YES『THE QUEST』(2021)
2021年10月1日にリリースされたYESの22ndアルバム。
新シンガーのジョン・デイヴィソン(Vo)初参加の前作『HEAVEN & EARTH』(2014年)から約7年ぶりの新作。この7年の間に中心人物のクリス・スクワイア(B)急逝(2015年6月27日)という不幸に見舞われましたが、バンドはサポートメンバーとしてツアーに参加していたビリー・シャーウッドが新ベーシストとして迎え、ジョン、ビリー、スティーヴ・ハウ(G)、ジェフ・ダウンズ(Key, Piano)、アラン・ホワイト(Dr)の5人を中心に活動を継続しています。
今作では初めてスティーヴ・ハウがプロデューサーを兼務し、ゲストプレイヤーにジェイ・シェレン(Dr, Per)を迎えてレコーディング(ジェイは2016年からツアーに参加しており、このレコーディングを機に正式メンバーとしてクレジットされています)。残されたメンバーがYESらしさを“演じた”ように感じられる、ある意味ではYES全盛期の幻影を追っているようでもあり、またある意味ではYESというバンドの歴史を絶やさないという強い意志の塊のようでもある、そんな内容だと感じました。
オープニング曲「The Ice Bridge」のイントロで鳴るシンセの音色に、一瞬ELP(パウエルのほう)がフラッシュバックして苦笑いするものの、この曲を筆頭に牧歌的なYESのソフトサイドを強調したナンバーが並びます。スリリングや刺激は皆無、しかし要所要所からは“らしさ”がしっかり感じられるし、ハウのギターフレーズからも年齢を感じさせない冴え渡りぶりが伝わる。そしてなにより、ビリー・シャーウッドによるクリス・スクワイアの意思を継いだかのようなベースプレイは注目に値すべきものがあり、アラン&ジェイのリズムの上で“らしさ”を見せつけてくれるのです。
そんな牧歌的YESの真骨頂と言えるのが、DISC 1ラストに収録された「A Living Island」。もしYESというバンドがこの新作を最後に活動終了させるのならば、まさに“スワンソング”にふさわしい良曲ではないでしょうか(DISC 2はアルバム本編というよりもボーナストラック的立ち位置だと認識しています)。
確かに刺激はまったくありません。しかし、どの曲もしっかりと練り込まれており、そこまで退屈することはないでしょう。この手のサウンド/スタイルが好きなリスナーなら何かしら引っかかるポイントが見つけられるはずです。もはやオリメンは誰ひとり残っていませんが、だからこそクリスが去ったあと残されたメンバーたちがYESであることをここまで全うし演じきった、有終の美を飾るにふさわしい良作だと思います(誰もこれで終わりとは一言も言ってないけど)。
▼YES『THE QUEST』
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