DAVID SYLVIAN『BRILLIANT TREES』(1984)
1984年6月にリリースされたデヴィッド・シルヴィアンの1stソロアルバム。
1982年12月にJAPANでの活動を終了させたデヴィッドは、その前後からソロ作品の制作に着手。まずは坂本龍一とのコラボシングル「Bamboo Houses」「Forbidden Colours」を立て続けに発表し、のちに本格的なソロ作品制作に取り掛かります。レコーディングはデヴィッド・ボウイ『LOW』(1977年)や『HEROES』(1977年)、イギー・ポップ『THE IDIOT』(1977年)&『LUST FOR LIFE』(1977年)など名盤を多数輩出してきたベルリンのハンザ・スタジオ(Hansa Tonstudio)にて、JAPAN時代の盟友リチャード・バルビエリ(Key)と実弟スティーヴ・ジャンセン(Dr)のほか、坂本龍一(Key)、ホルガー・シューカイ(G)などを迎えて実施。全英4位という好成績を残しました。
アルバム冒頭こそ、JAPAN末期の方向性の延長線上にある作風かなと思わされます。実際、それもあながち間違いではないでしょう。ポストパンク以降のホワイトファンクをベースにした「Pulling Punches」なんてまさにそれで、とはいえバンド時代よりも派手さが若干増したかなという印象すら受けます。
ですが、本作の醍醐味は2曲目「The Ink In The Well」以降ではないでしょうか。ジャズからの影響を思わせる作風は、これもJAPAN末期のスタイルと言えなくもありませんが、バンド時代以上に“個”が際立つテイストはまさしくソロならでは。民族音楽や宗教音楽の香りすら感じられる「Nostalgia」、ジャズファンク的なクールさが際立つ「Red Guitar」などは、80年代半ばという時代性とも見事にマッチしており、新たな時代がここから始まっていく予感も伝わります。
かと思えば、環境音楽的なテイストを随所に散りばめた「Weathered Wall」、全英的なジャズ色濃厚な「Backwaters」といった新境地的ナンバーもしっかり用意されている。音数の少なさ=隙間の多さで表現される“行間を楽しむ”作風はどこか日本的でもあり、難解なことに挑戦していながらも我々日本人にフィットするポイントも見受けられる……と感じるのは僕だけでしょうか。だからなのか本作、リリース当時中学生だった自分にも不思議としっくりくるものがあったんですよね。JAPANの最終オリジナル作品『TIN DRUM』(1981年)の“その先”という意味でも、僕は子供ながらに受け入れることができました。
ラストは9分近くにもおよぶタイトルトラック「Brilliant Trees」。この穏やかでミニマルな世界観と、デヴィッドの落ち着いたトーンの歌声が生み出す独特な空気感が存分に味わえる、究極の1曲ではないでしょうか。そして、この曲からも不思議と和の香り……侘び寂びに通ずるものが伝わってくる気がします。
フロントマンとしての存在感という点において、10〜20代の自分にマイケル・モンローやイギー・ポップ、デヴィッド・ボウイと同じくらい影響を与えたひとり。これまで表立って作品を取り上げる機会は少なかったですが、常に心の片隅に存在して鳴っているのが、JAPAN中後期とデヴィッドのソロ作品で、中でもこのアルバムは忘れられない1枚。初めて出会ってから35年以上経ちますが、今でも年に何度か再生している大切な作品です。
▼DAVID SYLVIAN『BRILLIANT TREES』
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