVAN HALENで先に知ったという。で、アルバムをちゃんと聴いてからは、「Behind Blue Eyes」をLIMP BIZKITがカバーして「ああ、この曲知ってる!」となったり。その程度の知識なんです。申し訳ありません。
ANTHRAXなんて名前を一昨年末からよくニュースで目にしたのを、皆さん憶えているでしょうか? 「9・11」以降、アメリカ全土を襲った「炭疽菌」騒動。その炭疽菌、英語では「Anthrax」というんですね。俺、この件で初めて知ったもん、意味。皆さん知ってましたか? こんなことでもない限り、誰もその意味なんて考えもしなかったんでしょうね(その昔、WOLFSBANEというバンドがいたのですが、その意味なんて「トリカブト」ですからね。バンド名考える方もいろいろ大変なわけですよええ)。この炭疽菌騒動が尾を引き、ANTHRAXはその活動にストップがかかってしまうんですよ。しかもそれまでメンバー各自がソロ活動を行い、よしこれから再びバンドで暴れるぞって矢先にですから。一時はバンド名変えるんじゃないか!?なんて噂もありましたが、2001年11月末、ニューヨークで行われたテロで犠牲になった消防士の為のベネフィット・コンサートにて、ANTHRAXのメンバーは「WE'RE NOT CHANGING OUR NAME」と書かれた作業服を着て登場(メンバー5人それぞれの服に「WE'RE」「NOT」「CHANGING」「OUR」「NAME」と書かれていたという、ね)、改めて「バンドのANTHRAXは炭疽菌(Anthrax)とは無関係、これからもみんなをハッピーにしてくぜ」という力強い「無言のアピール」をしたのでした。
で、今回のアルバム。実は約5年振りのアルバムなんですよね。そうか、前作『VOLUME 8 : THE THREAT IS REAL!』ってそんな前になるのか。'98年と'03年じゃそりゃ時代も変わるわな。ひと回りどころかふた回りくらいしてそうだもんな、流行が。世間がまだラップメタルだ何だと騒ぐ前だしな。メタルにラップの要素を取り入れた、というか、ラップそのものをかのPUBLIC ENEMYと共にやっていた元祖的存在が、最もそういうジャンルが主流だった時に不在だったわけですよ。これは大きいですよね。
ところが彼等、この5年振り、通算9作目のオリジナルアルバムで、一切そういう要素を用いていないんですよ。つうかANTHRAXが初めてヒップホップをやったのが87年でしたっけ?(「I'm The Manという曲)ヒップホップユニットがハードロック的要素を用いたのと同じ頃(BEASTIE BOYSの「Fight For Your Right」のことね)、同じようにメタルバンドがヒップホップの要素を取り入れてたわけですよ、既に16年も前に。けど、彼等が常に「ヒップホップ要素をメイン」にしたことなんて、一度もなかったわけですよ。それは、彼等がヘヴィメタルバンドだったから。スラッシュとかハードコアとかパンクとかいろんな要素を飲み込んだヘヴィメタルバンド、ANTHRAX。彼等がそういった方向を主要素としてアルバムを作ったことがなかったから、流行に流されることがなかったから、こうやって未だに生き残っているわけですよ。つうかもう20年ですよ、登場して!
今回のアルバムも、基本的には前作の延長線上にある作風。つうか現ボーカルのジョン・ブッシュが加わって以降のアルバム(『SOUND OF WHITE NOISE』(93年)、『STOMP 442』(95年)、そして前作)って、どれも同じ方向性を持った音楽をやってるんですよ。前任ボーカルのジョーイ・ベラドナ在籍時後期から突き進めていったヘヴィな音像を持ったミディアム/スロウでメロディアスなヘヴィメタル。それをよりモダンにさせた『SOUND OF WHITE NOISE』は初の全米チャート・トップ10入りを記録し、続く『STOMP 442』は初期のザクザクしたギターサウンドと生々しいサウンドが融合させ、更に深い方向へ進んでいくんですね。で、ちょっとだけ時流に乗ったかのようなヘヴィロック色を散りばめた前作。新作もこういった方向にある1枚なんですが、個人的には前作以上に好きなアルバムかもしれません。ちょっとセカンドの頃の彼等を思い浮かべつつも、モダンなギターサウンドが2003年らしい「What Doesn't Die」でスタートし、その後はミディアムテンポのヘヴィナンバーが続く前半。特に「Any Place But Here」なんて本来METALLICAが進むべき方向だと思うんですよ、これ。それをANTHRAXが我流でやってしまうという。そういえばジョン・ブッシュって昔、METALLICAもシンガーとして向かい入れたかったという話があったんですよね‥‥そう考えると、非常に面白い曲ですねこれ。そしてこの曲を境に、後半は更にバラエティ豊かな方向に進みます。パンキッシュでグルーヴィーな「Nobody Knows Anything」、PANTERAのダイムバッグ・ダレルが如何にも彼らしいギターソロで参加する、ちょっと風変わりなアルペジオを持った「Strap It On」、超高速ブラスト・ビートがメチャメチャ気持ちいい「Black Dahlia」なんて、サビだけ聴いたらSLAYERみたいですからね! 更に「Taking The Music Back」にはゲストボーカルとしてTHE WHOのロジャー・ダルトリーが参加。とても判りやすいので、すぐ気づくと思いますが‥‥ジョンとの対比も面白いですよね。