ZIGGY『SDR』(2021)
2021年4月21日にリリースされたZIGGYの18thアルバム。
森重樹一(Vo)のソロユニットとして再始動してから3作目のオリジナル作となりますが、前作『ROCK SHOW』(2018年)から約2年半ぶりの新作。『2017』(2017年)から『ROCK SHOW』の感覚がちょうど1年、その間にアルバム未収録のシングル2枚(「TEENAGE LUST」「君の笑顔より美しい花を知らない」)を発表しているので、ずいぶんと感覚が空いたように映りますが……いえいえ、そんなことないんですよ(笑)。そもそもこの2年半の間に森重の喉の手術がありましたしね。で、そんな困難にも負けじと、2019年4月に「ヒカリノアメ」、同年10月に「I STAY FREE FOREVER」、2020年10月に「証」とそれぞれアルバム未収録曲のみで構成されたシングルもリリース。さらにメジャー1stアルバム『ZIGGY 〜IN WITH THE TIMES〜』(1987年)と2ndアルバム『HOT LIPS』(1988年)の再録アルバムも2020年に発表しているので、実はアイテム数でいえば再始動後最多な期間だったように思います。働きすぎです。
そんな流れを経て、ついに届けられたニューアルバム。前作『ROCK SHOW』は1980年代半ばから後半にかけてのヘアメタル/L.A.メタルを彷彿とさせるハードドライヴィン・ロック満載で、「ZIGGY完全復活!」を高らかに宣言する攻め攻めなその内容は自分を含む30数年来の往年ファンを歓喜させたことをよく覚えています。続く今作もその流れでくるのかと思いきや、そことも違うZIGGYのアザーサイドを強くアピールする力作に仕上げてきました。すげえったらありゃしない。
アルバムタイトルの『SDR』だけをストレートに受け取れば、前作からの流れで“Sex, Drug, Rock'n'Roll”的なロックンロール黄金期をイメージするかもしれません。しかし、そこは今のZIGGY=森重のこと、クリーンで健康体なロックンロールライフを示すべく“Swing, Drive, Rock'n'Roll”精神の、ハッピーでご機嫌な(広意義での)ロックンロールアルバムを届けてくれました。タイトルトラックでもある「SWING, DRIVE, ROCK'N'ROLL」や「ROCK'N'ROLL QUEEN」といった楽曲では王道のZIGGY節で聴き手のテンションを上げまくりますが、本作はそういった楽曲だけで構成されていないバラエティ豊かさが大きな特徴。『ZIGGY 〜IN WITH THE TIMES〜』でも感じられたパンクやポップスからの影響はもちろんのこと、90年代の歌謡曲チックなポップロック路線までもを飲み込んだ楽曲群からは、大人の余裕すら感じられます。
個人的にはブラスをフィーチャーしたゴージャズなミドルテンポロック「Let the good time roll」に、自分の大好きなZIGGYのイメージがぴったり重なったし、かと思えばレゲエをベースにしたピースフルな「もっと好きにやるよ」、「TOKYO CITY NIGHT」(『HOT LIPS』収録曲)がより大人になったような「数え切れないTenderness」、小気味よいビートがパンクとメタルの中間(さらに後半ではジャジーなアレンジも登場する)マイナーチューン「錆びた扉を」、ヘヴィ&ダークなアップチューン「傷痕」、90年代中期を彷彿とさせるディープなミディアムナンバー「パラドクスの庭で」など本当に楽曲の幅が広い。そうそう、ZIGGYってこういうバンドだったよね……と思い出させてくれるネタが豊富で、前作ほど焦点を絞っていないぶん散漫にも映るかもしれませんが、個人的な“ZIGGYらしさ”って実は本作のような作風だったりするので、僕の中では軽く前作超えの1枚でしたよ。
作風的には『2017』をよりブラッシュアップさせた1枚と言えなくもないけど、本作はバラードをあえてカットすることで、それともまた違った世界観が展開されている。特に『ROCK SHOW』というゴリゴリの傑作を経て、さらに初期2作のセルフカバーで原点を振り返ったことで、森重自身ZIGGYというバンドをよりフラットに捉えることができた結果なのかもしれません。また、2017年のツアーから活動を共にするバンドの面々ともより深く意識を共有することができるようになったのも、本作を傑作へと昇華させた要因のひとつと言えるのかな。
形は変わったけど、ZIGGYというバンドが今も歴史を引き継ぎつつ、常に最高な1枚を届けてくれるこの事実を、僕は素直に喜びたいと思います。個人的にも全キャリアで3本指に入る力作。ぜひ多くのロックリスナーに聴いてもらいたい!
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